キモウトとひきこもり兄Ⅵ

216 : キモウトとひきこもり兄Ⅵ 2011/02/17(木) 01:58:07 ID:3hEu+ADY

(一人side)

隣に桜がスヤスヤと寝ている。寝顔は幸せそうに見える。
ベットから起きて桜の代わりに朝食を作りたいが、桜がガッチリと身体をくっつけているので起きたくても起きれない。
でも桜の寝顔を見るに体調は良さそうだから今朝飯を作りにいかなくてもいいか。

桜の頭を撫でる。桜は犬のようにフルフルとして喜んでいる顔になった。
かわいい寝顔だと本当に思う。そうそう見られないから今のうちに焼き付けておこう。
普段からこのくらいかわいい顔しているともっといいと思うんだけどな~。

(桜side)

ここはどこでしょうか……?
夢……なのでしょうか?
夢にしてはこんなに意識があることはめったに無いのに。

何故だかとっても落ち着きます。居心地が良い空間。
心が安心と充実感に満たされていきます。
あぁ気持ちいい……。兄さんに触れているときのようです。
兄さんの匂いがしてきました。大好きな匂いです。いつまでもこうして感じていたいです。

そう、いつまでも……。

視界が明るくなってきました。

「桜おはよう、朝だよ。」
あれ……? 私より先に兄さんが起きていることなんてないのに……。
「ぅ……うぅ……にい…さん…?」
そうだ、早く起きて兄さんのご飯を作らないと。それにお買い物が……。
「寝ぼけてる桜なんて珍しいな、桜~お前の兄さんだぞ~。」
「わたしのにいさん……あっ! に、兄さん!!!?」

寝ている体をいきなり起こし、自分でも驚くくらいの声で喋ってしまいました。
「やっと目が覚めたか~。それに桜、いきなり大きな声出したら驚くじゃないか。」
兄さんはちょっと驚いたのか、私にゲンコツを構えると頭の方に近づけてきました。
私は思わず目を塞ぐと兄さんはコツンと優しく、まるで小さい子供を叩くようにおでこを叩きました。
「すみません兄さん……。その、兄さんと一緒に寝ていたのを忘れていたので、は、恥ずかしかったんです……。」
俯きながら謝ると兄さんは『大丈夫だよ。桜が可愛いからちょっとからかっただけだよ。』と頭を撫でながら言ってくれました。
兄さんに可愛いと言われると嬉しいです。

「桜、体の具合はどうだ?」
「大丈夫だと思います。だから一緒にお買い物にいきたいです。」
私がそう言うと兄さんはちょっと考えているようで、決心したのか『無理はするなよ?』と言って一緒に行くことになりました。
兄さんとデートが出来ます。すごく嬉しいです。


217 : キモウトとひきこもり兄Ⅵ 2011/02/17(木) 01:58:58 ID:3hEu+ADY

台所に行ったら兄さんが料理を作ろうとしていたのですが心配なので兄さんには私のお手伝いしてもらいます。
兄さんが傷つくことはダメなんです。だから私が兄さんを守るんです。それが兄さんの最高の幸せなんですから。
「兄さん、猫手じゃないと指切っちゃいます。」
後ろに回って手を直す。胸を当てていることに兄さん気づいてくれてますか? 私まだ小さいですけど兄さんが大きいほうがいいなら大きくなるように努力しますよ。
「桜、ちょっと体くっつきすぎだよっ!!?」
「そうですか? あ、包丁を持っているときはよそ見したら危ないですよ。落ち着いてください兄さん。」

兄さんすごく顔が赤くなってます。妹の胸で興奮する変態兄さん。でも私は変態兄さんでもいいです。
兄さんがえっちなのは分かっていますしそれを受け入れられないような器の小さい女ではありません。。

ご飯をテーブルへ運ぶ。兄さんと二人で作った朝ご飯です。

「兄さん、今日はどこへいくんですか?」
「とりあえずショピングセンターでいいか?」
「私は別に大丈夫ですよ。」
「ははは、悪いな。あんまりオシャレとかそういうの詳しくないからさ。」

電車にのって20分くらいの街。この町とは違っていて都会そのものです。
街は喧騒溢れていて私は好きになれません。兄さんもそういう人ごみは苦手なので滅多にいきません。
ですが夏休みの時のあのイベントよりは断然マシだと思います……。
それに兄さんと一緒なら大丈夫です。

