nanaki(2007-6-13)
≪魑魅魍魎 美食の宴≫第二章 天狐
「誰か…っ…いませんかぁ~…」
突然、ドアの向こうで女妖怪の声がした。
俺はその声に聞き覚えがあったので、ドアを開けた…
「うっ…うわぁっ!!!」
その女妖怪は、俺がドアを開けた途端、俺に抱きついてきた。
「な…なんだよ…」
「はぅっ…ごめ…ごめんなさいっ!!あの…オーナーさんはいますか!?」
「宗さんは今、仕込み中だよ。って、お前シリンじゃないか…」
シリンは三凶のうちの一つ、「猩妖軒」のオーナー・キキーモラの右腕である。
まぁ、右腕ってほど腕前はどうか謎なんだけど。
シリン「あ、クダさん…すいません(めり)あのっ…大変なんですぅ…」
クダ「? 何がどうしたんだよ…」
シリン「おおお…オーナーがっ…キキーモラさんがっ…」
クダ「ど、どうしたんだよ…おい…」
シリンは頻りに、キキーモラさんが…キキーモラさんが…と繰り返すだけで、埒があかない。
俺は仕方なくオーナーに取り次ぐことにした。
「何?キキーモラが?」
シリン「宗旦さん、そうなんですぅ…オーナーが食材調達したまま帰ってこないんですぅ…」
宗旦、と呼ばれた白狐。俺が働く洋食屋・キツネ亭のオーナーである。
宗「例えば、人間界の方に行ったとか…僕はよく京都に行ったりするけど…」
クダ「一週間くらい留守って事もザラでやすしねえ」
シリン「それはないですぅ…オーナーは人間界に行くとき、私も連れて行きますから…」
ああ、一匹にしておくのは心配だからな。シリンだし。
宗「うーん…となると…」
クダ「おい、シリン。お前心当たりはないのかよ、例えばその…店にみかけない奴が来たとか」
シリン「うう…それは…」
宗「…たとえば、狢か狸と一緒だった…とか…」
クダ「宗さん?」
シリン「あ、そういえば!!」
クダ「なんだよ…」
シリン「そそそ…そういえば、友達がキキーモラさんが狢と一緒にいた所を見たって…」
クダ「それだよ!!それいつの話だ?」
シリン「ええっと…3日くらい前…」
クダ「宗さん!!まさか…」
宗「…キキーモラに接触したか?…あいつ…」
シリン「私は、どうしたら…」
宗「クダ君。シリンちゃんとそこにいるんだ。僕はこれから出かける」
クダ「宗さんっ…でも…」
宗「店はクダ君に任せたよ。もう大丈夫だろ?君一人で…。」
クダ「あ…いや…」
宗「心配しなくていいよ、すぐ戻るから…」
そういうと目の前の白い狐は、青白く光る不思議な法具を手に取ると懐に忍ばせた。
クダ「……」
「行くのか…」
宗「ああ、おとらさん…」
お「私も、行こうか…」
宗「いや、大丈夫ですよ。それに、もうすぐ生まれるんでしょ?」
お「まぁ…そうだが」
宗「近くにいたほうがいい、僕は一人で大丈夫です」
お「…分かった。店は私とクダで何とかする。ただ…」
おとら狐は宗旦狐の懐を見る。
宗「ああ、これは護身用です。攻撃なんぞしませんよ
お「そうか…」
宗「それでは、行ってきます」
宗旦狐は一礼すると、大きな真っ白い毛並みの狐に変わり、
颯爽と駆け出した。
最終更新:2016年08月05日 21:30