121 : 名無しさん@chs 2010/08/21(土) 22:11:06 ID:z3jB1riY
「__さん、今日飲み会があるけど。」
夕方、私は喫煙休憩を終えて部署に戻ってきた会社の女の先輩に飲み会の誘いを受けた。
ぼんやりとしていた私はその言葉で現実に引き戻された。
ぼんやりとしていたはずなのにデスクワークをこなしていたあたりは、ワーカーホリックに近いのだろうか。
「ああ、ごめんなさい、今日用事があって…せっかく誘ってくださったのに、すみません。」
会社の先輩の誘いを断るのは正直心苦しい。
この心苦しさがなくなる方法は無いのだろうか?と常々思う。
「あら、そうなの。」
先輩はそれだけ言うと自分のデスクに戻っていった。
新人ではなく中堅でもないが、淡々と作業していても注意されることが無くなったと思ったのは何時だっただろうか。
そんな事が頭に浮かびながら私は今日中に仕上げなければならない書類だけ一式そろえて、上司に提出した。
そして自分のデスクに置かれたデジタル時計が定時を過ぎたのを確認すると帰り支度をした。
「お先に失礼します。」
"用事"という言葉が便利な言葉と思ったのは何時のころだろうか?
「ただいまー。」
私は玄関で靴を脱ぎ、自室へと続く階段をゆっくり上った。
階段を上りきり自室へと行く途中、私はある部屋の前で足を止めた。
そこは自分の部屋の廊下を挟んで向かい側は私のたった一人の兄ちゃんの部屋だ。
私は息を潜めてそのドアに手をかける。
122 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:12:20 ID:z3jB1riY
今日も職場で自分の仕事をこなす。
自分がまるで上司や会社から与えられた仕事をこなすだけの機械みたいだと思った。
兄ちゃん、何してるんだろう…。
こんなとき思い浮かべるのは兄のことだった。
3つ年上の私の馴一(じゅんいち)兄ちゃんは、高校を出て就職したが、職場が合わず退職。
それ以後はフリーターをしている。
私は短大を出て実家から通勤できる会社で働いている。
世間から見たら、ごく普通の成人した兄妹。
よっぽどの事が無い限りは定時で帰宅しているが、それに対して文句を言われたことは無い。
そして仕事先から帰宅して荷物だけ自分の部屋に置いたらまず兄ちゃんの部屋に行く。
これは私の日課。
何時からだろう、こんなに兄を思い浮かべるようになったのは。
兄ちゃんなんてただ、ウザイだけの存在だった。
根暗で、だらしが無くて…
それが…どうしてなんだろう。
時折ドキッとするくらいかっこよく見えてしまう。
今日も会社から帰宅して真っ先に兄ちゃんの部屋へ行った。
ドアを開けると、兄ちゃんはベッドの上でうつぶせになって漫画を読んでいた。
その様子を見て思わず笑みがこぼれた。
(やばい…顔がにやける。)
そこに兄ちゃんがいる、たったそれだけのことなのに。
「兄ちゃん、何読んでるの?」
とりあえず、話しかけてみた。
「あー?いいじゃん、別に何読んでても俺の勝手だろ。」
そう言ってる間に私は兄ちゃんの隣に座った。
兄ちゃんはこちらを振り向かない。
私はじっと、兄ちゃんを観察してみた。
私の兄ちゃんはいわゆるモテナイ君で彼女なんて、出来たことが無い。
これは断言できる。女の影が全く無いもの。
ただ、兄ちゃんはもう少し、お洒落とかに気を使えばモテルと思うのだ。
それも断言できる。だけど、それは本人には絶対言わないけど。
兄ちゃんの短く刈り込まれた頭髪や後姿を見つめながら、ふとイタズラ心がわいてくる。
123 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:13:07 ID:z3jB1riY
――イケル、かな?
兄ちゃんのいろんな表情が見たい、その欲求を抑えることが出来なかった。
どんな反応してくれるんだろうと期待しながら漫画に夢中な兄ちゃんの背中に抱きついてみた。
が、反応なし。
その上に寝そべってみた。
それも反応なし。
…もう!
