ソードオフ 前編

89 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 02:44:54.08 ID:/M3fivF8
「あぁ、クソ・・・!気分が悪い」

そう言いながら俺は車を走らせる。せっかくの非番だったていうのに今日はツイてない。
3月も末、閑静な住宅街のとある洋服店は閉店時間を迎えた後の午後8時、白黒の車に囲まれてその日一番の賑わいをみせていた。
この小さな洋服店のために俺の休暇は消え去り、騒々しい渦中へと呼び出されたのだった。

「西野刑事!こちらです」

現場に着くといかにも新人といった顔立ちの刑事が出迎え、俺を中に案内した。彼はこういう事件には慣れていないのか少し青ざめた顔をしていた。
一応本庁から来たんだからもっとベテランを回してくれてもいいのに。
 事件があった洋服店は2階建ての一軒家を改築したもので1階は高級そうなスーツが並ぶ売り場とレジ、そしてその奥にはダイニングキッチンがあった。
1階の現場は荒らされた形跡がなく、ドアが壊されていた様子もない。

「被害者は斉藤 忠 45歳とその妻 めぐみ 45歳。二人とも毒物反応が出ておりそれが死因かと思われます。
死亡推定時刻は少なくとも1週間以上前かと・・・」

若い刑事はいっそう顔を青くしながら説明を終えた。被害者夫婦はテーブルを挟んで向かい合うように死んでいた。
夫婦二人でほぼ同時刻に毒・・・自殺か?


90 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 02:48:19.73 ID:/M3fivF8
「第一発見者は付近の住人。今日午後7時ごろ女性の悲鳴を聞き様子を伺ったところ、裏の玄関が開いていたので中に入ったそうです。」

「死んで1週間も経ってるのに悲鳴か?」

「2階にもまだ被害者が・・・」
 新米刑事と俺は2階へと移動する。2階は2部屋ありそのどちらも子供部屋のようだ。
階段を昇ってすぐにある部屋は見るからに酷い有様であった。部屋血まみれの少女の死体が飛び込んできた。

「被害者は斉藤 加奈子 14歳、東区立中学校の2年生です。死因は頭部を数回、凶器と見られるこのスタンドで強く殴られたことによるもの。
死亡推定時刻は第一発見者が悲鳴を聞いたのとほぼ同時刻の午後7時ごろと見られます・・・。」
「キツイならこの部屋からすこし離れとけ。無理するな。」

「・・・大丈夫です・・・。」

新米刑事は見た感じもう限界ってとこだ。俺も新人のころはこんなだったから気持ちはわかる。
見たところ加奈子は裁縫用のはさみを握り締めている、部屋の散らかりようから見て犯人に抵抗したのだろう。
加奈子の着衣は寝巻きのままだったが乱れてはいなかった。


91 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 02:51:40.21 ID:/M3fivF8
「失礼・・・」

俺はそう言って加奈子の上着をまくる。死後間もない加奈子の体はまだ柔らかく、透き通るようにきれいな肌をしていた。
加奈子の体には傷ひとつ付いておらず、性的な暴行を受けた様子は見られなかった。
加奈子の部屋を見渡す。洋服の入ったクローゼットに立ち鏡、少女マンガと参考書の詰まった本棚とコンポ、
学校かばんや貯金箱が置いてある棚に小型テレビと学習机にかわいらしい柄のベッド、そして大きめのくまのぬいぐるみ。

「・・・・・・・・・・・・・・・っ」

加奈子は手芸部のようで手芸の表彰が棚の上に飾られていた。将来はこの店を継ぎたかったのだろうか・・・

「犯人は暴行目的で犯行に及んでいない。怨恨によるものとみていい、加奈子の人間関係を調べろ。
学校だけでなく、携帯電話から不特定多数と交友してないかも洗え。
それと斉藤夫妻が親族や友人と金銭トラブルがあったかも調べろ。」

「はい。もうそのように先輩方動いてます・・・」

どうりで、俺が来る前に動いてたか。
本庁の厄介者の相手をこの新米は押し付けられてたわけだ。俺もう帰っていいかな?


