166 名前: キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2010/11/03(水) 11:55:37 ID:hRsAW5Cw
陽の光も消え、辺りは家々の光が輝いている。
昼の暑さが感じられないほど肌寒くなり秋の訪れを現しているようだ。
耳を澄ませば虫たちの声もどこからか聞こえている。
しかし彼にとってはその声は聞こえるはずもなく、声は相手を探し、むなしく響くだけであった。
(一人side)
「とすると俺と伊吹s」
「瀬里朱と呼んでくれ一人。」
「は、はい。じゃあ瀬里s」
「一人!!『はい』なんて言うな…頼む……他人みたいに言わないでくれ…悲しくなってくるじゃないか……。」
彼女が再び泣きそうになる。
拒絶されているように感じているのだろうか。俺も悪いことをした気持ちになってきた。
「ごめん…瀬里朱。」
「いいんだ一人。昔のことだ…憶えてないのも無理はない…。」
「すみません伊吹さん、兄さんとは許嫁といいましたけど本当に母さんたちが決めていたんですか?」
桜が俺の代わりに話を進めてくれた。桜も桜なりに俺の許嫁が出てきたなんてことになったから気になるんだろうか。
「そうだ、私と一人が離れ離れになる前からだからな。」
「でもそれって昔のことですから冗談だったんじゃないですか?」
「それはない。」
「……。」
桜が不機嫌そうな顔になる。ここまで表情をだしているのは珍しいことだ。
普段なら人形に喜怒哀楽の少しを足したくらいしかだしていないから見分けは付きにくいはずだが
ここまでわかりやすいと桜がどれだけ俺を心配しているのかわかったような気がした。
「いくら伊吹さんが兄さんのことを好きだったとしても兄さんにだって拒否権あるはずです。」
「そうだな、確かにそうだ。だが一人は必ず私のことを好きなってくれる。」
「そうですか…。」
167 名前: キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2010/11/03(水) 11:57:05 ID:hRsAW5Cw
(桜side)
兄さん、あの女殺していいですか?
私もう耐えられないです。私と兄さんの世界を壊そうとする奴は殺せばいいんです。
えっ?兄さんは私がそんなことをしたら私のこと嫌いになるんですか…?
イヤです。兄さんに嫌われてしまうのなら殺さなくていいです。あの女は生かしておきます。
いい子だなんて……恥ずかしいです兄さん。嬉しい…兄さんにほめられた。大好きです兄さん。
そうでした、兄さんは暴力は嫌いでしたね。兄さんのことを分かっていなくてすみません。今は反省しないといけません。
兄さんのことを誰よりも知っていて、誰よりも愛しているんです。なのに私が熱くなってはいけません。
あんなのに構っているより兄さんとお話をすることのほうがとっても大事です。
「桜~。お~い桜~。聞いてるのか~?」
「……はっはい!?兄さん呼びましたか!?」
「話している途中なんだからボーっとしちゃだめだぞ桜。」
「すみません…兄さん。」
またやってしまいました…。兄さんごめんなさい。許してください。兄さんが折角私に声をかけてくれたのに……。
なんて愚かなんでしょうか私は…許されるなら今この場で兄さんに千の言葉をもって謝りたいです。
ですがそんなことをしてしまったら兄さんは戸惑に違いありません。兄さんを困らせてしまっては意味がありません。
「瀬里朱、話を続けてくれないか。」
兄さんは話を聞きたがっているのでしょうか?
