悪質長男 第一話

472 悪質長男 第一話 2010/04/16(金) 22:05:47 ID:M9q0pEZY
第一話
その学園には二人の姉妹姫がいる。

姉の名は麗華。高等部三年生。
伸ばした髪は地毛でありながら赤みがかっていて、ちょっとした癖っ毛でもある。美人、聡明、学力も申し分ないうえに、それをひけらかす事をしない奥ゆかしさ。
それはまるで異国の王女様。

妹の名は玲。高等部一年生。
姉とは対照的に凛と引き締まる表情。完全に黒いストレートな髪をポニーテールにして纏めてある。無表情ではあるが、運動神経は並みの者とはケタ外れである。所属は空手部、剣道部。
例えるなら戦国時代のやんごとなき身分の姫。

姉は名の通りの麗しさで近づくのも躊躇わせ、妹もまた鉄の仮面が他を寄せ付けない。
二人して誰の愛の告白も受け付けない、高根の花。

しかしそんな二人と仲が良い男子がただ一人居た。
赤の他人。学年が違えば接点も無し。強いて言えば苗字が同じだけ。

彼の名は怜二。

自称、完璧で不死身で紳士。
客観的評価は

お調子者で辛辣で、悪質。



473 悪質長男 第一話 2010/04/16(金) 22:06:17 ID:M9q0pEZY





「おはようございます、麗華様、玲ちゃん」
「あら、おはよう」
「・・・ん」
一人の女子学生の挨拶に姉妹姫が答える。
玲は無口なので大抵御喋りするのは麗華の方。
世間話を始めるが、そこに駆け寄る男の影が一人分。真っ赤な薔薇束を捧げて、
「麗華様、今度こそお付き合い願えますか!?」
大きな声で誠意ある感じな告白を。
彼は王子と言う名で男子一のイケメン。

が、服装は白鳥の頭飾りの付いたバレリーナのそれだった。
(えー?)
麗華がとても困り果てた顔に変わった瞬間、断る間も無く男子の集団がリンチに掛かる。
彼らは非公認の姉妹姫のファンクラブである。二人が高根の花故告白できずにいる者、またはふられた者の集団。ちなみに後者が半数以上。
活動内容は行動記録。隠し撮り写真集の創刊。愛のポエム作成などなど・・・
                • 要するにストーカーだった。

「「ストーカーでは無い!」」

否定しただと・・・・・!?

さて、済んだとばかりに散っていく男子の中心にはボロボロの王子。それをあるクラスメートが見下ろしていた。
「あはは。『告白は白鳥の舞作戦』は失敗だったか。あはは!」
「お、おにょれ・・・必ず成功する作戦を立てろと言っただろうが・・・怜二」
この嘲笑している少年こそが怜二だった。
顔は王子ほど眉目秀麗というわけでもなく、痩せ細い外見だし、怖い顔でもないが、表情が獰猛なそれに変わるととてもとても個性的である。
王子が麗華に告白する為、彼女と仲が良い怜二に告白方法を相談したというのがこれまでのあらすじ。ちなみにこれは玉砕も含めて130回近く繰り返している。
別のクラスメートが王子に質問する。
「どうしてそんな恰好してんの?」
「麗華様の御心を掴むには、既存の告白方法では駄目だと言う話になって・・・げほっ・・・斬新な告白方法を検討した・・・あ痛てて」
「・・・・・どおしてバレリーナに辿り着いた?」
答えたのは怜二だった。
「こいつは告白に成功する言えば何でもする変態だからさ」

      • 怜二・・・質(タチ)悪ぃ・・・・・・・

男子全員の呟き。
悪質を噂される怜二が悪いのか、倫理感が欠けた王子が悪いのか、どちらを指摘するべきか、断言できるものはいなかった。



474 悪質長男 第一話 2010/04/16(金) 22:07:02 ID:M9q0pEZY



「怜二―!ちょっと来なさい」
麗華に呼ばれて玲二が勝ち組の表情で応える。寄る間も話す間も嫉妬の視線がえらく突き刺さる。ストーカーグループはもちろん、非加入の者や女子までもが。

