工作姉

574 名前:工作姉1[sage] 投稿日:2011/09/22(木) 13:53:12.87 ID:Vxnxqpwm
「んじゃ、早くSS投下してみせてよキモ姉妹さん、と……」

タタタタン、ターン!

淀みない手つきでキーボードを叩き終えると、軽快にエンターキーを押す。
明らかな敵意に対してもスレの反応は疎ら。ついに、ついに俺は勝ったんだ!

「ようやくこの忌まわしいスレも……やった! やったよ××××!」


576 名前:工作姉2[sage] 投稿日:2011/09/22(木) 13:58:33.53 ID:Vxnxqpwm
……そう、事の発端はこのパートスレが立ったところから始まる。
今までマイナージャンルだった(と思いたい)キモ姉、キモウトを題材にしたスレ。
同じように姉がいる自分も始めこそ、興味本位で眺めいていただけだった。姉はキモくないし。
ただ、スレが順調に伸びていった数カ月後、俺はあう噂を耳にする。

キモ姉、キモウトに目覚める姉妹が増えている、と。

ただの冗談だと思った。どうせモテない男の気持ち悪い願望だと思っていた。
俺は俺で中学時代から付き合っていた彼女がいたし、大学に進んでもラブラブ。
気は早いけど、彼女とのゴールインだって考えていた。そう、俺の日常は順調だったんだ。

それは、件のスレがピークとも言える盛り上がりを見せている頃だった。

『どうしたの? 昇くん』
姉さん……彼女が、俺の彼女が……』

彼女が死んだ。車にはねられたらしい。目撃者はナシ。即死。
ただ伝えられた情報だけが頭の中を素通りしていく。何も考えられない。

『姉さん……』
『昇くん……おいで』

彼女を失った悲しみ。例えようもない絶望。
その時、姉の温もりに縋ってしまったのは今でも悔やみ切れない。


577 名前:工作姉3[sage] 投稿日:2011/09/22(木) 14:03:56.54 ID:Vxnxqpwm
『昇くん、ご飯持ってきたよ』
『……いらない』
『……ここ、置いておくからね』

それから一人、塞ぎこむ俺を姉は優しく見守ってくれた。
俺よりも僅かに背が高く、グラビアアイドルも顔負けのスタイル。おまけに美人となれば悪い気もしないのだけれど、それよりも彼女の死という痛みが強すぎた。

『昇くん、悲しいのは分かるけど何か食べないと昇くんが』
『うるさい! 俺の何が分かるんだ! 出てけ!』
『あ……ごめんね』

姉にキツイ言葉を浴びせる毎日。そうしないと俺の精神が持たなかったのかもしれない。
それでも、それでも尽くしてくれる姉に俺はもっとヒドイことをしてしまう。

『昇くん。お姉ちゃんじゃ、あの子の代わり出来ないかもしれないけど……』
『なんだよその目は……あいつの代わり? じゃあ、こういうこともしてくれるのか!?』
『キャッ……!』
『ほら、怖がれよ! こんなクソみたいな弟に襲われて犯されそうになってんだぞ! 怖がれよ!』
『……良いよ、昇くんなら』
『ち……ちくしょぉぉぉ!』

何度も何度も姉を抱いた。意外にも処女だった姉の体を汚し、溺れ、朝日が見える頃になってようやく俺は泥のように眠った。
彼女が死んでから、初めてマトモに眠ることが出来たのだ。

その日から俺と姉の仮初めの恋人生活は始まった。
もう両親からも見放され、頼れる人間は姉一人だけだったのだ。朝、起きれば姉の体を貪り、夜になれば姉に抱かれて眠る。
色欲に溺れる中でも徐々に徐々に、俺は以前の自分を取り戻していった。


578 名前:工作姉4[sage] 投稿日:2011/09/22(木) 14:09:00.61 ID:Vxnxqpwm
『昇くん、本当に良いの?』
『うん。姉さ……いや、茜に救われた俺が出来ることなんて、これぐらいしかないし』
『昇くん……』

その後、なんとか人並みに戻った俺は家を出て姉と同棲することに決めた。もうその頃には姉への恋愛感情を自覚し、姉とは本当の意味で恋人になっていた。
大学も辞め、両親とはもう絶縁状態の俺が出来ることは、姉への恩返しだと思っていたからだ。

そうして始まった同棲生活。幸せだった。本当に幸せだった。
あのスレの存在を思い出すまでは。

アルバイトを終えた俺は、姉の帰宅を待つまでの間、久しぶりに例のスレを覗いてみることにした。
姉がいるとなかなかパソコンを触ることさえ出来ないせいか、色々と悶々とした気持ちがあったのだろう。
以前よりも更に勢いを増すスレも、相変わらずその内容は変わらない。相変わらずキモオタ共が騒いでいるのに俺は安心すらしていた。
しかし、その中で俺はある書き込みに気づく。

このスレのおかげでようやく弟くんが手に入りました。もう手放さない。

キモ姉、キモウトが増えているらしい。
そこでようやくあの噂を思い出す。なにより驚いたのが、根も葉もない噂程度であったアレがこのスレでは厳然とした事実として受け止められていることだ。
スレに返答が続く。

おめでとうございます。ついに成就したのですね。末永くお幸せに
また一人、このスレの犠牲……いや、目覚めた人が出たのですね
マジでこのスレのおかげでキモ姉、キモウトが増えてそう


579 名前:工作姉5[sage] 投稿日:2011/09/22(木) 14:14:01.96 ID:Vxnxqpwm
どうしようもない雑談にも、俺の心は妙にざわついていた。同時に、俺はあの事故の前後を必死に思い出そうとしていた。
そもそも姉とはそこまで仲が良かったのか。落ち込む俺を甲斐甲斐しく世話してくれるほど、姉は俺に好意を抱いていたのか。
あの事故の前に、やけに具体的な泥棒猫の処理方法を書き込んでいるキチガイがいなかったか……。
単発のIDだったその自称キモ姉は、最後にこう締めくくっていた。

弟くん。これからずっと、ずぅっと一緒だよ

『昇くん。これからずっと、ずぅっと一緒だよ』

……疑念が果たして俺の行動にどう影響しているのか、今でも分からない。
ただの憂さ晴らしなのかもしれない。もう時計は元には戻らない。彼女は帰ってこないのだ。
それでも俺はこのスレを潰すために躍起になっている。名を騙り、煽り、過疎らせる。
こんなことをして何の得があるのか。そんなもの、俺にだって分からない。支離滅裂なことだって分かってる。
それでも、あの書き込みは姉のものではない。確証なんて得られないものなのに、否定したくて俺はみっともなくキーボードを叩いている。

タタタタン、ターン!

「ようやくこの忌まわしいスレも……やった! やったよ××××!」

ガチャ

「ただいま昇くん……あら、パソコンで何をしてるの? それと、どうしてあの泥棒猫の名前なんて呼ぶの?」



終わり

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年10月21日 22:40
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。