悪質長男 最終回

340 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:34:11 ID:B7aEcve5








「ぬ・・・?」
意識を取り戻した時、まず認識したのは何度も見た天井。
自分はベットも上。暗い夜。
「ん・・・夢・・・?」
今までの事は全部、夢?

殴られた感触はもう無い。
疲れにまどろむ意識は、しかし何の前触れもなく現実に戻る。


ここは自分の部屋ではなかった。


彼は、怜二は幼馴染の部屋にいた。
(うわー僕の部屋だと思っちゃったよ)
何度も遊びに来た場所だ。
ある日幼馴染がアダルトな行為を覚えて、怜二を襲ったその時から、彼は自発的に来なくなかった。
「あ、起きた?」
振り返ると出入り口に氷柱が立っていた。シャワーを浴びたのだろう。
清涼な見た目がより一層引き立てられている。
「なんだ、僕はまた気絶したのか」
「うんうん。先に眠られてちょっと寂しかった。・・まだ足りないからもう一回しょ?」
「もう一回って言って、またもう一回って言うんだ。永遠に終わらないじゃないか」
彼の皮肉に、氷柱は幸せそうな笑みを浮かべた。
「そうしよう?そうしよう?結婚してよ?ずっとずっと一緒にいようよ・・・」
「余計な事を言ってしまった・・・・」
再び雌が発情したらしい。いきなり生まれたままの姿になり、のらりくらりと近づいてゆく。
窓から漏れる月光が反射して、濡れた瞳がギラついた。
怜二は逃げる参段を立てたが、マッパで屋根の上を歩く羽目になる結論に至ったので、観念する事にした。



341 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:37:09 ID:B7aEcve5

ピンポーン

チャイムが鳴ったのはそんな時だった。

「ん?君の親が来たのかな?」
「知ってる癖に。親が居なくなる時に怜二を持って帰ったのに」

ピンポーンピンポーン

「・・・僕は心当たりが一つある」
「?」

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

氷柱の家で怜二が玄関まで出迎えようとしている。
逆立ちで歩きながら、器用に下着とズボンを履いている。

「ん?普通に着なよ」
「ギャグを挟もうかと」
「揺れる象さん見てて、体が火照っちゃった」
「ごめん、自制する」

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

「はーいどちら様ー?」
インターホンの受話器に向かって氷柱は呑気に答えた。
玄関の向こうから聞こえたのは、知らない女性の声だ。
『貴方が氷柱さんですね?メールをありがとうございます。私、怜二の家の者で、麗華と言います』
「へぇ、初めまして。氷柱です」
『そちらに弟がいるのですよね?回収に来ました』
氷柱は心の中で悪態を付いた。
「・・・メールで伝えましたけど、怜二は・・」

「僕なら今玄関へ行くからー」

いつの間に背後に立っていた怜二が麗華にそう言った。
間も無く歩き出す怜二に、氷柱は慌てて受話器をきちんと戻してから追いすがった。
「何で何で!?何で帰っちゃうの!?ヤダヤダ!!ずっと居てよ!!」
「ええい、やかましい。僕は君がどうも苦手なんだ。ペースを乱されるし、すぐ殴るし」
今まさに殴りかからんとした氷柱の腕が止まる。
「そっか。私が悪かったんだ。ごめんね?ごめんね?ごめんね?ごめんね?ごめんね?謝るからずっと傍にいて?行かないで?あの姉を追い返して」
「日頃の行いが悪い、と言えばそこまでだね。まずは悪い所から直すか」
いよいよ玄関の扉の前に立った時に、氷柱は続きを急かした。
「どうしたらいい?」
「うむ、まずはボケとツッコミを覚えよう!麗華も玲も上手だよ。正に華麗な麗華さ・・」


「聞こえているんですけど?」


扉から冷やかな声がした。



342 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:37:47 ID:B7aEcve5
場の空気が止まる中、怜二は一つ咳祓いして、

「・・・これがホントの人の口に戸は立てられぬ」

「学んでる場合!?」

「おお、これがボケとツッコミ」

「氷柱さん、つられないで!それから怜二、早く帰りますよ?」
「はいはーい。覗き窓に見えますのは、麗華と、あ、玲もいたんだ。いやぁ、愛されてシスコン冥利につきるってね。ところでさ・・・」
怜二の声のトーンが少し落ちた。

