義理兄妹 3

481 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [] 投稿日:2011/05/09(月) 18:38:22.81 ID:AnK4RP7W
「お兄ちゃん、起きて」
「うーん、後1日」
「月曜日になっちゃうよ」
「……もうちょい……」
そんな言葉を口のなかで混ぜながらうつぶせの状態で枕を掴み、布団に潜りこむ
ポスんと音がして腰のあたりに重みが加わった

顎が柔らかい手に包まれた

ヤバいと思ったときには背中に激痛が走る
背骨が自分の意などおかまいなしに曲がっていく
なんだっけこれ
えっとそうキャメルクラッチだ

「…ギ…ブ」
その一言が喉から漏れると頭部が弧を描いて布団に落下していく

なんか今日はやけに起こし方が荒い
どうしたんだろう
昨日はちゃんと約束の時間に帰ってきたし、ちゃんと筋トレしたし……
おい、怒られる要素ねぇぞ
これはひとつ文句をいってやらないと

ペタン
あれ?なんか柔らかいものが背中に落ちてきた

ん?これは態勢的には敷布団にされてんのかわぁ、親亀子亀ならぬ兄亀妹亀だな
「ちょ、なんなんだよ。行動が荒かったり、謎だったりでついてけないよ」
「!それは今朝うつぶせだったからキ…」
「き?」
「りぎりすが鳴くころね」
「俺の寝相とキリギリスの求愛は関係なくね?」
「うるさい、この低血圧。時間を確認してからいいなさい」
えっと目覚まし時計は……うわーい、ヤバっい~

「だー、なんでもっと早く起こしてくんないだよ」
サキちゃんを背後にして、慌ててパジャマがわりにしていたジャージの上下を脱ぐ


484 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:03:27.64 ID:AnK4RP7W
「ちょっパンツの前後逆!」
「いっ?マジ!」
確かに前開きがない、う~ん我ながら抜けている
直そうとすると突っかかった

あれ?朝勃ち?
うわ、最近やたら元気だな、おい

・・・なんか視線感じるってことは・・・サキちゃんですよね
えーっと、ここで見んなというのは小さい頃から見てたサキちゃんには通じない訳で
かといって勃ってるのをみせるのは抵抗が……
いやいや、パンツ半分脱ぎかけた状態の方が恥ずかしいよ

「ごめん、お見苦しいものを…サキちゃんなんでガッツポーズしてんの?」
「やったぜ、亜鉛!……!!いや、なんでもないの。」
朝からやや壊れてますねサキちゃん
まぁ、今日はお父さんとお母さんのお墓参りだから緊張してんのかな


486 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:06:33.44 ID:AnK4RP7W
「えっとご飯はどうしよっか」
「朝はもう準備できてますよ」
「いやいや、昼だよ。お寺の近くのお蕎麦屋さん、行くの?」
「白玉ぜんざい頼んでいいの?!」
「それくらいのお給料はもらってるし、毎回食べるでしょ、サキちゃん」
「絶品なんだよ。」
「うーん、甘いのは苦手だ」
「食べてみればわっかるのに、もったいないんだ。早くしてね」
「はいはい」
といった話があり現在、二人で件のお蕎麦屋さんにいるわけだ
蕎麦を食べるまでは良かった。天ざるの海老が無言でさらわれた以外はね、
(多分、いつものカロリーオーバーだろうしね)しかし、これは……

「はい、あーん」
わずかに粒がわかるぜんざいにまみれた白玉を木でできたスプーンで
俺の口元に運んできて笑っているサキちゃん

甘いのが苦手うんぬん前に昼時で賑わう店内でこれは……


487 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:08:36.29 ID:AnK4RP7W
えっと、羞恥プレイ?
無理無理
しかも絵面が最悪だよ
兄妹見られてるならまだいいけど一歩違えばなんか援交デートみたいだよ
うわぁ笑顔が崩れてきたよ
怒んないでサキちゃん
墓参りもすんでないのに雰囲気最悪とかいやだよ
だー、どうにでもなれ!
パク


488 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:11:10.28 ID:AnK4RP7W
「美味しい?」
「あ、うん。割りと甘さ控え目でいけるかと」
「でしょ!はい、あーん」
「ちょっと待って。海老天とっていったしカロリーオーバーじゃねえの?」
「これをするためにカロリーの調整したに決まってます」
は、図ったなぁ!


山の中腹にあるメモリアルパークにお父さんとお母さんの墓はある。
丁寧に石を磨き、周囲を掃除すると、サキちゃんが手を合わせ、数秒で離した。
「参拝完了」
「早いよ。初詣並の拝みかただよ」
「う~ん、なに報告したらいいのか、わかんないし」
「……まぁ、しょうがないか」

墓の前で腰を降ろし、手を合わせる……


489 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:14:26.59 ID:AnK4RP7W
俺が白城夫妻の実の子ではないと、つまり養子だと知ったのは中学一年の春だった
偶然、近所の人たちが話してるのを聞いた。
内容は、まあ、二人の血が入っていないから、進学校に落ちたんだ、みたいなかんじだった
薄々、勘づいてはいた。それは、きっと顔の造形だとか、仕草だとか
そんな小さなことから解ったことだったけど

