ピピピピピピピピピピ
【効果音:アラーム】
規則的な電子音で目が覚める。
ピピピピピピピピピ.........
【効果音:アラーム】
徹「ん・・・・・うるさ・・・」
この不快な音は手首からきてるらしい。
まどろみの中、手首をさすってみると堅い物の感触が手に当たる。
うっすら、ぼんやりとそれが腕時計だということが理解できた。
腕時計の突起を滅茶苦茶に押してみる、手探りでボタンを探すのがとてももどかしい。
すべてのボタンを同時に押し初めて三回程度で音が止まった。
腕時計が鳴ったということは起きる時間が来たということだ。
起きなければ。そう思っても心地よい体のだるみと、冷ややかな空気がそれを許してくれない。
頭を枕に押しつける、もうどうしてでも体を起こしたくない。
手を無造作に動かす、頭はぼやけていても体は起きるつもりらしい、自分の体ながらご苦労だと思う。
手の指先に何かが当たった、ソレはとても冷たくて気持ちがいい。
しばらくソレをなで回した、ヒンヤリしてていい気持ちだ・・・。
すべすべしていて、柔らかくて、まるで「人の手」。
【効果音:布団を翻す】
徹「───冗談・・・」
自分でその考えに驚くのと目を開けるのはほとんど同時だった。
目を凝らして指先を見る、最初はぼやけた視界がだんだんとはっきりしていった。
自分の手の先には・・・・・拍子抜けしたが、何もなかった。
人の手どころか自分の視線の先には白い清潔な壁が広がっている。
寝ぼけて壁を触っていたのだろうか。
しかし・・・・手の先に触れてみる。
あのときの異常なまでにリアルな触感は・・・・思い出すと背中から悪寒が駆け上がった。
まだ指先に感触がありありと残っている、寝ぼけていたにしても、気味悪い物をしっかりと触れていた。
もし細い手首が僕の腕をがっちりと握っていたら・・・・・。
こんなに朝早くの寝起きから僕はなんて気味の悪い想像をしているんだろう。
きっと寝ぼけたんだ、そうに違いない。
自分でも驚くほど納得ができないが考えを強引に終わらせる。
そして「あくまで手首のくっついていない腕」を見て、時間を確かめる。
時間は7:42分、アラームが鳴ってから12分が経過していた。
胸がスッとしない、ロビーに行って眠気覚ましにジュースを飲もうかな。
ベットから立ち上がって服装の乱れを直した。
服がいやにしわくちゃで乱れている、寝苦しくて暴れたのだろうか。
そういえば。
さっきから部屋がずいぶん涼しい、まるでクーラーが利いているようだ。
いや、涼しいというより少し肌寒いくらいだ。
空気を入れ換えようとカーテンを開けて見ると、窓の先は霧で真っ白だった。
ほんの先も見えない。
徹「すごいな」
なぜか僕はその霧を見ていると、窓の取っ手を持ってみるものの、開ける気がしなかった。
窓を開けた瞬間にこの霧が部屋の中を瞬く間に浸食してしまうのでは・・・・・。
くだらない妄想だと冷静な自分が言っている、しかし、手には力が一向に入らなかった。
結局、踏ん切りがつかず、結局窓は開けないままになった。
自分でも意気地が無いな、と思う。
汗をかいてはいないと思ったが、新しいTシャツを着て、背伸びをした。
しかし、厭な気分は胸から一向に落ちてくれなかった。
とりあえず、今のこの部屋にはあまり居たくない。
そう思ってドアのノブに手をかけた。
バンッ
【効果音:窓が勢いよく開く音】
ドアを半分も開けていないとき、勢いのいい音を立てて窓が開く音がした。
不覚にも2cmは地面から飛んだだろう。
後ろを見てみると窓がキィキィと揺れている。
【効果音:窓が揺れる音】
今日は風が強いのだろうか?自分でも「違うだろう」と解っていながらも強引に考えを変える。
どうしようか・・・・閉めるべきだろうか・・・・。
閉めよう、これで閉めなければそれこそ自分がビビリあがってることの証明になる。
窓に近づいてみるが、やはり風は無く目の前では霧が漂っていた。
ドアを閉める、鍵もちゃんとつけてっと・・・・。
これで大丈夫だろう。
何も無かった安心感と速く逃げたいという考えが頭の中でいっぱいになっている。
早足で再びドアへと向かった。
カチリ
【効果音:窓の鍵が開く音】
ドアの方から金属が動いた音がした。
さっきとは違う悪寒が駆け抜ける。
再びドアに手をかけた瞬間───────。
ドスンッ
【効果音:窓が開く音】
窓が開いた。
僕はもう後ろを見ずに部屋から逃げるように飛び出した。
徹「なんだ!?怪奇現象か!」
そんな事を言いながら早足で階段を下りてロビーへと向かう。
ロビーでは長野先輩がラジオを聴いていた。
