幸せな2人の話 補足・下(終わりB)

372 名前:幸せな2人の話 補足・下(終わりB)[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 02:58:47.34 ID:QIcezTTP
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「沙紀、あのさ……」
だから、俺はこんな沙紀を見たくなんてない。
「ごめんね、圭君、今は聞きたくないの」
それでも、俺には今すぐに言いたい事がある。
「お前の事が大好きだ、誰よりも。
 俺は沙紀の側を絶対に離れたりしないからな」
「えっ……」
沙紀が顔を上げる。
涙も拭かないままで呆然としていた。
「どうして、なの?
 今までそんな事言ってくれなかったのに」
「だから、だよ。
 陽たちの事を考えたらどうしても言いたくなったんだ。
 愛してる、俺は沙紀とずっと一緒に居たい」
驚きの表情のままだった沙紀が、
ふわりと穏やかな笑顔になった。
「……ありがとう、圭君。
 えっと、だから、動かないでくれるかな?」
言うや否や、沙紀が正に目にも止まらぬ速さで抜刀し、
気付いた時には俺の目の前に刃先が振り下ろされていた。


373 名前:幸せな2人の話 補足・下(終わりB)[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 02:59:12.75 ID:QIcezTTP
じゃらり、じゃり、じゃらりと鎖が寸断された床に落ちる。
だが、俺の体には傷の一つも付いていない。
これは、どういうつもりなんだろう?
「だって、必要が無いもの」
沙紀は俺の疑問を先読みするように言った。
「……圭君が他の女の子と居ると圭君が離れて行きそうで怖かったの。
 だから、圭君の気持ちを私へ釘付けにしないとって、
 自分でも押えきれなくなっちゃうんだ。
俺は苦笑した。
沙紀の、嫉妬深い、
という控えめ過ぎる言葉が無性におかしかった。
「知ってるよ。
 ただ、もうちょっと手心を加えてくれると嬉しいな」
「安心して、もうそんな事しないから。
 だって、圭君が今言ってくれたでしょ?
 絶対に私から離れないって」
「ああ、けど、それだけで良いのか?
 その、俺が言うのも難だけど、ただの口約束だよ?」
「大丈夫だよ。
 圭君は私に言った約束は絶対に破らないわ。
 だから、もう圭君を縛る必要なんて私には無いよ」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
「じゃあ、今までのお仕置きは……」
そう俺が言うと沙紀は顔を赤らめた。
「ふふ、馬鹿らしいよね。
 私も雪風達の事、全然責められないね」
顔を見合わせた時、俺も、沙紀も涙を流していた。
それはお互いの想いが通じ合う事の嬉しさなのか、
それとも、陽や雪風や、シルフちゃんに対してなのか。
何の為の涙なのか分からなかった。
「沙紀、泣いてるよ」
「くす、圭君こそ」
沙紀は俺から顔を逸らしながらハンカチで顔を拭った。
本当に単純なんだな、ただちょっと言葉を伝えるだけで良かったんだ。
それだけで幸せになれる。


374 名前:幸せな2人の話 補足・下(終わりB)[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 02:59:41.61 ID:QIcezTTP
俺と沙紀は幸せなんだ。
こうやって二人で言葉や想いを伝えあえるのだから。

じゃあ、それがもうできないんだとしたら?
じゃあ、陽や、雪風や、シルフちゃんは、やっぱり、不幸なんだろうな。

三人の事を考えてしまうと、また目が熱くなった。
それを沙紀から隠そうとして手で顔を覆う。
「だめだよー、圭君。
 折角、約束してくれたのにそんな泣き顔になっちゃ」
そっと沙紀の手が俺の顔を持ち上げる。
沙紀はもう泣いていなかった、代わりに笑顔があった。
それから俺に言った、行こう、と。
「? 行くって、どこへ?」
「雪風の所」
「え、だって今更、無駄なんだろ?」
「気が変わったんだ。
 やっぱり、気持ちは伝わった方が良いの。
 ……その方がずっと幸せだって、今分かったから。
 ありがとう、圭君」
「本当に良いのか?
 上手く行くなんて分からないし、
 シルフちゃんと喧嘩になるんだぞ?」
「大丈夫だよ、陽君が諦めてなければ絶対に上手く行くって!!
 陽君には伝えたい事があるんだから。
 それに、圭君は私と一緒に居てくれるんだよね?」
「ああ、約束する」
「だから、絶対に大丈夫!!」 

