81 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:31:33.21 ID:g5pDHQnJ
「ただいま~!」
扉に鍵を挿し込み、開ける空ちゃん。
手を使わずに靴を雑に脱ぎ捨てると、ドタドタと家の中へ入っていく。
それを見送ると、ポケットの中へ手を突っ込んであるモノを握りしめた…。
「……絶対に殺してやる」
私の呟きは誰の耳にも届かない…聞いた人は物騒だなと思うかも知れないが、今から言葉通りそれを実行するのだ…。
そう…私は零菜さんをコロス
――今私は、空ちゃんを零菜さんの自宅へと足を運んでいた。
自宅から車で一時間ちょっと。空ちゃんの道案内で着いた場所がこの高層マンション。
この最上階に零菜さんの自宅は存在する。
「わざわざ最上階に住まなくても…」
私も一度は住んでみたいなとは思っていたが、実際来てみるとめんどくさいの一言…やはり三階~四階がベストだろう。
毎日エスカレーターとはいえこの高さを行き来するのは正直辛い…。
玄関から中を覗いてみる。
長い廊下には何人暮らしてるんだと問いただしたくなるような扉の数。
その奥から、空ちゃんが誰かと話しているのが聞こえてきた。
空ちゃんに零菜さんと話があるから読んできてほしいと頼んだのだが……いつまで話しているのだろうか?
82 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:32:44.59 ID:g5pDHQnJ
カバンの中に手を突っ込んで携帯を手探りで探した。
「チッ……最悪…」
携帯電話を家に置き忘れてきたようだ。
これじゃお兄ちゃんの声を聞けない…。
「はぁ…早く殺して帰ろ…」
殺しかたはもう決めている…外に呼び出してポケットの中にあるナイフで脅して…手足くくって車に詰め込んで前もって調べていた使われていない倉庫に連れていき、まずすかした顔を切り裂いてやるのだ。
命乞いしても許さない。
私をコケにしたのだ…命をもって償ってもらう。
「ったく、早くしてよ…」
腕時計を見ると既に8の字を指している。
先にお兄ちゃんお風呂に入っていないだろうか?
最近はそれが楽しみで生きてるようなものなのに…。
我慢が出来ずにインターホンを一度押した。
ドアを開けてるからか、玄関までインターホンの音が聞こえてきた。
数秒後、一番奥の扉が開かれた。
自然と胸が高鳴りポケットに潜ませたナイフを力強く握る。
「由奈様、どうされたのですか?」
扉から出てきたのは私の想像していた人物では無く知らない他人の女性だった。
いや…見たことはある。
たしか、実家に戻った時に零菜の周りをウロチョロしていた女だ。
83 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:33:10.34 ID:g5pDHQnJ
「ぁ…申し遅れました、私零菜様の付き人をさせて頂いてます、留美子と申します」
少し慌てたように…だけど礼儀正しく一礼をすると、スリッパを棚から出して目の前の床に揃えてきた。
これは家に入れという意味だろう…だけど、もしここで私が家に上がってしまえば零菜さんを外に連れ出すのが難しくなる。
「ありがとう…でも私は零菜さんに用事があるの。零菜さんを出してくれる?」
「零菜様はお仕事からまだ戻って来ていませんが…」
「仕事?あの人今謹慎中でしょ?」
「そうなのですが…零菜様は仕事を休む訳にはいかないと…」
どっちの仕事だろうか?
まぁ、モデルの仕事は少しの間できないだろう…だとすると音条の会社関係。
音条の本社はここから一時間程度だけど…もしここでまた零菜さんとすれ違いにでもなったらまた戻って来なきゃいけなくなる。
零菜さん如きにそんな時間は使えない…。
仕方ない…また後日に来よう…。
次来る時は待ち伏せして後ろから殺ろう…それが一番手っ取り早い。
「分かりました…空ちゃん携帯持ってる?」
「持ってるけど、充電もう無いよ」
ため息を吐き捨て空ちゃんから目を反らした。
84 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:33:33.25 ID:g5pDHQnJ
本当に役に立たない子…この子が私の妹?