長野先輩がこちらに気づいたようだ。
長野「早いな」
【立ち絵:長野(普通)】
徹「先輩、窓がおかしいです」
長野先輩の朝の挨拶だったのだろう。
しかし、パニックが入っている僕には開口一番、その言葉しか口にできなかった。
先輩の頭に「?」が浮かぶのがわかる。
【立ち絵:長野(困り)】
長野「なんだって?何で窓がおかしいんだ?」
長野先輩が眉を潜める。
徹「ですから、開くから窓がおかしいです」
先輩が聞きたいことはよくわかる、自分の言っている意味はよくわからないが。
長野「窓は開くものだろ」
徹「窓が自動ドアで、ああ、違う違う」
だめだ、説明出来そうにない。
徹「とりあえず、見てください」
何とかその言葉を吐き出し、長野先輩に協力を要請した。
長野先輩は椅子から立ち上がると不審がりながらも階段を上っていった。
僕もそれに続く。
先輩がドアを開けると部屋には湿気が立ちこめていた。
長野「窓の立て付けが悪いってことか?」
【立ち絵:長野(普通)】
長野先輩はスタスタと窓の方へ歩いていくと窓をぱたんと閉じ、鍵をかけた。
長野「なんだ、別にどこも悪くない」
あまりにも普通に閉められたので、僕は何も言えなかった。
長野先輩がドアから離れたがさっきのようなことは無い。
僕の方も少し落ち着いてきたので事情を説明した。
長野「・・・・大方、鳥でもぶつかったんじゃないのか?」
そういってもう一度、窓の方へと向かった。
僕も着いていって窓を見てみる。
すると、長野先輩が窓の一辺を指さした。
長野「見て見ろ、やっぱり鳥じゃないか」
そのあたりを見ると白く何かがぶつかった後がある。
中心が丸く、左右に広がっている。確かに、鳥のように見える。
長野「幽霊の正体見たり枯れ尾花だな。全く、冷静に考えろ」
先輩がやれやれ、と部屋から出ていった。
僕も急いで追いかける。
確かに鳥に見える・・・・だけど、まるであれは人が手を広げて、顔からぶつかったように・・・・。
いやいや、いくら何でも考えすぎだろう、先輩の言ったとおり鳥がぶつかったんだ。
気を紛らわそうとロビーで長野先輩と雑談をしているうちに、綾と深町先輩がロビーへと集まってきた。
綾は深町先輩に起こされたらしく、眠そうにまだ目を擦っている。
その点、深町先輩はいつも通りに人形のように綺麗だ。
【立ち絵:綾(寝起き)と深町】
深町先輩の寝ぼけた姿なんて想像できないな。
さぞ可愛らしいんだろうけど。
そういえば、村野さんの姿が見えないが、まだ眠っているのだろうか。
正直、うるさい人だが深町先輩、綾、長野先輩という知的なメンバーが集まってしまうと僕と同類の彼女が恋しくなる。
長野「村野は?」
長野先輩が深町先輩に尋ねた。
深町「それが、まだ寝てみるみたいなんだけど・・・・返事が無くて」
深町先輩が首を傾げた、・・・・なんだか本当に人形のようだ。
長野先輩が腰を上げた。
長野「仕方がない、起こしに行って来る」
【立ち絵:長野】
そう言って階段の方へ向かっていった。
徹「僕もいきます」
別に起こすのに二人も必要はないだろうが、女性二人と一緒じゃ居心地があまりよろしくない。
とりあえず、僕も階段を上っていった。
階段を上ると長野先輩が村野さんの部屋の前でなにやら考えていた。
徹「どうしたんですか?」
長野「いや、部屋の鍵は閉まってるし中で音はするんだが・・・」
耳を澄ましてみると確かに部屋の中からはゴソゴソと動く音はしている。
徹「村野さん?」
僕も軽くノックをしてみたが、なにも返事は帰ってこなかった。
【効果音:ノック】
うーん、と長野先輩は考えていたが、やがてドアノブに手を伸ばした。
ドアノブを何度もガチャガチャと回す。
【効果音:ガチャガチャ】
長野「おい、村野、返事くらいはしたらどうだ」
たしかに、これをやられたらさぞ鬱陶しいだろう。
しばらくドアノブのガチャガチャを繰り返していると、部屋の中からドアの前まで近づいてくる音がした。
徹「せ、先輩」
長野「村野、今日は長谷川を捜しに行くんだぞ」
ドアに向かって話しかける。
村野「いきとうないわ・・・」
ドアごしに帰ってきた村野の返事は嫌に暗い声だった。
長野「なに?・・・」
先輩の目が細まるのがわかる。
長野「どういうことだ」
村野「だから・・・ここからでていきとうないんや、長野君やて薄々気付いとるんやろ?」
長野先輩は返事をせずに、村野さんの言葉の続きをまっているようだった。
村野「全部、なんもかんも同じや、霧が濃くなるのも、人がいなくなるのも・・・・」
先輩は表情を変えなかったが下唇を強くかんでいた。
いったい、なんの話を?
