140 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:20:32.07 ID:/ha9dQ1i
斉藤家から一駅離れた隣町、閑静な高級住宅街のひとつ。家柄は中の上といったいかにも裕福な見た目の家に着いた。
村上千恵の実家である。既に鑑識と数名の警官が到着していた。
「村上千恵の聴取をするために伺ったのですが、母親の話では今日は部屋から出ていなかったので、直接部屋に行ってみたんです。
そしたら、中から異臭がしたので鍵を開けてもらったら既に自殺体となっていました。」
強面の刑事はそう説明する。俺はただうなずいて現場を見る。首吊り自殺体は何度出会っても嫌悪感を拭えないな。
村上千恵は天井から電気コードを吊るして首を括っていた。衣服は外用のコートを羽織ったままで他に乱れた形跡はなし。
自分の学習机の椅子を台に使っての自殺と見て間違いない。
千恵の左手からポタポタと絨毯に血の水溜りに血液がたれている。まだ新しい傷から出たもののようだ。
腕をまくってみると無数の線が左手首に刻み込まれていた。傷は古いものから新しいものまで様々だ。
千恵は慢性的な自傷癖だったようだ。一番新しい傷が一番深くえぐられていた。
「リストカットでの自殺に失敗して、首を釣ったようだ。」
141 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:21:42.56 ID:/ha9dQ1i
俺は血痕をたどりゴミ箱を覗く。血の付いた美容用の安い剃刀が案の定捨ててあった。
「なぜ今彼女は自殺したのでしょう?恋人がいなくなって自殺したにしては時間がたち過ぎませんか?」
新米刑事の言葉を聞きながら俺は知恵のコートをめくる。
「結論を急ぐのはよくない。本質を見極めたいなら証拠を集めて熟慮すべきだ。
見てみろ、コートの下の腹部に大量の血液が付着している。顔からたれたものじゃない。」
千恵のコートの下はどす黒い茶色に染まっていた。返り血を浴びたと見て間違いない。誰のかはすぐに予想できた。
「腹部の血液の鑑定をしろ、それと村上千恵の指紋も鑑定しろ。今すぐに。新米、千恵の両親は?」
「居間にいます。」
「わかった。」
村上千恵の母親が居間で呆然とソファーに腰掛けていた。未だショックで現実が受け入れられていないようだ。
こんなときに娘のことを聞くのは忍びないが職業柄何度も経験したことだった。
「村上さん、今は大変心苦しいのは重々承知しています。ですが、少しだけお話をさせていただいてもよろしいですか?」
村上千恵の母親は言葉無くうなずいた。
142 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:22:52.31 ID:/ha9dQ1i
「千恵さんは昨日はどちらか出かけてましたか?」
「・・・昨日は、夕方に・・・娘は出かけていきました。」
「なにか変わった様子はありませんでしたか?」
「ひどく急いでいるように見えました。行き先を聞いても答えませんでした・・・」
母親の言葉が詰まる。今はあまり長くは質問できそうに無いな。
「娘さんが帰ってきたのはいつごろ?」
「夜の8時ぐらいです・・・テレビを見てたら、帰ってきて・・・ご飯もいらないって部屋に。
それからは・・・見てません。」
「前にも自殺しそうになったことは?」
「・・・」
「手首に傷が複数ありましたが、ここ最近なにがあったかご存知ですか?」
「・・・1年前からです。娘は彼氏が行方不明になってから自分を傷つけるようになりました。
あの子、本当に彼氏さんによくしてもらっていたから・・・」
「斉藤くんですか?」
「そうです。結婚の約束もしてたって・・・春から同棲するって・・・あんなにうれしそうだったのに・・・」
母親はここで泣き崩れてしまった。
「・・・すいません、心中察します。ですが最後に聞かせてください。
娘さんと斉藤君は1年間ずっと連絡が取れていないのですか?」
「・・・娘は斉藤君をずっと探していました!それからおかしくなったんです・・・!」
「・・・ご協力ありがとうございました。」
母親は後に過酷な現実と向き合うだろう。帰宅時刻、返り血・・・村上千恵が斉藤加奈子殺害の犯人と見て間違いない。指紋もおそらく適合する。
143 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:24:01.23 ID:/ha9dQ1i
「新米、お前は斉藤加奈子の現場の指紋と村上知恵の指紋を照らし合わせて固めていけ、立証できるはずだ。」
「わかりました。」
俺は新米刑事に指示した後考え込んだ。
村上千恵が斉藤加奈子を殺害したのは納得できる。だが斉藤夫妻も殺したかと聞かれれば答えはNoだ。
たしかに結婚を前提に斉藤健一と付き合っていた千恵なら斉藤夫妻の顔見知りだろう。夫妻殺害の条件に一致する。
だが千恵は凶器を持ち出しておらず、実際は加奈子の部屋にあったスタンドで強行に及んでいる。
つまりこの殺人は突発的で計画性が無い。
金目的でもない毒殺とは結びつかないのは刑事じゃなくても分かる。
じゃあいったい誰が何の目的で?
