恋の綾

86 名前: ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:10:43 ID:ae2Wnmcx
梅雨が過ぎた七月の初め、気温はぐんぐん上昇し、日が落ちた後でも暑さは衰えない。
夏の訪れを間近に控え、道を行く人の服装は薄着になり、家庭では冷房機器が動き始める。
扇風機を回した居間で、夕食の準備を終えた綾はぐったりと寝そべり、兄の帰りを待っていた。
「暑い……」
夏用の白いワンピースの裾が、扇風機の風にパタパタとはためく。
「お兄ちゃん、まだかな……」
もう何度目かわからない呟きをして、綾は目を閉じた。
六月の終わりから、陽一は学校からの帰宅が遅くなることがあった。
クラスの文化祭実行委員に選ばれて、その話し合いが時折持たれることになったからだ。
家で二人過ごす時間が減ることが不満だった綾は、今からでも辞退するようにと強く言ったが、
「誰かがやらなきゃならないことだから」
と陽一は笑って答え、結局辞退はしなかった。
「まったく……余計なことばかりしょいこんで……」
きっと誰もやろうとしなかったものを、変な責任感に駆られて立候補してしまったのだろう。
兄のそういったところは嫌いではなかったが、やはり一緒に居る時間が減ることは不満である。
さらにもう一つ、綾の心を波立たせたのは、もう一人の文化祭実行委員が宇喜多縁であるということだった。
どちらから先に立候補したのかは聞いていない。
が、縁が立候補したのを助けるために陽一が立候補したにせよ、あるいはその逆にせよ、綾にとっては極めて由々しき事態だった。
「あの人も……わからないからなあ……」
陰鬱な気持ちになり、無意味に床を拳で叩く。
テレビを見る気にもなれず、ただごろごろとしているうちに、時計は八時を回っていた。
いいかげん学校に迎えに行ってしまおうか。
そう思い始めた頃、
「ただいまー」
玄関の戸を開ける音とともに、待ちわびた声が聞こえた。
飛び起きて、綾は急ぎ足に玄関に向かう。
「ちょっと、いくらなんでも遅すぎ……」
待たされた分の愚痴を思い切りぶつけてやろうと口を開いたのだが、玄関先にたたずむ陽一を見て動きが止まった。
「……誰よ、それ」
きりきりと眉を跳ね上げ、指をさしたその先には、陽一の腕にすがりつく一人の少女がいた。
ショートカットに、シンプルなTシャツと短いプリーツスカートを着込んだ少女は、その容貌は明らかに幼い。
中学生、ひょっとしたら小学生といったところである。
「どうも。お世話になりまーす」
元気に挨拶する少女に、陽一は困ったように笑った。
「ははは……なんか、ついてきちゃって……」
「ついてきたって……」
唇の端を引きつらせ、言葉に詰まる綾。
支倉家の初夏は、扇風機一台では足りない暑さになりそうだった。




87 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:12:28 ID:ae2Wnmcx
「家出?」
「そうなの。家に帰りたくなくって」
「何で帰りたくないのよ?」
「えへへ……まあ色々と……」
事の顛末は簡単だった。
アキラと名乗った少女は、今年中学二年生。
二ヶ月前に家出をして、それからずっと家に帰っていないのだという。
今日のねぐらをどうしようかと駅前で座っていたら、心配した陽一に声をかけられ、そのままついてきてしまったのだ。
陽一は何度も家に帰るように言ったが、無理に追い返すこともできず、結局支倉家にたどり着いてしまい、今こうしてアキラは居間のテーブルについているというわけだ。
「ね、いいでしょ? もう行ける所がなくて」
「帰れ」
両手を合わせて媚びるように頼むアキラに、綾はどこまでも冷徹に言った。
「自分の家に帰ればいいでしょうが」
「それが嫌だから家出したんだって」
「じゃあ今まで寝泊りしていたところに帰りなさい。二ヶ月も経つんだから、どこか当てがあるんでしょ?」
「えっと……それは……」
アキラは照れたように笑った。
「その、今まではずっと援助交際相手の家に泊まってたんだけど、そろそろうざがられちゃって……」
するりと出てきた「援助交際」という言葉に、陽一も綾も唖然としてしまった。
二人がいっぺんに静まり返る中、気にせずアキラは説明を続けた。