「今、刃物を隠さなかった?」

ドアの向こう側で挙動不審が垣間見えた。怜二の背後でも氷柱は眉を潜めた。
「あ、ごめん、今のハッタリ。でもさっきの反応て図星だった?あーどうしよう?」
ここで珍しく、玲が発言した。

「兄さん・・・扉を開けて?そこの女・・・殺せない・・・」

まさに爆弾発言だった。氷柱はくっくっくと笑いを堪え切れず、麗華は頭を抑えて悩んだ。
やがて溜息をつくと、開き直って包丁を覗き窓に向かって突き出した。
怜二のげんなりとした声。氷柱は彼を押し退け、彼女らと対峙しようとして、しかし退かせられなった。
「怜二?どいてよ。あいつら、私と怜二を引き裂こうとしている。殺さなきゃ」
「そう言う訳にはいかん。僕はシスコンだし、君は幼馴染だ。この戦いを止める義務がある」
「姉の言う事を聞きなさい、怜二。その女は私達の大切な大事な貴方を犯した」
「し、しかし・・・」
扉一枚挟んで女3人が声だけで殺気蠢く環境を維持している状況。
怜二は怯む事無く言ってやった。

「最終回でバトルものを入れたら収集が付かなくなるのは常識だぞ?」

「「今の今まで何を心配してたの!?」」



343 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:38:21 ID:B7aEcve5
「やかましい、かしましい。君らの戦意を削ぐには寒いギャグが一番なのだよ。と言う訳で鬱展開など許さん。決着が付くまでボケ倒してみせる!」
「それこそグダグダに終わりそうな事なんですけど!?」
「・・・兄さん、私達が何故来たか・・・忘れてない?」
「む・・・」


以下、「」の前に発言者を表示します。


怜二「もちろんさ、可愛い妹よ。・・御免、忘れた」
麗華「光の速さの前言撤回!」
玲「はぁ・・・。・・・そこの女をどうにかしにきたのに・・・」
怜二「まあ・・・すぐ僕を犯そうとするのは、流石に目に余る所なんだよね」
氷柱「ぶー。私達が永遠に結ばれる為の儀式だよ。だよだよ?」
怜二「そもそも氷柱に性知識を教えたのは誰だ!?」
氷柱「怜二が忘れるなんて意外。100丁目の百合絵ちゃんだよ」
麗華「なるほど、本当に余計な事をしたのはその人ですね。・・・100丁目!?そんな住所が存在するの!?」
怜二「電話で文句を言っちゃおう。ぴぽパぽ、プルルルル、ガチャ。もしもし百合絵?怜二だよ、久し振り。
今氷柱の家にいるのさ。・・・何?ここから近いコンビニに居るの?じゃあ今から合わない?ガチャ」
麗華「こんな最終回のドサクサで新キャラ!?」
百合絵「私、参上!」
麗華「早っ!」

百合絵とは、いかにもツンデレキャラのテンプレートに当てはまりそうなツインテールだった。
怜二はドア越しに話しかけた。

怜二「よう来なさった」
百合絵「私の方が年上よ、無礼者!・・て言うか、もしかして修羅場?私の知らないこの二人と氷柱がいがみ合っているとか?」
怜二「さすがone of the 幼馴染。氷柱の性格をよくわかっている。さて、取り分け頼みがあるんだけど・・・」
百合絵「?」
怜二「名前通りのレズっ娘よ。氷柱が発情したから相手してやって」
氷柱「え?」
怜二「そもそも君がレズを望んで氷柱に教えたせいだ」
百合絵「そう言う事なら、OK!」

怜二が素早くドアの鍵を開けて、百合絵が滑る様に入っていった。入れ替わりで怜二が玄関の外に出て、合鍵でしっかり錠を掛ける。
こんな会話が中から漏れて聞こえた。

「ちょっと待って・・!私は怜二だけに体を許しているのに・・・」
「ふふふ・・良いではないか、良いではないかー」
「ら、らめぇえええ・・・」

唖然と口が塞がらない麗華といつも通りの涼しい顔の玲に、振り返えった怜二は笑顔で言った。
「さ、帰ろうか!」
玲はポツリと呟くしかなかった。
「・・・まさかの・・・レズオチ・・・・・・・・」


