George(2007-5-3)
≪魑魅魍魎 美食の宴≫第二章 天狐
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「いったい何が始まるってんだい?」
「まあ焦るな… これから面白い物を見せてやる… 」
そう言って鼻を擦ったのは、袋貉の伝吉であった。
その伝吉の隣りで何やら嘲笑するような表情を見せているのが、天狐直属の
部下、「ゲドの銅丸」である…。
「そう言やアンタ、あの銀次の野郎をのしたんだってなァ?」
「…別にあんなのは雑魚だ、最初っから眼中にねェよ…」
先程から会話を交すこの二人、何やら物陰に隠れて何か様子を覗っている
ようである。
「ほう、大したモンだな… 銀次って言やぁ妖狐の中でもソコソコ有名だ…
そいつを軽くやっちまうなんざぁ、アンタただモンじゃねェ~なッ!?」
「フッ、妖狐なんて畏まった呼び方… あんなの化け狐さ!俺の敵じゃない。」
「そうかい、そいつは失礼したな… いやまったく凄いぜアンタ!」
「シッ!! 静かにしろっ!! 出て来やがった…」
伝吉の目がキラリと光る… その視線の先にいるのは三凶の一人、猩妖軒の
キキーモラであった。
「おい、ありゃキキーモラじゃねェか?! まさかアンタ!!」
ゲドの銅丸が焦りの表情を見せて伝吉に言う。
「ああ、アイツとは古い付き合いでねェ… と言っても、仲良くしようって訳じゃ
ねェーけどな!」
そう伝吉は言い終わるや、素早く上空高く飛び上がると、キキーモラの頭上
目掛けて突っ込んでいった。
「なッ! あの野郎、よりによって三凶のキキーモラに喧嘩を売ろうってのか?!」
伝吉の蹴りがキキーモラに当たるかと思われた瞬間 虚しく空をきる。
今キキーモラが居た場所に伝吉が着地すると、今度は後方から何やらヒュン
ヒュンと風を切るような音が近付いて来る。
「・・・・・・」
伝吉は振り向く事無く 素早く身体を前方に倒すと、背中の辺りを瞬時に何かが
かすって行く。
伝吉が地面に両手を着き、そのまま跳ね上がる形で再び空へと逃げると、
前方に見える妖怪自動販売機がキラリと光った。
「す… 凄ェ… 」
すべてが一瞬の出来事で、いったい何が起こったのかが解からない銅丸が
呆然とする。
伝吉が着地した次の瞬間、自販機は中心からゆっくりと斜めにズレ落ち
上半分が倒れ、ドンと言う大きな音と共に真っ二つとなった。
「あ~ぁ、知らねェぞ… 弁償だよ弁償ぉ~♪」
緊張感の無い声で伝吉が叫ぶと、その後から別の声がする。
「…伝吉、いったいどう言うつもり」
伝吉がゆっくりと振り向く先にキキーモラは居た。
「久しぶりだなァ…」
「・・・・・・」
「何だよォ、少しは感動しろよなァ?古い友人と感動の再会したんだからよ」
「ふざけないでちょうだい…」
「はは! お前、その無愛想なトコロも相変わらずだなァ?」
「…アナタのせいでどれだけ私達が迷惑したと思っているの?」
「あ~? 迷惑だァ~あッ!!!? 知るかんなモン… 俺はお前等を叩き潰す為に
今ここにいるんだからなァ!!」
伝吉の飄々とした態度に、明かに嫌悪感を示すキキーモラ。
「お前をぶっ倒したら、次は鬼婆と古狐だ…」
「それじゃァ、今私がここで倒してあげる… 宗旦達の手を煩わせる事の
無いように…」
キキーモラがその細長い手をクルリと回転させると、キュラキュラと何か
糸のような物が張り詰める音がする。
「へっ、お前が言うとそれっぽいぜ! でもなァ、くたばるのはお前だぜ…
ええ、キキーモラ?!」
「私達、四獅王を崩壊に導いたのは伝吉… アナタよ!」
「…うるせェ、先に裏切ったのはテメェ等の… あの宗旦の野郎だぜッ!!」
「あいつ等、いったい何の話をしてやがるんだッ?!!!」
物陰から隠れて様子を覗っている銅丸が呟く…。
どうやらあの袋貉の伝吉、三凶と何か因縁があるようであった。
もし伝吉が、元々今目の前に居るキキーモラを始め、あの
黒塚亭の鬼婆、
キツネ亭の宗旦狐と仲魔であったとしたら、妖狐の中でも武闘派集団の
銀次組を簡単に倒した理由が解かる。
妖怪料理界で三凶と言われる三匹の妖怪達は、裏妖界においても三凶と
言われ、戦闘力・妖力が桁外れに高いのである。
「はっはァ~ん、そうかァ… 天狐様も妖怪が悪い、こうなる事を知ってなさった
んだなァ? ひひッ!こりゃ面白ェ~ッ!!」
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最終更新:2016年08月05日 21:31