失笑しか出ない。
「留美子さん、貴女の携帯貸してもらえる?」
「あ、はい分かりました」
ポケットからシンプルな携帯を取り出し私に手渡した。
それを受け取ると早速お兄ちゃんの携帯番号を入力していく。
「由奈姉ちゃん、番号覚えてるの?すごいね」
凄い?たかが十一桁の数列だ…五分もあれば覚えられる。
まぁ、お兄ちゃんの携帯番号だから覚えているのだけど…。
番号を入力し終わると、すぐにお兄ちゃんに電話しようと通話ボタンを押した。
その瞬間、携帯から突然着信音が鳴り響く。
「……?」
意味が分からず、携帯の画面に目を向ける。
まったく知らない一人の男の子の顔が画面に写っていた。
私が通話ボタンを押す直前に電話がかかってきたのか…。
「も、申し訳ありません!」
慌てたように携帯を私から奪い取ると、すぐに電話に出て何かを話し出した。
再度ため息を吐き捨て、横にいる空ちゃんの携帯を手から奪い電源を入れてみた。
「なにするんだよ!返せ!」
携帯に手を伸ばす空ちゃんの頭を鷲掴みにして遠ざけると、画面に目を向ける。
85 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:34:01.51 ID:g5pDHQnJ
確かに充電はなかったようだ…一度電源を落としたので数分は使えるだろう…これならお兄ちゃんに電話できるはずだ…すぐに電話しないと…。
「……これなに?」
電話をしなければいけないのだが…電話をする前に空ちゃんの携帯のトップ画面を見て眉間にシワがよるのが自分でも分かった。
自分で撮ったのだろう…画面にはお兄ちゃんと空ちゃんが仲良く笑顔で写っていた。
「なんでもいいだろ!早く返せよ!」
「えぇ…返すわよ………はい…」
片手で携帯を数秒いじくると、空ちゃんの携帯からSDカードを抜き取り投げて渡した。
「ったく……?あぁー!!!由奈姉ちゃん画像消しただろ!!?」
携帯を両手で掴み必死に確認している。
携帯の中の画像は全て消した。
ロックのしかたを知らなかったのだろうか?
簡単に全部消す事ができた。
どうせSDカードの中にも入れてるはずだ。
「カード返せよ!」
涙目で睨み付けてくる空ちゃんを見下ろすと、一度ニコッと笑顔を向けて………空ちゃんの目の前でSDカードをへし折り、水が溜まっている花瓶の中へと沈めた。
それを見た空ちゃんは、私を強く睨み付けると、近くにあった傘を手に取り大きく振り上げた。
86 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:34:31.60 ID:g5pDHQnJ
「空ちゃんやめなさい!」
後ろから羽交い締めするように留美子さんが空ちゃんを止めに入る。
今にも食付きそうな顔で私を睨む空ちゃんを見下ろして財布から一万円札を取り出すと、空ちゃんのポケットへと押し込んだ。
「SDカード壊しちゃってごめんね?これで新しいモノを買って…お兄ちゃんが入ってない新しいモノを…ね」
「いらねーよ、バカにすんなッ!」
留美子さんを振りほどきポケットからお札を抜き取ると、私に投げつけ家の中へと消えていった。
「留美子さん貴女電話は終わったの?」
お札を拾うと、財布に入れて何事もなかったように留美子さんに手を差し出した。
「え…あ、はい終わりました」
呆然とする留美子さんから再度携帯を借りてお兄ちゃんの電話番号を入力すると、すぐに通話ボタンを押した。
「………」
出ない…あれほど私が電話したらスグに出ろときつく言い聞かせていたのに…。
まさか先にお風呂に入ってしまっているのでは無いだろうか?
もう少し早く電話していたら…目の前にいる留美子さんに強い苛立ちを覚えながらもそれを押さえて次は家に電話してみた。
プルルルルルル――プルルルルルル――プルルルルルル――
87 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:36:24.56 ID:g5pDHQnJ
出ない…耳に聞こえるのは苛立ちのパラメータをあげていく呼び出し音だけ。
最終的には留守電のアナウンスに入ってしまった。
仕方ない…留守電にすぐ帰るからと伝言を入れて帰るし…か………?
