473 名前:郁斗!それキモ姉フラグや![sage] 投稿日:2011/03/30(水) 23:38:08.96 ID:SmrDkf2G
「僕と付き合ってください」
何かが私に向かって騒音を出している
ああ、鬱陶しいなぁ
私は耳障りな騒音を聞き流しながら、屋上からいっくんを見下ろす
豆粒がいっぱい紛れてて邪魔だけど、
私はお姉ちゃんだから、いっくんを豆粒から見つけ出すくらい容易い
昔は一緒に帰ってたのに、照れくさいのかいつからかいっくんはお姉ちゃんと帰りたがらなくなった
これは、それ以来続けている行為だ
いつもならまっすぐ帰るいっくんが、今日は中庭に寄り道しているのが見えた
寄り道なんかして、いけないんだ
帰ったら、寄り道なんかしたらダメだよって、注意しなきゃ
いっくんは『何』かに話しかけているみたいだった
何をやってるんだろう?
周りの雑音を消して、耳を澄ます
お姉ちゃんだから、雑音の中から遠くのいっくんの声を聞くなんて簡単だ
「好きです!付き合ってください!!」
いっくんは不思議なことを『何』かに向かって言っていた
スキデスツキアッテクダサイ
変な言葉だ、いっくんらしくない
外のバイキンのせいで、おかしくなってしまったんだろうか
いっくんは私みたいに身体が丈夫じゃないから、心配だ
心の中でもう一度、反芻する
スキデスツキアッテクダサイ
すごく、不安になる言葉だった
その日は、よく眠れなかった
474 名前:郁斗!それキモ姉フラグや![sage] 投稿日:2011/03/30(水) 23:39:14.96 ID:SmrDkf2G
「はぁ・・・はぁ・・・」
ゆっくりと、慎重に
少しでも手元が狂えば、俺に未来はない
全身の神経を己が腕に集中させ、作業に集中する
「おい、郁斗(いくと)のヤツ、何でカッター使うだけであんなプルプル振るえてんだ?」
「ハァハァ言ってるし・・・キモっ」
外野がうるさいが集中力を欠いてはいけないっ
もう少し、もう少しだ
この面倒な厚紙をあと何センチも切れば真っ二つ、それで俺の仕事は終わり
晴れて自由だ
が、そこで気を抜いたのがまずかった
「ッ・・・」
指に、ちくりとした痛み
見ると、厚紙に添えていた左手の人差し指に小さな細く赤い線が一本、刻まれていた
「う・・・」
状況を理解するのに数秒
「うわあああああああああああああああっ!!!」
俺は絶叫した
「おい、今度は指ちょっと切っただけでヒスり始めたぞ」
「大袈裟だな」
「キモ・・・」
更に外野から痛烈な台詞が飛ぶが、俺はそれどころではない
奴等は知らないのだ、この後に襲い来る恐怖を
「何処か・・・何処か隠れる場所は・・・」
必死に辺りを見渡し、たまたま目に入った教室の掃除用具入れのロッカーに飛び込む
「おい、郁斗?なんというか・・・大丈夫か?」
見かねた友人の一人がロッカーに籠もった俺に声をかける
その台詞には心配よりも憐れみの方が多く含まれているように思えた
「頼む、もしこの教室に誰かが来ても、ここに俺がいることを言わないでくれないk「いっくぅうううううんっ!!!!」
ロッカーの扉越しに俺が言い終わるか終わらないかのうちに、廊下からものすごい勢いで誰かが教室に走りこんできた
「いっくん大丈夫!?ケガはどこ!?お姉ちゃんがお薬と絆創膏と包帯とギプスを持ってきたからもう大丈夫だよ!?」
長い髪を靡かせて現れたのはまさに美少女
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能と漫画やゲームでしか聞かないような冗談みたいなスペックを持つ、俺の実の姉
が、そのブラコンは最早変態の域に到達し、弟の俺としては気持ち悪い限りだ
「いっくん何処なの!?早くしないと傷口からバイキンが入って死んじゃうよ!!」
教室のやつらは突然の闖入者にただ唖然としている
「いっくん・・・こんなに呼んでも出てこないなんて、きっと怪我して動けないんだ・・・」