業を煮やした私は後ろから兄ちゃんの耳を口に含んで、甘噛みをした。
「…っぉわ!、
てめえ何しやがる!!」
そこでようやく兄ちゃんが振り向いた。
ガッ
同時に自分の左足に痛みが走った。
兄ちゃんは必要以上に近づかれると、蹴ったり、引っ叩いたりしてくる。
そんな兄ちゃんに悲しくなって私は泣いてしまうが、私は知ってる。
「兄ちゃん」という人を。
だから、今日は、これ位でカンベンしてあげる。
でも、罰は受けてね。
私は兄ちゃんの部屋を出ると、蹴られたことを母に報告した。
そうすると、兄ちゃんは両親から罰を受けるのだ。
いつだったか隣に寄り添って座って兄ちゃんの肩に頭を乗せただけで突き飛ばされた時は、夕食抜きになったこともあった。
一旦自分の部屋に戻り、着替えてから夕飯を食べた。
食べ終えた後、リビングに設置されたテレビを付けると毎週やっているありきたりな恋愛ドラマがやっていた。
私はそれを(ありえねー)と思いながら見ていたが、ふと自分の兄ちゃんに対する気持ちこそ、
ありえないと感じてしまいあわててその思考を払拭させた。
払拭させても、言い表せない切ない気持ちが胸の奥に残ってしまっていた。
『
私だけの人でいてよ!どうして駄目なの?!』
テレビから聴こえるヒロインの恋敵の悲痛な台詞。
私はいつでも恋敵に感情移入してしまうのだ。
決して結ばれることの無い運命。
それでも、望みをかけて相手を振り向かせようとする。
124 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:13:48 ID:z3jB1riY
ガタン
ふと、キッチンの方から物音がした。
物音がした方向に振り向いて見ると、兄ちゃんが冷蔵庫から水の入っているペットボトルを出してそれをラッパ飲みしているところだった。
風呂上りだろうか、毛先が濡れており、飲みながら時折滴る雫を首に巻いているタオルで拭っていた。
私は兄ちゃんの水を飲み込むたびに上下するのど仏に見惚れてしまっていた。
そんな私の視線に気づいたのか、
「お前、風呂入れよ。
あと、俺の部屋に勝手に入んな。」
と言うと、さっさと自室へ戻っていった。
何時からだろう、兄ちゃんをそういう目で見るようになったのは。
思い出せないが直接のきっかけといえば、あの日のことだ。
高校時代から、私は、勉強道具を借りたり、漫画を読ませてもらうために
よく兄ちゃんの部屋に入り浸っていた。
あの日も、ただ、参考書が借りたくて部屋まで来たのだった。
「兄ちゃん、参考書、貸し…」
なんとなしに開けた兄ちゃんの部屋のドア。
そこで私の目に飛び込んできたのは、下半身を出して自慰をする兄ちゃんの姿だった。
「ちょ、おい、またかよ!!出てけよ、おい!!」
無断で入り浸る私を咎めるのと、羞恥で顔が赤くなっている兄の複雑そうな表情を見た私が
そのとき感じたのは、
”可愛い”
”兄ちゃんも男なんだ”
ということ。
普通なら気持ちが悪いはずなのに、そんな感情は全く湧かなかった。
当時、私には付き合っていた彼氏がいたが、その彼のことが霞む位、兄ちゃんが身近な男だということを実感した。
幸いなことに我が家では部屋に鍵をかけることが禁止されてる。
それに、兄ちゃんと両親との折り合いも悪い。
兄ちゃんに蹴られる度に私は母に誇張してそのことを報告する。
だから、兄ちゃんがどんなに私から離れたく思っても、そんなことは出来ないし、させない。
兄ちゃんは、根が優しいから、根気よくあきらめなければ、受け入れてくれる。
私が兄ちゃんの性格を知り尽くしているから出来ることだ。
ほら、前は胡坐に座らせてくれなかったのに、今日は座らせてくれる。
「ねえ、兄ちゃんって優しいね…。」
うれしくて不意をついてキスしてみた。
瞬間、蹴られて追い出された。
いつもの光景。
そして、両親から兄ちゃんに向けられる「妹と仲良くしろ。」の言葉。
これもいつもの光景。
125 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:14:32 ID:z3jB1riY
兄ちゃんの部屋に入り浸り始めて何時からだろう、一緒に寝るようになったのは。
正確には兄ちゃんが寝入ったところに潜り込んでいるだけだけど。
これも、あと少しで、兄ちゃん公認で習慣に出来そう。
背を向けて眠っている兄ちゃんが可愛くて、愛しくて、思わず寝巻きの裾を捲りあげて、
