続・とある物産展(理沙すとーりー)中
店を出ると猫バスのようなかわいいバスが停まっていた。
バスの前には小柄で、髪をおさげにしているかわいらしい先生が頭を下げている。
私もそれにつられて頭を下げる。そして、あいさつをしてバスに乗り込む。
この小柄な先生は長山奈美、歳は21で私と同じ。
昨年、短大を卒業して先生として一年生とココまで聞いて、
じっくりと彼女の顔を見てみる。
大人になり綺麗になっていてすぐには気付かなかったが、私が知っている顔。
中学生のときのクラスメイトだった。
久しぶりの再会?ではあるが赤鬼の着ぐるみを着ているので、私とはわからない。
着ぐるみを着ているのも恥ずかしかったのもあり、とりあえず黙っておくことにした。
保育園に到着し、園児たちに見つからないように建物内へ案内される。
園長先生と今回店長に依頼した先生に挨拶をして準備する。
準備といっても簡単な打ち合わせだけであるが。
園児たちのいる部屋に入り少し脅かして先生の合図で豆まきをするので、
それを嫌がりながら部屋を出て行く。
それを2クラスしてほしいということだった。
あと悪がきたちを奈美先生が連れてくるのでお灸をすえてほしいというのもあった。
部屋にはいると泣き出す子供がほとんどだが、中にはビビリながらも
蹴ったり叩いたりしてくる子もいた。
小さいくせになかなか痛い。先生の合図で豆をあてられて撤退する。
中にはハイレグレオタードの中に豆を入れてくる悪がきもいる、
捕まえてやると半べそを掻きながら必死の抵抗をみせる。
最後にお灸を据える子供たちを3人、奈美先生が連れてきた。
先ほどの悪がきの姿もある。
子供たちは私の方を見るが怖がっているようで、奈美の後ろに隠れてしまう。
子供たちに近づきながら、「もう悪いことはしないかぁ~」と声色を変えていうと
小さな声で「ハイ」と泣きじゃくりながら答えた。
あんまり怖がらせても可哀想なので引き上げた。
帰りもかわいいバスで店に送ってもらう。
車中で奈美から着ぐるみに入っていて暑くないかとか体力がないとできないか
などの質問攻めにあった。
奈美があまりに質問してくるので、着ぐるみを着てみたいのか聞いてみた。
すると、保育園のイベントの時だけでも着ぐるみを着て園児たちを
喜ばせてあげたいということだった。
それならどんなイベントでどんな着ぐるみがいいのか私に言って。
私の彼氏がこの着ぐるみも造ったので、奈美ちゃんのも頼んでみるよ、友達だもの。
話に夢中になり普通に喋ってしまった。
奈美は「ずっと、聞いたことのあるような声で喋り方もどこかでと思ってたんだけど、
もしかして理沙ちゃん?」
奈美の鋭さに驚いているリアクションで完全にバレてしまった。
正直に打ち明けて連絡先を交換して、着ぐるみについても全面的に
協力することを約束してから、店まで送ってもらい別れた。
なんか久しぶりに話せて良かったなぁと余韻に浸っていたのも束の間。
店にはすでに写真撮影の行列が店の外まで延び始めていた。
休憩する間もなく、店長に引っ張られて店の奥へ。
昨日の悪夢の再来かと思いながら店長についていく。
今日も昨日に引き続きエロチックなポーズをさせられて写真撮影は続くが、
8時くらいにお客さんは引いてしまった。
9時前には着替えて店を出ることができた。
節分当日はみんな家で過ごすのかなぁと思った。
私も店長からご褒美にもらった2つの恵方巻きを持って崇の待つ家に帰った。
家に帰り2人で恵方巻きにかぶりつき堪能していたが、先に食べ終わった崇が
奥の部屋からダンボールを抱えて戻ってきた。
ダンボールを開けるとビニール袋の中にチョコレートのようなものが入っている。
ビニール袋からそれを取り出すと部屋に甘い香りが広がる。
広げられたものは香りからもわかるようにバレンタイン用の着ぐるみ。
崇は「どう香りつけてみたんだけど」と少し自慢気だったが、今日はようやく