「だから今日は新しい相手を探そうと思って、駅前で声かけられるのまってたんだけど……えへへ……」
肩をすくめて悪戯っぽく笑いながら、陽一の方を見る。
綾はそのアキラの手首を掴み、椅子から引き摺り下ろした。
「な、何するの! 痛いよ!」
「ふざけんな」
「え……?」
「警察に行くわよ」
アキラは引きずられ、居間の床に倒れこみ、「痛い!」と声を上げた。
「綾……乱暴は……」
「だまらっしゃい。言ってダメなら無理にでも連れてくしかないでしょ。ほら、歩け!」
「や……! 痛い! 痛いよお!」
力ずくで連れて行こうとする綾に、アキラは必死で抵抗した。
「やだよ! 警察とか行きたくない!」
「知らないのなら教えてあげる。売春はいけないことなのよ」
「やー! やだやだ! 警察に連れて行くなら舌噛んで死んでやるから!」
「死にたきゃ勝手に死になさい」
綾の一言に、アキラは引きずられながら、舌を出す。
「本当に噛むからね!」
ぎゅっと目を閉じ、前歯で舌を挟んだ。
綾は完全に無視してアキラを引きずったが、さすがにまずいと思った陽一が横から止めに入った。




88 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:13:19 ID:ae2Wnmcx
「綾、一晩くらいいじゃないか」
「はあ?」
「本当に舌を噛まれて死んじゃったらどうするんだよ」
それこそ願ったり叶ったりなので、綾としては何の問題もなかったが、さすがにそうは言えない。
「……じゃあお兄ちゃんは、あの子が援助交際を繰り返してその辺を放蕩した方がいいっていうの?」
「そうは言わないけどさ……」
「なら警察に連れて行って、おうちに帰してあげた方が、あの子のためでしょ」
「あのな……家や両親に問題がある場合だってあるだろう」
陽一の静かな一言に、綾は息を詰まらせた。
確かに、そういう例はある。
「だからって……」
「な、今晩だけ泊めてあげて、明日話を聞いてみよう。一日たてば打ち解けて、話してくれるようになるさ。ひょっとしてあの子は家で辛い思いをしていたかもしれんだろ」
「……」
心の底から不満ではあったが、結局綾は陽一に対しては弱い。
「ふん……」
アキラの手首を離し、台所に消えた。
「綾……?」
「夕食の準備。一人分増えちゃったからね」
綾の返答に陽一はほっと息をついて、床に座り込んだアキラに手を差し伸べた。
「え? えーと、つまり私、出て行かなくてすんだの?」
「今日はもう遅いし、ここに泊まっていっていいよ」
アキラはキラキラと笑顔を輝かせ、陽一に勢いよく抱きついた。
「うわ! ちょ……!」
「ありがとー、お兄ちゃん! お兄ちゃんならタダでエッチさせてあげていいよ!!」
「は……?」
台所から食器の砕けるけたたましい音が聞こえ、包丁を持った綾が駆け戻ってきた。
「ふざけんな!」
また小一時間揉めたが、結局アキラは支倉家に泊まっていくことになった。




89 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:14:22 ID:ae2Wnmcx
「で、もう三日間居座っている、と……」
「ええ」
小夜子は目の前で弁当のおかずに箸を突き刺す親友を見た。
この三日間、日を追って不機嫌になっていっている。
どことなく疲れているようで、その日の授業では、居眠りをしている姿も見受けられた。
「ねえ綾、ひょっとして寝てないの?」
「いえ、寝てないことはないけどね……」
実際あまり寝ていなかった。
何しろ援助交際でねぐらを得ていたという少女が家の中にいるのだ。
夜中に陽一の部屋に夜這いをかけたりしないか、細心の注意をもって、綾はアキラを監視していた。
「よ、夜這いって……さすがにそれは無いんじゃ……」
「だってねえ、ほんっとにやらしい子なのよ? まだ中学生だっていうのにあれじゃ、先が思いやられるわ」
この三日間、アキラはことあるごとに、陽一に対して性的とも取れる接触をした。
とにかく抱きつき、体を押し付ける。
風呂上りはまずバスタオル一枚。
普段着姿でも、仕草のあちこちで下着や脚を見せつけようとしているのが感じられた。
「……考えすぎなんじゃないの?」
「考えすぎじゃないわよ!」
机を拳で叩き、綾は続けた。
「おまけにね……あの子……お兄ちゃんのことを、『お兄ちゃん』って呼ぶのよ」