素肌に触れてみた。その感触が心地よくて、その背にキスをした。
それだけでは足りなくて、強く吸ってみたり、舐めてみたりした。
ふいに眠っているはずの兄ちゃんが唸り、寝返りを打ってこちらを向いてきた。
おそらく、私の愛撫がくすぐったくて無意識に反応してるみたい。
兄ちゃんは、一度眠ってしまうと、よっぽどのことが無い限りは、起きない。
こちらを向いてくれた兄の寝顔を見つめてみた。
少し開いた口、捲り上げて、露になった胸板、すべてが愛しくて思わず、その一つ一つ丁寧に唇を寄せてみる。
兄ちゃん
兄ちゃん
好き
その言葉は紛れも無い私の本心。兄ちゃんに対してそういう意味での…。
私は兄ちゃんの少し開いた口に自分のそれを合わせて、ゆっくりとその隙間から舌を滑り込ませてみた。
(今は、こんなことでしかアナタを感じられないけど…いつかは…。)
気づくと、私はおへその下にある膨らみに触れていた。
両手で撫でる度に反応するそれに思わず笑みがこぼれた。
「…可愛い…兄ちゃん、好き――」
それから兄ちゃん自身に触れていた両手をズボンの中に忍び込ませて、今度は直接触れてみた。
熱い、でも、愛しいそれ。
刹那
「…っにしてやがんだ!」
兄ちゃんが飛び起きてしまった。うそっ、いつもは熟睡しているはずなのに…。
あわてて手を引っ込めた。
「手前、何、人の股間いじくってやがんだ…!おい。」
「なに言ってるの?兄ちゃん。」
こうなってしまったらあくまで白を切る。私は寝ぼけていたと兄ちゃんに主張する。
「くそっ」
短髪の頭をガシガシ掻きながら、私をにらみつける。その表情に体が震えた。
私は思わず、声が出そうになったが、押しとどめた。
「お前、いい加減俺んとこ潜り込んで寝るの止めろ。」
「じゃあ、一緒に寝ていい?」
間髪いれずに兄ちゃんに言った。その後言われる内容を想定してしまったから。
「バカ。いい年してみっともないし、一緒に寝たければ彼氏と寝ろよ。」
何言ってるの?そんなこと言わないでよ。
「それに俺なんかキモいだろ。そんな兄貴と一緒に寝てるなんてどう考えてもおかしいだろ?
判ったら、自分の部屋で寝ろ。」
彼氏?キモい?
「それに、俺付き合ってる彼女いるから。」
は?モテナイくせに何言ってんの?
結局その日は一人で寝ることになったが、頭の中で兄ちゃんが言ったことが渦巻いて一睡も出来なかった。
126 : 普通の兄妹でありたい! 2010/08/21(土) 22:15:24 ID:z3jB1riY
そして数日後、兄ちゃんは「彼女」を連れて来た。
その時私は居間で母とお煎餅を食べながらテレビを見ていた。
「あー、えーっと、紹介するよ――さん。」
兄ちゃんが「彼女」を紹介している声が遠くのほうで聞こえる。
兄ちゃんの隣には私と同じ年ぐらいの女。
私はこの女が本当に「彼女」なのか観察してみた。
「…―――。」
コイツ「彼女」じゃない、なぜかそう確信できる。
これが所謂「女のカン」というモノなのだろうか。
一見、親しい関係のようだが、微妙な「距離」を感じる。
何を思ってこんな女を当てたのか、モテナイくせに。
とにかく、兄ちゃんの隣にいる女は「彼女」じゃない。
確信してから、兄ちゃんの彼女工作する姿を想像して思わず心の中で苦笑した。
そんな事してもムダなのに。
必死で彼女をアピールする兄ちゃんの姿が可愛くて可笑しくて思わず鼻で笑ってしまった。
その時兄ちゃんがチラッと私を見た。
私の反応を伺っているのだろうか、それとも、私がニセ彼女を見破ってないかどうか伺っているのだろうか。
兄ちゃんのその反応が真実を物語っているというのに。
女が帰った後、兄ちゃんの部屋に行き単刀直入に言ってみた。
「今の、彼女じゃないでしょ?」
「な、に言ってんだよ、彼女だよ。
なんで、そう思うんだよ。」
「女のカン。」
「ん、だよ、根拠ねーじゃんかよ。」
往生際が悪い。
私は兄ちゃんの言葉を無視して続けた。
「どうしてそんなことするの?
そんなに私の事嫌い?」
「~~あのなぁ、お前は妹だぞ?」
「だから、何?」
「お前はただ、身近な男の兄である俺にちょっかい出してるだけだよ。」
どうして?
どうして?どうして?どうして?
(私だけの人でいてよ!どうして駄目なの?!)頭の中であのドラマの恋敵が言った台詞がよぎった。
そしてある日、仕事から帰ってきたら兄ちゃんが居なくなっていた。
最終更新:2010年08月30日 05:23