赤鬼の着ぐるみから解放されてホッとしていたところだったので、
すぐに着てみてと言われるのが恐くて答えに戸惑っていた。
着ぐるみを着るのは好きだが今日だけは遠慮したかった。
私の返事が気に入らなかったのだろう、崇はいつもより強い口調で、
「じゃあ、着てみようか」と私に着るように促す。
私は断りきれずに試着することになった。
食べかけの恵方巻きをテーブルに残して、
崇に言われるまま隣の部屋でゼンタイに着替える。
ゼンタイ姿で部屋に戻りバレンタインの着ぐるみを着ていく。
この着ぐるみにはかわいらしいアニメの女の子の顔、身体になっている。
ただ、色は単色でチョコレート色をしている。
衣裳は桜井さんが作製中ということだった。
オタク受けしそうな感じはするが、今回のターゲットは女性なのになぁと思ったが、
崇の機嫌を損ねると、また着ぐるみのままどこかに放置されかねないので黙っておいた。
崇は私に「赤鬼のときみたいに裸で着る方が気持ちいいか」と聞いてきた。
また着替えがなくて着ぐるみのまま帰らなければならなくなったら困るので、
頭を振って「このままでいいよ」と答えた。
ゼンタイと着ぐるみを着た状態では、崇がどんな表情をしているのかわからなかった。
「チョコレートの香りがしてすごく雰囲気が出ている」と崇に伝えると、
声から満足していることがわかった。
喜んでいる崇に着ぐるみを脱がせてもらい、
ゼンタイのまま携帯を見ると奈美からメールが来ていた。
そこには今日のお礼と園児たちを喜ばせるための着ぐるみについて書かれていた。
すぐに崇に相談に行くと、着ぐるみを着る奈美に直接会って話をすると言い出した。
まあ、勝手に造るとグロテスクなものが出来上がっては、園児たちを喜ばせるどころか
怖がらせてしまいかねないので奈美に会わせることにした。
私がゼンタイを脱いで着替えようと立ち上がろうとする腕を掴まれて抱き寄せられる。
久しぶりに抱いてくれるのかと思ったが、
崇の後ろに準備してあった布団圧縮袋に無理やり入れられてしまった。
必死に拒もうとしたとき、「友達の着ぐるみをがんばって造るよ」と言われて抵抗できず、
そのまま圧縮されることに。
掃除機で私の入っている空気はどんどん抜かれていく。
恐怖感もあったが、同時にどうなるのかそしてマゾっ気が私をワクワクさせる。
次第に身動きもとれないくらい空気が抜かれて掃除機が止まる。
手も足も身体も袋が纏わりついて動かすことができない。
ゼンタイと袋越しではあるが、崇を見ると圧縮した私の写真を撮っているようだった。
1分も経たないうちに苦しくなり、出して欲しいと懇願するが、
今度はビデオカメラで動画の撮影を始めた。
袋を破って脱出しようと爪を立ててみるが、
ゼンタイを着ているので滑って破ることはできない。
最後の力を振り絞り叫びながら全身を動かすがどうにもならない。
次第に力も抜けて、気が遠くなっていく。
気を失っていたようで、気が付いたときは圧縮袋から半分出された状態だった。
ゼンタイからも顔だけは出してくれていた。
気が付いた私を崇は優しく抱きしめてくれた。
数日後、桜井さんから完成した衣裳を手渡された。
中身を取り出して見てみる。
衣裳は真っ赤なエナメルでできたヒラヒラのミニスカートのついたワンピースだった。
普通にこれを着ろと言われたら恥ずかしくて絶対に着られないと思った。
渡された衣裳を持って帰り崇に渡す。
崇から「お風呂にはもう入ったか?トイレには行かなくていいか?」などの質問があった。
家でも着ぐるみに長く着ていてということなのかと思い特に気には留めていなかったが、
このあとたいへんなことが私の身の起きることになる。
しばらくすると急に眠気が襲ってきて、そのまま眠ってしまった。
気が付いたとき、小さな穴から光が差し込んでいる。
