nanaki(2006-12-13)
「…クダ君は…」
暫くの沈黙の後、先ほどまで外を見ていた白狐がようやく口を開いた。
「へい?」
「クダ君は人間界にいるとき、妖怪狸を見たことがあるかい?」
「え?狸でやすか?いっいやぁ…オレ、まだ狸を見たことないんでやす。ずっと竹筒の中にいたから…」
「そうか。クダ君はまだ見たことが無いか…」
「ええ。オレの仲間と主の人間、それに会いに来る数々の人間にしか会ってなかったから、他の妖怪や妖怪狸はないんでやす。犬や猫はありやすが…」
「犬や猫は、人間が飼ってたりするからね。クダ君も目につきやすかっただろう」
「はい。え…それがなにか?」
「いや。知らなければいいんだ」
そういうと宗旦はため息をついた。
「あ…あのぅ…宗さん…」
「うん?」
「隠し事、しないでくだせえ…」
「……」
「オレは…ある事故で瀕死の重傷を負って役にたたぬと主に捨てられ烏天狗の森までようやく辿り着きやした。息が絶えそうになったころ、通りかかった宗さんに助けてもらったんでやす。その恩は一生忘れないしオレはどんな事があっても宗さんに着いていくと心に誓ったんでやす。でも…」
でも宗さんはオレに全てを話してくれない…と痩せた管狐はつぶやく。
「…クダ君、僕は君を優秀な右腕だと思っているよ。だけどね、君には危険な所に首を突っ込んで欲しくないんだ」
「宗さん!!オレは今までずっと宗さんの側にいやした!そしてこれからもずっと宗さんの右腕として働きたいんでやす!!…宗さんはご自分でふっておきながら、肝心なことは何一つ語ろうともしない。そんなにオレが信用なりませんか!?」
クダは非常に執念深い。出会った頃はずっと自分を捨てた人間を恨んでいた。
恨みだけではどうにもならぬと宗旦はクダを諭し、一緒に店をやらないかと宗旦が誘ったのだ。
オレは料理は少ししか出来ませんが何でもお手伝いしますと言ってくれたのをよく覚えている。
「クダ君は…似てるんだ…」
「似てる?」
「そう。似てる。クダ君のその目を見ているとかつての旧友を思い出すんだ」
「旧友でやすか?」
旧友…だったというのかな…と言いながら宗旦は自分の懐から何かを取り出した。
白くて艶やかな綺麗な石だった。形は何かの牙のようで穴には紐が通されている。
「これは?」
「これはね。白狐の石という白狐しか持っていない妖怪狐の証だ。御成稲荷を引退した大神狐である空狐の牙をかたどっている」
「そういえば、宗さん。それ店にいるときはずっと首から下げてますな」
「うん。これね、本来なら白狐しか持っていないんだけど、妖界で一匹だけ妖怪狐以外の妖怪がこれと同じ物を持っているんだ」
「妖怪狐以外…」
「
妖怪大学の頃につるんでいた親友がいてね。彼にあげたんだ。この石を」
「妖怪大学っていやぁ…あの妖怪料理を極める妖怪だけが入学を許されるという…あの、妖怪大学でやすか?」
妖怪大学…妖怪料理界の匠を育てる妖怪料理協会会長・五徳猫が設立したエリート大学である。
宗旦はその大学にトップで入学。在学中もずっとトップクラスに君臨していた。
「そう。そして当時僕と同じくらいの腕を持っていた妖怪が……伝吉だ」
「!!伝吉!?」
「そうだ。袋狢の伝吉。彼はいつもNo2だった。それでも僕たちはある夢を叶えるために躍起になっていた」
―宗旦!いいのか?こんな貴重な石もらっちまって…
―じゃぁ、俺と宗旦は同志だな!!
「じゃぁ…この石と同じ物を持っているのが…伝吉…」
「今も…持っていればな…」
「今もって…親友なんでやしょ?」
「…親友だった…という方が正しいかもしれないな。僕は彼に恨まれている…」
―宗旦…俺卒業できないよ…
―お前、知ってたのか?
―何で黙ってんだよ!!何とか言ってくれよ!!
―やっぱりお前も同じなんだな…あいつらと…
―俺はお前を許さない…絶対に超えてやる!!!
「伝吉はクダ君に似て非常に執念深く考えるより先に体が動くといったタイプの妖怪でね…それに…」
「それに?」
「伝吉は少々被害妄想が激しいんだ…多分伝吉が今僕を恨んでいるのも勘違いなんだけどね…」
「勘違い…」
「伝吉は今、僕を探しているだろう。そしてクダ君…」
―君も狙われているんだ…
最終更新:2016年08月05日 21:41