「え……そ、それって何か問題あるの?」
「あるわよ。あの子は家族でも何でもないんだから」
あまり刺激しない方が良さそうだと判断した小夜子は、それもそうだねと頷いた。
「でも、そんなに問題ありな子なのに、陽一さん三日も家に泊めてるんだ」
「……ええ。ホント、無意味に甘ちゃんなんだから、あの馬鹿兄貴は」
本当のところ、理由はわかっていた。
つまりは兄も、自分たちの母のことを忘れていなかったということなのだろう。
そして、あの頃の綾のことも。
アキラが家庭で辛い思いをして家出や援助交際をしているというのなら、何とかしてやりたい考えているのだ。
他人の痛みを想像することのできる陽一を、綾は立派だと思っている。
尊敬しているし、好きなところでもある。
しかし、アキラにどんな事情があるにせよ、彼女の陽一に対する接し方は、綾にとって許せるものではなかった。
「相変わらず綾は、陽一さんのこととなると夢中だねえ」
「私は、家を預かる者として言ってるのよ。我が家でいやらしいことをさせるわけにはいかないし、いつ物盗りに化けるかわからないんだから」
「そっか。まあ、綾の負担が大きいようなら、また陽一さんに話してみるといいんじゃないの?」
「……今夜あたりまた話してみるけどね」
結局午後の授業も綾は眠ってしまった。




90 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:15:54 ID:ae2Wnmcx
また舌を噛むだの死んでやるだの言われてはたまらないので、綾はアキラが風呂に入っている間に陽一と話すことにした。
「いつまで置いておく気?」
「うーん……どうしたもんかね」
「ずっとうちに居させるわけにはいかないでしょう」
陽一の最初の考えでは、家出の理由を聞けたら、それに沿ってアキラの悩みを解決し、快く送り出してやるつもりだった。
しかし、打ち解けてはきたものの、アキラは家出の理由については一切話そうとしなかった。
「前よりか色んな話をしてくれるようにはなったんだけどなあ……」
「別に大した理由なんかないのよ。だから話さないんじゃないの?」
「だからって外にほっぽりだして、援助交際をさせるわけにはいかないだろう」
「そんなのここに居たって同じよ。お兄ちゃんは知らないだろうけど、あの子、夜中になると一人で外に出てるんだから」
この三日間、夜這い防止の寝ずの番をして、綾はアキラが毎晩外出しているのを知っていた。
もう戻ってくるんじゃない、とその度に願ったが、アキラは毎回一時間もすると戻ってきて、それから布団に入って眠りについていた。
「お客さんをとってるんじゃないの?」
「まさか……うちで寝ることは出来るんだし、わざわざ……」
「ああいうことする子はね、したいからするのよ。寝床がどうとか、そんなのは問題じゃないわ」
「ふーん……そういうものなのかね」
陽一は少し悲しそうな顔をしたが、それはともかく、と続けた。
「あの子がここに居たいというんなら、もう少しここに居させてあげようよ。無理に追い出して、自殺しちゃったり事件に巻き込まれたりしたら、後味悪いだろう」
「……」
正直、関係の薄い人間がどこでどうなろうと、綾の知ったことではなかった。
賛同しかねるといった表情をするが、陽一は陽一でひく気はないと見て取れた。
二人とも黙り込んだところで、風呂場の戸が開く音が聞こえ、すぐにアキラの足音が居間に近づいてきた。
「ふー! いいお湯だったよー!」
バスタオル一枚だけを体に巻いた姿で、アキラは居間の引き戸を勢いよく開けて駆け込んできた。
「またあなたは……毎度毎度、部屋着を着てからこっちに来いっていってるでしょうが」
「えへへ……めんどくさくって! それにお兄ちゃんもこっちの方が嬉しいよねえ?」
「いや、普通に服を着てくれた方が助かる」
顔を逸らす陽一に、アキラは後ろから飛びつき、体を押し付けた。
「ねえねえ、お兄ちゃんたち、さっき何の話してたの? 変な雰囲気だったけど」
「別に、何の話もしていないわ」
「私の話? ひょっとして……出て行け、とか?」
嫌な子だ、と綾は思った。
自分の身に関することについてはやたらと鋭く、本能をもって身を守ろうとする。
今も綾の目の前で、アキラは陽一にますます強く抱きつきながら、頼みを口にしていた。