――只今、お兄ちゃんはたった一人の愛しの妹である零菜とお出掛け中です。ご用件がある方はピーっという発信音の後にメッセージを入れてください。
「………ぇ…」
なに…これ?
なんで家の留守電の声が零菜さんに…。
携帯が手をすり抜けスローモーションのように下へ落ちていく。
おかしい…すべてがおかしい…。
何故私はお兄ちゃんを一人残して…それはお兄ちゃんを零菜さんに会わせない為に――
私が殺しに来るのを先読みしていた?だから私に会わない為に家に帰らず……今はお兄ちゃんの所にいる――。
「……ッ!」
「ゆ、由奈様!?」
留美子さんを突き飛ばし、土足のまま家の中へと入っていく。
一番奥の扉を開けるとすぐに見つける事ができた。
「なんだよ?」
膨れっ面を私に向けて嫌そうに睨んでいる。
何も言わずに空ちゃんに近づくと後ろから首根っこを掴んで、前にあるテーブルに顔を叩きつけた。
「痛ッ!な、なにするッ!ぎゃっ!」
88 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:37:11.30 ID:g5pDHQnJ
悲鳴をあげても何度も何度も叩きつける――
「や、やめてください由奈様!」
後ろから止めに入る留美子さんを蹴り飛ばし空ちゃんの髪の毛を掴むと今度は強引に立ち上がらせて、壁に押し付けた。
「このクソガキ!あんた私をハメたでしょッ!!!」
耳元で怒鳴り付けると、髪の毛を掴んだままフローリングに叩きつけた。
息ができないのか、苦しそうに顔を歪めて胸を押さえている。
そんなこと私には関係無い…空ちゃんの腹部を一度思いっきり踏みつけ、胸ぐらを掴んでまた立たせる。
「し、知らなッ…僕は…なに…も…うぇ…ひっ…ぐ…」
額から血を流して涙を流して震える手で私の腕を掴んでいる。
「由奈様やめてください!これ以上するなら警察呼びますよ!?」
後ろを振り返ると、留美子さんが私に蹴られた胸を押さえて携帯を耳に当てている。
「ッ…零菜あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」
空ちゃんを手放して、近くにあった椅子を掴むと、力一杯窓ガラスに投げつけた。
激しい音と共にガラスが飛び散る。
「ふぅー、ふぅーッ!」
煮えたぎる程の憎悪に身体が支配される…これ以上この場所にいては本当にこの二人を殺してしまうかもしれない。
89 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:38:10.39 ID:g5pDHQnJ
倒れ込む空ちゃんの横を通り過ぎると、玄関を出てすぐに駐車場へと向かう。
車に乗り込み、すぐに発進させると自宅へと車を走らせた。
「コロス、コロスッ、絶対に殺してやる!!」
この憎悪は絶対に止まらない。
これほど憎しみが溢れた事は一度も無い。
今まで我慢してやったけど、もういい。
お兄ちゃんと一緒に産まれてきたからって何か特別な存在だとでも思っているのだろうか?
あの時のお兄ちゃんの態度を見て気づかされたはずだ――お兄ちゃんは私だけを実の妹だと思っているのだと――それなのに…
「ゴキブリみたいにチョロチョロと…ッ」
ハンドルを握る手がミシミシ悲鳴をあげるほど力強くなる。
せめてもの慈悲だと思ってお兄ちゃんが見ていない場所で殺してやろうと思っていたが、家に着いた瞬間殺してやる事にする。
そう心に決めて自宅へと向かった。
90 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:38:38.73 ID:g5pDHQnJ
※※※※※※
痛い――身体全体が金縛りのように動かない――。
手足が完全に痺れてる…指を動かしてみる――指は動いた。でも手首からはまったく動かない。
足の指を動かしてみる――足の指は動いた。だけど足首から上は動かなかった。
――だから状況を把握するために恐る恐る薄く目を開けてみた…ゆっくりと…。
「あら…起きたの?」
眩しい光に照らされて、人影と聞きなれた声が耳に響いてきた。
「……れい…な…?」
「ふふ…当たり」
逆光で影になって表情が分かりにくいが、この声は間違えようがない。
目が慣れてくると、ハッキリと見えてくる長い髪の隙間に見え隠れする零菜の瞳。
蛇がカエルを探す為に穴を覗きこむような目…。
耐えられずに零菜から目を反らして周りを見渡してみた。
「どこだ…ここ…?」
見慣れない小さな部屋…。八畳ぐらいだろうか?