まずい、ここに居てもいずれ見つかってしまう
「今見つけてあげるね!くんくん・・・いっくんの匂いがする・・・こっちかなぁ」
どうやら文字通り嗅ぎつかれたらしい、というかどんな嗅覚だよ
がちゃり、とロッカーが開けられ______
「あはっいっくん発見!」
俺は、捕らえられてしまったのだった
475 名前:郁斗!それキモ姉フラグや![sage] 投稿日:2011/03/30(水) 23:39:49.39 ID:SmrDkf2G
その日の夜
「はい、あ~ん♪」
「・・・・・」
両腕が使えないいっくんの代わりに、ご飯を運ぶ
いっくんのお口にご飯を運べるなんて、不謹慎だけど、すごく嬉しい
「何処の世界にちょっと指切っただけで両腕ギプスで固める奴が居るんだよ・・・」
いっくんはちょっと拗ねちゃったみたいだけど、大事が無くて本当によかった
「だっていっくんが心配なんだもん」
「いやこれ心配とかそういうレベルじゃねえって」
「えへへ、だって」
かわいいいっくんを守るためなら、これくらいはできないとお姉ちゃん失格だよ
外の悪いバイキンが入ったらいっくんが病気になっちゃうし
そう思っていたら、いっくんが突然大きな声を出した
「いい加減鬱陶しいんだよ!!へらへらしやがって!!」
「え・・・・・・・・・?」
私はびっくりして、言葉を失ってしまった
いっくんがこんな大きい声を出すなんて、はじめてだったから
いっくんははっとして「ごめん・・・」と何故か謝った
なんでいっくんは謝ったんだろう?
ウットウシイって言ったから?
でも、ウットウシイって何?よくわからない
あ、わかった
いっくんお野菜に嫌いなニンジンが入ってるから誤魔化そうとしてるんだ
「もうっ、いっくん!ニンジンが入ってるからってそうやって誤魔化そうとして~」
「あのなぁ・・・ニンジン嫌いだったのなんていつの話だよ・・・」
しぶしぶ、といった感じでお野菜を食べるいっくん
すっごくすっごくかわいい
だけど、心配になる
昨日や今日、いや最近か
いっくんはさっきのように訳のわからない言葉をよく口走るようになってきた
『外』に毒されている証拠だ
私は不安を感じている
いっくんはちゃんとわかってるのかな?
お姉ちゃんがいないとダメなんだって
お姉ちゃんだけがいっくんを独り占めしていいんだって
お姉ちゃんだけがいっくんの味方で、お姉ちゃんだけがいっくんの家族で、お姉ちゃんだけがいっくんのお嫁さんで____
「おい姉貴!」
「えっ?あ・・・ごめんね、お姉ちゃんボーっとしてたよ」
「別にいいけどさ、食わせるなら早く飯食わせてくれよ」
「うん、えへへ」
大丈夫だよね?いっくんは私を裏切らないもの
ずーっと前に約束したもんね、他の誰が約束するよりもずっと前に
いっくんは、いつまでもずっとお姉ちゃんだけが大好きなんだもんね
476 名前:郁斗!それキモ姉フラグや![sage] 投稿日:2011/03/30(水) 23:40:28.83 ID:SmrDkf2G
自室で休んでいると、急に携帯が鳴った
急いで出ると、待ちわびた声が聞こえた
『ごめんね。返事、一日も待たせちゃって』
「いや、いいんだ。大事なことだし」
手が震えて、自分がすごく緊張しているのがわかる
「ほんとに?俺とでいいのか?」
『いいのかって、郁斗くんが言ってくれたんじゃない』
どきどきと胸が高鳴る
「じゃ、じゃあ・・・俺たち」
『うん、よろしくね。彼氏さん』
俺は、飛び上がって喜んだ
今まで姉貴に振り回されてばかりだったけど、やっとツキが回ってきたみたいだ
いつもより、少し早めに布団に入る
明日から、振り回されてばかりだった俺の生活は、きっと素晴らしいものになるだろう
いい機会だし、姉貴にも彼女ができたことを知らせようか
きっと弟離れのいい切っ掛けになるに違いない
俺は、これから起こるだろう楽しい出来事を想像しながら目を閉じた
最終更新:2011年04月02日 11:31