(だからきっとその子も不安だったんじゃないかな?私と同じ気持ちだったんだよ。
お兄さんに彼女がいて、一人暮らしが始まっちゃって)
そのとき由美の言葉が頭をよぎる。ひとつの仮説が俺の中で現れ始めた。
「斉藤家に鑑識をつれて、それとブラックライトを今すぐに!」
俺はそういって強面の刑事とベテラン刑事をつれて斉藤家に急いだ。
「加奈子ちゃんのお兄さん、健一君は1年前から行方不明になってるんですけどね、
加奈子ちゃん様子が変わったとかありましたか?」
俺は現場に入る前に第一発見者の主婦に聞き込みをした。
「え?そうだったんですか?加奈子ちゃん元気にしてたし・・・そういえば見てないわね健一君。」
「中のいい兄妹と聞いていますが」
「ええ、いつもどこへ行くにも加奈子ちゃん健一君にピタッとくっついていたわ・・・。それがなにか?」
「気落ちしてる様子はなかった?」
「はい・・・いつもと・・・それより元気だったかも」
「ご協力ありがとうございました。」
144 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:25:39.23 ID:/ha9dQ1i
そういってくるぶしを返そうとしたとき
「あの・・・今更なんですが・・・私あのとき2回悲鳴を聞いたんです。2回とも女性でした。」
2回?加奈子のほかは・・・千恵のか・・・、裏が取れたと見ていいか。
「1回目がした後にしばらくしたらもう一度・・・よく思い返してみたら別々の人の声だったような気がします。」
「貴重な情報ありがとうございます。またなにか思い出せばいつでも・・・」
千恵はリストカットは行き過ぎだが、自然・・・というよりは納得のいく精神状態だった。
不自然なのは加奈子のほうだ。仲がいい肉親がいないのに様子が変わらないなんておかしいんだ。
健一の行方捜査はろくすっぽまともに行われてなかったのか?不明瞭な点がわんさと出てきやがる。こんな報告書うけとった奴は後で厳重注意だ。
「薬品はもう撒き終わったか?」
俺の問いにベテラン刑事が答える。
「ええ、指示通りすべての部屋と地下室も。おまえらカーテンを閉めろ!」
時刻は午後3時。天気は曇り空、屋内ならカーテンを閉めて電気を消せば十分な暗さになった。
「さて何が出るか。」
145 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:26:44.14 ID:/ha9dQ1i
俺は地下室への扉の前に立ち、ブラックライトをつけた。
「・・・これは・・・血痕ですか?わずかですが・・・」
強面の刑事が聞く。扉の軌道にそって非常に細い線が浮き上がった。
「かもしれない。行って見なければわからない。鑑識班班長も来るように。」
そういうと小太りのめがねをかけた真面目そうな人物が前に出てきた。
地下室の扉を開けて階段を下りる。4mほど降りたところでひとつの部屋がにたどり着いた。中を開けると埃とふるい油のにおいがする。
ここは物置と聞いていた。カバーのかかった大きな台があり足元にペダルが見える。ミシン台のようだ。
床はいくつかのごみと白い石がぽつぽつ落ちている。
「電気を消せ。」
俺はブラックライトを点けた。
「うわぁ・・・」
「ひどいな」
うしろからそんな声が聞こえる。この部屋はあちらこちらに青い光が反射して不気味な明るさだ。
ミシン台のまわりが特に明るいようだ。俺はカバーをとった。
「このミシン台はいまは使われていないみたいだ、ミシンは取り外されて別の場所にある。作業は別の場所でやってたらしい。
この台は別のことに使われたみたいだ。」
青い光が人型の模様を浮き上がらせている。
146 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:28:15.53 ID:/ha9dQ1i
「斉藤健一の座高は?」
「資料によれば90cmです。」
「班長、メジャーを。」
班長はすばやくメジャーを取り出し青い光を図りだす。
「血液がふき取られたせいか1m20cmほどの範囲に拡散してます。
正確にはわかりませんが、この人物の座高とほぼ同じと見ていいでしょう。」
