nanaki(2006-10-14)
「この蕎麦うまいっすね!」
そういいながら管狐のクダはたぬき蕎麦を食べている。
先ほどの僕の冗談にビビリながらも美味そうに食べている。
ここは最近一躍有名になった蕎麦屋「太郎そば」の個室である。
蕎麦屋なのに個室があるというのは近頃の店の流行なのだろうかなかなか見られない。
ク「それにしても…」
すでに蕎麦を食べつくしたクダが小声で僕に問いかけてきた。
「さっきのは何だったんすかね」
宗「ここいらでは見かけない妖怪だったね」
つい30分前、僕とクダの前に飛び込んできたモノ。
黒くて大きな妖怪だった。
その妖怪はこちらを見向きもせずに一目散に走り去ったのだ。
宗「あいつが向かった先は確か…
黒塚亭があったんじゃないか?」
ク「そうでやすよ!宗さん何とか連絡しやしょう!」
クダは僕を宗さんと呼ぶ。
愛称で呼ぶのは彼しかいない。
宗「…そうだな」
ク「あ」
宗「ん?」
ク「さっきのチラシはどうしたんです?確か…てん…」
宗「ああ、天狐屋のかい?」
ク「そうですそうです。宗さん、それ見た途端に出て行ってしまったから」
宗「出て行ったというよりも、呼び出されてね」
ク「呼び出された?」
宗「うーん…大きな声では話難いんだけどねえ、実はね妖怪狐連盟から…」
ク「うへえ!!ほっ本当っすか!!」
宗「まぁ、似たようなものがね。ほら、ここに…」
天狐屋のチラシの裏に、銀狐以上の
ランクの狐にしか読むことが出来ない妖怪狐文字が書かれている。
そこに例のメッセージが書かれていたのだ。
ク「これは…」
宗「まぁ、うちの店はそんな事実はないし、多分誰かが潰そうとしているんだろうね」
ク「でも、何で長の天狐様がそんな命令を…」
宗「何でも、プライドを傷つけられたそうだよ」
ク「プライド?」
宗「俺はこんな低俗な店はやらん。ってね。ほら、黒狐以上の方々は高貴なお方が多いから…」
ク「ああ…育ちがいいってことですな」
宗「そういうことだよ」
天狐は妖怪狐の中で一番気性が荒く喧嘩が大好きな銀狐を大量に派遣したらしい。
宗「ま、僕は世間では3凶と呼ばれているみたいだからね。敵も多いんだろう」
ク「そうですな。しかし…!!」
宗「どうした?」
ク「(シッ…! 誰かが聞き耳を立てていますぜ…)」
クダはそういうと、僕の肩越しに視線を寄越した。
僕もそれにあわせて振り向く。
障子のわずかな穴から何者かがこちらをじっと覗いていた。
僕は確かに、その視線と目があったのだ。
まるでこの空間だけ時間が止まっているようだった。
僕は、背中で威嚇しているクダの声だけが聞こえていた。
最終更新:2016年08月05日 22:13