こちらの様子が見えない村野さんはまだ話を続けている。
村野「また、あいつやろ、部長も、きっと・・・・」
ドアごしにでも村野さんが震えている姿が容易に想像出来るくらい弱々しい声だった。
黙っていた長野先輩が口を開いた。
長野「わかった、そう言うことならでなくていい、だけどな、長谷川について適当なことは言うな」
そう言うと、長野先輩は階段を下りていってしまった。
【効果音:階段を降りる音】
いったい、何の話をしていたかとは聞け無そうな雰囲気だ。
村野「徹君も、気をつけてや・・」
ドアに、近づく、小声でしゃべった。
徹「どういうことです?」
村野「霧が出てると───」
長野「徹!」
そこで、村野さんはしゃべるのをやめた
長野「さて・・・・」
【画像:三人の一枚絵】
【音楽:宿泊所(普通)】
どことなく緊張した雰囲気の中、長野先輩が切り出す。
村野さんは結局、気分が悪いので部屋で休んでいるということになった。
長野先輩にどういうことなのかを聞いて見たが、先輩は口を閉じるだけだった。
長野「今日は長谷川を捜す、まず班分けだな、男は必要で二年も必ず必要・・・・となると深町と徹だな、山寺はどうする?」
本当は長野先輩と綾なのだろうが、気を気を利かせてくれたのだろう、単独行動の方が得意なのかもしれないけど。
綾「あ、じゃあ徹君達の方でお願いします」
綾は少しホッとしたように言った。
綾と長野先輩か・・以外と人見知りをするところがあるからな、会話が無さそうだ。
長野「じゃあ、次は荷物だが、地図とPHSは必ず持てよ。深町、頼むぞ」
深町先輩はわかった、と言った感じで顔を縦に振った。
長野「見つけたら速攻で俺に連絡だ、必ず固まって行動しろよ、暗くなったりしたり霧が濃いなら戻れ、以上」
そう言って自分の部屋へと準備に戻っていった。
徹「じゃあ、僕たちも準備を始めましょう」
各々で準備を終え、僕たちはロビーに集まった。
本当を言うと、部屋に戻るのが怖くて僕は何も準備をしなかったのだが。
徹「それじゃ、いきましょう」
ヒンヤリと冷たいドアノブを回し、玄関のドアを開けた。
【効果音:扉が開く音】
【画像:霧が濃い道】
【音楽:和風な感じ】
【効果:画面が飛び込んでくる感じ】
徹「うわぁ、やっぱりすごいな」
周囲にはやはり霧が漂っていた、しかし、朝窓からみたほど濃くはなく、ある程度視界は開いていた。
これなら転ぶこともないかな。
それからしばらく先輩の言うとおりに歩いて港へと向かった。
【画像:港(霧)】
港は見渡しがよく、一目で部長がいないことが分かった。
それでも一応端から端まで歩いて調べてみる。
徹「部長ーいませんかー!」
いないのが判っているのに大声で呼ぶ。
やはり部長はいない、それどころか海鳥の一匹見あたらない。
海を見ると波は不気味なほど静かだ。
空は曇っているのか霧が濃いのかよく分からない。
まるで霧のカーテンがこの島をすっぽり閉じこめてしまったようだ。
閉じこめられたような、閉鎖感。
この島だけ世界から切り離されてしまったような、不安。
三日目でこんなことになってしまった、これからいったいどうなるのだろう。
【立ち絵:深町(遠くを見る)】
隣を見ると深町先輩が海を見て目を細めている。
やはり部長が心配なのだろうか、それとも・・・・。
徹「深町先輩、去年の事ってなんですか?」
もう、あやふやに誤魔化されないようにはっきりと言った。
深町先輩は驚いたふうも無くこちらを見た。
徹「去年、なにがあったんですか?」
先輩の大きな目から目を逸らさずにもう一度聞いた。
深町「その話は、したくないの」
その一言だけ言って目を伏せてしまった、まさかこれほど正面切って拒絶されるとは。
徹「したくないって、先輩達変ですよ」
はい、いえませんかと言うわけにもいかない、拒否するということはやはり去年何かあった。
今、聞き出さないと・・・・。
ゴンッ
【効果音:頭が叩かれる】
徹「いたっ!」
後頭部に鈍い痛みが走る。
後ろを向くと綾が手刀を僕の頭に振り下ろしていた。
【立ち絵:綾(怒り)】
綾「何、深町先輩困らせてるのよ、まったく」