「桜、人が多いところ苦手そうだもんな。昔はよくあの街で迷子になってたから母さんとよく探したよ。」
箸を持っている手を止めて兄さんが言いました。私の顔から読み取ったのでしょうか。心が通じている証拠ですね。
「そうだったんですか?はじめて知りました。幾つくらいの頃ですか?」
「そうだな~たぶん俺が7歳、いや6歳くらいの頃だったかな。桜すごく泣いていたよ『おかあさん~!!おにいちゃん~!!』って。」
「でもいつもすぐ見つかるから桜が急いでこっち戻ってくるんだ。あのときの顔はすごく可愛いかったよ。」
「そうですか……。」
「あ、勘違いするなよ。今でも十分可愛いからな。」
兄さんが手を伸ばして頭を撫でてくれました。
兄さんはちょっと間抜けさんです。でもちょっと間抜けさんなほうが可愛いです。
「ぁ……兄さん恥ずかしいです……。」
「そっか……ごめんな。確かにいつまでも子供扱いするのは良くないな。悪かったよ桜、次からはしないからさ。」
「あ、はい……。」

素直になれないからこんなことになってしまいます。
兄さんをこれ以上壊したくないから本当のことを言えない。拒絶されたくないから言わない。
だからこうして兄さんが離れていってしまう。イヤなはずなのに。ずっと一緒にいたいのに……。


218 : キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2011/02/17(木) 01:59:31 ID:3hEu+ADY

(一人side)

服を着替える。とりあえず今ある服で何とか形にはなったと思う。
桜を呼んでパッパと目的地へ行く。
桜の顔はちょっと暗い感じがした。まだ体調がよくなさそうだから早めに帰るようにしておこう。

途中の電車で桜と軽くおしゃべり、どんな服を買うかあんまり決めていなかったから桜に相談してみたら
『兄さんならなんでも似合います。』と言われた。
なかなか複雑だがプラスに捉えたほうが良いのだろう。

電車を降りてポチポチと二人で歩いている。思うのだがこの人の多さはどうにかならないのか。
すぐにでもこの人ごみを抜けて建物の中に入ろうと足が早くなる。

「兄さん! ちょっと早いです。」

桜が後ろから手を掴んで動きを止める。振り向くと顔は少し赤くなっていて呼吸も荒い。
早歩き程度だと思ったが桜にはきつかったみたいだ。

「ごめん桜。ちょっと休むか?」
「ハァハァ……大丈夫です……。もう少しですから行きましょう。」

再び足を進めていく。今度はゆっくりと歩いた。

桜の言うとおり建物はすぐ近くなのでさっさと入ることにした。
そしてエスカレーターで上がってお目当ての服が売っている場所へ来た。
店内はおしゃれな店員と男達が多く、桜と共に入ると視線が一気にこちらに向いてしまった。
近くにいた店員が早速こっちに向かってきた。

「お客様、今日は何をお求めで?」
「えぇっと、ジーンズと上に羽織るようなもの探してます。」
「かしこまりました。それではあちらの方にお目当ての品物があると思いますのでごゆっくりどうぞ。」

内心すごくびびっていたけど桜の前で恥はかきたくなかったからなんとか抑えられたみたいだ。
背中に冷や汗が流れてきた……みっともないな。

「兄さんこれ似合うと思いますよ。どうですか?」
桜が手にとったのはどうやらセーターで、色も目立つようなものではなかった。
「よさそうだな、じゃあ買うか。」

こんな感じで服やらズボンやらを買っていってレジで会計を済ませに行った。
ちなみに我が家は桜が財布を預かっているので桜が払うことになっている。

「お二人ともお似合いのカップルですね。」
「へ!?」
レジ打ちをしている女性店員がいきなり言い出したので桜の横にいる俺は思わず声を出してしまった。
「あれお客様カップルじゃないんですか?」
「い、いや兄妹ですよ!!」
「そうでしたか申し訳ございません。それにしても仲が良いですね~私なんて弟とはすごく仲悪いですよ~。」
「私は兄さんのこと好きですよ。」
「さ、桜!!? 変なこと言わないの!!」