それが確信に変わっただけ。そうだ、それだけだ。それだけ・・・
・・・「だけ」と言えたのは両親が夜、寝室でやってることが何か知るまで

こう考えていた・・・
いつか、母さんの腹が膨らみだしたら
そしたら・・・そしたら・・・血がつながらない自分は棄てられるんじゃないか
要らないと、どこかに行ってしまえと冷たい言葉が鼓膜に響くのではないか
大好きなふたりは自分ではなく未だみぬヒトに奪われてしまうのではないか



490 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:18:09.56 ID:AnK4RP7W
簡単に言えば、俺は生まれてくるであろうキョウダイに、
恐怖し、嫉妬し、これ以上ないほどの憎悪を抱き、不幸を願った。
それこそ、人が人に抱いて許される感情の度合いを超えていたと思う
だから、俺はあの子と初めて出会い、腕に抱いたとき・・・
ギュム


491 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:22:31.91 ID:AnK4RP7W
耳、引っ張られた。
「ちょい、ちょい、ちょい、痛いっすよ」
「長いよ。そんなに報告することあるなら、まめに来たらいいんじゃないの」
「それは・・・ぐらついちゃうから、駄目かな」
「訳わかんないよ」
「うーん・・・こうやってお墓参りするとね、父さんと母さんが
 生きているみたいに感じるんだよね。なんとなく、気持ちが安心する
 でも、いない人間を頼ろうとするのは・・・ダメな気がする」
「・・・・・・お兄ちゃん。前にならえのポーズして」
「? こう」

両腕が肩の高さにくるようにピシッとのばす。
すると、サキちゃんは、先頭の子のやつでおねがい、といってきたので
今度は腕とわき腹が三角を描くように両手を腰にあてる。
軽い足取りで俺の背後に回ると腕をまわして、俺の体を支えあげた。準備体操なんかでやる、あれだ
ふわりと足が地面から離れる



492 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:26:39.72 ID:AnK4RP7W
「あのね、私、最近、居酒屋のチラシ渡されるの」
「え!?サキちゃん、未成年だよ。まだ早いよ」
「・・・そうじゃなくて、その・・・えっと、こんなこというの恥ずかしいけど」
「けど?」
「・・・私も少しずつ、大人になってる、だから『ほんの少しだけど、お兄ちゃんの力になりたい』」

・・・・・・・・・・・・なんでだろう、泣きたくなった
彼女の成長がみれたからか
こんな情けない自分を助けてくれるいってくれたからなのか
無理をさせてしまっていると感じたからか
それとも・・・・・・
「お兄ちゃん?泣いてるの?」
反動をつけて、足を地面につける。
かがんで、サキちゃんの腕をロック、そして、
回転、回転、回転、回転、回転、回転、回転、回転、回転、回転、回転、回転


493 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:31:07.03 ID:AnK4RP7W
三分ほどやって、涙も乾き、さすがに疲れたので、サキちゃんを降ろすと
サキちゃんは地面にへたりこみ、自分もその横に座った。
いろいろ文句をいっているサキちゃんを横目に空を見上げる

綺麗な夕焼けだ。空の一面に散らばった雲が沈んでいく太陽に吸い寄せられてくみたいだ

ああ、そっか、これだ
サキちゃんと初めて会ったときも、さっきのことも

いろんな感情が入り混じって、でも、最後に残るのは・・・



494 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:34:11.93 ID:AnK4RP7W
「ねえ!!聞いてるの!?なんであんなことしたのよ」
「がんばろうって思ったから」
「はあ!?」

君に初めてあったときも
さっき後ろから声をかけてくれた時も

最後に心の浮かんだ感情は・・・喜びだ
あれほどの暗い感情はどこへやら、君がいるとそんなものは消えてしまう

君を大切に、君を喜ばせてあげたいと思う


495 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:39:30.38 ID:AnK4RP7W
心の底からそう思うんだ。人なら普通の感情なのだろうけど
それが自然に心に浮かんでくることが、そうできるようになったことが
君の幸せを願えるようになったことが嬉しい

っと、悦にはいっていたら、いつのまにか
サキちゃんは怒って、一人で出口の方に大股で歩いて行っている

走って追いついて、さっとサキちゃんの手をとり、指を絡める
指の股と股がくっつくようにする
しっかりくっついたら、サキちゃんの腕を引っ張って歩く


496 名前:義理兄弟 3  ◆Xaq9.y7Ff2 [sage] 投稿日:2011/05/09(月) 20:48:57.90 ID:AnK4RP7W
[な、なによ一体!?」
「恋人つなぎ、家まで羞恥プレイな」
「いきなりなんなのよ!」
「なにって・・・仕返し??」
なんの仕返しなんだ、とか、今日のお兄ちゃんは訳がわからない、とか
いろいろといってるが全部、右耳から左耳に流して、サキちゃんの瞳を見据えていう

「な、なによ。真剣な顔して・・・」
「・・・幸せになろうな、紗希。」
その後、家まで終始、顔を伏せていたサキちゃんだったが、「そのつもりよ」
と小さな声で返してくれたので、幸せになる気は満々らしい。

お兄ちゃんはサキちゃんが幸せなら、それで、幸せだよ
だから、ふたりそろって幸せになれるね
うん、兄冥利に尽きる休日だったね、明日も頑張れそうだ。


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最終更新:2011年05月13日 22:52
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