244 白愛 sage 2010/05/19(水) 01:32:52 ID:Vj00u64X
駅前の公園にて、四季野 舞夏はベンチに座ってクレープを食べていた。
ここが放課後に黒真と一緒に来ようと思っていた、新装のクレープ屋である。
公園の敷地内に作られた巨大な屋台型の店で、その場でクレープを味わえるように周辺にテーブルとベンチを広げている。
開店初日というのもあってか、人の数はそこそこ。
周りの人達は友人や恋人と談笑しながら、楽しげにクレープを頬張っている。
そんな中、舞夏はムスッとした顔でクレープを食べている。
(な~によ、黒真の奴)
もぐもぐとクレープを咀嚼する。
味は十分に上手かった。
だが、しっかりと味わう気持ちにはなれなかった。
本来なら黒真と一緒にここに来て、周りの人達のように楽しく味わっていた筈なのだ。
(本当に、真白ちゃんのことになるとそれしか見えなくなるんだから!)
心に響く怒りと共に、勢い良く握り拳をテーブルに叩きつける。
周囲の人達はその音に驚き、一気に舞夏の方を凝視する。
それに対して舞夏は「なんだやンのかコラ」とでも言うような眼光を突き付けた。
獰猛な眼光に、人々はすぐさま目を逸らして流した。
フン!と踏ん反り返った舞夏は、肉食獣のようにクレープを噛み千切る。
「ど~したど~した~? そ~んな呪いで人を殺せそ~な雰囲気醸し出してさ~」
舞夏がクレープを飲み込んだ直後、非常にのんびりとした声が響いた。
顔を上げると、そこには一人の女性が佇んでいた。
肩まで掛かるセミロングの髪はふわりとウェーブしており、爽やかなスカイブルーのシャツに紺のジーンズを穿いている。
シャツを押し広げる位の大きな胸のせいで、シャツの丈が合わずにへそが露出している。
一目で男性を虜にしてしまいそうな色気を放つその女性を、舞夏はジト目で見た。
「何でここにいんの? 春香
姉さん」
春香と呼ばれた女性はにっこりと微笑み、舞夏のテーブルの向かい側に腰を下ろした。
彼女が舞夏の姉の四季野 春香。
四季野四姉妹の長女で、真白の家庭教師をしている天然おっとり系の二十一歳である。
「ん~? そりゃ~真白ちゃんの授業終わらせてからヒマになったもんだからね~。
帰り道ついでに新装オ~プンのクレ~プ屋にでも顔を出そ~かと思ってね~。
そ~すれば愚妹が邪のオ~ラを漂わせているから、声を掛けただけさ~」
にっこりと微笑みながら話す春香は、舞夏に指を差して話す。
「な~んでそんなにご機嫌が斜め四十五度なんだ~?」
「別に。ただ何処ぞのシスコン野郎にムカついているだけ」
頬杖をついた舞夏は、目を閉じて忌々しげに最後のクレープを口に放り込む。
その様子に春香はニヤリと笑い、笑みを見えないようにするかのように口元を手で隠す。
「はっは~ん。さては愛しの黒真くんが愚妹と真白ちゃんを天秤にかけたのが気に入らなかったんだな~?」
「なっ!? 何が愛しのよ!!」
春香の言葉に舞夏は両手をテーブルに叩きつけ、春香に掴み掛かろうとした。
舞夏の両手の脅威に、春香も素早く両手を突き出す。
両者の手が激突しようとした瞬間、春香が手首をクルリと捻らせ、舞夏の手を下方に弾いた。
重心が下へと向かった舞夏は、そのまま上体ごとテーブルに顔をぶつけた。
彼女は顔とテーブルが当たると、ふぎゃっ!?と猫のような悲鳴を上げた。
「愚妹よ~。そんなんではいつまで経と~とお姉さまには勝てないぞ~」
はっはっはと笑う彼女に、舞夏は涙目で鼻を押さえて顔を上げる。
「この性悪! 武術やってる奴にそこらの体育と部活しかやったことない奴じゃ勝てるわけないでしょ!」
春香からしたら負け惜しみのような舞夏の台詞に、彼女はやれやれと溜息を吐く。
「それだったら教えを請お~と思わない~? ま~、そ~ゆ~部分では真白ちゃんの方が優秀だね~」
「は? どういうこと?」
「昔あの子に頼まれてね~。自分も強くなりたいです、ってさ~。
そんで授業の時間が余ったりしたら鍛えてあげてるんだよね~。
あの子も髪が極端に弱いことを除けば普通に健全な女子だからね~」
今じゃあの子は立派な私の弟子だぞ~と、春香はその大きな胸を張って言った。
245 白愛 sage 2010/05/19(水) 01:34:00 ID:Vj00u64X
「…………真白ちゃんが姉さんの弟子?」
胡散臭そうな表情を浮かべ、舞夏は眼前の姉を見る。
「そ~そ~。あの子箱入りってゆ~か~、よく外に出歩かないだろ~?