徹「あのねぇ・・・・」
綾「知らないわ、深町先輩、行きましょ」
そう言って綾は深町先輩の手を引いてスタスタと行ってしまった。
何でそこで怒るんだよ・・・・。
後頭部をさすりながら二人の後を追おうをしたとき。
ピチャ、ポちょん
【効果音:水が跳ねる】
【画像:水面】
水の跳ねる音?
後ろを振り向くと、黒い影が水面に一つ浮かんでいた。
魚なんているんだ・・。
少し近づいてその水面をのぞき込む。
だんだんと黒い影が大きくなって、ぷかりとその魚が水面から顔を出した。
ゲェーッ
【効果音:*ここはあってもなくてもいい ゲェーという声】
反射的に顔が引きつった、背筋が何度も何度もゾクゾクと悪寒の波を立たせる。
魚だと思っていた生き物はまるで、老婆や猿か何かのように皺だらけの顔をしていた。
目は大きく、今にもポロリと落ちそうだ。
頭で不気味と理解するよりも先に体が嫌悪感を生み出す。
ヌラヌラと例えようのない七色の光を反射している鱗に覆われている。
ソレはまるで喉を潰されたカエルの様な声で鳴いていた。
嫌に耳に触る鳴き声だ。
もう聞いていたくない。
なんなんだ、こいつは・・・。
僕はたまらず立ち上がり、綾達の元へ走った。
綾「なにしてたの、遅いんだから」
君がおいていったんだろう、と言いたかったが、僕は早口でさっきの魚について説明した。
綾は少し気味が悪そうに眉をよせた。
【立ち絵:綾(不安)】
綾「・・・ここら辺の珍しい魚なんじゃない?」
徹「いや、あんな魚いるもんか、第一どう見ても異常だよ、あんなの」
綾「なんか気持ち悪いなぁ、徹君、私のこと怖がらせようとしてない?」
徹「してないって」
綾が少し表情を曇らせた、綾だって判っているんだろう。
この島が変なことになっている事が。
奇形の魚、晴れない空、立ちこめる霧、まるでお化け屋敷だ。
そういえば、この島まで乗せて来てくれた真田さんが言っていた、奇形の魚とはあれの事なのだろうか。
鬼女伝説・・・去年の事件・・・島の異変・・・。
いったい、この島は。
僕は言い知れない嫌な気分のまま廃村へと部長を捜しにいった。
廃村は木々で薄暗いせいか、ほかの場所よりも霧が濃いような気がした。
荒れ果てた家が村全体の空気を重くしている。
荒んだ雰囲気が漂っていた。
どの家もボロボロだけど、部長は居るのだろうか。
「ここはちょっと広いね・・・・手分けして探しましょう」
深町先輩の提案に頷き、僕と綾、深町先輩の別行動で探すことにした。
【音楽:寂しげな感じ】
【画像:廃虚】
僕と綾は、とりあえず一番手前の家の中を探すことにした。
【効果音:ギシギシ】
【画像:廃虚の家】
壊れかけている家は外見こそ家の形を留めている物の、中は荒れ果てていた。
徹「そこの床、腐りかけてるから気をつけて」
家の造り事態はそれほど古くないらしい、独特の粉っぽいにおいが鼻をツンとついた。
家具はそのまま放置してあり、窓は埃をかぶって灰色に染まっている。
床は踏むたびに音が鳴る、開きっぱなしのドアから湿気が入ってきて床を腐らせたのだろう。
綾「なんだか薄暗くて怖いね」
後ろからそっとついてくる綾がボソッと言った。
誰が居るわけでもないのにこういうところではなぜか小声になってしまう。
綾「もしも何かいたら、徹君はがんばって私を守ってね。私はその間に逃げるから」
徹「・・・君はそういう人だよ」
家の中をある程度見回すと、ドアが三つほど目に入った。
奥には部屋があるらしいが、入って部長がいるかどうか調べるべきだろうか。
しかし、廃屋とはいえ、部長だって家の中にズカズカと入ってはいかないだろう。
というより古い廃屋とは意味もなく不安で怖いものがある、僕は早くここから立ち退きたかった。
僕達は調べる必要はないと(勝手に)考え、家から出ようとした。
カタン
【効果音:カタン】
突然、背後から何かの音がした。
振り返り、音のした方向を見てみるとドアが一つ、目に入った。
綾「今・・・・何か音がしなかった?」
綾が今にも逃げたそうに言った。
僕も逃げ出したいのだけど。
誰か居るのだろうか?