何を買ったのか忘れるくらいの出来事だった。

「桜~さっきみたいにあんまり変なこと言って俺を驚かせないでくれよ~?」
「すみません兄さん♪」
言葉とは裏腹に桜の顔は楽しそうだ。
建物から出て近くのベンチでアイスを食べながら次の行き先を決めようとしている。
ペロペロとちっちゃい舌でアイスを舐めている桜は小動物みたいだ。

「行きたいところあるか?」
「私は特に無いです。兄さんはあるんですか?」
「いや俺ももうここに用はないよ。人が多いと疲れちゃうし、桜も病み上がりだからな。もう帰ろっか?」
「はいそうしましょう。あ、帰りにスーパーに寄っていいですか? 多分家の食材を切らしているので買わないといけないです。」
「そっか、なら手伝わないとな。じゃあアイス食べ終わったら帰ろうな。」
「はい兄さん。」


219 : キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2011/02/17(木) 01:59:58 ID:3hEu+ADY

(桜side)

今日は兄さんに女として意識されるためにちょっと積極的にしすぎかもしれません。
今も兄さんと手を繋いでスーパーへ向かっている最中です。
さっきの店員さんのように知らない人から見たらカップルと思われてるはずです。
こうしていれば兄さんに邪魔な女はつかないですし私も幸せです。
あぁ兄さんともっといろんなコトしたいです。

晩ご飯は何を作りましょうか?
兄さんに聞いたら『そうだな~。美味しい物がいいな。』と言われました。
普通なら結構難しい答えです。でも兄さんの好みなら知ってますからあとは季節の食材に合うようにすればいいだけです。

スーパーの中は少し寒いです。だから兄さんにくっついてもおかしくありません。
兄さんの顔を見るとちょっと困った顔をしていますが嬉しそうにも見えます。やっぱり兄さんは私のことが大好きなんですよね?
妹だから気持ちを素直にできないだけですよね? 大丈夫ですよ兄さん。私も兄さんのこと大好きです。私は兄さんだけのものです。

今日はほんとうに楽しいです。兄さんデート、一日中一緒にいられる。そうだ、晩ご飯は兄さんの好きな魚の煮付けにしましょう。
カゴを持って野菜コーナーを通り、お魚を見ようと思ったら

「桜~? あれ瀬里朱だよな……?」

兄さんが突然嫌な言葉を言いました。兄さんの視線の先には忌々しい女がいました。
場所を見るにお肉でも漁っているのでしょう。
どうやらあの女も気づいたようで兄さんに向かってきました。嫌だ、私の兄さんに近寄るな。

「兄さん、もう帰りましょう。会計は私が先にすませておきますから兄さんは先に帰ってください。」
急いで兄さんをあいつから遠ざけようと思って言ったのですが

「かずとぉ~~~!!!」むぎゅぅぅ

どうやら遅かったようです。さっきまで楽しかったのにこの女のせいで台無しです。
しかも兄さんに抱きつくなんて……あとで洋服をちゃんと洗ってあの女の臭いを消さなきゃいけません。

「一人~こんなところで君を見つけるとは思わなかったよ。そうだ! 今日はうちでご飯でもどうだ? 味の方は保証するぞ。」
「い、いや……そうだな……材料買っちゃうところだし……桜に悪いから遠慮するよ。」
「そうか残念だ。じゃあ明日はどうだ?」
「伊吹さん! 兄さんが困ってます。そういうのやめてください。」
「桜ちゃんもいたのか。すまない確かにこういう所ではしゃぐのは一人に悪いな。」

私は本当にこの女を好きになれません。兄さんとの関わりを足しても大嫌いです。
今はまだ見逃しているだけで、これからも許嫁なんてふざけたことを言っていたら消すことにしないといけません。

「一人、月曜から同じ学校だな。楽しみにしているぞ。」
「え……? 瀬里朱も同じ高校なの?」
「一人にあうためだけ日本に帰ってきたんだからな。当然同じ学校に通いたいじゃないか。」
「そ、そうなのか……?」
「一人は何組なんだ?」
「い、いやぁ……ちょっと……。」

あの女は兄さんが留年を繰り返していたことは流石に知らなかったようです。
でも兄さんを困らせていることにはかわりありません。
やはり害虫は駆除しないと兄さんを傷つけることになるので早いうちに行動に移しておきましょう。

