悪質長男 第七話

501 悪質長男 第七話 sage 2010/06/01(火) 14:21:13 ID:MJ2cg+FT
その学校には姉妹姫と呼ばれ、持てはやされる姉妹がいる。
姉の名前は麗華。異国の王女を思わせる、美しい長女。
彼女の妹は玲と言う。凛とした気迫を持ちながら、感情表現が希薄であるせいか、上級生に赤ん坊の様だと可愛がられる事もあった。
そんな彼女が見た目に相応しい、カッコイイ姿を見る機会はある。
それは・・・



ズバンッ!
と、切れの良い、打撃音が一瞬だけ響いた。
場所は校内の道場で、竹刀を振り切ったのは玲、受けたのは剣道経験のある女性教師である。
教師はちょっとずれた面を直すと、今の動きを見本にして女子生徒らに解説を始めた。が、生徒の半分は聞いていない。教師の背後に控える玲を見惚れていた。

玲は校内で有名な運動家だ。実質、所属する柔道部と剣道部では期待のエースとして歓迎されたが、あくまで護身の為に鍛えた玲に大会への参加意欲が無かった事に、顧問も部員も歯がゆい思いだった。しかし、何かと物騒な世の中を考えると我慢出来た。

解説が終わり、後は練習あるのみ、と教師の声に、生徒は打ち合いを始めた。



着替える時間もある為、体育の授業は早めに終わった。
黙々と一番に着替え終わった玲は窓に寄ると、十分に見渡せるグラウンドを覗いた。
先日から先輩から兄になった長兄のスケジュールは逐一把握している。同じ時間に体育をやっているはずだ。
「玲ちゃーん。何してるの?あ、サッカーやっているんだー。怜二先輩探してるの?」
人懐っこい性格のクラスメイトが隣に並ぶ。玲は一瞥するだけで目先を外に戻した。
彼女の言う通り、二年生がサッカーをして盛り上がっていた。今は授業が終わりそうな頃なので、皆汗がびっしょりだ。



502 悪質長男 第七話 sage 2010/06/01(火) 14:21:55 ID:MJ2cg+FT



「へいパス!」
「おい11番!もっと前に行け!」

両チームの実力は互角なようだ。一点を争って必死だ。
ボールがゴールポストに近づいたその時、玲のお目当てである兄が飛び上がった。
「おおおおお!危険が為に封印した蹴術!二度とさらすまいと思ったが、止むを得ん!
いくぞ、消える魔球ううううう!」

消える魔球?

一斉に皆の頭上に疑問符が浮かび上がる中、頭の悪い王子が突っ込んできた。
「この瞬間(とき)を待っていた!俺はおまえに打ち勝つ!麗華様と御友達になる為に!」
彼女のハードルが高い故に『御友達から』にハードルを下げた弱気な心を叫んだ。

ともあれライバルがぶつかり合うワンシーンが完成した。
「おおおお!」
怜二が体を捻り、頭が下、蹴る脚が上になる姿勢を取る。俗に言う、オーバーヘッドキック。
「おら!」


一蹴。


皆がボールの行く先に振り返った―――が、ゴールポストにはボールが届いていないし、どこかにボールが落ちる気配も無い。

「・・・・消えた?」

誰かの呟きに皆が冷や汗をかいて怜二に振り向く。その怜二はと言うと首を傾げながら、硬直する王子を見ていた。その王子の顔には、ボールがめり込んでいた。
「うーん。消える魔球失敗か」
王子がばたりと倒れるのを見届けると、怜二は転がるボールを器用にゴールまで蹴り上げた。
試合は呆気に取られた中で、呆気ない程に終わった。


剣道場では着替え終わった女子生徒全員が窓に密集していた。
「あーあ。あの蹴りで決めていれば盛り上がったのになー」
「十分すごいじゃない。あんな逆さの格好で転ばずに着地したんだもん」
はやし立てる声に、他の女の視線が兄に集中する事に、玲は不快感を覚えた。
怜二のナンパな性格や、自分と知り合う前からクラスメイトの何人かは仲良くなっている事は知っていたが、やはり独占欲と言うものは平静を許さないらしい。
ちなみに玲は無表情なので、不快感など誰にも悟られていない。