これだけボロボロなんだから何かの拍子で物が落ちただけかもしれない。
その考えとは裏腹に僕の頭の中では朝の部屋での事がフラッシュバックした。
どうしようか・・・・。
誰もいないのだから怖がる必要はないけど、誰もいなかったらよけいに怖い。
とりあえず、ドアを開けて中だけを確認しよう。
そう思っていやいやながらもノブに手をつけた瞬間───。
綾「キャァ」
【効果音:床が抜ける音】
後ろから綾の声が聞こえた。
突然の声に驚き、後ろを振り向いてみると、綾が床を踏み抜いてしまったらしい。
綾は手で「ゴメン」のジェスチャーをしている。
【立ち絵:綾(ゴメン)】
さっきまでの緊張が一気に解け、ドアに寄りかかった。
徹「あっ」
すると、体重を支えてくれるはずのドアはべきべきと嫌な音を立てながら思い切り傾いた。
古くなって錆びた金具が外れたらしい。
僕の背中と扉は一つになって後ろに倒れた。
【効果音:ドスン】
幸い、尖った木片もなく腐った木などがクッションになって痛くはなかった・・・のだが。
何年も貯められていた埃が一斉にまきあがる。
部屋の隅々まで茶色が広がっていく。
僕は思わず息を止め、目をつぶった。
倒れたまま薄目で部屋の方を見てみるが埃が舞っていてよく見えなかった。
とりあえず僕は息を止めて起きあがり、入り口まで一直線に走った。
玄関でゆっくりと呼吸をする。
少し目を開けただけなのに目が痒い、すごい埃だ。
綾「徹君、大丈夫?」
心配そうに綾が近寄ってくる。
徹「ああ、大丈夫」
そういいつつも目を擦り続ける。痒い。
涙が出てくれば少しは楽になるのだけど。
しかし、いつまでも目を擦っているわけにもいかない。
僕は何度か瞬きをすると気が滅入りながらも入り口へと向かった。
奥の部屋の埃はさっきよりもだいぶ落ち着いていた。
綾はハンカチで口を押さえている、僕もハンカチを持ってくればよかった。
とりあえず手で口を押さえて前へ進む、なんだか避難訓練を思い出す。
警戒しながら部屋に一歩足を踏み入れた。
床がギィギィと音を立てる。
【効果音:ギシギシ】
さら二歩三歩と進み、部屋を見渡してみる。
やはり何かの拍子に木片か何かが落ちたのだろう。
部屋の中は他の部屋となんら変わらない様子だった。
窓が埃をかぶっていて光があまり入らず、多少薄暗い。
一カ所、他と違うところは天井が腐り落ちていてポッカリと屋根裏が見えるということだった。
屋根裏は暗くて中が見えない、まぁ部長がいるわけないだろうけど。
何となく安心した。
そして何も無いと判ったら長居は無用だ。
綾に入り口を指さすジェスチャーをすると、僕達は廃屋から逃げるように外に出た。
【立ち絵:綾】
さっきの廃屋に比べると外の空気は格別だった。
霧のせいで少し湿っぽい空気を思い切り深呼吸をした。
きっと広くて明るい場所に出た開放感もあるのだろう。
綾「徹君、これからどうする?」
徹「そうだなぁ・・・・」
正直言って、もう廃屋の中は探したくない。
部長だってわざわざ意味もなく廃屋にいたりはしないだろう。
徹「とりあえず、深町先輩に報告してこよう」
かれこれ数分間先輩を捜しているのに見つからない。
そもそも、ここってこんなに広いかなぁ?
