魑魅魍魎 美食の宴_第二章24

nanaki(2007-6-13)

≪魑魅魍魎 美食の宴≫第二章 天狐


「誰か…っ…いませんかぁ~…」

突然、ドアの向こうで女妖怪の声がした。
俺はその声に聞き覚えがあったので、ドアを開けた…

「うっ…うわぁっ!!!」

その女妖怪は、俺がドアを開けた途端、俺に抱きついてきた。

「な…なんだよ…」

「はぅっ…ごめ…ごめんなさいっ!!あの…オーナーさんはいますか!?」

「宗さんは今、仕込み中だよ。って、お前シリンじゃないか…」

シリンは三凶のうちの一つ、「猩妖軒」のオーナー・キキーモラの右腕である。
まぁ、右腕ってほど腕前はどうか謎なんだけど。

シリン「あ、クダさん…すいません(めり)あのっ…大変なんですぅ…」

クダ「? 何がどうしたんだよ…」

シリン「おおお…オーナーがっ…キキーモラさんがっ…」

クダ「ど、どうしたんだよ…おい…」

シリンは頻りに、キキーモラさんが…キキーモラさんが…と繰り返すだけで、埒があかない。
俺は仕方なくオーナーに取り次ぐことにした。


「何?キキーモラが?」

シリン「宗旦さん、そうなんですぅ…オーナーが食材調達したまま帰ってこないんですぅ…」

宗旦、と呼ばれた白狐。俺が働く洋食屋・キツネ亭のオーナーである。

宗「例えば、人間界の方に行ったとか…僕はよく京都に行ったりするけど…」

クダ「一週間くらい留守って事もザラでやすしねえ」

シリン「それはないですぅ…オーナーは人間界に行くとき、私も連れて行きますから…」

ああ、一匹にしておくのは心配だからな。シリンだし。

宗「うーん…となると…」

クダ「おい、シリン。お前心当たりはないのかよ、例えばその…店にみかけない奴が来たとか」

シリン「うう…それは…」

宗「…たとえば、狢か狸と一緒だった…とか…」

クダ「宗さん?」

シリン「あ、そういえば!!」

クダ「なんだよ…」

シリン「そそそ…そういえば、友達がキキーモラさんが狢と一緒にいた所を見たって…」

クダ「それだよ!!それいつの話だ?」

シリン「ええっと…3日くらい前…」

クダ「宗さん!!まさか…」

宗「…キキーモラに接触したか?…あいつ…」

シリン「私は、どうしたら…」

宗「クダ君。シリンちゃんとそこにいるんだ。僕はこれから出かける」

クダ「宗さんっ…でも…」

宗「店はクダ君に任せたよ。もう大丈夫だろ?君一人で…。」

クダ「あ…いや…」

宗「心配しなくていいよ、すぐ戻るから…」

そういうと目の前の白い狐は、青白く光る不思議な法具を手に取ると懐に忍ばせた。

クダ「……」


「行くのか…」

宗「ああ、おとらさん…」

お「私も、行こうか…」

宗「いや、大丈夫ですよ。それに、もうすぐ生まれるんでしょ?」

お「まぁ…そうだが」

宗「近くにいたほうがいい、僕は一人で大丈夫です」

お「…分かった。店は私とクダで何とかする。ただ…」

おとら狐は宗旦狐の懐を見る。

宗「ああ、これは護身用です。攻撃なんぞしませんよ

お「そうか…」

宗「それでは、行ってきます」

宗旦狐は一礼すると、大きな真っ白い毛並みの狐に変わり、
颯爽と駆け出した。


最終更新:2016年08月05日 21:30