あんなやつの話なんか気にしなくていいのに。
「わかった。私の両親と一人達の両親が仲が良かったというのはさっき話したな? それから何度も連絡を取り合っているうちに
結婚の話ができてきたんだ。実際私と一人は仲が良かったからな。そして今に至るわけなんだ。こっちも連絡がとれなくなって不安になっていたが
まさかご両親が亡くなっているとは思わなかったんだ。分かってくれたか一人?」
「
なんとなくわかったよ。でもはっきり言うよ、今は瀬里朱のことを何も知らないし、好きでもないんだ。だから結婚の話のことは今は答えられない。」
嬉しい…兄さんは私がいるからあんなやつはいらないと言ってくれました。
兄さん、好きです。好きです。好きです。
ずっと一緒です。ずっとずっとです。
「そうか…そうだな。だが今は答えられなくともいずれ君の口から『好きだ』と言わせてみせよう。一人、今日はありがとう、私は帰ることにするぞ。」
「桜、すまないけど玄関まで送ってくれないか? 俺はやることがあるからさ。瀬里朱、見送れなくてごめんな。」
兄さんはそう言うと共同の部屋に入って荷物を片付けた後、作業部屋に行ってしまいました。
それにしてもあの女も諦めが悪いです。兄さんは私を選んだというのに。
「伊吹さん、玄関までですけど送りますね。」
「ありがとう桜ちゃん。桜ちゃんからお兄さんを奪うようなことを言ってしまってこちらも反省している。」
「別にいいです伊吹さん。それではさようなら、夜道気をつけてください。」
「気にしなくとも大丈夫だ。それではさようなら。」
ガチャ!バタンッ
168 名前: キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2010/11/03(水) 11:58:24 ID:hRsAW5Cw
やっと邪魔者が消えました兄さん。これで
二人だけの世界に戻ります。兄さん、愛しい兄さん。やっと二人きりです。
今日はどこに行っていたのか聞かないと。それに兄さんにちゃんと携帯電話を持たせるように言っておかないといけません。
私は兄さんのペットです。ご主人様を心配になるのは当たり前です。
兄さんがいないと私は餌をもらえない犬そのものです。ひたすらご主人様を待って鳴いているしかないのです。
それなのに今日は兄さんの嫌いな汚いことをしていたなんて反省しないといけません。
ましてや兄さんのベッドでしていただなんて……。
兄さんはそういうのが嫌いで二次元とかいうものにいってしまったのですから私がしっかりしないといけないんです。
兄さんは人間の汚い部分が大嫌いです。昔からずっと、ずっとです。
だからあんなに人と付き合うのが苦手なんです。弱みを見せたらいつか自分に火が来ると思っているんです。
兄さんの思っていることはあっています。
兄さんは私という汚い妹のせいで人生を滅茶苦茶にされ、人を信じるのが怖くなってしまったのですから。
兄さんの嫌いなことをしているのはダメなことです。兄さんの喜ぶことをしないといけないんです。
兄さんの幸せが私の幸せなんです。
他のやつは兄さんを幸せになんかできません。
兄さんのことが誰よりも好きな私にしかできないんです。
だから今のうちに精々楽しんでおくといいのです。
「桜~ちょっとこっち来てくれないか~?」
兄さんの声が遠くから聞こえました。多分作業部屋で身動きがとれなくなったのかもしれません。
こういうときは私が助けにいかないといけないので兄さんの身体に触れるチャンスです。
「はい兄さん今すぐ行きます。」
スタタッと小走りで作業部屋に行くと兄さんが何かを作っているようでした。
兄さんは昔からプラモデルや模型が上手なのでときどきこの作業部屋で作っていることがあるのです。
「兄さん何か用ですか?」
「あぁ桜そこの工具とってくれないか?今手が離せないんだ」
「はいわかりました兄さん。」
私は兄さんの視線の先にあった工具をとって手渡しました。
はぁ…兄さんの顔が近いです。兄さん…好きです。
兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん
私を見てください。私だけを見てください。私を奪ってください。私を殺してください。
私を犯してください。私を愛してください。私を殴ってください。私を…
169 名前: キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2010/11/03(水) 11:59:28 ID:hRsAW5Cw
「よし!一段落ついたな。桜ちょっとそこどいてくれないか?桜~?