「兄さん、こんな所でずっと立ち話も周りの人に迷惑ですからまた今度にしませんか?」
「そうだな……。瀬里朱、それじゃあ月曜日に話の続きでも。」

兄さんはあの女に挨拶していたみたいですけど私は絶対にしません。
兄さんに頼まれない限り意地でもしたくありません。
だれが私の兄さんを奪おうとする女に挨拶をしなくてはいけないのでしょうか。


220 : キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2011/02/17(木) 02:00:43 ID:3hEu+ADY

(瀬里朱side)

家に帰る。床は冷たく、寂しさが部屋中に漂っている。
冷蔵庫に買ったものをしまってベッドに寝転ぶ。

私は桜ちゃんに嫌われているようだ。
さっきも顔も見ずに先に帰っていってしまっていたし、やはり嫌われているのだろう。
仲良くしていたいとは思う。君の妹なのだから君のようなものだ。
それに、いずれ義理の妹になるのだから仲が良いことに越したことはない。
しかし桜ちゃんが私を嫌っているようでは到底不可能だな……。

ため息が自然とでてしまう……。
君の前では絶対に見せられないな……。

桜ちゃんのことを知ったのはついこの前の日本に戻ってきてからのことだ。
君の家に行ってみたら可愛らしい女の子がいて驚いてしまった。
彼女でも作ったのかと思ってしまったがすぐに妹ということが分かったので杞憂に終わったよ。

でも私達の邪魔になるのなら……。
ふと頭に思い浮かんだ。桜ちゃんがいなければ君といますぐにでも暮らせているだろう。
"君の妹"その存在が厄介だ。

だが、いつの間に君に妹がいたのだろうか……。

少なくとも私が小さい頃にはいなかった。
私が妊娠に気付いていなかっただけなのかもしれないな。
その当時は"妊娠"なんて言葉も知らなかったわけだから見逃していても普通だろう。

そうだ、こんなこと暗いことを考えているよりいいことがあるじゃないか。
明日から一人と同じ学校だ。クラスを聞けなかったら明日こそは聞かないと。
嫌いな食べ物とかも聞いておこう。毎日朝昼晩ご飯を作ってあげるんだからな。妻として当然のことだ。
進路も決まっているのだろうから同じ大学にいけるようにしておかないといけない。
せっかくこっちに戻ってきたのに大学で悪い虫がついてしまっては困るからな。

次の日

おかしい、一人がどのクラスにもいない。
同じ学年だからすぐ見つかるはずだと思ったのだが……。
もう昼休みだ。一緒にご飯を食べようと思ってもみつからければ意味がない。
仕方ない、人に聞くか。

「すまない、紅瀬一人という人を知っているか?」
「え、伊吹さん紅瀬くんと知り合いなの?」
「あぁそうだ。で、どこのクラスにいるかわかるかな?」
「一年のクラスにいるとはきいてるけど、えぇっと……8組だったけかな~?」
「なんだって!!? 一人は三年生じゃないのか!?」
「うん、入学して早々になんでかは知らないけど学校に来なくなっちゃったかららしいよ。だから今は妹さんと同じ学年なんだって。」
「そうなのか……。教えてくれてありがとう。」
「ううん、別にいいよ~。あの兄妹は有名人だから皆それなりに知ってるんだよ。」
「有名なのか、なぜだ?」
「だって兄妹二人ともかっこいい、かわいいからだよ~。妹さんなんてすごい人気らしいよ。
もちろん紅瀬くんもまた学校に来るようになったから上がってきてるらしいけど。」
「そういうことか。ありがとう、この恩は必ず返すよ。それじゃ。」
「えぇ!? そんな、別に……って、もういなくなっちゃった。」


221 : キモウトとひきこもり兄Ⅵ 2011/02/17(木) 02:01:58 ID:3hEu+ADY

(一人side)

お昼のチャイムとともにいくつか机をくっつけて昼飯の準備。
メンバーは俺、桜、麻奈ちゃん、紗耶ちゃんの四人。たまには男仲間とも食べるが基本はこんな感じになっている。
弁当の中身はまだ教えてもらっていないがいつものように美味しい物なんだろうと期待していた。