今俺が寝てるベッドに小さな冷蔵庫、小さなテレビ――浪人生の一人暮らしのような間取りだ。
「ここはね…貴方達のマンションの前にある古いアパートよ」
「アパート…」
そう言えば、マンションの前に古いアパートがあったっけ…。
今その一室にいるのか。
91 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:39:01.66 ID:g5pDHQnJ
「それで?これはなんだよ」
手を軽く引っ張り自分の手にまとわりつく重いモノの理由を問いただす。
俺の両腕には手錠……両足には鎖が取り付けられ、ベッドの四つの端にくくりつけられているのだ。
「痛かったら少し緩めましょうか?」
「身体全体が痛いんだよ……お前俺に何をしたんだ」
あの時…凄まじい衝撃が身体に走ったがあれは耐えられるモノでは無かった。
強い痛みでは無く強い衝撃が襲ってきたのだ。
「まぁ、飛ぶスタンガン…ってヤツね。よく外国の警察が使ってるでしょ?ショック死した人も何人かいるみたいだけど……まぁ、勇哉は大丈夫だったみたいね」
そう呟き微笑むとベッドから立ち上がり、歩いていってしまった。
「はぁ…何を考えてるんだよ…」
そんなもので兄を攻撃するなんて…やはりアイツの中では俺は既に兄では無いらしい。
しかし、これはいったい何目的なのだろうか?
俺を拉致して焦るのは由奈ぐらい。
そんなことをしても零菜には何の得も無いはず…逆にこれが表に出ると“損”ではすまないのは零菜のほうだ。
アイツの考えている事が本当に分からない…。
「それより……どうするかな」
再度周りを見渡して脱出できる場所を探して見る。
92 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:39:26.58 ID:g5pDHQnJ
部屋には小さな窓が一つだけ…カーテンは閉められていないが、窓は閉められている。
後ろが見えないので、どうなっているのか分からないがこの広さならすぐ後ろに玄関があると思うけど……手足を強引に動かしてみる。
「くっ…ダメか…」
かなり強く縛られているらしい…
「誰かいないか!?助けてくれ!!」
窓に向かって助けを求める。
本当にあのアパートなら、前には開けた道があるはず。
人通りも多いし、誰か一人ぐらいは気がついてくれるはずだ。
声が枯れるまで叫び続けたが、返答は無い。
時間が分からないが、外は真っ暗だ…深夜だとすると流石に外は誰も歩いていないか…しかしアパートなら隣人がいるはず。
あれだけ声をあげれば警察に通報してくれているかも…
「もう、終わった?」
枕に頭を沈めた瞬間、真後ろから零菜の声が聞こえてきた。
慌てて首だけもたげて零菜を見ようとするが、視界に零菜が入ってこない。
首が痛くなったので、やめてまた頭を枕に沈めた。
「ふふ…はい、水よ」
零菜を探すのを諦めた瞬間、零菜が隣に移動してペットボトルを差し出してきた。
「……飲めないよ」
「私が飲ませてあげる」
93 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:39:52.16 ID:g5pDHQnJ
ペットボトルの蓋を開け、白い布を俺の顎に当てると、下唇にペットボトルの口を沿わせて少しずつ飲ませてくれた。
戸惑いながらもちびちび水を飲むと、今度はテーブルを出してきてその上に料理を並べ出した。
「先にオカズ?ゴハン?どうする?」
「……これなんなの?」
茶碗と箸を掴みベッドの端に座る零菜に問いかける。
「何って食事まだでしょ?だから食べさせてあげるのよ。ありがたく思いなさいよ」
茶碗に盛られた白いゴハンを小さく箸で摘まむと、俺の口に持ってきた。
それを一口でパクリと食べる。
「良い子ね」
箸を置いて片手で俺の頭を撫でる零菜。
それを睨み付け頭だけで振り払う。
「悪い子ね」
そう呟くと、左手で俺の頬を軽く摘まんだ。
別に痛くは無い…痛くは無いが……この行動が全面的に痛々しい。
介護を受ける老人のように扱われ、子供を褒めるように…怒るように俺に接する零菜に背筋に冷や汗が流れる。
俺に食事を食べ終えさせると、食器を持って視界から消えていった。
後ろから水音とカチャカチャ食器が擦れ合う音だけが耳に響いてきた。
零菜が食器を洗っているのだろうか?