だんだん霧も濃くなってきたし、早く見つけないと危ないな。
綾「深町先輩ー!いますかー!」
- しかし、霧の中からは先輩の声どころか虫の声も聞こえなかった。
綾「どうしよう?」
とりあえず、霧にじっと目を凝らしている綾に聞いてみる。
綾は少し考えるような仕草をした後、人差し指をピンと立てた。
綾「徹君、こうなったら最終手段よ」
あ・・・何となくピンときた。
徹&綾『大声を出す』
見事に僕と綾の声がハモる。
綾「さすが、よく分かってるわ」
徹「押してだめならもっと押すからねぇ」
綾「徹君もやるのよ、私一人は恥ずかしいわ」
恥ずかしいとか、そういう問題でもないと思うけど、まぁいいや。
二人で思い切り深呼吸をして、大声で叫ぶ。
綾&徹「ふ か ま ち せ ん ぱ ー い っ!!」
これだけ声を出せば深町先輩どころか、長野先輩まで聞こえるかもしれない。
流石普段から剣道で声を張り上げてる事はある、自分でも感心してしまった。
しかし、声はこだますることもなく、霧の中へと消えてしまった。
綾がうーんと唸る。
綾「あんまり響かないわねぇ、聞こえたかしら・・・もう一度言ってみる?」
徹「いや・・・・あれだけ出して無駄ならもう一度やっても意味ないと思うよ。」
困ったなぁ・・・、ピッチも深町先輩が持ってるし、ここら辺は判らないし。
下手に歩いてよけいに迷うのもあれだしなぁ。
徹「どうする?」
【立ち絵:綾(不安)】
綾が不安そうな顔でこちらを見てきた。
そんな顔をされると何も悪くないけどなんだか罪悪感が沸いてくる。
「どうするもこうするも・・・・」
そう言いかけたとき、霧の中に人影が見えた。
どうやら深町先輩のようだ。
よかったぁ、とため息をこぼす綾。
とりあえず、迷子にならなくてすんだ。
【立ち絵:深町(静か)】
深町「ごめんなさいね、ちょっと奥の方を調べてたの」
徹「そうですか・・・」
部長はいましたか?と聞きかけてやめた、深町先輩はいつもの表情だ。
ここにもいない、長野先輩からも連絡がないのだから深町先輩もさぞ心配だろう。
だけど、先輩の無表情を見ていると失礼だけど、本当に心配しているのか?と思ってしまう。
徹「先輩、そろそろ霧が濃くなってきましたよ?」
綾が不安そうに深町先輩にたずねた。
深町「そうね、私もそう考えていたところなの」
徹「でも、戻ってからどうします?」
深町「そうね・・・、とりあえずお昼を食べて、それからね」
【場所:宿泊所】
【音楽:宿泊所(普通)】
徹「いただきます」
宿舎に戻った後、深町先輩が作ってくれたツナサンドとツナサラダが並んでいる。
皿に並べられているツナサンドを一つつかみ、ほおばった。
口の中にツナの脂っこさが口に広がる。
今まで日持ちしない肉ばかり食べていたから、こういう軽い食事がとても美味しく感じる。
徹「美味しい」
どうやら綾も満足の様で、早くも一枚を食べ終え二枚目をウサギのようにフムフムと頬張っている。
先輩自身はサラダを行儀よく食べている、サラダ一つにしても気品が漂う人だな。
徹「そう言えば、先輩。今日はこの後どうするんですか?」
ちょうど隣では綾が五枚目のツナサンドを口にしていた。
深町先輩が軽く前髪を分けて考える仕草をしている。
深町「そうね、今日はもう霧が濃くて無理でしょうね・・・・きっとそろそろ長野君も帰ってくると思うから」
長野先輩の指示をまちましょう、か。
深町「これ、村野さんにもあげてくるわね」
そう言って、先輩は何枚かのサンドイッチを皿に載せて二階へ昇っていった。
しばらくして、長野先輩が戻ってきた。
【立ち絵:長野(泥まみれ)】
ドアを開けた先輩の服は何処の獣道を通ってきたのかと思うような汚れ具合だった。