「「待て!我々はストーカーでは無い!」」

さいですか。

で、麗華は呆れ顔で不敵な怜二と向かい合った。
「いい加減、男子をけしかけるのも止めなさいって聞き分けられませんか?もはや告白が日常の一部になっています」
「聞き分けられませんっす。面白いのに」
「私が面倒です。それに、男子と親しくするのは貴方一人で十分です」
「そう言わないでくださいよ。先輩、友達いないんすから」

「「し、失敬な!!」」

麗華のみならず周りの女子もハモった。微動だにしなかったのは怜二と玲だけである。
「おっと、男友達の意味っすよ?」
「いや、それでも貴方は同性の友達すらいないでしょう?普段から女の子ナンパしているからだと思いますよ。今からでも止めたらどうです?」
「止めたところで麗華先輩と仲良しだったら、男友達できませんっす。先輩を取るか男友達か。正に両刃の剣、薔薇に棘っす」
「あらあら。まるで私が悪いみたいに・・・」
取り巻きの女子達が愉快そうに騒ぎ出した。
「でしたら麗華様は魔性の女ですわね」
「あの怜二君さえ奔走させるし・・・」
「麗華さま素敵!魔性―!」
「こら、よしなさい」
麗華の傍に居る怜二も「あはは」と笑い、いきなり顔を麗華の耳に近づけ、囁く。
この時彼女は頬染めて動揺するが、
「魔性は本当だよね。・・・猫かぶり」
「せいっ!」
ごすっ!っと麗華の拳が鳩尾に炸裂して、怜二は倒れた。
しかし周囲の人間の目は、とても微笑ましいものだった。
「本当に羨ましいよね、怜二君は」
「あの麗華様が冗談で人を殴るくらい、仲が良いんですもの」
威力は冗談ではない、と怜二は叫びたかった。が、今は痛みでそれ所ではない
皆して怜二が倒れているのは芝居だと思い込み、助けてもくれない。これも麗華が醸し出す幻想と言うか、フィルターと言うか。
麗華含む女子達はさっさと校内に入ってしまった。残ったのは、怜二と玲くらい。
今まで我関せずだった玲がようやく、倒れている彼を気にしてくれた。
「・・・大丈夫?」
「うう・・・なんてええ子や。麗華が羨ましいな、こんな妹を持って」
麗華は自分本位で猫かぶりで横暴。それが怜二にとっての彼女の評価だった。
「妹・・・?そうだ、玲」
「?」
「お兄ちゃんて呼んで」
「??・・・・・・・・・お兄ちゃん」

「いぃやっっっほ~~~~~~~~~~うぅ!!」

復活。
彼は実に、単純な男だった。



475 悪質長男 第一話 2010/04/16(金) 22:07:53 ID:M9q0pEZY




そんな仲良し三人組にも変化が訪れる。
きっかけは怜二と、とある中年の婦人が出会ったからだった。



その日はなんて事無い下校道。
怜二は学生鞄を引っ下げ、婦人は買い物袋を手提げにしている。
本当になんてことは無い。横断歩道の信号を二人だけで待っていた、のではなく向かい合っていた。
少年は婦人の赤みがかった髪を観察しながら。
「・・・こんにちは」
挨拶。きょとんと婦人も無言で会釈。だが、その目は怜二の顔の向こうに見える面影を見ていた。少年もまた、婦人の顔から連想する一人の少女を思い浮かんでいた。
「一つ聞ききしてもよろしいですか?」
怜二が一方的に捲くし立てる。婦人が相槌を打つ。
「何でしょう?」
問いかける少年の顔は、不敵だった。



「・・・・・もしかして、僕の母親ですか?」



怜二は父子家庭で、母親の顔も名前も知らない。せいぜい父親から話を聞いていた程度。だからこれはただの勘。
それでも怜二がこの婦人に興味を持ったのは、その人の自分を見る目が、誰を見ているかわかってしまったから。驚愕と戸惑いと、懐かしむ表情。

「・・・・・・!」

婦人の顔が崩れていくサマを、怜二は面白そうに見ていた。
確信は、それだけで十分だった。



麗華と玲が、母親と怜二が向かい合っている所を見かけるのは、もう少し経ってからだった。


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最終更新:2010年05月09日 22:47
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