92 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 02:54:22.76 ID:/M3fivF8
 それにしても奇妙な事件だ。両親は1週間前に死んでいるのに加奈子はその間生きていた。
両親が自殺だとして、なぜ加奈子は通報しなかった?
両親が他殺だとしても1週間娘に危害を加えずに犯人が生かしているのも謎だ。

「・・・2階にはもうひとつ部屋があったな。だれか使っているのか?」

「加奈子の兄、健一の部屋のようです。ですが、健一は1年前から行方不明で捜索願いも出されています。」

「この事件は親族が関係しているかもしれない。斉藤健一を探せ、友人恋人がいればそこから洗え。」

「わかりました。」

再び1階に下りる。階段の下にある扉が目に止まる。
「ここはなんだ?」

「ここは地下室につながる扉です。なかは物置になっていましたし事件と関係ない場所のようです。」

これで現場の大体は見て回った。所轄のやつらもいい動きをしているから、この変な事件も結構あっさり解決できるかもな・・・

「大体わかった、明日東署の捜査本部でミーティングまでに今日指示したことを報告するように伝えておけ。お前ももう上がれ、お疲れさん。」

そういって新米刑事に言うと俺は家路についた。


93 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 02:58:57.96 ID:/M3fivF8
夜も12時を回ったごろだろか、自宅のアパートの扉を開けたのは。

「お帰りなさい。急に呼び出されるなんて、何かあったの?」

「由美、起きてたのか?先に寝てていいのに・・・」

「兄さん食事もせずに飛んでいくんだもの・・・今日はなんで呼び出されたの?」

 俺は4つ離れた妹とこのアパートで同居している。
別に変な関係じゃない、妹が上京してくるときに親に無理に同居させられたのだ。
妹と同居じゃエロ本とかAVとかデリヘルとか一切絶たれてしまう。
母は「若い女の子が一人暮らしじゃ不安でしょ?あんた警察官なんだから守る義務があるわよ」と俺の反対意見を完全無視し、
俺が築き上げた城を崩壊させたのだった。

「東区で一家殺人だ、まだ犯人は捕まっていない。お前もパトロールするときは用心しろよ?」

「私は大丈夫よ。東区だったら兄さん明日から東警察署に?」

由美は短大を卒業した後すぐに警察官になった。
俺とは違い東警察署の生活安全課だ。2年目で後輩もできたらしく、今は仕事が充実しているみたいだ。



94 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:01:39.53 ID:/M3fivF8
「ああ、解決まではいるが長くはないだろう。」

「もう解決のめどがたってるのね?さすが兄さん。」

「そうでもない・・・」

俺は無意識に加奈子から由美を連想していたのかもしれない。自宅で元気に生きている妹を見て安著した。
今朝由美とケンカしたことなんて忘れてしまっていた。

「・・・?急にどうしたの?」

「・・・はは、なんでもない。お前がちょっと可愛かっただけだ。」

由美の頭を撫でてやる、いい大人になにやってんだか。もう!っと由美は顔を赤く膨らませる。

「今日はすまなかったな、大人気なかった。」

「いいよ、私こそちょっと言い過ぎたわ。」

「そっか、なら良かった・・・飯食って寝ようぜ、明日から休みなしだからな。」

「うん!」


95 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:03:41.14 ID:/M3fivF8
 俺と由美はおととい合コンに参加した。といっても由美は俺から合コンという単語は出さず「飲みにいかないか?」とだけ言って連れ出したんだが。
由美は昔から俺に依存しすぎている、いわゆるブラコンというやつだ。
俺が上京してからしょっちゅう遊びにきてたし、同居の提案を親にしたのも元凶は由美だ。
うちの班主催の合コンに参加させて兄離れしてさせようとしたのだ。
由美は兄の俺からみても美人だと思う。白い肌に抜群のスタイル、穏やかでおとなしい性格でロングのポニーテールが魅力的な大和なでしこだ。
それに加えて料理が得意なんて彼女するには理想的ではないか。
いままで男ができなかったのが不思議なぐらいだ、出会いを作ってやればきっと目が覚めて俺から自立してくれる・・・と思っていた。
 由美は騙されたと思ったのか終始キレ気味だった上に俺の隣から一時も離れようとしなかった。
挙句同僚が話しかけてもガン無視、俺が他の女の子と話そうとしただけで俺に怒鳴りだす始末。
完全に合コン台無しである。同僚と上司から総スカンを食らい、由美は俺から離れるどころか逆に酒の勢いで俺に説教しながらべたべたくっついていた。
今朝は由美の怒りはまだ収まっておらず、朝食が激マズに作られたことを発端に口論となったのであった。


96 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:06:06.95 ID:/M3fivF8
「ねえ兄さん」