だから鍛えてるだけじゃなくて~、色んな知識も教えてあげてるんだよね~。
あ~、最近じゃ~インタ~ネットの通販とか教えたかな~。他にも違法サイトとか~」
「こらこら! 真白ちゃんに何教えてんのよ!」
春香の問題発言に舞夏は即座にツッコミを入れる。
「大丈夫大丈夫~。あの子も良~事と悪い事の判断くらい出来るから~」
にっこりと話している春香は、けど、と一言区切り、細めていた瞳を僅かに開く。
その瞳の鋭さに、舞夏の肩が一瞬だけ震えた。
目の前の姉は、いつもは超が付く程のマイペースで呑気過ぎる性格をしている。
だがその反動か、一度怒りに達するとその凄まじさは壮絶の一言。
かつて春香は夜道に強姦魔に襲われたことがあり、それを容易く一蹴した過去を持つ。
相手はナイフを所持していたと言うのに、警察が駆けつけた頃には強姦魔は右腕・肋骨・鼻が見事に折れていたと言う。
地面でのたうち回る強姦魔を見下ろしながら、春香は「あ~あ~、恐かった~」と冷たい声で言い放ったとか。
その恐ろしい姉を垣間見る瞳を見て、舞夏は「けど……何?」と声のトーンを小さくさせて訊く。
「あの子~、たまに何考えてるのか分かんない時があるんだよね~」
才堂家にて。
黒真と真白は、現在は浴室を出て脱衣所に居た。
流し終えた真白の髪を、黒真は厚手のタオルで拭いていた。
彼女の白銀に輝く髪は紫外線に弱く、痛みやすい。
故に濡れた状態で安易にドライヤーの熱風を当てて乾かそうとすると、悲惨なことになる。
例えるならば、高温で焼いた石を冷たい水で一気に冷やすと、急激な温度変化に熱疲労を起こして石そのものにヒビが入るといった具合に。
丹念かつ丁寧に拭き乾かすしかない作業だが、黒真は慣れたと言わんばかりの手つきで拭いている。
兄のタオル越しの手の感触を、真白は目を閉じて堪能していた。
「はい、終わったよ。お待たせ」
十分に拭き終え、黒真はタオルを畳んで籠に入れた。
とは言え、タオルで幾ら丁寧に拭こうとも、完全に髪を乾かすことは出来ない。
だから後は自然と乾くのを待つだけ。
「そうですか。もう終わりですか……」
「……何でいつも拭き終わると残念そうな顔するの?」
真白の小さな溜息を聞いた黒真は、やや困惑な表情になる。
彼の問いに、真白は兄の手を取り愛おしそうに頬擦りする。
「いえ、兄様の感触と温もりをもっと感じていたいので」
彼女の言動に、黒真は仕方ないなぁと言葉を漏らした。
黒真は真白のこのような様子を、ただ普通の人とは違って少しだけ甘えたがりの女の子としか思っていない。
元より体質のせいで極僅かな人間としか関係を築けていないのである。
狭い世界しか知らず、友達も少ない者としては、親しい人と長い時間を共にして寂しさを消したいのだろう。
世界でたった一人の妹が、いつも独りで居続けたことを黒真は誰よりも知っている。
(だから、僕が真白の傍に居て、守ってあげないといけない)
愛しい妹が涙を流す姿を、黒真はもう二度と見たくないと思った。
そして、妹にはもう二度と涙を流させないと、誓った。
『ごめんね、ましろ。ほんとうにごめんね……』
『いいえ……にいさま。にいさまは、なにもわるくありません』
『これからはずっとぼくがいっしょにいるから……そばにいるから。だから、もうなかないで』
幼い頃の記憶を過ぎらせ、黒真は愛しい妹の頭を撫でる。
艶やかに濡れているその銀髪の感触は、とても心地良かった。
246 白愛 sage 2010/05/19(水) 01:36:13 ID:Vj00u64X
現在、才堂家は夕食の時間を迎えていた。
夕食を作っているのは、真白。
白銀の着物に白のエプロンを着用し、鼻歌交じりに台所で手を動かしている。
両親が外に出て以降、いつも夕食を作る係は真白になっていた。
とはいえ、料理なら黒真も十分出来る技量を持っている。
両親が不在となった初日、その日の夕食を黒真が作ろうとすると、真白が止めに入った。
「これからは私が一日中兄様の御世話になるのです。だからせめてもの御返しとして、夕食は私に作らせて下さい」
そう言われて、現在に至る。