94 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:41:10.41 ID:g5pDHQnJ
まぁ、作法や礼儀を叩き込まれた零菜は当たり前のように家事ぐらいならできるだろう。
だけど家事をしている零菜を頭で想像する事は難しかった。
「零菜…俺とお前の他に誰かいるのか?」
「いないわよ?誰か居たほうがいいなら留美子呼ぶけど?」
「だから誰だよ留美子って……なぁ、お前マジで何が目的なんだ?理由を話してもらわないと、まったく状況を把握できないんだが…」
いい加減、手足が痺れて感覚がなくなってきている。
手足の色はまだ変わっていないが、変色するのも時間の問題だろう。
「それにこんな事長く続くと思うなよ?すぐに見つかって今度こそ実家に永久監禁だぞ。こんな事あの人に知られたら…」
由奈が父親に知らせたらすぐにこんな場所バレるに決まってる。
バレたら今度こそモデルの仕事を続けられなくなる。
それに零菜がこの場所に居るってことは父を無視して行動してるってことだ。
父が知ったら――。
「勇哉。貴方はまだ理解していないのね――“誰が篠崎”なのか」
誰が篠崎?篠崎の名がつく主には必ず父が…。
「“アレ”はただの飾りよ?今は実質私が篠崎。だから誰かの助けを期待してるなら諦めなさい」
95 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:41:38.21 ID:g5pDHQnJ
“アレ”って……零菜が父の事をアレ呼ばわりするなんて初めて聞いた…。
「それにこの部屋の防音は完璧だから叫んでも無駄」
分かりやすく窓ガラスを手で叩くと、ガラスからはガラスらしからぬ音が響いてきた。
まさかこの為だけに改装したのか?
だとしたら零菜は本気かもしれない…何をしたいのか未だに分からないが、ここまで徹底してるのだから自分一人の力では逃げられそうに無い。
由奈からの助けを待つしかないか…。
そうと決まれば後は待つしか方法は無い。
隙を見て逃げられたらいいのだけど、零菜が隙を作るとは思えないし…。
「一応気絶してる間にお風呂は入れてあげたわよ」
「ふ、風呂?お前が俺を風呂に入れたのか?」
「そうよ?兄妹なんだから別にいいでしょ」
「……」
なんだろう…何か大切なモノを失った気がする。
妹に裸を見せる事になるなんで…。
まさか零菜も裸で風呂に?
ダメだ…頭で想像してしまう。
雑念を振り払うように頭から消し去り目を瞑る。
明るくなってから考えよう…今騒いでも誰も助けに来ないだろう。
寝られるかどうか分からないが、目を瞑っていれば…
「…?な、なんだよ」
96 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:42:03.73 ID:g5pDHQnJ
目を瞑り眠る事に意識を集中していると、突然零菜が布団の中へと潜り込んできた。
目を開けて零菜に目を向ける。
何も言わずにジーっと俺の顔を見つめている…。
たまらず視線を壁へと反らす…すると腹部に氷を落とされたような冷たいモノを感じた。
それが零菜の手だと理解すると同時に自分が衣服を纏っていない事に今初めて気がついた。
暖房と身体に毛布をかけられていたのでまったく気がつかなかったのだ…。
「今頃由奈は必死になって貴方を探してる頃でしょうね」
零菜の息が耳にまとわりつき、指がヘソの周りをゆっくり回る。
指が腹部から胸へ移動すると、乳首を思いっきりつねられた。
痛みで顔が歪み、零菜を睨み付ける。
「ふふ…自分のをつねってるみたい…」
「このッ…変態が」
熱をもった瞳を向けてくる零菜に毒づくが、零菜はクスッと鼻で笑うだけで攻めの手を休めようとはしなかった。
俺はなんとか反応しないように必死で眉を潜めるだけで、抵抗ができない…身体をくねらせて逃げてみるが、零菜の手は身体の上を常に這っている状態。