そう言って沙紀は駆け出した。
左手に物騒な刀を、右手に転びそうな俺の手を握って。


375 名前:幸せな2人の話 補足・下(終わりB)[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 03:00:08.13 ID:QIcezTTP
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……今日も行かなかった。
夢の中でシルフも雪風も残念そうな顔をしてたな。
二人の居る所の手前までは行ったんだけど。
けど、それでも俺が本当に幸せにしたいのは夢の中の二人じゃない。
そう心に誓ってなんとかあと一歩の所で踏み留まれた。
ただ、あと何回我慢できるのかは自分でも分からないけど。

イイカゲンニシテヨ!! 
ナンナノ、ナンノツモリナノ!!
ワタシノイバショヲモウトラナイデ
オネガイダカラヤメテ……

はぁ、でも、結局、
今日だって本当の二人には伝えられないんだろうな……。

オ、アキラダ
ア、アキラクンダ

オ、オニイチャン!?
ガン!
ア、ウ、ヒキョウ……
ゴン! ゴン!! ゴン!!! ゴン!!!! ゴン!!!!!
……バタン
エ、チョット、シルフチャン!! ッテ、アッ!!
ゴン
パタ……

……? 何だ?
さっきから下でドタン、ドタンと凄い音がしてるんだが?

不審に思っていると間もなく勢い良く部屋のドアが開き、
ドサドサと人型の何かが乱暴に放り込まれた。

って、え、これシルフと雪風か!?

何が何だか分からない状況に思考が追い付かない。
すると、きゅう~、と目を回して床に伏せる二人の後ろから、
久しく顔を見ていなかった二人の幼馴染が慌ただしく現れた、
虎かライオンと喧嘩をしたのかというぐらいにボロボロな姿で。
圭はずるずると右足を引きずっていて右腕も折れているっぽいし、
沙紀の方は自慢の刀が半分くらいの所で折られている。
けれど自分の傷を気に留める様子もなく二人は部屋に入ってきて、
てきぱきと気絶しているシルフと雪風を床に押さえつけた。

「やっほー、圭(くん)」

……一体どうしたんだ、お前ら?

「幸せの押し売りに来たぞー(よー)!!」

俺は沙紀と圭から目を背けた。
もう、幸せなんて言葉はうんざりだ。


376 名前:幸せな2人の話 補足・下(終わりB)[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 03:01:23.40 ID:QIcezTTP
いい加減にしてくれよ。
何なんだよ、幸せ、幸せって。
もう良いだろ。
シルフも雪風もこれで良いって言うなら、
これ以上邪魔なんてしないでくれよ。

「あれ、どうしたの?
 どうして黙ってるのかなー?」

煩いな、知ってるんだろ?
俺はもう喋れないんだよ。
……こいつら、本当に何をしに来たのだろう?
今更、何が出来るっていうん……痛っ!?
何か四角い物を圭からぶつけられた。
箱だった、俺の顔にぶつかって地面に落ちる。

「良いから、さっさと受け取れ。
 それで、早く渡してやれよ、この馬鹿!!」

落ちた衝撃で箱が開いた。
その中には、あの指輪が、あった。

「何のつもりなの!? 放してよ!!」

雪風の声に呆然と指輪を見ていた俺は我に帰った。
圭に押さえつけられている雪風が沙紀に向かって叫んでいた。
同様に沙紀に押さえつけられているシルフは黙って床を見つめている。
「だーめ、陽君は二人に伝えたい事があると思うの。
 だから今、それをちゃーんと言ってもらおうねー」
「止めろ!!」
それを聞いた雪風が激昂して怒鳴った。
まるで沙紀を喰い殺さんばかりの必死の形相だった。
「嫌、私は聞きたくなんて、ない……」
シルフが弱く呟く。
昔みたいに怯えていて、目は涙で潤んでいる。
「ね、本当にこれで二人が幸せだと思うの?」


377 名前:幸せな2人の話 補足・下(終わりB)[sage] 投稿日:2011/03/22(火) 03:02:58.49 ID:QIcezTTP

違う、こんなのは幸せなんかじゃない。

「思わないよね。
 なら、陽君は言わないといけない事があるんじゃないのかなー?
 今ならきっと伝わるよ。
 それでも、そのまま黙っているつもりなの?」
沙紀が厳しい視線で俺を責めたてる。

ありがとう、沙紀。
今なら雪風もシルフもちゃんと聞いてくれるってのに、
こんな時に黙ってなんていたら駄目だよな。

「それとも、本当に何にも出来ないなんて訳じゃないだろうな?」
圭が挑発をするような口調で言った。

大丈夫だ。
何度も何度も練習したんだ。
だから、絶対に言える。

息を大きく吸って、全身に力を溜める。

「止めて…お兄ちゃん……」
「兄さん、言わないで!!」
シルフと雪風の声が聞こえた。

俺は、言った。



シルフ セツカ イママデモ コレカラモ アイシテル


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最終更新:2011年03月26日 11:43
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