桜は兄の俺から見てもハイスペック妹だと思う。掃除洗濯はもちろんのこと、料理から勉強もできるし運動もそれなりだと聞いた。
ただ桜にも弱点はある。一つは機械関係の操作、ほかは最近になってわかったのだが俺が言うと桜は俺が言った内容をちゃんとをするようだ。
すなわち、俺自身が桜の弱点と言えるのではないだろうか。
昨日のこともあるしちょっとブラコン気味になっている桜を兄離れさせるべくこの昼休みで試してみようと思う。

「兄さん、これ今日のお弁当です。はいどうぞ。」
「ありがとう桜。」
「一人くんはいつも桜のお弁当で羨ましいですよ~。」
「まったく兄妹でイチャついて……。」
「私が弁当を作る係なんですからイチャついてなんかいませんよ。紗耶がそういうのに敏感なんじゃないですか?」
「桜~~!!」
「まぁまぁ紗耶ちゃんも落ち着いて!」

紗耶ちゃんは毒舌キャラ+ツッコミ役とわかったのもここ最近。
麻奈ちゃんは仲裁役で桜と紗耶ちゃんの間に入ることが多い。
まだ一週間程度しか通っていないがこの三人とは面白いほど息が合うと実感している。

「桜、明日は購買ですませるから弁当は作らなくていいからな。」
「え……あ、はい。わかりました……。」

意を決して言ってみたが桜は一瞬『え、兄さんなんて言ったんですか?』と言わんばかりの表情をしたあと間をあけて
やっぱり残念そうな顔をした。
ごめんな桜、これもお前のためなんだ。

「あの、兄さん。お弁当が美味しくないからですか……?」

桜が思いもよらないことを言ったので皆が慌てている。
質問に肯定してしまったらそれこそ家を飛び出すんじゃないかというほど真剣な顔だ。
ここが家だったら優しい言葉をかけることもできたが学校でやってしまうと桜のブラコンがよりひどくなるかもしれないので迂闊にはかけれない。
桜がじっと俺を見つめている。『兄さん、どうなんですか……? やっぱり美味しくないんですか……?』と言っているような気がした。

「桜~そんなことないよ~。一人くんいつも美味しそうに食べてたじゃないですか~!!」
麻奈ちゃんが察してすぐに声をかけたのでそれに続いて俺も言った。
「そうだぞ、桜のご飯美味しいぞ。不味くなんかないんだからな。もっと自身持っていいんだぞ?」
「桜は料理得意じゃないの? 一人さんにも理由があるんだろうし思いつめちゃダメじゃない。」
「はい……すみませんでした。兄さん、麻奈、紗耶ごめんなさい。」

実際に桜の弁当は美味しいし、不味いことなどありえないのでありのままの気持ちを伝えたつもりだ。
紗耶ちゃんはちょっときついことを言っていた気もするがそんなことも言える関係ということだから紗耶ちゃんなりの優しさなのだろう。


222 : キモウトとひきこもり兄Ⅵ 2011/02/17(木) 02:04:42 ID:3hEu+ADY

それからもパクパクと食べ進め、弁当もだいぶ減ってきた。

ガラッ!!!!!
突然廊下側から大きな音がしたので振り向くと

「ここか一人は!!!?」キョロキョロ
「せ、瀬里朱!!」

俺を見つけた瀬里朱はダダダッと勢い良く俺に飛び込み
「かあああずっっとおぉぉおおおお!!」むぎゅぅぅぅ

ダイビング抱きつきになった。
椅子に座っている俺目がけて飛び込んでくるのはかなり危ないんじゃないかと思って心配したが瀬里朱は無事だった。
それよりも体勢を崩した俺のほうが弁当を落としそうだ。

「せ、せりす!! 弁当落ち、ちゃうから……。」
「あ、あぁ!! すまない一人!!」

素早く身を離してくれたおかげで弁当を落とさずにすんだ。
ここで落としていたら確実に桜がさっきよりもしょぼくれてしまうし家ですごく気まずい状態になってしまうので回避できてよかった。

