魔法少女姉

496 名前:魔法少女姉その1[sage] 投稿日:2011/09/13(火) 17:52:08.18 ID:ZmmTinpl
俺の姉さんはもう二十年以上、魔法少女をやっているらしい。
勘違いしないで欲しい。頭がお花畑のコスプレババアじゃなく、ガチの魔法少女だ。

「マジカルラブリー! スタンダーップ!」

強烈な光と共に素っ裸になった姉さんは、ひらひらのスカートにどういう原理か分からないけれど、目に痛いピンクの光線やら星を飛ばしている。
その中で御年、28を迎えた彼女は変身を終えると最後にブイッ☆と、我が家の居間でキメポーズをかました。

「みんなの心に愛をお届け☆ マジカルシスター華麗に参上!」
「キップイ☆」

訂正。エヘヘ、なんてちょっと頬を赤らめて恥ずかしがっているあたり、やっぱりちょっと頭がお花畑らしい。
ついでに、さっきの妙な鳴き声は姉さんの周囲を飛び交っている謎の小動物のものだ。

「どう!? 弟くん!? かっこいいかな?」

幸いなのが、弟の俺から見ても美人の類に入るほどのお人だから良いのだけれど、そのスラっと伸びた頭身に合わせた魔法ステッキは単純に怖い。

「や、やっぱりダメ?」
「いやまあ、それなりだとは思うけど、別に変身する必要ないよね?」


497 名前:魔法少女姉その2[sage] 投稿日:2011/09/13(火) 17:54:57.87 ID:ZmmTinpl
翻って我が家の居間。別に困ってる人も悪人もいないわけで。
良い年こいた大人が痛いコスプレパーティーしてるようにしか見えないわけで。
俺の冷静なツッコミに姉さんはあるもんっ、と魔法少女に似合わない大きな胸をぷるん、と揺らした。

「ずっと弟君にも隠してきたこの姿をようやく見せられる決心がついたんだよ!? ね? プイプイ?」

「そうだっプイ! マジカルシスターは人知れず、ジャーマ率いる悪の軍団と一人で戦ってきたプイ! そんなマジカルシスターにもうちょっと気の利いた言葉でもかけてあげるっプイ!」

いや、急にそんなこと言われてもどうしろと。あと、小動物はその語尾やめろ。
メソメソと年甲斐もなく泣き始める姉さんに、俺はようやく罪悪感を覚え始める。


498 名前:魔法少女姉その3[sage] 投稿日:2011/09/13(火) 17:57:58.52 ID:KT6aB+L+
そういえば姉はいつも忙しそうにしていた。
友達と遊ぶわけでもなく、だからといって塾に通っている様子も見えなかった彼女の大きな秘密。
年端もいかない少女が巨悪と戦うなんて、漫画やアニメの世界では日常茶飯事かもしれないが、その負担は想像を絶するものだろう。

腰を屈め、ステッキの角で”の”の字を描く姉さんの肩に手を置く。
振り返る姉さん。本当なら恋人でも作って、女性としての人生を謳歌しているはずの姉さん。

「ごめんな、姉さん。これからは俺も応援するよ」

「お……弟くん!」

パァッと、花が綻ぶように笑った姉さんはそのまま俺に抱きついてくる。
嬉しいやら恥ずかしいやら。あとヤレヤレ、なんて肩を竦めてるそこの小動物殴るぞ。


涙の跡が引いた後、姉さんは何か察知したのか、ステッキから光を発するとその場で浮遊し始めた。

「悪の気配を察知したップイ! マジカルシスター! 出発プイ!」
「うん! プイプイ! それじゃあ弟くん、待っててね!」

そう言って、居間の窓からあっという間に空へと飛び立つ姉さんと小動物。
本当に、本当に魔法少女なんだな。
俺は姉さんが小さな点になって見えなくなっても、その背中を追っていた。


499 名前:魔法少女姉その4[sage] 投稿日:2011/09/13(火) 18:01:31.54 ID:KT6aB+L+
「ひぎゃぁぁぁぁぁ!」

血飛沫と共に肉塊がアスファルトに転がっていく。
先ほどまでだらしない笑みを見せていた女の悲鳴を聞いて、マジカルシスターは口角を釣り上げた。

「痛い? 苦しい? でもね、弟くんの受けた苦しみはもっとなんだよ? 分かる?」

ステッキからファンシーな音と共にピンク色の光線が女の体を浴びせる。ハート型のスポットライトはその実、威力を調節した熱線だ。
途端に肉の焼ける匂いと血だらけの肉塊がバタバタと暴れだす。
化粧で厚塗りされた顔は醜く焼け爛れ、四肢はもう判別出来ないほどにグシャグシャに潰されていた。
しばらくバタバタとのたうち回っていた肉塊に、マジカルシスターは侮蔑の眼差しを向け続けている。

「マ、マジカルシスター。もうこの女の人も分かったと思うプイ。だから傷だけでも治して」

「なに言ってるのプイプイ。この女は私の弟くんを誘惑したのよ? 仕事の付き合いで仕方なく、別に興味の欠片もない合コンなんかに嫌々行かされて」

でも、と憐れむプイプイに彼女はステッキの先を向ける。ヒィッ、と愛らしい魔法動物はガタガタと体を震わせ、地面に塞ぎこんでしまう。


500 名前:魔法少女姉その5[sage] 投稿日:2011/09/13(火) 18:07:47.32 ID:KT6aB+L+
「忘れたわけじゃないでしょう? アンタ達が何年も手を焼いてたジャーマとかいうクズ共を一週間で片付けた私の力を」

「は、はい……」

なおもステッキを向けるマジカルシスターにプイプイは必死に命乞いをする。その脇ではもう人間とも言い難い肉の塊が必死に命を繋ぎとめようとしていた。

「ああ、もうアンタ飽きたから消えて」

ステッキ一振り。次の瞬間には、風に吹かれる砂のように微塵もなく消されてしまう。
しかし、先ほどまでの惨劇に比べれば、その最期はずっと幸せなのかもしれない。

「さ、帰りましょうプイプイ。私の弟くんのもとへ」

目的を終えて満足したマジカルシスターはまた夜の闇へと飛び立っていく。
プイプイは心の中で、これまで消されてしまった女性達に詫びながら彼女の後を追った。

おわり

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最終更新:2011年09月20日 00:41
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