344 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:38:50 ID:B7aEcve5

すっかり暗くなった夜道を抜けて、無事我が家に到着した姉弟妹は、顔が朝日の様に晴れやかだった。
「来てくれて嬉しかったよ。僕は氷柱だけが苦手だから、生きた心地がしないんだよねー」
「へぇ。怜二に弱点が?いつもは、えっと?『僕は不死身で紳士で完璧』って広言してますよね」
「ははは。でも弱点ではないさ今日だって切り抜けて来たんだ。どう?やっぱり無敵でしょう?」


「・・果たしてそれは本当でしょうか?」



「うん?」
麗華と怜二が顔を見合せた瞬間、

ドカッ!
「ぐっ!」

彼の腹に拳が食い込んだ。追い打ちに玲が足を払い、怜二は崩れた。
麗華が小さく笑うと彼に馬乗りし、一方で玲は怜二の頭を押さ付けた。

そして殴る。

殴られた。

殴る。

殴られた。

殴る。

殴られた。

殴る。

殴られた。

殴る。

殴られた。

殴る。

殴られた。



やがて紳士は、静かになった。


345 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:39:17 ID:B7aEcve5
「・・・・な・・・で?」
いつもの覇気が無い、力無い呻くような声が聞こえた。
彼の目前で、玲が可愛らしく頬を染め、麗華が華の様な、綺麗な笑顔で答える。
「玲の盗聴器に氷柱さんの独り言が入ってました。打撲音が偶に雑音でしたが、
拾えるだけの音声でも何が言いたかったか、わかりました。怜二、貴方、暴力が弱点だったのですね」

盗聴器?ああ、あったねそんなの。でも僕は気付いてた。なんで外さなかったんだっけ?

「ほら、貴方が悪戯の為にわざと付けっ放しにした盗聴器。あら、まだ襟に付いていた」

怜二は目を閉じて思い返した。盗聴器でどう遊ぼうか考えた帰り道。
その時の氷柱の奇襲攻撃。あの瞬間から盗聴器の事など、頭から離れていたんだろう。

(・・・・いつもの悪戯が仇になった、か・・・・)

次に目を開けた時には姉弟妹でベットの上だった。
玲は首を傾げて、麗華は笑顔で、怜二を抑えつけて見下ろしていた。
姉妹揃って彼の服の下を弄りながら言う。
「さて、怜二?私はもう我慢出来ませんが、何か一言あればどうぞ」
「兄さん・・・3文字以内で」
虚ろな目で紳士は見つめ返す。しかし彼は負けじと笑う。
負けじと笑いながら、敗北を認めた。


「うん・・・好きにしていいよ」


「3文字以上」
麗華が顔を殴った。以後、怜二は何も話さなくなる。

あとはただ食われるだけ。

ワーウルフのごとく、満月の下で、二人の姉妹姫は野獣と化して彼を貪り尽くす。



こうして彼は、禁忌の壁を突破されてしまったのだった。


346 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:39:45 ID:B7aEcve5
その学園には二人の姉妹姫がいる。
姉の名は麗華。高等部三年生。
伸ばした髪は地毛でありながら赤みがかっていて、ちょっとした癖っ毛でもある。美人、聡明、学力も申し分ないうえに、それをひけらかす事をしない奥ゆかしさ。
それはまるで異国の王女様。
妹の名は玲。高等部一年生。
姉とは対照的に凛と引き締まる表情。完全に黒いストレートな髪をポニーテールにして纏めてある。無表情ではあるが、運動神経は並みの者とはケタ外れである。所属は空手部、剣道部。
例えるなら戦国時代のやんごとなき身分の姫。
姉は名の通りの麗しさで近づくのも躊躇わせ、妹もまた鉄の仮面が他を寄せ付けない。
二人して誰の愛の告白も受け付けない、高根の花。
しかしそんな二人と仲が良い男子がただ一人居た。
赤の他人。学年が違えば接点も無し。強いて言えば苗字が同じだけ。

しかしそれは過去の話。その正体は、二人の兄弟であった。

彼の名は怜二。

自称、完璧で不死身で紳士。
客観的評価は、





校門では姉妹姫の登場に、場が熱くなった。
「おはようございます、麗華様、玲ちゃん」
「あら、おはよう」
「・・・ん」
一人の女子学生の挨拶に姉妹姫が答える。
玲は無口なので大抵御喋りするのは麗華の方。
世間話を始めるが、そこに駆け寄る男の影が一人分。真っ赤な薔薇束を捧げて、
「麗華様、今度こそお付き合い願えますか!?」
大きな声で誠意ある感じな告白を。
彼は王子と言う名で男子一のイケメン。