僕らがくつろいでいるのを見ると、ため息を一つついた。
部長が戻ってきていないことが判ったのだろう。
徹「先輩、何かわかりました?」
見つかりましたか、じゃなくわかりましたか。
本人がいるならとっくに入ってきてるはずだ。
長野「何もなかったよ」
もう一度、フウとため息をつく。
そして、泥だらけの手でテーブルの上のサンドイッチを一つ頬張った。
徹「どうするんですか?さすがにヤバいんじゃないんですか?これって」
長野先輩は口の中のサンドイッチを飲み込むと、口を開いた。
長野「そうなんだけどな・・・・」
そして、無線機を持ってくるとスイッチらしきものを押す。
サァーーーと静かなノイズが流れてきた。
【効果音:ノイズ】
先輩は苦い顔をして舌打ちをすると、ダイヤルやらボタンやらを操作し始めた。
しかし、先ほどから音は変わらず、無線機からはノイズが流れるだけだった。
徹「もしかして・・・・・壊れてます?」
恐る恐る、聞いてみる。
長野「そう言う訳じゃない、が、まぁ使えないから壊れてるみたいなもんだ」
徹「先輩、判るんですか?修理屋に頼んだはずなのになぁ・・・」
綾が無線機をいじり回している。
きっと判らないだろうけど何か変化が無いものかと調べているようだ。
徹「判らないなら触らない方がいいって」
あきらめの悪い綾に注意する。
すると、綾はこちらにふくれっ面で向き直った。
綾「だって・・・・、何で徹君はそんなに落ち着いてるわけ?人が一人行方不明で大人と連絡も取れないのよ!?」
徹「いや、だけどさ、部長だってまだ判らないよ、連絡が取れなきゃ帰れないわけじゃないし
約束してあるらしいから船だって迎えにはくるだろうし」
別に無人島に遭難した訳じゃない。
食料もあるしあと数日すれば迎えにもくる。
綾「でも部長がどこかで怪我して歩けないような状況だったらどうするの?」
いつになく綾がくってかかってくる。
熱くなってきたようだ。まずいなぁ。
徹「部長はそんな事にならないって、散々探しただろ?熱くならないでって」
綾「徹君の方がなんでそんなに冷静なわけ?先輩も、どう考えたって普通じゃないわよ、この状況」
普通の状況じゃないってのは判っていた、僕だって正直気味が悪い。
だから混乱しないようにしているのに、世話焼きはまるで自分のことのようで大変だな。
それに・・・先輩達は落ち着いていると言うよりはショックを受けているようだった。
徹「とにかく!興奮するよりは冷静な方がいいよ。待つのだって大事だって」
綾をなだめる、綾だったら一人で飛び出して部長を捜しかねない。
綾「楽観的すぎるのよ!もう、午後からは私一人で探しに行くから」
考えてるそばからこれだ。
長野「待て、おまえまでいなくなっても誰も探しに行かせないぞ」
さっきまで黙ってやりとりを見ていた長野先輩が口を開く。
しかし、綾は完全に喧嘩腰だ。
綾「いいですよ、別に」
先輩も無駄だと判ったらしく、頭をガリガリと掻いた。
長野「徹、ついてってやれ」
やっぱりなぁ、まぁついていくつもりだったけど。
綾はガサガサと準備をすると、一人で玄関へ向かっていってしまった。
僕も慌てて準備をして後を追った。
徹「じゃ、先輩、何かあったら連絡しますから」
そう言ってPHSを先輩に見せて綾の後を追っていった。
とはいえ、島全体を探すことなどできはしない。
行った道を探すしかないだろう。
【場所:道(霧)】
───それから30分。
綾は何処にも見あたらなかった。
まいったな・・・。
霧もだんだん濃くなってきた。
ミイラ取りがミイラになってしまう。
すると、突然、叫び声が聞こえた。
キャァァァァァァァ
綾の声だ!
この声、普通じゃないぞ!