桜~。お~い。またボケっとしてるのか~?ここだと危ないぞ~。」
気がついたら兄さんが私の肩に手をのせていました。
兄さんの目からは私にたいする慈愛のようなものが見えました。
私は何時まで経っても兄さんの重荷でしかないのでしょうか……。
そんなはずないです。私は兄さんの役に立っています。絶対に。
「あぁすみません兄さん。ちょっと考え事で……。」
今日二度目です…。私としたことが情けないです…。でも兄さんが大好きだからなんです。
「すみません兄さん…。」
「いいよ桜、でもここだと危ないからな。それに疲れているんじゃないのか?」
兄さんは肩にかけてた手を伸ばして私のおでこに触れました。
兄さんに触れられた喜びが身体を駆け巡る。
「ありゃ…熱出ているんじゃないか?」
兄さんはそう言うとすぐに部屋を出て体温計を持ってくると私に差し出しました。
「桜、測ってみて。それとベットで休んでたほうがいいぞ。」
「はい、わかりました。」
私は兄さんに言われたとおり部屋に戻り、ベットに入って体温を測ることにしました。
しばらくすると兄さんが飲み物と薬を持ってきてくれました。
「桜、何度かわかるか?」
「37.4度です…。」
「まだ低いほうだけどゆっくりしておかないとな…明日はじっくり休んでおこうな?」
「で、ですけど兄さん、明日はお買い物の約束が……。」
「桜のほうがずっと大事だよ。大切で大好きな、唯一の家族なんだから心配させられる側の気持ちにもなってくれ。」
「はい…。」
兄さんに大好きと言われました…涙が出そうです…。
「桜、苦しかったらすぐ言うんだぞ。今日はそばにいてやるからな。」
「はい兄さん。あ、あのできれば一緒に…寝てもいいですか…?」
「桜はいつもは無口なのに風邪をひくと随分甘えん坊になるんだなぁ~。可愛いこと言ってくれるじゃないか。」
「一緒に寝てもいいんですか…?」
「明日買い物に行けないぶん、治るまで一緒にいるよ。」
思考が速くなる。兄さんのことでいっぱいになる。
嬉しい。嬉しい。嬉しすぎます。
兄さんは私のことが好きなんです。そうに決まっています。
だから兄さんは私と結ばれるべきなんです。
そうです、そうに違いないです。
邪魔な奴はもういない。
兄さんは私がいれば十分です。
私も兄さんがいなきゃおかしくなりそうですから兄さんと私が結ばれるのは当たり前のことです。
「兄さん迷惑かけてごめんなさい…。」
「大丈夫だよ桜。迷惑なんかじゃないからね。桜、早いかもしれないけどもう寝ようね。」
「はいわかりました兄さん。」
そう言って私は瞳を閉じました。
でも寝れそうにないです。兄さんが頭を撫でてくれます。
それだけでも興奮して眠れません。
ですが兄さんに心配をかけてしまうのは良くないです。だから寝なきゃいけません。
170 名前: キモウトとひきこもり兄Ⅴ 2010/11/03(水) 12:00:48 ID:hRsAW5Cw
数時間後
やはり起きてしまいました…。身体を起こしてあたりを見回しますが真っ暗で何も見えないです。
それでも兄さんの温かさは感じれます。
はぁ…兄さんの寝顔がこんなに近いなんて……。
あぁそうでした、兄さんに携帯のことを言っていませんでした。
でも大丈夫かもしれません。兄さんは私のことが大好きですから他の女とくっつくことなんてありえないです。
兄さんに近づいて兄さんの温かさを感じます。
兄さんはどこか窮屈そうな表情でしたが今日は兄さんに甘えたいです。
明日はもっと兄さんといつもはできないことをするんです。
兄さんの唇を指でなぞると兄さんはもぞもぞとしました。可愛い、食べてしまいたい。
キスは今はできないですが、抱きつくことならできます。
私は兄さんにもっと近づいて抱きつくような状態で寝ることにしました。
あぁ…兄さん大好きです。
だからこそ兄さんに、私を選んでくれた兄さんに尽くしたい。
兄さんにされることなら何でも嬉しいです。
「兄さん、おやすみなさい。」
(瀬里朱side)
日本に戻ってくるのは何年ぶりだろうか……。
君と別れてからも少しは日本にいたが君との思い出のないことはどうでもいい。
君にまたあえて良かった。今日は心からそう思った。
君との思い出は私にとってとても大事なものだ。それはこれからも変わらないだろう。
アルバムをめくる。そこには小さい頃の私と君がいる。
昔の君はこんなに笑っていたのに、どうして今の君は笑っていなかったんだ。
君に何かあったのか心配だ。私が君を守れなかったせいなのか?
でも大丈夫だ。ここにいる限り私が君を守る。君の敵は私が殺す。
君はいつも私を引っ張ってくれていたな。
奇異な目で見られ、虐められていた私を守ってくれた。
その頃からずっと君を想い続けているよ。今度は私が君を守る番だ。
「一人……。」
愛しい君の名前。君が好きだ。
私にはお金も権力も知恵もある。君が好きなものは何だって買ってあげられる。
もちろん私も君に相応しい人になれるように頑張ったんだ。
だから君は私と生涯を共にするんだ。そうだろう一人?
私しかいないこの家は君との家にしてもいい。
嫌なら世界中どこにでも作っていい。どんな豪邸でも君のためなら惜しまない。
君さえいれば私はいい。
だが私以外の女を作ったら君でも許さない。君を殺してでも一緒にいよう。
「おやすみ一人。愛しているよ。」
アルバムを閉じ、ベットの明かりを消した。
最終更新:2010年11月07日 18:29