503 悪質長男 第七話 sage 2010/06/01(火) 14:24:20 ID:MJ2cg+FT



「怜二、今度は卓球で勝負だ!」
卓球台を挟んで王子が相手に向かってそう吠えた。
昼休み時、サッカーの勝負で借りを返そうと王子が宣戦布告したのだ。
しかも偶々怜二を見に来た姉妹姫が揃っているのも重なって、極限まで張り切っているご様子。
あと、その周りは姉妹姫を見に来た生徒で一杯だった。
「この勝負でおまえを負かし、俺は麗華様にアピールするのだ!」
言い切って男子に引きずり込まれ、リンチを受けた。
果ては自分こそアピールしようとラケットを奪い合う、醜い争いまで発展した。
怜二は目の前の惨劇を無視して、芝居がかった台詞を吐く。
「ふっふっふ。王子、君は覚えているか?
姉ちゃんの好みは卓球できる人と仮定して告白したあの日を」
それを聞いた麗華は、
(何でそんな限定的なの・・・?)
と、ツッコんだ。
怜二は続ける。
「卓球のラケットの、着ぐるみを着て告白してふられた事を、
よもや忘れたわけではあるまい?」

麗華にはそんな告白を受けた記憶が無かった。

「それでも尚卓球で愛を掴もうとするのか!」
びしっ、とラケットを突き出した先には、王子と全然違う三年生の男子だった。
「・・・おや?」



504 悪質長男 第七話 sage 2010/06/01(火) 14:24:46 ID:MJ2cg+FT



「いくぞ麗華様の弟!おまえに打ち勝ち、れ、麗華様と玲様の御友達になるのだー!」
こいつもさっきの王子みたいな、なんとも憶病な奴だった。
「ふ、誰であろうと悪い虫は寄り付かせん!」
怜二は怜二でノリノリな姑発言。
「僕の魔球シリーズを見せてあげましょう!『卓球界のサタン』の名にかけて!」
なんともかっこ悪い二つ名だった。

「必殺サーブ、サンダートルネード!」

「卓球で竜巻が起こっただと!?」

「秘儀、生命の輝き!」

「ピンポン玉からスライムが生まれた!?」

「カウンター技、フェアリーフライ!」

「馬鹿な・・!俺のスマッシュボールが(羽みたいので飛んで)二倍の速度で返されただと!?」

「最大奥義!プリンアターーック!」
「変態技はもうええっっっちゅ――――ね―――――――ん!!!!!!!」

ちなみにこの技は、
バウンドしなかったピンポン球の内部からグシャッ、と不吉な音と立てる、不気味なものだった。


「究極奥義!」
「まだあんの!?」
「シャドーボール!」
「ポ○モン!?」
黒いだけのピンポン玉は卓球台を穿つと、先輩のマタに炸裂した。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

急所に当たった!
効果は抜群だ!

「ご・・・・ごめんなさい・・・・」
割と本気で謝る怜二だった。



505 悪質長男 第七話 sage 2010/06/01(火) 14:25:26 ID:MJ2cg+FT



帰宅後
「ふん~~~ふんーふふん~~」
まず一番風呂に入ったのが怜二だった。洗濯するものは全て籠に貯めて置く。その中には今日の運動で汗を吸収した体操服も含んでいる。

次に入ったのは麗華だ。
彼女は脱衣の途中、籠に入っている体操服に目を止めた。周囲を見回してから上着を取り出す。

嗅いだ。

興奮した。

脳味噌をやられた。

そのまま麗華は

盗んだ。

その次に入浴したのが玲だ。
やはり適当に服を籠に放り込む。最後に籠の中が目に入って、一瞬動きが止まる。
どこかで見た男物のズボンがちらりと見えた。今日の記憶を掘り返す。兄は、サッカーで汗をびっしょりかいていた。

ズボンは、正式の持ち主ではない細い指に引っ張られた。

そのまま盗まれた。


その後上、下とも盗られた体操服はきちんと洗われ本来の持ち主の許へ帰って来た。

しかし洗濯機に入る前に何をされていたのか。

今日も汗を流す、兄であり弟でもある彼には、それを知る由も無い。



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最終更新:2010年06月06日 20:34
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