nanaki(2007-1-14)
所変わって
化け物町4丁目。
伝吉にやられ、駅で寝ていたという失態を犯した銀次組の銀次がある事務所を訪れた。
化け物町を牛耳る目狐組の本部である。
バタン!!
「はぁっ…はぁっ…あ…兄貴…修太郎の兄貴!!」
「おお…おめえ、銀次じゃねえか…どうした」
突然の来客に驚きながら振り向いたのは、目狐組若頭・黒狐の修太郎である。
「あ…申し訳ありませんっ!俺たち…不覚にも伝吉にやられました…」
「はぁ?あの伝吉に?くっ…わははははははは!!!!おめえ…天下の銀次組があの袋狢野朗にやられたってのか!?」
「…すいやせん…」
「…ったくよぅ。おめえらいつからそんなにヨワヨワになっちまったんだ?コラ。背中の月が泣いてるぜ」
「しかしっ…奴ら“天狐”を名乗っている全くの偽者!しかもやっている事が卑怯極まりないんですよ!ここは一つ目狐組に手を貸していただきたいと…」
「甘ったれた事ぬかすと、おめえの腹叩き割るぞコラ。いいか?俺たちはな妖怪狐連盟直属の最高組織なんだぞ?」
「そっ…それはそうですが…」
「分かってんなら、俺たちに頼む前にてめえらで何とかしろ。俺たちは今忙しいんだ」
「…宗さんの事で…ですか」
「…何?」
「どうも、目狐組も同じゴタゴタに巻き込まれているようで…」
「…フン。俺たちは天狐絡みじゃねえよ。残念だったな」
「…そう…だといいのですが」
「何だと?」
「実はですね…」
「君が…宗旦狐君だね」
突然後ろから声を掛けられた。
初老の妖怪狐…。
何でしょうかと僕は問う。
「君を妖怪狐連盟に是非。というお方がおられるのだが…」
「…妖怪狐連盟?」
そんな昔気質の組織なんぞの興味などさらさらない。
「…話がよく分かりませんが…」
「君のその優秀な料理の腕を買っている御仁がいるのだよ。どうだね。悪い話ではあるまい」
「…お言葉ですが、私はまだこの大学に入って2年しか経っていない。まだまだ勉強不足です。そんな大きな組織なんて私には荷が重過ぎます」
「そうか…まぁ、そんなに急ぎではないからゆっくり考えてくれたまえ」
そうそう…と初老の妖怪狐は振り向きもせず…
「君に付きまとっている狢…何とかしたほうがいい…」
「………」
やはりおかしい…何故異種族同志が一緒に行動してはならないのか…
僕は…ただ…
「宗旦君。こんな所にいたんだねえ…」
ふと横から聞きなれた声が聞こえてきた。
「ああ、女将」
「ちょいと!女将って呼ぶのやめてよ!もう…」
「いやぁ…みんな女将って呼んでるからさ。それにしても何か用?」
「何かって…珍しく考え込んで歩いてるからさぁ…どうしたのかと…」
女将…と呼ばれているこの女妖怪…ほんとの名を鬼婆という。
私は以前、人間界にいたときに彼女と出会った。
妖界と人間界では基本的に姿が違うから、妖界に居を構えるとき久々に会った鬼婆の姿を見て最初は誰だか分からなかった程、この鬼婆という女妖怪は…魅力的である。
私はだから、「人間界に行く時はもう少し年齢を下げたらどうなんだい」と言った覚えがある。すこしだけムッとしていたけど。自信があったんだろうか。
「ああ…ちょっとね」
「また…自分の中に溜め込んでる…」
「溜め込んではいないよ。さっき学長の側近らしい妖怪に会った」
「え…何か話したの?」
「ああ。妖怪狐連盟に入れとかどうとか…」
「凄いじゃない!それで勿論OKしたんでしょ?」
「いや。私にはやりたいことがある。伝吉と開業するという夢がね」
「……そう」
「なんだよ…らしくないじゃないか。いつもはもっと…」
「…宗旦君は、伝吉君と開業するんだ…」
「え?」
「…ううん。何でもない。もう、頑張ってよ?私の分も!」
「え…ああ。女将もさ卒業したらでっかい旅館建てるのが夢なんだろ?お前の作る料理は上手いからな!」
「またまた!そんなことないわよ~。宗旦君には適わないわ」
少しだけ寂しそうな素振りを見せた鬼婆を見送った後、私は伝吉を探しに行った…
――そうだ…その後僕たちの友情が壊れたんだ…
「オーナー」
突然後ろから声がした。
「ああ…おとらさん」
「…客がきているようだが…」
「客?今日はもう閉店なんだけど…」
「いや…オーナーと話がしたいそうだが?」
「…分かりましたよ。行きましょう」
宗旦狐は階段を降り、入り口に進む。
ドアを開けるとそこにいたのは…
「…お前…吟…」
「お久しぶりで御座います。宗旦様」
吟…妖怪狐連盟の直属の戦闘組織「目狐組」のNo2。
「何でここが…」
「探しましたよ。宗旦様。若頭が呼んでおります」
「……」
宗旦狐は目の前の銀狐と対峙していると、後ろから「宗さん!お客さんでやすか?」というクダの声が聞こえた。
「吟。若頭に伝えてくれないか。僕はもう昔の僕ではないんだ。今、こうして店を構えている。だから僕には何もしてやれない」
「…そうですか。いや、急ぎではないですので。また…来ます。そのうち」
吟はそういうと風のように駆け出した。
…急ぎではない…か。
「宗さん、誰か来ていたんですかい?」
「いや、ただの酔っ払いだったよ」
「…そうでやすか。近頃多いですからな」
「はは。そうだね」
…僕はもう昔の僕ではないのだ。もう戻らないと決めた。
ただ…あの時の“誤解”は解きたい…
伝吉―
最終更新:2016年08月05日 21:33