うっかり寝てしまいもう朝なのかと時計を探そうと手を動かすが動かない。
動かないのは頭も足も動かすことはできなかった。
耳を澄ますと人の声が聞こえる。
その声は知っている声、美優に直樹、それに店長だとわかった。
なぜか家で寝ていたはずの自分が店にいる、どうなっているのか状況が全く飲み込めない。
しかも身体が暑い、このことから今自分は着ぐるみを着ていることはどうにか理解できた。
しかし、身体が動かせないのはどういうことかわからない。
冷静になって考えようと自分を落ち着かせるようとすると、
今まで気付かなかった甘い香りがする。
この甘い香りで自分が崇に眠らされているうちに、
着ぐるみを着せられて店に運ばれたことを理解した。
そのときなにやら紙を破るような音、続いて身体を揺するような感覚がする、
そして眩しい光が射し込み新鮮な空気が入ってきた。
目の前には驚いたような3人の覗き込む顔があった。
直樹に腕を掴まれて前へ引き上げられると、ようやく身体を自由に動かせるようになった。
やっと身体が自由になり自分の今の状態を確認してみる。
鏡を見るとそこには笑顔のアニメキャラの顔があり、
以前崇が試作品として持って帰ってきたものそのままだった。
衣裳は先日桜井さんに渡されてもって帰ったものだが、
いつ私に着ぐるみと衣裳を着せたのかわからない。
それに自分が梱包されていたのだろう、周りには梱包のゴミが散らばっていた。
訳がわからない私に直樹がこれまでの状況を説明してくれた。
出勤してきたら店の前に大きな包装された箱が置いてあり、宛名は店長になっていた。
それで店の中へ運び込んで、店長が来てから包装を開封すると、
中に箱があり開けてみると、透明のプラスチックの型に入った銀紙に
包まれたチョコレートを連想させるようなものが出てきた。
その銀紙を破っていくと甘い香りとともにアニメキャラのチョコレートが出てきた。
銀紙を破っている途中で、アニメキャラのチョコレートが動き出したのには驚いたが、
中に理沙が入っていると分かり必死にもがいているので引っ張りあげたということだった。
よくよく思い返してみると急に眠くなったことを思い出した。
そして、普段崇がしないような質問をした理由がわかったような気がした。
崇は私を眠らせたあと、全裸にして、チョコレートのようなアニメキャラの着ぐるみを
着せて、さらに桜井さんの作ってくれた派手な衣裳を着せたようだ。
しかもそれだけではない、ご丁寧に着ぐるみを着た私を銀紙に包み、
箱にまで入れて運ぶというこだわりように、怒りを通り越して呆れてしまった。
もっとも店長はそのこだわりを気にいったようだった。
美優からはかわいいと高評価だった。
そして苦しいなかったのと質問されて我に返り、無性にトイレに行きたくなった。
着ぐるみが一人で脱げないことも考え、早めにトイレに向かう。
トイレに入り派手な衣裳のミニスカートをめくると赤い私のショーツが履かされていた。それを下ろすと前に着ぐるみを着たときにはなかった穴が開いている。
指を入れてみると、自分の恥部を誰かに触られているような感じがする。
間違いなく赤鬼の着ぐるみと同じ作りだとわかった。
トイレを済ませて、ショーツをあげようとして気付いた、
着ぐるみの上から履かされていたので、伸びてしまってもう使えないことに。
トイレから戻ってくると店長が「早速で悪いんだけど、店の前でチョコのPRお願いね」と。
店の外に行くと直樹と美優の2人で机を置いたり商品を並べたりして準備をしている。
私が行くとあとお願いしますといって店の中へ入っていってしまった。
店の中を見てもお客さんもいない。
そんなに急いで戻らなくてもいいのにと思いながら通りを通る人にPRをするが、
通りもまばらだった。
しばらくすると店の中から台車に乗せられてくる銀色の四角い物体が。
板チョコのような模様が銀紙の上からでもわかった。