「自分の身体を触るより興奮するわね…なぜかしら?」
97 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:42:39.96 ID:g5pDHQnJ
それはお前が変態だからだよと言いたかったが下唇を噛み締めるのに精一杯で、何も言い返せなかった。
口を開けば吐息が漏れてしまいそうで怖かったのだ…。
何を考えてこんな事してるのか本当に分からない…。
零菜の存在自体に恐怖を感じてしまっている。
十分ほど零菜の指が腹部から胸を何度となく往復すると、突然掛布団を勢いよく引き剥がしてきた。
当然露になる自分の裸体。
隠そうにも手足は繋がれ、剥き出しの状態だ。
「さっきのは“少し飴”次は“軽い鞭”」
そう呟くと、手をパーにして大きく振りかぶり俺の胸を勢いよく叩いた。
濡れたタオルで叩かれたような痛みに顔が歪む…。
バチンッバチンッ!と狭い部屋に何度となく鳴り響く。
叩かれる度に口を強く閉ざして痛みに耐えた。
それでも俺の顔が歪もうが零菜は手を止めようとしなかった。
「ッ、ぁぐ…テメッ、だから何がしたいんだよ!!!」
零菜の手が痛くなるまで我慢してやろうと思ったのだが、自分が我慢できたのは十五発までだった…。
後半は殆ど殴っている状態で、息をすることも辛かった。
「暇潰し」
無機質な声でそう言い放つと、最後に一度、今までの中でも一番強い力で腹部を平手で叩いた。
98 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:43:14.29 ID:g5pDHQnJ
力を入れていた胃の空気が強制的に外へ吐き出される…それと同時に大きく咳き込んだ。
流石に今のは吐きそうだった…。
「ちょっと前までお前の事を妹として思えるかも知れないと思ったけど…やっぱり無理だな」
「あら、ありがとう。私も無能な兄にはイライラしっぱなしだったの」
笑顔を向けて立ち上がると、押し入れの中から何やら布を被せた箱のようなモノをだしてきた。
何やら金属が擦れ合うような音が耳に響いてきた。
それだけで心臓が小さく跳ねた…。
「見てこれ。何か分かる?」
「何って…なんだそれ?」
零菜の右手には何やら歪な形でできた鉄の物体と、左手にはゴム手袋が握られていた。
「これは開口器っていうんだけど…知ってる?」
鉄の物体を目先でちらつかせてきた。
「開口器?」
聞いたこと無い名前だが…名前と形的には嫌な予感がする。
「今から勇哉の精神の皮を一枚…一枚…また一枚…優しく剥いてあげる」
開口器を右手に持ったまま、俺の顔を両手で固定する零菜。
「お、おまえ誰だよ?」
喉から出た言葉の意味を自分自身意味理解できなかった。
だけどこの問い掛けは間違っていないはず。
99 名前:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日:2011/10/11(火) 18:45:01.62 ID:g5pDHQnJ
顔は零菜なのだが…明らかに雰囲気がまったく知らない女性――そう…狂った由奈のような目をコイツもしてる。
「私は私よ?貴方のたった一人の妹。
まぁ、明日の朝になる頃には私の目すら直視できなくなってるかもしれないけどね……涙を流して助けを乞う勇哉を想像するだけで胸が張り裂けそう」
無駄に長い舌を俺の胸に這わせると、蒸気した目で俺を見下ろしてきた。
――コイツが俺に対して狂う訳が無い。
だって今まで他人のように過ごしてきたのに――今更になって“兄妹”がどうだとか――。
「それじゃ、お兄ちゃん…次話せる状態になった時は――私に“柔順”な優しいお兄ちゃんに生まれ変わってね?」
綺麗に般若のような笑みを浮かべ開口器を俺の口へ強引に押し込んだ。
これから何をされるのか想像がつかない――だけどこんなモノまで用意しているのだ。
零菜は俺を徹底的に壊すつもりだ…。
最終更新:2011年11月18日 13:12