KARASU(2006-10-25)
「どうしたってんだい?」
「何か、外で女が暴れてるんでやんす!」
「女が?ここには誰も入れるなって言っただろ?追い返しな」
「それが、自分は呼ばれて来たんだ、って騒いでて・・・」
夜行はゆるりと顔を上げた。
「どんな女じゃ?」
「すっごい別嬪です。赤子抱いてやした。もう柳の葉で叩くから痛くて痛くて・・・」
風の神は鞭打ちになった背中を見せた。
「そりゃあわしの客じゃ。入れてやっとくれ」
「夜行さんの?」
「おお、あやつらに対抗する駒じゃ」
それを聞いて風の神は出て行った。
「先生、それって、龍球に引っ越したアノ子ですか?弟子だっていう」
「左様。最後まで渋っておったがの、昔の話をしたら快く引き受けてくれたわい」
それは脅迫ではなかろうか、というクダのツッコミは喉元まで上り、また腹の中に落ちていった。
明日は我が身。にだけはなりたくない。
風の神に伴われて現れたのは、少々目元がきついが文句なしに美人と言える、柳女の柳葉卯月。
龍球というリゾート地で居酒屋「ヤナギ」を切り盛りしている、一児の母でもある。
「お久しぶりですね、センセ?」
「お前さんも、随分と丈夫そうになったのう。龍球の水がよほど合うと見える」
「ええ、お陰様で。店も順調ですよ」
柳葉は顔を綻ばせた。
「宗旦、女将、紹介しよう。柳葉卯月だ。性格はこの通り荒いが、耳の早さでは、わしの後継はこいつしかいないと思うておる」
「一言余計ですわ」
柳葉はひんやりとした笑みを浮かべたが、海千山千の夜行にそんなものは通じない。
「お嬢、こちらは宗旦狐と、鬼婆の女将だ。猩妖の主にも合わせたかったんじゃが、時間が合わなんだ」
「初めまして。よろしくね」
「お噂はかねがね伺っております」
「おや、どんな噂なんだかねェ」
紹介された三人は軽い挨拶を済ます。
そして
「じゃああたしはちょっと外すよ」
と鬼婆は出て行った。
最終更新:2016年08月05日 21:59