中に誰が入っているのだろうチョコレートに厚みがある。
台車で運んできた直樹が、板チョコをポンポンと叩くと、
板チョコは台車から降りようとぎこちなくヒョコヒョコと動き出したが、
次の瞬間前から倒れてしまった。銀紙が擦れる音をさせながら板チョコは立ち上がろうと4つの角を動かしている。
直樹がすぐに起こして無事に立ち上がることができた。
立たせてもバランスが取りにくいようで前後にふら付いている。
私も倒れないように支えると着ぐるみの中から
「理沙ちゃん、ありがとう。がんばるからよろしくね。」と。
その声は桜井さんだった。
直樹が店に入っていき、美優に指を指してなにやら言い合っているのが見えた。
2人が揉めていたのは桜井さんには板チョコの着ぐるみは厳しいからお互いがお互いに入れてと言い合っていたようだった。
桜井さんは少しして慣れたのか、板チョコの右上の角を振ったり、
お辞儀をしたりしてお客さんに注目してもらえるようにがんばっていた。
そのうち暑くなってきたようで私に寄り添うようにして、
暑いから銀紙外してほしいといってきた。
銀紙を外しても変わらないように思ったが、私は適当に上側を外した。
すると本当に食べかけの板チョコに見えるようになった。
その日は無事に終わったが帰りが問題だった。
着替えは置いてあったが、下着までは準備していなかった。
それでも着ぐるみのままで帰るよりはいいだろうと思い、
着替えて帰ろうと部屋を出ると店長が少し残念そうな顔をしていた。
店長は今回も着ぐるみで帰ってもらい、宣伝効果を期待していたようだ。
そんな店長に挨拶をして駅へ向かう。
駅へついて気付いたことが、財布も定期券もない。
歩いて帰るには家までは遠すぎる。
店に戻り店長にお金を借りようと戻りかけたとき、
ちょうど車で通りかかった崇に声を掛けられた。
崇は今朝、車で梱包した私を運んで、そのまま出かけたようだった。
私は車で帰れると思いホッとした反面、酷い扱いをされたことを思い出し、
フツフツと怒りが込み上げてきた。
車に乗るとすぐに崇に食ってかかったが、
当の崇はわかったわかったといった感じで取り合ってくれなかった。
それより今から行きたいところがあるからと話題を変えられてしまった。
崇が行きたかったところは撮影スタジオだった。
夜間の撮影があるので、勉強のため紹介されたのだという。
今は特撮もので『
巨大昆虫観察3』というシリーズものの第三弾。
昆虫をモチーフにしたマニアックな着ぐるみがあったりするらしい。
崇についてスタジオに入ると、崇は知り合いの佐々木さんに挨拶を
してセットを案内してもらった。
セットは公園のようになっており遊具なども忠実に造られている。
それよりも気になるのはその公園にある7つのグレーの玉。
その玉は私の腰ほどの高さがあるが、大人が入れる大きさではない。
よーいスタートの掛け声とともに撮影が始まると、7つの玉が開いて中から脚がでてきた。
それはまるでダンゴムシのようであった。
そのダンゴムシたちは次々に遊具にぶつかったり乗りかかったりして遊具を破壊していく。
そして遊具を食するような仕草をしばらくして、カットがかかった。
するとスタッフとカメラマンが2人1組でダンゴムシに駆け寄り、
スタッフがダンゴムシの内側に手を突っ込んでファスナーを開くと中から人のような
黒い物体が飛び出てきた。
黒い物体は頭の後ろの方をいじっている。
そしてその黒い物体の皮が剥けて中から女の子が出てきた。
その一連の流れをカメラで撮影している。
出てきた女の子もカメラに向かって何か話している。
それが終わると次へ、そして中からはまた女の子が。
私はロボットか何かが入っていると思っていたので女の子が出てきたときはかなり驚いた。
最後にダンゴムシから出てきた女の子はかなり苦しかったのか肩で息をして、
ゼンタイから顔をだすこともできないでいた。