91 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:17:09 ID:ae2Wnmcx
「ねえ、お願い! もう少しだけ居させてよお……」
綾が最終的に陽一に従うのをわかっているのだろう。
アキラは綾にお願いすることは無く、基本的に陽一をターゲットにしていた。
「私、ここを追い出されたら行くところなくなっちゃうよ……」
「いや、わかったから、離れて」
しどろもどろで言う陽一から、言われたとおりアキラは離れる。
そのまま陽一の正面に回ると、体に巻いていたバスタオルを両手でばっと広げた。
「な……!」
アキラの全身が、陽一の目に映った。
小ぶりな胸も、薄く恥毛の茂った秘所も、はっきりと見えた。
「えへへ……ここに居させてくれるなら、何してもいいからさ」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさとしまいなさい……!」
陽一はまた慌てて顔を逸らした。
「馬鹿なこととかじゃなくて……私、お兄ちゃんに本当に感謝してるし。お兄ちゃんのこと大好きだし」
「別にまだ居てもいいから、頼むからちゃんと服を着てくれ!!」
陽一の言質を得て安心したのか、アキラはにこりと笑うとバスタオルを巻き、洗面所へと戻っていった。
陽一は一息をつき、先ほどから綾が無言なのに気がついて、慌てて綾の方を見た。
予想に反し、綾の表情は驚くほど涼やかなものだった。
「綾……?」
「何?」
「いや、怒ってないのかと思って」
怒っていないわけは無い。
綾は気付いていた。
先ほどアキラが全裸を晒した時、陽一が顔を赤らめていたことを。
顔を背けてはいたが、陽一の股間が微かに反応していたことを。
男としては、自らの意志とは関係無しに、しょうがないことなのかもしれない。
綾はかつて無いほどに感情を揺り動かされていたが、努めて冷静に振舞った。
「別に……」
ため息をついて、綾は言った。
「お兄ちゃん、ホントに、いつまであの子の面倒を見るつもりなの?」
「もう数日見て、それでダメだったら、警察なり適当な相談所なり行くよ」
「……お兄ちゃん、信じてはいるけど……あの子と妙なことしないでね」
「さすがにそれを言われると、俺の方が怒るぞ」
陽一のことは信じている。
最愛の兄を信じないわけは無い。
「……ごめん」
悪いのはアキラだ。
綾は素直に謝った。




92 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:19:32 ID:ae2Wnmcx
その夜、支倉家を出る二つの人影があった。
一人はアキラで、夜中の一時を過ぎる頃にこっそりと玄関を出ていった。
もう一人はアキラから少し距離をあけて、静かに後をつける綾の姿だった。
誰もいない深夜の道を、アキラは鼻歌を歌いながら歩く。
そこから三十メートルほど離れて、綾は足音を殺し、道の端の影の中をひっそりと歩いた。
着いた先は近所にある大きめの公園だった。
浮浪者や、がらの悪い連中がたむろしていることから、夜には近づくなと近隣では言われている。
アキラは、公園の入り口にある電話ボックス前に立つと、歩みを止めた。
アキラの手の中には、一枚のテレフォンカードがあった。
手の中のテレフォンカードと、目の前の電話ボックスを交互に見つつ、アキラは足を止めたまま動かない。
「何してるの?」
不意に声をかけられ振り向くと、すぐ後ろに綾が立っていた。
綾はいつもはツインテールに結んでいる髪を後ろで一つにまとめ、初夏の夜だというのに長袖長ズボンを着込んでいた。
「綾ちゃん……つけてきたの?」
「何してるの、こんな夜に」
綾の追及に、アキラは手に持ったテレフォンカードを見せた。
「えへへ……電話しようかなって思って。家に」
「なるほど。やっと出て行く気になったってわけ?」
「んー、それが、やっぱりかける気にならなくて」
「何故?」
「なぜかって……そりゃあ、色々あるから……」
「毎晩毎晩、電話をかけられないで、うちに戻ってきていたの?」
「うー……うん」
綾はやれやれと頭を振った。
「あのね、帰る家があるなら帰ったほうがいいわよ?」
「んー……やなんだよねー、自分の家は。居心地が悪くて」
「だからって、いつまでもうちに居るわけにはいかないでしょう?」
「んん~、どうだろうね」
アキラはいつものようにいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「陽一さんは優しくしてくれるし、できるならずっと居たいなあと思ってるけど」
「私が許さないわ」
「えへ。綾ちゃんって最初っから怖い人だね。でも、陽一お兄ちゃんが居ていいって言えば、居させてくれるんでしょ? 私、綾ちゃんがホントは陽一お兄ちゃんには強く言えないって知ってるもん」
「……お兄ちゃんも、もうしばらくしたら、あなたを警察か相談所に連れて行くつもりだからね」
「ええ~、それは困るよお」
アキラはスカートの端を指でつまみ、ひらひらとめくって見せた。
「もっと積極的にお願いしなきゃだめかなあ……」
自らの体で男に取り入る術を知っている少女の言葉に、綾は不快そうに眉をしかめた。
「あなたが今まで出会った男の人がどんなものだったか知らないけどね、お兄ちゃんはそんなもので惑わされる人じゃないわよ」
「ええ? そうかなあ? わからないよ~? 綾ちゃん知ってる? 陽一お兄ちゃんね、私が抱きついたりすると、時々あそこを大きくするんだよ?」
「……!」
「あそこってどこだか、綾ちゃんわかる? どうして大きくなるのかわかる?」
クスクスと笑って、小馬鹿にするように訊いて来るアキラに、綾は震える声で尋ねた。
「ま、まさかあなた……もう、お兄ちゃんと……」
「ううん。まだだよ。でもこれからガンガン押していっちゃうけどね。お兄ちゃんもまんざらでもないみたいだし」
「やめて!!」
本人も驚くほどの声で、綾は叫んでいた。
「それはやめて! ダメ! 絶対にダメ!!」




93 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:20:18 ID:ae2Wnmcx
髪を振り乱し、アキラを睨みつける。
前髪に隠れた切れ長の目に街灯の光が反射し、蛇の目のように光った。
「ダメ……それは……それは絶対にダメ……!」
「……綾ちゃんて、陽一お兄ちゃんのことになると、やたらと絡んでくるよね。今も必死だし」
「家族のことなんだから……当然でしょう……!」
「家族とかそういうんじゃなくて……まるで私に嫉妬してるみたいだよ。気持ち悪い」
「気持ち、悪い……?」
「そうだよ。あのね、いくら綾ちゃんが妹だからっていっても、陽一お兄ちゃんの恋愛に口出しする権利なんて無いんだから」
「恋愛……? お兄ちゃんと、あなたが、恋愛をしているっていうの?」
「そうだよ」
「あなたは、自分の体を売り物にしているだけでしょう!!」
「えへへ……私、陽一お兄ちゃんのこと大好きだもん。好きな人だからセックスもしたくなるってだけだもん」
「出て行って……私の家から出て行ってよ……」
「陽一お兄ちゃんが出て行けっていったらね」
「でも」とアキラは、またスカートをひらりとめくり、少女らしいツヤのある太腿を露にした。
「そうならないように、陽一お兄ちゃんにアプローチしちゃうけどね。この体で」
綾は走り出していた。
アキラに向かって、一直線に。
「え……?」
アキラが反応しようとしたその時には、すでに綾は目前に迫り、次の瞬間、小さな悲鳴とともにアキラは地面に倒れていた。
倒れたアキラを冷たく見下ろす綾のその手には、棒状のスタンガンが握られていた。
「……そんなにセックスがしたいなら、思う存分させてやるわよ」
綾の言葉に、アキラは反応しない。
意識はあるが、体が動かないようだった。
綾はアキラの首に腕を回し、念を入れて締め落としておいて、公園の植え込みの陰へと引きずって横たえた。
両手に厚手の黒い手袋をつけ、綾は周囲を見回した。
広い公園。
人の気配は無い。
木々の茂る森林区の中には、浮浪者がねぐらにしている小さな遊具が見える。
綾は近くのゴミ箱を覗き込むと、中から大きめの白いビニール袋を取り出した。
そのビニール袋を細く折りたたみ、さらに何回もねじって、固い紐状にする。
甘酸っぱい生ゴミの臭いが手についたが、そんなことは気にせず、一心不乱に作業を続けた。
アキラのTシャツを脱がせ、折りたたんで、それを目隠しのようにしてアキラの顔に巻きつける。
ビニール袋から作り上げた紐で、アキラの両手を後ろ手に縛り、自由を奪った。
さらにスカートをまくり、綾はアキラの下着に手をかけた。
「あら……?」