声のするほうへと向かう。
徹「綾!?」
そこにあったのは
綾の尻餅をついた姿と
鬼を照らす赤い月と
白装束の鬼の顔と
部長の「クビ」
【画像(重要!)赤い月をバックに般若のお面をかぶった白装束の鬼が右手に部長の生首を持ち、左手に斧を持っている】
徹「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
綾の肩を担ぎ、急いで逃げる。
白装束の鬼は裸足で追いかけてくる。
とはいえ、足場が若干悪い分、スニーカーを履いている僕たちが有利だった。
だんだんと鬼が霧に消えていく。
さらに五分ほど走って安全を確認してからピッチを取り出す。
【効果音:ピッ】
綾は完全に混乱状態だ。
徹「長野先輩!部長のクビを持った、その、わけがわからなくて!」
一瞬、先輩が息をのんだのを感じた。
長野「綾は無事か?」
徹「ええ、でも混乱してて!」
長野「一度戻ってこい、どうやら話さなくちゃならないことになったな」
冷静なのか緊張しているのか判らない声で先輩は言った。
徹「わかりました」
ピッチを切る。
【効果音:ピッ】
徹「綾、大丈夫?」
ガクガクと震えている、無理もない。
僕だってかなり混乱している。
あの鬼、血の臭い。
綾の手を引いて僕たちは戻った。
部屋に入ると村野さんまでいて重苦しい雰囲気だった。
【画像:三人の一枚絵(不安)】
長野「なにがあった?」
長野先輩が口を開く。
徹「鬼の?・・・顔をした人が部長のクビもってて・・その」
長野「わかった、とりあえず綾を座らせろ」
テーブルの上にはビデオカメラが一台。
長野「これから見せるのはトリックとかどっきりビデオとかとは違う」
【画像:ビデオカメラ】
ビデオカメラに映し出されたのは、部長と知らない顔の女性だった。
イエーイとかポーズを取ったりして遊んでいる。
一瞬画面がとぎれて別の画面にかわる。
道を散歩しているようだ。
霧が出てきたとか言っている。
そして霧の中、映ってきたのは、あの、「鬼」
手には手斧を持っている。
画面が激しくぶれる。
何人かが叫びながら走っていた。
そこで、画面が切れた。
長野「これが去年の出来事だ」
去年って・・・。
徹「去年の事件ってこれですか・・・?」
長野「ああ、この後、一人死んだ」
淡々とした口調で言う。
徹「そんな・・・殺人鬼じゃないですか!?」
長野「あれはそういった類のものじゃない」
村野「バケモンや・・・せやから私はいきとうないうたんや!供養だなんだって連れてくるから!」
供養?
長野「去年で終わったと思ったんだがな・・・このビデオを見て見ろ」
新しいカセットを入れる。
それは僕たちが島に来たときの映像だった。
綾がカメラにピースしている。
すると鬼の顔が、綾の顔に浮かんだ。
ガタンッ!
【効果音:机を叩く音】
綾が肩を抱きながら立ち上がった。
体がブルブルと震えている。
【立ち絵:綾(すごく不安)】
長野「徹、綾を連れていってやれ、そしてお前も寝ろ、説明は明日してやる」
綾の肩を抱くように連れていく。
化け物だって?冗談じゃない。
信じられない、気が狂った殺人鬼じゃないのか?
綾の部屋の前までつく。
徹「一人で、大丈夫かな?」
綾はまだ肩をブルブルと震わせていた。
まだ、そばにいてやるか。
綾をベットに寝かせる。
すると綾は手をつかんできた。
綾「冗談だよね?部長のあれも、冗談だよね?」
悲しい逃避。
徹「わからないな、だけど何だって僕が守ってやれると思うよ」
気休め程度にしかならないだろう。
「ありがとう」
綾の手から力が抜ける、眠ったのだろう。
だけど、僕は少しの間、綾の手を握っていた。
───するとあの頭痛が。
【画像:真っ暗】
見えてくるのは、古い記憶。
誰のもだろう、愛おしい者がいた。
その人がクビを・・・。
それからノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズの海へと。
視点が変わる。
村人なのだろう、真っ暗の中ギャアギャアと騒いでいる。
目の前の鬼は、次々に人に切ってかかった。
だんだん、こちらによってくる。
そこで、テレビが切れたようにプツンと切れた。
そしてまた違う視点。
罪人だろうか、白装束の男がいる。
「俺はいやだ」とか「こんなんじゃおさまらない」
などと叫んでいる。
すると、その男のクビをはねた。
鮮血がほとばしる。
傷口が見えるほど綺麗に切れていた。
今度はその生首を祠に納めて・・・。
そこで、思考が墜ちた。
最終更新:2006年09月15日 22:34