253 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2011/10/21(金) 00:47:23.76 ID:V/2KuWuc
とある山奥、とある山小屋。
だれもがわすれ去った獣道を進むとそこにたどり着く。
僕が幼い頃に見つけた二人だけの秘密の場所だ。
だれが建てたかわからない、誰のものかも分からない古い山小屋に
僕は会いに行く。
(キィ・・・)
小屋の扉をゆっくり開けると立て付けが悪い扉のような音がした。
部屋の中は薄暗く湿った空気とひどい悪臭が立ち込めていた。
小屋には窓も家具もなく、ただどこまでも深くてそこが見えない大きな穴が地面に掘ってあった。
悪臭はその中からしている。
「ハジメ・・・来てくれたのね!」
穴から声がしたと同時に中から一人の女性、もとい僕の姉のカヲルがよじ登ってきた。
254 名前:ホール[sage] 投稿日:2011/10/21(金) 00:49:18.38 ID:V/2KuWuc
「・・・ハジメ!私も会いたかった!
好きよ!この世でなによりも愛してる!」
駆け寄ってきた姉さんと僕は抱き合ってそして深いキスをした。
「・・・ねぇねぇハジメ!お姉ちゃんがんばったのよ!みてみて!」
姉は穴の中を指差して子供のようにはしゃいで言った。
まるで褒めてほしいというようような歓喜に満ちた表情で。
「あなたを誑かす悪い虫共を中に落として骨を折ってやったわ!
二度と立ち上がれないようにしたの!
この後どうなるのかしら!
食べ物も携帯も捨てちゃったから助からないの!
でもおなかが減ったらきっと共食いするでしょうね!
あなたを奪おうとした敵同士食べあうの!
でも食べても食べても絶対ハジメとは永遠に会えないの!
それってすっごく素敵だと思わない!」
「ああ・・・」
僕が返事をすると姉さんは言った。
「私、ハジメのためにここまでやったのよ。
ハジメを心から愛しているから、世界で一番大切に思っているから・・・
ねぇ・・・ハジメもお姉ちゃんのこと愛してるよね?
世界で一番・・・」
「ああ」
姉さんは僕の目を見つめてこのとき一番ほしくて切望している言葉を待った。
「ハジメ、お姉ちゃんのこと好きよね?」
255 名前:ホール[sage] 投稿日:2011/10/21(金) 00:51:53.06 ID:V/2KuWuc
「 お 前 な ん か 大 っ 嫌 い だ 」
姉さんは心を銃で撃ち抜かれたような苦しい表情に豹変した。
「嘘よ!どうして!私を愛してるんじゃないの!?
私達を困らせる虫はもういないのよ!?
二人のためにお金も用意したし、家も車も仕事も全部みつけたし、
親もいないし私達の関係を知る人はみんないなくなったのに・・・!!」
「・・・・」
「あ、あそっか、まだあなたを誑かす虫けらが新しく出てきたのね!
ハジメは昔から虫が寄ってくるもんね!
お姉ちゃんまたがんばるから!」
そう言って姉は山小屋から駆け出して町のほうへ降りていった。
僕は山小屋の扉を閉めてもと来た道を戻っていく。
「姉さんは相変わらずだな。」
年に一度この日だけ、僕は姉さんに会うことができる。
世界で一番愛する好きな女性に。
姉さんを殺したのは10年前だった。
穴を掘り、恋敵で蟲毒を作ったあの日、
僕は人でなくなった姉にキスをして、首を絞めて、穴に落とした。
姉のことを大切に思っていた、だからそうするしかなかった。
姉は忘れっぽい性格だったから自分が死んだことに気づいてないのかもしれない。
もし姉に10年前に伝えられなかった言葉を伝えてしまったら、
もし姉が死んだこと思い出してしまったら、
僕はまた失うことになる。
僕は臆病者だ、もう一度彼女を失うことに耐えられない。
自殺しようと思ったときに姉と再会してやっと生きられるようになった。
気の毒だがまた町に戻って他の女を口説きに行こう。
世界で一人だけの愛する女性に会うために。
最終更新:2011年10月21日 22:58