淡い水色の、シンプルな下着は、ぐっしょりと生温かく濡れていた。
「あらあら、締め落とした時に漏らしちゃったのね」
小便の臭いが鼻をついたが、気にせず綾は下着を脱がせ、手の中で丸めると、そのままアキラの口に詰めこんだ。
「う……」
うめき声をあげるか、アキラはまだ目覚めない。
綾は下着を奥へ奥へと詰めた。
すべてを終えるとそこには、後ろ手に縛られて、上半身はブラジャーのみ、捲り上げられたスカートに、微かな陰毛の生えた秘所を露出し、地面に転がされたアキラの姿があった。
「さて……」
時計を見ると、二時になるかならないかというくらいだった。
綾はまた周囲を見回して、誰も居ないことを確認すると、アキラを引きずって移動した。
目指す場所は、浮浪者たちのたむろしている森林区だった。




94 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:21:26 ID:ae2Wnmcx
浮浪者たちは、森林区の中にある使われない遊具の陰で、各々ダンボールにくるまって眠っていた。
人数は三人。
やっせぽちのもいれば、それなりに体格のいい者も居る。
どこから持ってきたのか、あたりには飲み散らかしたビールの缶が転がっている。
何とも不快な臭気があたりを覆っていた。
綾に引きずられてきたアキラのうめき声をあげる間隔は短くなっていて、そろそろ目を覚ますのだろうと見て取れた。
「急がなきゃ……」
綾はアキラの股を開かせて、局所を前面に押し出すような体勢で地面に寝かすと、寝ている浮浪者の背に思い切り蹴りを入れた。
「ぐぁっ!」
悲鳴をあげて浮浪者が背中を押さえる。
すぐに綾は走り去り、近くの茂みに身を隠した。
「いてぇな! なにすんだ!」
怒りの声をあげ、飛び起きる浮浪者。
しかしそこには彼を蹴りつけた者の姿はなく、あるのは秘所を丸出しに、健康的な肌を露出して地面に転がっている、一人の少女の姿だった。
「……あ?」
浮浪者は何が何だかわからず、飛び起きたままの姿勢で止まった。
なぜ目の前に、裸の少女が転がっているのか。
目隠しをされ、口には詰め物をされている、まだ年若い少女が。
「何だってんだよ、こりゃ……」
疑問を口にしながらも、男の体は正直だった。
寝床も定まらない生活をしていれば、女を抱く機会なんてそうそうない。
たまに日雇いの仕事をして金が入ったときに、風呂に入って安い風俗に行って、手や口でしてもらうのがやっとである。
「何なんだよ……」
警察に届けようか、無視しようか、それとも……。
考えているうちに、男の下半身にはどんどん血が集中していった。
「……」
男は鼻息荒く、アキラの太腿に手を触れた。
ぴくんと体を震わせ、うめき声をあげるアキラに、一瞬身を引きながら、おそるおそるといった様子で触り続けた。
やがて、男の汚らしい手は、アキラの秘所に触れた。
少女の柔らかい肉の感触と、微かに漂う小便の臭いに、男はそれ以上耐えられなかった。
何しろ、もう何年も女体とは無縁の生活を送っているのだ。
「くそ……!」
男は震える手でズボンを下ろし、勃起したペニスを握った。
長らく洗っていないそれは、異臭を放ちながら驚くほど大きく勃起し、男の心臓の鼓動に合わせて震えていた。




95 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:23:01 ID:ae2Wnmcx
「へへ……へへへ……」
アキラのまだ幼さの残る秘所に汚ない指をあて、割れ目をぱっくりと開く。
膣口の位置を確認すると、男は握ったペニスをしっかりとあてがい、腰をゆっくり押し進めていった。
濡れていないので、スムーズにはいかない。
しかし男のペニスは確実に、陰唇を巻き込むようにして、中学生の少女の中に飲み込まれていった。
「うおお……あったけぇな……」
根元まで入りきると、男は恍惚の表情を浮かべ、背筋をぴんと伸ばす。
そして、アキラの股間に自らの下腹をこすりつけるようにして、軽く身を震わせた。
「へへ……もう出ちまった……久しぶりだからなあ」
ゆっくりと、男は腰を動かし始めた。
「むしろこれで動かしやすくなったか」
ちゅく、ちゅく、と小さく水音が聞こえる。
男はますます興奮して、アキラの体に覆いかぶさるようにして乗っかり、瑞々しい肌を首筋から顔にかけて舐めまわした。