「伊吹さん!!! ぶつかって怪我でもしたらどうするんですか!? もうすこし考えてから行動してください!」

桜はいつもより大きな声を出し。席から立ち上がり瀬里朱の前まできている。
そしてクラスメイトの新しい一面を見た男子たちが驚いていた。

「私は大丈夫だぞ?」
この一言が余計に桜を怒らせてしまったようで
『違います!! 兄さんが怪我をしたらどうするんですか!!!』と激しいツッコミをいれた。

「さ、桜落ち着いて!!! ほら兄さんはこのとおり元気だぞ!!?」
桜と瀬里朱の間に入った。桜の目を見て話す。

「ほら大丈夫だろ? 安心していいんだからな。ほらよしよし。」
この際どう思われようが関係ないので桜の頭を撫でて落ち着かせる。
「ぁ……兄さん……。」
後ろを向いて瀬里朱を見る。ポカーンとした顔でこちらをみていた。奥からも黄色い声が聞こえたような気もしたがもう諦めようと思う。
「瀬里朱、話があるなら後にしてもらえないかな?」
「今じゃダメなのか?」
「あぁ……それじゃあちょっとまって。」
桜の方に向きなおしてみるとクラス全員からの視線がきていた。騒ぎを聞きつけて他の学年の人達もいるみたいだ。
「桜、ちょっと瀬里朱と話があるから待っていてくれ。すぐ戻るからさ。」
「はい……わかりました兄さん。」


瀬里朱side

一人に連れられてきたところは人気の少ない場所だった。さっきのところではなぜダメなのだろうか。

「なぁ一人、どうして君は一年の中に混じっているんだ。答えてくれないか?」
「それはだな……。」
「どうしたんだ一人。私には言えないのか?」
「留年を繰り返しちゃってさ……本当なら退学の扱いなんだけどもなんとかなったんだ。」
「っ!!! 本当だったのか。一人はそんなに頭が悪いのか? なら私が教えるぞ、いや教えさせてくれないか。心配するな、私は頭が良いんだぞ。」
「そうじゃなくて、学校休んでいた時期があってさ……これ以上は言いたくないんだ、ごめん。」
「それはさっき聞いたんだ。でも私は君のことがもっと知りたい。大丈夫だ、君のことはどんなことがあっても受け止めれる。私は君の嫁だ、私の前では素直になっていいん

だ。」
「違うんだ瀬里朱、そうじゃないんだ。話して瀬里朱を失望させたくない……。」
「まだだめか……ならいい。すまない一人、もう教室に帰る。」
「あ、あぁじゃあな瀬里朱。」

一人とわかれてからほんの数十分だと思った。だがもうとっくに下校時間を過ぎていた。
さっきまで何をしていたのかも忘れてしまった。
なぜだ一人、なぜ私に教えてくれないんだ。私は君さえいてくれればいいんだ、君だけでいいんだ。それなのにだめなのか一人……。

できればしたくはなかったが君が教えてくれないなら仕方ない。
携帯電話をだして電話をかける。
「すまない私だ。調べてほしいものがある。わかったらこっちに連絡をくれ。」
「はいわかりましたお嬢様。どんな内容でしょうか?」
「紅瀬一人について調べてくれ、些細なことでもいいからわかったことは全てだ。」

用件を言ってすぐ切る。私と君のこれからのことだ、今は許してくれ一人。
頼りたくないものに頼るのは嫌なものだな。

薬品企業社長の娘として生まれ、上流階級にあり続けることを決められていた。それが嫌だった。
だから自力で登り上がろうとした。君と一緒に暮らせるのを夢見て。
そして権力も地位も財もすべて私の力で勝ち取った。周りからは天才などと呼ばれたが私は違う。
君がいたから、君と暮らしたかっただけだからだ。

しかし相変わらず家に頼らないといけないとはな。だがそれもあと少しだろう。

家に帰った。今思うと生活感が足りてないな。
一人が来たときにがっかりさせてしまうだろうからそれまでにはある程度用意しておくか。

パソコンを確認したら一件メールが届いていた。流石だな、と思ってしまった。
早速内容を見たら事細かく君のことについて書いてあった。
君の好きなもの……君の趣味……身長、体重、どこから手に入れたのだろうと思うものばかりだった。
本文の途中に気になることが書いてあった。

「中学校三年生2学期より学校に来なくなる。理由はいじめを受けたからとのこと。」

そういうことか……。やはり君は私が守らないといけないんだ。



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最終更新:2011年02月21日 20:54
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