なんとか自分でゼンタイを脱いで出てきた女の子もかなりかわいかった。
それもそのはずグラビア志望で小柄な女の子限定で集められたことをあとで聞かされた。
撮影現場を少し見せて頂いたあと、
着ぐるみやセットの造形物が保管されているところへ案内してもらった。
崇は目を輝かせていろいろと見ている。
私には構ってくれそうもないので、入口辺りに立って崇の様子を見ていた。
すると「君は造形物には興味がないの」と佐々木さんが話しかけてきた。
「私はあまりありません」と答え、少し置いて「彼の造った着ぐるみを
着たりはしますが」と付け加えた。
すると佐々木さんから番組に出てみないかと誘われた。
「いいえ、私なんて」と返事をしたが、かわいいから誘われたのではなく
単に着ぐるみに入ってくれる女の子を探していただけなのだったと思った。
その日、崇は満足した様子でスタジオを後にした。
なにか創作のヒントを見つけたようにも見えた。
昨日は桜井さんが板チョコでがんばっていたが、帰りに声を掛けたとき
か細い声で返事をしていたので恵方巻きのときのように倒れないか心配だった。
出勤して着替えようと部屋に入ると、すでに板チョコはスタンバイしていた。
しかも動きが軽やか、シフト表を見てわかった。中身は高見さんだと。
シフト表が手書きで修正されていたので、桜井さんにとってはかなりきつかったのだろう。
急遽高見さんに代わってもらったようだ。
「あんまりはしゃぎすぎるとバテるよ」と高見さんに声をかけて、私も着替える。
着替え終わると2人で店の前へ向かう。
桜井さんより若く体力もあるからなのか、隣でずっとハイテンションの高見さんを
途中から尊敬の眼差しで見ている自分がいた。
高見さんはその日最後まで元気にがんばってくれた。
その甲斐あってチョコレートの売上も伸びた。
1人で立っているより2人で立っている方ががんばれた。
相方が元気だとこちらも元気になる、そして相乗効果でお客さんも集まってきた。
昨日よりも疲れているはずなのに、今日の方が楽に感じた。
店長からは明日からも高見さんとペアでがんばってと言われた。
桜井さんには悪いが、高見さんとなら明日もがんばれそうな気がした。
その日帰ると崇から、奈美の連絡先を聞かれたが、私から電話をかけて崇に代わった。
崇はどんなものを造ればいいのかを聞いてメモを取っている。
そして、具体的な話をするため明日会うことになったことを告げられた。
ただ、奈美に崇は会ったことがないので、仕事の後私にも一緒に来て欲しいと。
1日着ぐるみに入り高見さんとがんばったあと、
店でシャワーを浴びてから待ち合わせの場所へと向かう。
待ち合わせの場所にはすでに奈美が来ていたが、崇の姿はない。
奈美と普通に会うのは久しぶりだったので、話が盛り上がった。
そんなとき崇が少し遅れてやって来た。
3人でカフェに入り本題に。
奈美の希望は子供たちに好かれそうなかわいいキャラで、
あまり大きくないものということだった。
すると崇は簡単なデッサンを2つ描いた。
こんな崇を見るのは初めてだったので、少し見直した。
デッサンの1つは手足の短い頭の大きなものと、
もう1つはイモムシのように寝そべる感じのもの。
奈美は2つを見ていて、手足の短い頭の大きい方を選んだ。
イモムシの方は園児たちに集団で乗られると潰されてしまいそうだから却下とのこと。
崇は頷いて次は保育園の名前を聞いた。
保育園にちなんだキャラにしようと考えているようだ。
保育園の名前は白兎保育園、なんの動物にするかはすぐにわかった。
着ぐるみができたらまた連絡するということで、その日は奈美と別れた。
バレンタインデーの前日、崇は奈美から依頼品ができたので明日渡してくるよと。
私はどんなものができたのか見てみたかったが、
1番忙しい日に休む訳にはいかないのでしぶしぶあきらめた。