みな息を呑む。予想通り、健一の可能性が高い。健一はここにいた。
「どういうことです?健一がここで殺されたと考えてるんですか?」
と強面の刑事が聞いてきた。
「ああ、ひょっとしたらと思ってね。両親にも恋人にも姿を見せない健一、妹だけが接点を持っていた。
それは自分だけが知ってる秘密があるんじゃないかってな。」
「秘密がこれですか?」
「考えにくいことかもしれないが、加奈子は兄に対して特別な感情を持っていたんだろう。兄妹を超えた愛情のような。
そこに村上千恵という邪魔者が現れた。婚約の話、同棲の話・・・加奈子はそのときに邪心が芽生えたのかもしれない。」
「兄の恋人に嫉妬ですか?いくらなんでも・・・」
「ありえない話じゃないさ、世の中広いからね。
千恵は斉藤夫妻殺害に関係している点が無い。時間差で加奈子を殺害するなんて極めて不自然だ。
それより、千恵以外の顔見知りが殺したほうが自然だと思うね。」
147 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:29:42.99 ID:/ha9dQ1i
「加奈子が両親を殺して、兄まで殺していたのですか?」
「今はそれしか考えてない。証拠はここを調べればでるはずだ。
見てくれ、人型模様の四肢に金具が取り付けられた後がある。
まるで手術台だ。」
「なにが行われたんだ・・・」
信じられないといった面持ちで強面の刑事がつぶやいた。
「力じゃかなわない相手を押さえつけるならどうする?
薬で眠らすにしても永続しないんじゃないか?」
「この血の量・・・手足を切ったんでしょうか?」
「おそらくはそうだ。」
四肢と思われる青い光は不自然な短さで途切れていた。ちょうど手足の半分ぐらい、関節付近で切断されたような模様だ。
「西野刑事。私はこの床に落ちている石に見覚えがあります。」
ベテラン刑事が青く光る石を持って俺に話しかけた。
「これは歯です。昔繁華街で激しいケンカをした後に何度も見ました。」
「歯にしては荒いな・・・砕かれたようだが。」
「まちがいありません。動物か人間の歯です。」
「わかった。班長この白い石を残らず探すように。」
「わかりました。」
148 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:31:03.68 ID:/ha9dQ1i
四肢切断に歯・・・徹底的な仕打ちだ・・・さすがに気分が悪い。
歯は口封じだろうか?死ぬ人間に口封じはありえない。しばらく生きてたってことか?
青い光は点々と部屋の一番奥の角に続いている。そして不自然にピタリと途絶えていた。
死体がここから這ってきたってことはあるまい。この床下に健一が埋まっている。
「人員とスコップをまわせ、マスクもな。」
斉藤家の地下室、床板をはずして明かりを照らす。強面の刑事と若い鑑識が数人で穴掘りをしている。
1mぐらい掘れたぐらいからだろうか、すさまじい腐臭が漂ってきた。
「みてください!ビニール袋です。」
強面の刑事は汗だくになりながら報告した。
「中を見てみよう、新米はいなくて正解だったな。」
中には目玉が1つと水と青く錆ついたコインが入った小瓶がでてきた。
目玉は作り物じゃなさそうだし、マグロの目玉はここらじゃ売ってない。
みな静まり返っていような空気になった。
「腐臭はこれ自体から発してない。最近とられたものだ。そしてこの瓶の中身がおそらく毒殺に使われた凶器だ。
班長、この小瓶を至急調べさせてくれ、指紋も採取してくれ。」
149 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:33:10.69 ID:/ha9dQ1i
そして作業を続けていた若い鑑識が声を上げる。
「また別のビニールです!」
中には小さな肉片が入っている。
「切り取られてからかなり時間が経ってます。どうやらベロのようですが・・・」
やはり口封じだったか。吐き気がしてきた・・・
「わるいが作業を続けてくれ、俺はすこし外で休む・・・」
腐乱死体とはなんどか対面したことはあるが未だに慣れない自分が情けない。
いや慣れるほうもどうかしてるか・・・