「なんだ?」

「今度は本当に二人だけで飲みにいきたいな?」

今朝のことをぶり返したくない俺は

「あぁ、機会がれば・・・今度な・・・」

そう言った。こんな調子じゃ由美のブラコンは治らんな・・・。

翌日。俺は東警察署の会議室にいた。

「これより東区一家殺害事件のミーティングを行います。本捜査の指揮は私西野が勤めさせてもらいます。以後よろしく。」

俺はメンバーに軽く礼をすると彼らも俺に礼を返した。

「まずは斉藤夫妻の人間関係からだ、報告を。」

そう俺が言うと顎ひげの生えた、いかにも強面といった刑事が報告を読み上げた。

「被害者の斉藤夫妻は親族や友人との間に金銭関係のトラブルはなかったようです。
洋服店の経営も順調のようで取引先や顧客と大きなトラブルはありませんでした。
また、友人の話によりますと死ぬ前は至って元気そうで自殺は考えられないとのことです。」

 人間関係にこれといった悩みもなし、経営面で借金があったわけでもない。
自殺する根拠はまったく無いし殺害される理由も浮かばない。
理由無く自殺するなんて、夫婦そろってうつ病だったのか?それなら予兆があるしすぐに分かることだ、ありえない。



97 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:08:38.35 ID:/M3fivF8
「加奈子の人間関係は?」

今度は初老のいかにもベテランといった刑事が報告する。

「娘の加奈子は担任教諭の話によりますと、成績優秀でおとなしい性格、クラスの中心にはいないものの友達がいないような子ではないそうです。
友人たちの話からもいじめなど友好関係でトラブルはみられませんでした。
クラブは手芸部で何度か賞を貰っておりクラブ内は一目置かれる部員だったそうです。」

「男女関係は?」

「はい、加奈子は見た目の通りかわいらしい子だったようで何度か告白されたのを友人に話していました。
ですがどの子ともお付き合いはしていなかったそうです。
郊外でも不特定の男性と出会いに行くようなことをしたことは見たことが無いと友人や教師は口を揃えています。」

「家の付近に不審者がうろついていたとかは?」

「斉藤家の周辺で不審者の目撃情報は一切ありません。」

怨恨を買った痕跡が見つからない。だが恨みの無い人間の頭を滅多打ちにするわけが無い。どこか、どこかで恨みを買ったはずだ。


98 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:10:56.51 ID:/M3fivF8
「加奈子の携帯電話の履歴、メールはどうなんだ?」

新米が勢い良く立ち上がり大き目の声で報告し始めた。気合はいってんな。

「加奈子の携帯の発信履歴に登録していない電話番号が一件ありました。
それ以外に不審な交友関係は見られませんでした。メールも友人や親のものだけ、出会い系などのサイトには一切入会していません。」

「ふーん、それが誰の電話番号かわかったか?」

「電話番号から村上 千恵のものと分かっています。」

「加奈子との関係は?」

「それは・・・まだ分かりません・・・」

新米刑事は答えられなかったのが情けなく感じたのか語尾を弱めた。

「以前の捜査資料によると村上千恵は加奈子の兄、健一の恋人だな。」

強面の刑事が言う。なるほど、捜索願が出ていたから資料があったのか。

「ふーん、村上千恵の電話に加奈子がかけたのはいつなんだ?」

「あ・・・ハイ!履歴には事件当日の4時ごろに電話をかけています。」

「怪しいな、この後村上千恵に事情聴取だ。」

とはいえ、なぜ1年前に失踪した兄の彼女に連絡なんか入れたんだ?両親が死んだ後ならなおさら不自然だ・・・
それに兄・健一の存在がさっきからうろついている。


99 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:12:57.25 ID:/M3fivF8
「今は健一の所在を捜査しているのか?」

強面の刑事が答える。

「いえ、もう捜査は打ち切られています。なんでも連絡がとれているとのことで・・・」

「どういうことだ?」

「妹の加奈子とは何度も連絡をして会ってたみたいなんです。
両親は会ってないんですが、妹とだけ会ってたらしんです。」

「なんで妹だけ?健一は親と仲が悪かったのか?」

「いいえ、健一は親との仲は良好でした、都内の公立大学に進学が決まって非常に上手くいってたみたいです。
高校の教師や近所の住人からも幸せそうな家族だったと証言が出ています。」

