長野「わかった!逃げろ!」
長野先輩が大声で言った。
きっと徹君があれを見つけたのだろう。
あのおぞましい化け物を。
なぜか空には赤い月が爛々と輝いている。
重い道具はすべて置いて最小限の荷物だけ持つ。
長野「走れ!」
走って港を目指す。
徹君、どうか無事でいて。
港には船がぷかぷかと浮いていた。
運転手のおじさんは嫌そうな顔で私たちを迎えてくれた。
運転手「もう行ぐよ」
運転手さんは少しでもここにいたくないといった感じだった。
綾「まだ、一人来てないんです」
運転手「おめぇ、ここに霧がでるとバケモンがでるっつぅでねぇの」
綾「必ず来ます、来ますから」
───それから十五分、まだ徹君はこない。
どうしているんだろう。
まさか、いや、やめよう。
絶対、徹君は来る。
鬼の手斧が完全に殺す気で迫ってきている。
振り下ろされる斧を鉄パイプで流す。
そして無防備になった体を前に倒す。
すると、足場の悪さもあってか用容易に転ばすことが出来た。
長野「徹、こっちはのり終わった、お前もすぐ来い!」
つけっぱなしのピッチから声が聞こえる。
すぐ来いったってコイツがいたら!
また斧が振り下ろされる。
また、鉄パイプでなんとか流す。
徹「僕は、あんた達の恋を実らせることは出来ない」
つばずりあいの体制になる。
徹「あんたがどれだけ人を恨んだのかも判らない」
鉄パイプを前に倒し体制を崩させる。
徹「でも、あんたの恋をみのったらいいなって思う女の子だっているんだ!」
倒れた鬼の顔面に鉄パイプをぶつける。
仮面からは涙で目を腫らした目がぎょろりと見えた。
徹「あんた達の恋の話を残した人だっているんだ!」
手斧がおろされて頭をかち割られる瞬間、回避する。
手斧は木に食い込んだ。
そして、思い切り鉄パイプで後頭部を叩く!
ごきり、と嫌な感触が手に残る。
これでは即死だろう。
しかし、般若面は斧を抜くことをやめない。
駄目だ、何も、気持ちが通じていない。
逃げようとしたとき、足下に激痛が走る。
それは斧が足を鋭く切り裂いていた。
徹「あ、あああ」
痛い、逃げなくちゃ、逃げなくちゃ。
鉄パイプを杖に、よろよろと歩く。
般若面は後頭部を押さえ、立ち上がろうともがいている。
足を引きずるように港へと向かった。
痛い、くそ、痛い。
徹「畜生」
これじゃ港につく前に追いつかれるじゃないか。
痛みで気が遠くなりそうだ。
おまけにもうパイプを振れない。
すると、目の前に一人の女性が立っていた。
【立ち絵:高橋】
同い年くらいだろうか、ショートカットで鋭い一重。
その女性は道を指さした、そっちへ行けと言うことだろうか。
こうなりゃわらにもすがる。
般若面がこちらに走ってくる。
しかし僕ではなくてその女性に向かって斬りかかった。
頭がかち割られる!
一瞬目を閉じた、しかし、斧は地面に突き刺さるだけだった。
スカスカと斧が空を切る。
般若面は何度も何度も斬りかかる、しかし、それは地面を耕すだけだった。
女性は再び道を示す。
右手に持っているのは頭蓋骨。
アレはきっと長谷川先輩が持っていた物だろう。
それを受け取る。
僕は足を引きずりながら祠へと向かう。
痛い、畜生。
鬼は相変わらず女性に釘付けでこちら向かっては来なかった。
なんて長い距離なんだ。
走れれば・・・。
祠が見えてきた、もうすこしだ。
去年の出来事も昔の出来事も全部、終わりにしてやる!
走る音が聞こえる、どうやら鬼が近づいてきたようだ。
もうすこしだってのに・・・。
すると、そっと頭蓋骨が受け取られる。
誰だ・・・?
そこには、綾が立っていた。
「綾!何してるんだ!」
「これをここに入れればいいの!?」
鬼が迫ってくる。
「そうだ、そこに入ってるのと交換しろ!」
僕に覆い被さってくる鬼。
祠に頭蓋骨が入れられた。
これで、何か変化が・・・。
しかし、鬼は斧を振り上げた。
畜生!だめか
綾「思え思うなづむ想い
されぞ消えゆく草の雪
とけどかわきど
あきず想う」
綾が言い放つ。
鬼の動きがぴたりと止まる。
仮面から見える目から涙があふれた。
「おお、おおお」
泣いて、いるのだろうか。
目を見開いて震えている。
綾「早く」
綾はそう言って、道を指さす。
徹「ありがとう、だけどこの人に言わなくちゃいけないことがあったんだ」
少女は不思議そうな顔をする。
徹「元気な赤ちゃんを産んでやってくれ」
おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!
鬼の泣く声がこだまする。
港につく。
【画像:港】
徹「すまんね、綾」
綾「まったく、お節介がすぎるわよ」
みんなの顔が明るくなる。
長野先輩が肩を担いでくれた。
長野「よくやった」
痛みで声も出せなかった。
長野先輩に手を貸してもらうと。
僕は船の上で倒れた。
傷、深くなきゃいいけど。
綾「徹君───」
ああ、聞かなきゃならないことがあるんだっけか。
そう考えながらも僕は目を閉じた。
最終更新:2006年09月17日 20:30