俺は指示を与えて外の車に倒れこんだ。
気が付けばあたりは空が紫に染まっていた。もう日没か・・・
「西野刑事。だいたい掘り終わりました。」
強面の刑事がやってくる。
「ああ、すまなかった。どうだった?」
「気になさらずに、無理はいけません。それでなんですが
毒物の入った瓶から採取された指紋と加奈子の指紋が一致しました。
さらに夫妻の体内に残っていた毒物とまったく同じものです。」
「ああ、そうか・・・」
150 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:34:16.71 ID:/ha9dQ1i
決定的だな。加奈子は親を殺していた。
「あれから男性の四肢が入ったビニールが新たに見つかりました。
一部白骨化していますが、切られたのは1年ほど前だと思われます。」
そして、兄をも手にかけた。
「見つかった手から採取した指紋と健一の部屋から採取した指紋も一致しています。間違いなく健一のものです。」
強面の刑事は続けて質問してきた。
「なぜ加奈子はこんなむごいことを、実の兄にしたんでしょうか?」
「・・・おそらく罰だろう、罰という名目で被害者を痛めつけて快楽を得ていた。
実際に女性を何人も監禁して痛めつけていた連続殺人犯の例も世界にはある。」
「兄想いの子がこんなことを・・・信じられません・・・」
「四肢切断がきっかけでサディストに目覚めたのかもな・・・
おそらくなにか自分に不都合なことをしたら罰していたんだ。
たとえば声をだしたり、抵抗しようとしたときにな。」
「・・・罰を与えて、そのつど地下に隠してたんですか・・・」
「加奈子は秘密を完璧に隠していたが、発覚するのが恐ろしかった一面があったみたいだな。
肉親がいなくなったのに普段以上に振舞っているし、部屋にあった手芸の賞も1年前からとっている。」
151 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:35:41.26 ID:/ha9dQ1i
「たしかに不自然ですね。落ち込んだり悩んだ様子があってもいいのに。」
「両親はどこかで気が付いた、だから加奈子は両親を殺した。」
強面の刑事が合点の行った顔をした。
「これで一家殺人も解決だ、後は任せるよご苦労さま。」
俺も本庁に戻れる。元はといえば由美が合コンぶち壊したおかげで上司に嫌がらせされて所轄に一人で飛ばされたんだ。
手柄を引っさげて帰ったときの上司のほえ面が目に浮かぶぜ。
(私だったら兄さんには絶対近くにいてほしいって思うよ?妹なら普通のことだよ?)
急に背筋が寒くなる。なにかが引っかかる。
152 名前:ソードオフ 後編[sage] 投稿日:2011/06/12(日) 23:36:42.59 ID:/ha9dQ1i
「・・・健一の四肢は発見されたんだな?」
「はい。」
「胴体は見つかったのか?」
「いいえ。」
胴体がない・・・別の場所にある。
「村上千恵の携帯に加奈子の番号は登録してあったか?」
「いいえ。」
お互い番号を知らないもの同士
「事件当日、加奈子の目撃情報は?」
「近所のコンビニで買い物をしていたという証言があります。」
「4時ごろか?」
「そうです。」
加奈子の携帯は部屋に落ちていた!加奈子がいない間、千恵の電話番号を知ってる奴がかけた!健一が千恵に電話をかけていたんだ!
(悲鳴は2回きこえたんです・・・)
一回目の悲鳴は加奈子の、2回目の悲鳴は千恵のだとするとなぜ知恵は殺害後悲鳴を上げたんだ?
そこで何を見たんだ?自殺するほどショックなものだ!
あの部屋に健一がいたんだ!いや、いるんだ!
洋服の入ったクローゼットに立ち鏡
思い出せ、なにがそれなんだ・・・
少女マンガと参考書の詰まった本棚とコンポ
千恵はあの部屋の何を見て叫んだんだ!?
学校かばんや貯金箱が置いてある棚に小型テレビと学習机にかわいらしい柄のベッド
なにが健一なんだ!!
「あ・・・・」
そして大きめのくまのぬいぐるみ・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・」
最終更新:2011年07月23日 18:37