黒真としても、真白の誠意が籠もった願いなのだ。
断れる筈が無い。
何より自分も料理が出来るとはいえ、腕ならば母親と四季野 春香仕込みの真白の方が数段上なのである。
故に、せっかくなら美味しい物を食べたいと言う思いが強かった。
「兄様、御待たせ致しました」
「今日も美味しそうだね。それじゃいただきます」
居間で向かい合うように座った二人は、夕食を食べ始めた。
笑顔で手料理を頬張る黒真の姿を、真白はただただ母親のような笑みを浮かべて眺めていた。
刹那、黒真の姿を見るその瞳が妖しく細まり、艶やかな唇のラインを扇情的な仕草で舌がなぞっていたのを、彼は気付いていなかった。
深夜十二時。
近所も寝静まる時間の頃、才堂家の明かりも全て消えていた。
窓から射す月の明かりに照らされた廊下に、ひたひたと静かな足音が響く。
耳を澄まさないと消えてしまいそうな儚い足音。
その足音の主は――真白であった。
月の光に反射して、美しい銀髪が煌めいている。
彼女の頬は薄く紅潮し、瞳も何処か遠くを眺めているように上の空。
まるで心此処に在らずと言った様子。
静かに廊下を歩き、彼女が辿り着いた場所は、黒真の部屋の前であった。
兄の部屋を、彼女は声も掛けず、ノックもせず、侵入した。
黒真の部屋も、窓から月の光により完全な暗闇にはなってはいなかった。
だが、真白はその窓に近付き、力任せにカーテンを閉め切る。
部屋が完全な暗闇と化した。
それでも真白の瞳は正確に物を見ることが出来る。
視線の先には、安らかに眠る黒真の姿。
真白は黒真に近付き、その寝顔を覗き込んだ。
本当に無防備な表情。
一見女の子にも見間違えてしまいそうな柔らかな顔の作り。
「まるで私に妹が出来たみたいですね」
ポツリと、真白は妖艶な声を耳元で囁かせるが、黒真は一向に起きる気配が無い。
「睡眠薬がよく効いていますね」
クスクスとさも可笑しそうに真白は笑い、
「それもそうですね。あんなに美味しそうに召し上がっていたのですから」
と呟いた。
247 白愛 sage 2010/05/19(水) 01:37:01 ID:Vj00u64X
真白が黒真に振る舞った夕食。
あの夕食に、彼女は睡眠薬を混ぜて調理していたのだ。
そもそも滅多に外へ出歩くことも無い彼女が、どうして睡眠薬を手に入れることが出来たのか。
その入手元は、インターネットであった。
家庭教師の四季野 春香に授業の合間を縫っては教えてもらった、ネットの使用方法。
遊び半分で見せてくれた違法サイトでは、容易に睡眠薬を入手することが出来た。
「兄様、今の兄様は、例え地震が起ころうと火事が起ころうと、起きることはありません」
黒真の頬を撫でながら、真白は楽しそうに喋る。
そしてその手を彼の首の後ろに回すと、自らの胸元まで引き寄せ、その唇を強引に奪った。
「んっ……ふぅ……んぅっ……はっ」
唇の間から舌をヌルリと侵入させ、黒真のそれと絡ませる。
口腔内でたっぷりと溜めた唾液を流し込む。
酸欠なのか、眠りに就いたまま黒真は眉を顰め、その唾液を嚥下した。
兄の喉がごくりと動くのを確認した真白は興奮が増したのか、肩を震わせた。
数分間黒真の唇を貪り尽くした真白は、名残惜しげに唇を離す。
ツゥっと、二人の舌に唾液の橋が掛かった。
荒い息を吐き続ける真白は、両手で黒真の頬を挟む。
年の割には幼さが残るあどけない寝顔に、彼女の腰の奥深くに疼きが走る。
「本当に……食べてしまいたいっ」
たまらなくなった真白は、舌をだらしなく唇から垂らし、それを兄の顔全体に這わした。
普段の清楚な彼女からは想像もつかないような下品で淫らな舌遣いは、まるで飢餓に苦しむ浮浪者が御馳走にあり付いたかのよう。
まるで強姦魔のように、真白は兄に跨り、兄と言う御馳走を味わっている。
腰の疼きに我慢出来なくなったのか、自分の腰を兄のそれと擦り合わせ、欲望のままに躍動させる。
自らの敏感な部分と兄のとが接触すると、彼女は悦楽の単音を吐いた。
まだまだ夜は長い。
彼女は時間が許す限り、一日の最大のイベントである快楽の世界に溺れ続けた。
最終更新:2010年06月06日 20:08