季節は進み5月のイベントに崇は鯉の着ぐるみを造って持って帰ってきた。
その日は着せられることなく翌日一緒に店に行き店長に披露引渡しするとのことだった。
崇と一緒に出勤して早速着替える。
崇に言われるまま着ていくが、足の部分は尾ひれになっている。
これでは歩くこともできないので、誰かの助けが絶対に必要になる。
それにこの鯉の着ぐるみは普通の鯉を大きくしただけでなんの面白みもない。
部屋にいる崇と店長を見ると単に私をおもちゃにして楽しんでいるようにしか見えない
そんな笑顔を浮かべていた。
着ぐるみの着替えが終わると崇に抱かれて店内の私専用の展示スペースに運ばれていく。
台に乗せられた着ぐるみの私はまさにまな板の鯉だなぁと思った。
子供連れのお客さんが来たら胸びれで子供の頭を撫でるように店長に言われた。
ゴールデンウィーク初日だったこともあり、直樹と美優もゆるキャラの着ぐるみを
着て気合が入っていた。
しかし、オープン前に突然人が入ってきた。
入ってきたのは客ではなく4人組の強盗だった。
強盗は着ぐるみを着ていない桜井さんと高見さん、店長に刃物を向けて脅し
外からは見えない奥の部屋へと連れて行かれてしまった。
直樹と美優は驚いて、それぞれ仰向けとうつ伏せ状態に転び、
何か叫んでいるが私のところからはよく聞こえなかった。
しばらくして奥の部屋から恵方巻きの着ぐるみが、続いて新作の鰹の着ぐるみが出てきた。
2つの着ぐるみとも足だけしか出ておらず、視界もないのでフラフラと歩き出したが、
すぐに棚にぶつかり倒れてしまった。
鰹の着ぐるみは女性のスラッとした脚が鰹の尾の辺りから生えていて色っぽく見える。
今はそんなことを思っている場合ではない。
恐怖を振り払い自分が警察に通報しなければと思い、着ぐるみを脱ぐことができないか
がんばってはみるがやはり脱ぐことはできなかった。
そんなとき運悪く、部屋から出てきた強盗の1人に見つかってしまい
奥の部屋へと引きづられていく。
抵抗してみるが、鯉の着ぐるみではバタバタするのが精一杯だった。
鰹も恵方巻きも足だけではうまく立つことができず、床を這いずりまわっている。
奥の部屋へ入ると強盗が金庫から売上金を別の袋に詰めている。
また、別の強盗は恐竜の着ぐるみを着せた店長に首輪をつけて動きを制限し、
他に金を隠していないか大声で聞いている。
私は必死に抵抗した。
それが気に入らなかったのだろう、強盗の1人に近くにあったゴミ袋に入れられた上、
掃除機で空気を抜かれ始めた。
みるみるうちに空気はなくなり動くことができなくなった。
すぐに呼吸もできなくなり気が遠くなっていく。
目が覚めるとイベント会社で自分がダメにしてしまったピッ○ロの着ぐるみを着て
ソファで横になっていた。かなり汗をかいている。
今までの物産店での出来事はなんだったんだろうと思いながらシャワーへ向かう。
シャワーの間に崇が帰ってきていた。
そして崇は俺の初めての作品といってダンボールを差し出してきた。
その中身はピッ○ロの着ぐるみ、それも女性版で私に合わせて造ったのだという。
崇が催促するので裸になり着替える。
デジャヴ?と思いながらも着替えて崇を喜ばせた。
翌日、物産店に行ってみるとアルバイト募集の貼り紙があった。
そして、店内に入っていくと店長があなたアルバイト希望の方?と声を掛けられた。
私は首を振り、店を飛び出した。
自分はみんなのことを覚えているのに、誰も自分のことを覚えていない。
なんとも奇妙な感じのまま、崇との生活を送っていたある日。
あの物産店で強盗事件が起きて、1人の女の子が着ぐるみのまま殺されたことを知った。
その死因は窒息死だった。
私が経験したことはなんだったのか今でも分からないが、
自分の代わりにあの子が殺されてしまったのかと思うと怖くなる。
おしまい*****
最終更新:2014年11月11日 22:46