nanaki(2006-10-25)
烏天狗の森に鋭い視線で何かを睨みつける者がいる。
1匹ではない。
何匹もいるようだ。
銀色の尖った毛を持ち、牙は鋭い。
何かを睨むその目は常に何かを狙っているかのようである。
「おい」
群れのボスであろう周りより遥かに体の大きい妖怪が右後ろにぴったりとついた妖怪に話しかける。
「はっ」
呼ばれた妖怪は少し緊張しつつ頭を下げる。
「…アレは何だ」
ボス妖怪は視線の先に写る不可思議な物体を見つめているようだ。
「アレが目障りだ。ここいらでは見かけぬ形をしているな。まさか俺達に気付いたか…」
「銀さん、そんなことはありません。私がアレの正体を暴いて見ましょう」
「いや、いい」
銀、と呼ばれた妖怪は行くぞ。と周りのものに命令すると踵を返し、走り出した。
この群れはあの「妖怪狐連盟の長・天狐」が派遣した銀狐集団「銀次組」である。
ボスは銀と呼ばれる大きな狐で、その昔人間界で様々な悪さをしてきたという、筋金入りの悪党なのだ。
凶暴で冷徹。目的のためには手段を選ばないという、天狐でさえ疎ましく感じている集団だ。
そして、先ほど話しかけられた妖怪は銀次組のNo2「定」である。
しかしこの銀次組。
かの宗旦狐には頭が上がらない。
今回の騒動で、銀達は恩を返そうと躍起になっているのだ。
「いいか、宗旦狐の兄貴には昔世話になったんだ。粗相するなよ。お前ら」
「わかりやしたぁっ!!」
「じゃぁ、とりあえず挨拶代わりに本陣に向かうか…久し振りに血が騒ぐな。定」
「そうですな。…っていきなり本陣ですかい」
「俺はなぁ、回りくでぇ事が嫌ぇなんだよ。分かるだろ?」
「そ…そうでしたな…」
定は苦笑いを浮かべながら、すっかり暗くなった空を見上げた。
最終更新:2016年08月05日 21:58