が、その姿はバニーガールのそれだった。


「「「貴様ぁ麗華様と玲様の眼を汚したなあああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」」


電光石火で王子はリンチの渦に飲み込まれた。



347 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:42:34 ID:B7aEcve5
電光石火で王子はリンチの渦に飲み込まれた。

姉妹姫は呆れ、後ろを振り向いて、男兄弟の怜二の姿を確認した。
苦笑いの女子集団に囲まれ、「変なものを見せるなよ」とリンチ・・・否、指で突かれている。
中心にいる彼は爆笑している。
彼こそ王子にコスプレさせて麗華にけしかけた張本人だ。



怜二は、お調子者で辛辣で、悪質なのだ。



麗華が彼を呼び付け、怜二は素直にやってきた。
「いい加減になさい。もはや告白が日常の一部になっています」
「えー?面白いのに?」
「私が面倒なのです」
それから口を耳に近づけて、色っぽい声を小声で伝える。
「罰として昼休みは付き合ってもらいます。学校でスるシチュエーションもいいかもしれませんよ?」
麗華は玲に振り向くと、一つウィンク。眼で合図されて玲は両手を合わせて指を鳴らすと、
裏拳で怜二の腹を狙い、

ガンッ

と音がして、玲が手を押されて泣きそうになった。
「うん?」
麗華も呆然。怜二が自分でシャツも捲り上げるが、今では見慣れた肌が覗くだけ。鉄を仕込んだ様子もない。
試しに麗華が叩いて見ると、金属の感触が返って来た。
「痛っ。え?何これ?」
見上げて見ると、怜二のなんとも意地悪そうな顔。姉妹に向かって踏ん反り返る。


348 悪質長男 最終回 sage 2010/12/19(日) 20:44:19 ID:B7aEcve5
「実はあの日の禁忌の夜の翌日、不思議な事が起こったのさ。なんと、自在に体を固くする技を天より授かった!」

ピキ―――――――――ン!と反射光が輝く!

「何そのファンタジー路線!?」
「その技の名は、『かたくなる』!!」
「そのまんま・・・じゃなくて何でポケットに入る怪物の技名みたいなの!?」
「くっくっく・・これでまた一つ、僕は弱点を克服したぞ」
自信満々に言い切る怜二に麗華も玲も不満そうな顔になった。
「・・・そんなに私達を拒みますか?」
「君達の為に言っている。なんだかんだ言って近親相姦は危険なんだ。
ばれたら、君達の沽券に関わるぞ。僕は長男として、君達を守らねばならない」
丁度その時携帯電話が鳴る。怜二のもので、氷柱からの着信である。
「ピッ!ヘィもしもし?」
『痛いよー怜二ー』
「あっはっは!携帯いじれるくらいなら、もう両拳は大丈夫そうだねぇ」
なんと玲二は氷柱まで攻略した模様。
「心配せずとも、僕は幼馴染の付き合いは大事にするよ?放課後にでも電話しようか?
話題はマイブームのラーメン」
『ほとんど昨日まで餃子じゃなかった!?後、私はラーメンより欲しいものがあるよ。欲しいのはザー』

ぶつんっ

涼しい顔で携帯電話をしまう。

顔を上げると、不満そうな麗華と玲の顔。
周りを見渡すと姉妹姫と兄弟である怜二を嫉妬する男女の視線。
「れ~~~い~~~じ~~~」
どこからか聞こえるリンチに遭ったようなゾンビの声は無視しよう。
「ふふふ。妬むな妬むな不満そうな顔もするな。そんな顔しても仕方無いだろう?何故なら・・・」
彼は笑う。

周りが息を飲む。

怜二は両手それぞれに、麗華の手と玲の手を繋いだからだ。

姉妹姫も不意を突かれた。

ついさっきまで鉄の体だった手は、確かに人の柔かさと温もりがあった。





「僕は、不死身で、紳士で、完璧なのさ!」



END


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最終更新:2010年12月20日 21:46
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