悪質長男 第二話

515 悪質長男 第二話 sage 2010/04/21(水) 22:57:38 ID:okcfLlib
その日の教室はいつも以上に騒がしかった。
この騒ぎは怜二がノコノコとやってきた途端、一気に膨れ上がった。瞬く間に囲まれ、質問攻めに遭う。
「怜二、ついにやりやがったな!?」
「姉妹姫の一家がおまえん家に引っ越したのは本当か!?」
「それは職員室で明らかなんだぞ!」
「義姉妹なのか!?同棲なのか!?」
「怜二君答えて~~~!」
一方で怜二は、怯み一割と九割の(どうせ囲まれるなら女子onlyがよかったな~)という、どちらかと言うと呑気な思考のまま追い詰められたが、なんとか持ち堪えてクラスメートを押し返す。
「姉妹になったのが正解だね。いや、“なった“はおかしいかな。正真正銘血の繋がった兄弟なんだから」

              • !?

唖然として黙ったクラスメートに向けて怜二は続ける。
「昔々ある夫婦が離婚しました。それが父子家庭の俺の親父、母子家庭である麗華や玲のところの母。その親が仲直りしてまた再婚したのでした。めでたしめでたし」
説明が終わると、よかったね、良い話だね、と和やかに。
だが空気の読めない王子が不服そうに指を突き立てる。
「し、しかし!姉妹姫と同じ屋根の下であるのは事実!」
「何を怒っているんだい、王子?僕らは兄弟、本来は当前だった事さ。そして美人の姉、可愛い妹。彼女らの兄弟である僕はつまり・・・」
ハーレムか!?
自慢か!?
穏やかな心から一転、ボルテージが上がっていく男子一同。
羨ましそうに、あるいは嫉妬を持って怜二を睨む女子一同。
そんなクラスメート全員に怜二は言い放った。


「僕も美形の仲間である証明!!」

「「「そっちかよ!!!!!!??????」」」

クラスの心が一つになる奇跡が今ここに。



516 悪質長男 第二話 sage 2010/04/21(水) 22:59:29 ID:okcfLlib



「ええ、違う?さすがに麗華や玲とそっくりとは言わないけど、あいつと同じ親から産まれて同じ血を持っているんだ。多少は似た顔付きしてると思わない?」
「思わないし」
「似てないし」
「って言うかおまえが麗華様や玲ちゃんの兄弟であるのがまだ疑問」
三者三様の返答に、怜二はつまらなそう。
しかしある女子が最後の意見に意見した。
「でもでも、兄弟になる男が怜二君だっただけマシじゃない?」
「そうね、他の男子だと麗華先輩、嫌がるわよ?」
今度は怜二を除いた男子がつまらなそう。
「あ、そうだ。二人の私生活ってどんな感じ?」
ふと閃いて出てきただけの質問が、怜二に視線を集中させた。

「・・・・・・・・・・」

そこで彼はいきなり泣き出した。予想外の反応に全員が面を食らう。
「いやぁねぇ・・・。麗華が家に来た時、何て言ったと思う?」
誰も答えられないので、続きを待った。
「・・・・・・・『貴方が弟だなんて認めません!』」
「「「!!!!!!??????」」」
二度目の沈黙。二人の仲が良好に見えていただけに、皆もショックを受けた。
「母子家庭だったからな。家に父親と同年代の男がいるのに抵抗があると後から考えたけど、本当に男嫌いが相当なものだったからかも知れない・・・・」
男の涙にもらい泣き、同情、憐み。全米が泣いた(嘘)。廊下で盗み聞きしてた奴らも泣いた。(真実)
誰かが怜二の肩に手を置いた。王子だった。さらに彼はもう片方の手を差し出した。
「今日からおまえも我々の仲間だ。麗華様に振られてもお守りしたい、騎士精神が集いし・・・・そう、姉妹姫ファンクラブ」
「王子・・・」
涙の男二人の包容。
ボーイズラブではありません。念の為。
朝日に照らされた美しい友情は、

「男臭―――い」

怜二が突き飛ばして終わった。



517 悪質長男 第二話 sage 2010/04/21(水) 23:00:17 ID:okcfLlib



「じ、じゃあ・・・玲は?」
「ああ。あいつは以前通りで仲良いままだ」
「そっか。よかったね」

「うん。せっかくのリアル妹だから、『お兄ちゃん』で呼んでもらった」

「「「「貴様あ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

羨望と嫉妬が爆発した男子達の攻撃を、怜二は高笑いしながら避け切ってみせた。

「あっははは!別にいいでしょう?僕は完璧で不死身で紳士で、シスコンなのさ」

女子一同*1



518 悪質長男 第二話 sage 2010/04/21(水) 23:00:56 ID:okcfLlib




夜。
「お兄ちゃん・・・・」
ノックの後、玲が兄の部屋に入ってきた。
その時怜二は机でエロ本を読んでいたが、玲には毒だと思ってベッドの枕の下に隠した。ただし呑気に堂々とした態度で。だから裏表紙は玲には一瞬だけ見えたが、大人なのでスルーする。
余談だが、その本は突然紛失する事になる。しかしそれはまた別の話。

さて、何用かと怜二が尋ねると、
「・・・一緒に勉強したい」
と返ってきた。シスコンの彼には効き過ごせない台詞とシチュエーションだ。
早速卓袱台を用意して二人で囲む、かと思いきや玲は怜二に体をくっ付けてきた。
デレデレの彼が「どうした?」とまた尋ねる。
「・・・ごめんね。姉さん、まだ拗ねてるみたいで・・・」
「いいさ、こんなのは時間が解決してくれる。それに君が懐いてくれているだけでも、とても嬉しいさ」
本心からの言葉。
「・・・私は・・・・姉さんみたいな事は・・・しない」
笑顔満点で怜二は玲の頭を撫でた。撫でられながらも無表情な玲が続ける。

「私・・・お兄ちゃんの傍にいる。・・・これからずっと傍にいる・・・。私は妹・・・。同じ屋根の下なのは当たり前・・・」


撫でる手が止まる。
無機な瞳の奥、いやさらに奥、黒い空間に小さな灯火がチラつく様な・・・・・・・・


「何所にいても一緒・・・・・。学校・・・当たり前。街の外・・・・当たり前。いつでも一緒・・・当たり前。誰がお兄ちゃんに寄ろうが・・隣は私・・当たり前・・・。私は妹・・・。誰にも文句は言えない・・・言わせない・・・。そうでしょう・・・?」



笑った。

あの、玲が。

歪に口の端を曲げて。眼は灯火という表現では物足りない。 鬼火だ。


その笑みに怜二は鏡を見ている様な錯覚を覚え、(兄妹なんだなー)と、ちっとも緊張感の無い心境で見つめ返す。
「・・・・・・・」
でもまあ玲が言った台詞については、深く追求すると都合が悪くなりそうだったので、怜二はただ笑い返してスルーする事にした。
「そうだ玲、『お兄ちゃん』って呼ぶのは大変でしょう?長いから。君は姉を『姉さん』って呼んでるから、『兄さん』の方がしっくりくるんじゃない?」
「でも・・・・喜んでくれるならその方が・・・・」
「君は文字数が少ない方が呼び易くて良いんでしょ?それに、僕はもう『お兄ちゃん』飽きたし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


玲の兄は、やっぱりタチが悪かった。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年05月09日 22:09
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。

*1 (シスコンが増えてる・・・・・・・