今度はベテラン刑事が言う

「加奈子と健一は非常に仲が良かったようです。友人からも加奈子はしょっちゅう兄の話をしていたと聞いていますし、
手芸部でも兄のために最近まで編み物や服を作っていたそうです。」

「だが編み物をプレゼントするぐらい連絡を取り合っていたらなにか残っているはずだ。
携帯の履歴に健一の携帯番号は無かったのか?」

新米刑事は答える

「送信履歴、着信履歴のどちらにも残っていませんでした、メールにも健一宛のものはありませんでした。
削除されていると思い、電話会社の履歴を取り寄せても健一と連絡ととった形跡はありませんでした。」


100 名前:名無しさん@自治スレで設定変更議論中[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:15:43.59 ID:/M3fivF8
ますます意味が分からない。加奈子の話しにだけ健一の存在が出てくる。他からはまったく形跡が出ないというのに。
会う日にちをあらかじめ二人で決めていたのか?だとしても目撃証言がひとつも出ていないなんてありえない。
この場にいる全員が首をかしげて難しそうな顔をしている・・・

「はぁ・・・とにかくまずは村上千恵を聴取する。引き続き捜査お願いします」

俺はベテラン刑事と新米刑事に村上千恵を尋ねるよう指示して席を立った。


「わけがわからん・・・」

俺は通路の自動販売機の前でコーヒーをすすって休憩した。すると後ろから由美がやってきた。

「捜査は順調ですか?兄さん?」

「順調だったらこんなところで油売ってねーよ。それに仕事場で兄さんはやめなさい。」

由美はむすっと膨れる。

「そんな説教したらお弁当あげませんから。せっかく作ったのに兄さん忘れていくんだから。」

コンビニ弁当が苦手な俺にはそれはツライ。

「すまんすまん!由美様お許しを・・・」

「わかればよろしい!」

情けない醜態を晒して俺は弁当を受け取った。


101 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:17:46.68 ID:/M3fivF8
「それで今度の事件はなにがそんなに難しいのですか?」

「・・・あまり捜査の内容を話すのはあれだが、斉藤夫妻と娘が殺害される状況が理解できない。
今のところ怨恨らしい怨恨は出てこないし、両親と娘の死亡時刻が1週間ずれているのが極めて不自然だ・・・。」

「そうですか・・・」

「娘の殺害現場は酷く荒れているのに両親の現場は一切乱れていないのもおかしい。まるで別々の事件のようだ。」

「娘のほうは無計画な殺人、両親は計画性のある殺人だったてことですか?」

「そうだ。それに兄の失踪も謎だ、Sランクの大学に受かって彼女もできて、春には一人暮らしのために部屋まで探してたそうだ。
そこから何がいやで親元から姿を消したのか・・・意味が分からない。手がかりは無いわけじゃないが辻褄が合わなさ過ぎる。」

「・・・・」

俺は大きなため息を付いてうつむいた。情報が出てこない以上考えたってしょうがないのは分かっている。だが考えて悩んでる振りをすると少しだけ気分が落ち着いた。


102 名前:ソードオフ[sage] 投稿日:2011/06/10(金) 03:20:21.71 ID:/M3fivF8
「私は・・・嫌だな・・・」

ふいに由美が話し出す。

「なにがだ・・・?」

「私は兄さんと別々に暮らすの嫌だったなって・・・」

「急になにいってn」

「私兄さんが上京するときは受け入れられなくて凄く嫌だった。」

由美はまるで聞こえていないかのように話し続けた。

「兄さんが私の知らない間に私の知らない人と仲良くなって私の知らないところで私の知らない関係を持ってたらどうしようって。凄く不安だった。」

うわ、マジで引くわ。

「だからきっとその子も不安だったんじゃないかな?私と同じ気持ちだったんだよ。
お兄さんに彼女がいて、一人暮らしが始まっちゃって、自分がお兄さんの2番以降になっていくなんて・・・」

「私だったら兄さんには絶対近くにいてほしいって思うよ?妹なら普通のことだよ?」

俺の背筋に寒気が走る。いまさらながらコイツは筋金入りのブラコンだ、重症すぎる。

「お前が妹としてそうだっていうなr」

「西野刑事!!!」

また俺の言葉がさえぎられる。新米だ。

「村上千恵が自宅で首を釣って死んでいました!!」

「何だって?すまん弁当は今日帰ってから食べる!」

俺は弁当を由美に突っ返し新米と一緒に現場に向かった。


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最終更新:2011年07月23日 18:37
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