魑魅魍魎 美食の宴_第二章13

shion(2006-11-26)

≪魑魅魍魎 美食の宴≫ 第二章 天狐

鬼一口組の名の由来は、組長の刺青である。
世の全てを貪欲に飲み込む、という意味らしい・・・が、鬼一口に遺恨がある・・・とも言われている。

事務所に、さきほどの狸が帰ってきた。
この狸、名を吾蔵という。

「組長、あきまへんでした」
さっきとは打って変わって関西弁で話し出した・・・組長の前では関西弁、という決まりでもあるらしい。

「そうかぁ・・・まあええ、次があるわ」
どっしりと座椅子に座る大狸、組長の金治。
金長狸の再来ともうたわれる、傑物である。
毛には白いものが混じっているが、その貫禄は他を寄せ付けないものがあった。

「組長、猫又の城田の野郎が、まだ金を返しよりません」
新入りの豆狸、吉二が言った。

「・・・しゃあない、尻尾の一本でも詰めたれ」
彦二はビクビクしている。

「組長、自分が吉二に付いてったてもええですか?」
吾蔵がフォローを入れた。
「ああ、その代わり、抜かるなや」
二匹は深々と一礼すると、事務所を出た。

「あ~、組長にはいつ会っても怖いです~」と吉二はため息をついた。
「まあ、あの人も昔からああいう訳じゃないんだがな」
「ところで兄貴、組長の机に置いてある子狸の写真、あれ何ですか?」
「ああ、秘密の話だがな、組長にはお嬢さんが居たんだ・・・」
「お嬢さん、ですか」
「だが、この稼業に付く以上、何が降りかかるか分からない。だから、組長は娘さんを捨てた」
「で、お嬢さんは・・・」
「一、二年前に一度だけ様子を見に行かれたようだ。結婚して、可愛い子供もいるらしい。小さな港の村で、幸せに暮らしてるそうだ」
「じゃあ、あれはお孫さんの写真ですか」
「ああ・・・たぬ・・・何て言ったかな」

そんなことを話していると、前から別の狸が走ってきた。
「あ、兄貴~、金の油揚げは手に入りましたか~!?」
「いや、まだだ。これから城田の野郎をちょいと痛めつけに行くところだ」
「そ、それどころじゃありませんぜ!天狐さんが、天狐さんが・・・!!」


最終更新:2016年08月05日 21:43