「う……ん……?」
アキラが呻いても、男はもはや気にせず腰を振る。
男の荒々しい突き出しに、体をがくんがくんと揺らされて、
「ん……? ん……んんー!? ん、んー!!」
ついに目が覚めたのか、アキラは身を捩じらせて、足を動かした。
しかし男はしっかりと抱きつくようにしてアキラを犯し、その足は虚しく空中を蹴るのみである。
叫び声をあげようにも、口の中には濡れた下着が詰められて、ただ呻くことしかできない。
おまけに視界も隠されて、アキラには自分の身に何が起こっているのかわからなかった。
ただわかるのは、自分が犯されているということ。
自分を犯している男が、強烈な臭気を発しているということだった。
「んー! んんーっ!! ん~……!」
「お、お、動くなって。そんなに動くとまた……」
腰の動きが細やかになり、すぐにまた男は身を震わせた。
「また出ちまった。まあ久しぶりだからいくらでもできるけどな」
男の性欲はとどまるところを知らない。
腰が打ち付けられるたびに、男の精液が少女の膣中でかき回され、ますますいやらしい音を発した。
混乱の中に、恐怖と悲しみからアキラは泣き出し、喉を鳴らす。
男が一息つこうとペニスを抜いたところで、他の浮浪者二人も起き出してきた。
その男たちも、既に興奮に息を荒くし、一人は早くもペニスを握って自慰をしていた。
「お前らもやるか?」
アキラは為すすべも無く、三人の浮浪者に犯されることとなった。
綾はその光景をずっと、笑いながら見ていた。




96 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:23:48 ID:ae2Wnmcx
四時を過ぎて東の空が白み始めた頃、男たちはいそいそと服を着て、公園を出て行った。
顔は見られていないとはいえ、少女を犯した公園にそのまま居座っていては、警察にお世話になること間違いなしである。
早いうちに、適当な場所にねぐらを変えておかねばならなかった。
男たちが去ってから、綾は茂みから姿を現した。
綾の足元には、無残に犯しつくされたアキラが転がっていた。
全身に男たちの精液を浴び、顔や胸には唾液がぬりたくられている。
秘所はぱっくりと開き、男たちが体内に残した白濁の液体が流れ出してきていた。
綾は息も絶え絶えといった具合に横たわるアキラの前髪を掴み、引っ張り上げると、顔に巻かれた目隠しのTシャツを乱暴にほどいた。
「気分はどう?」
「う……」
目を細めて、アキラは綾の顔を見る。
「う……ん~……!」
「何怒ってるのよ。大好きなセックスができて、大満足でしょ?」
「んー! ん゙ー!」
「ちょっとちょっと、暴れないでよ。ただでさえあなた、すっごく臭いんだから」
綾は髪を掴んだままで思い切り腕を振る。
ぶちぶち、と髪の毛が束になって抜け、アキラは地面に顔を叩きつけられた。
土に頬を擦りつけながら、アキラはぽろぽろと涙を流した。
「まだ、お兄ちゃんとセックスしたい?」
「……」
「セックスしたいかって訊いてるのよ!」
綾は一切の容赦なく、顔面を蹴り上げる。
鈍い音がして、アキラの鼻が奇妙に捻じ曲がった
「ん! んぉぉおおおっ!!」
鼻血を撒き散らしながら、アキラは悶絶し、声にならない声あげる。
「どうなのかって訊いてるんだけど」
折れた鼻をさらに踏みつけられ、アキラは泣きながら首を左右に振った。
その反応に、綾は「良かった」と胸を撫で下ろした。
「でも、これまでのあなたの罪が消えたわけじゃないからね」
綾はしゃがみこんで、アキラの鼻をそっとつまんだ。
アキラは激痛に顔を歪めたが、すぐにもっと重要なことに気付き、体をゆすって綾の手から逃れようとした。
喉の奥まで詰め込まれた下着で、口からの呼吸はほとんど不可能となっていたのだ。
そのうえで鼻を塞がれては、どうしようもない。
必死になって暴れたが、両手を縛られた状態ではどうしようもなかった。
自由がきかない中で激しくのたうちまわるアキラを押さえながら、綾は決して手を離さない。
やがてアキラは体を痙攣させて、空気の抜けるような情けない音とともに糞尿をもらしてしまった。
強烈な臭いが漂ったが、綾はやはり動じず、アキラの呼吸を封じた。
しばらくしてアキラは糸が切れた人形のように動かなくなり、だらしなく股を開いたままで、ぐったりと身を横たえた。
それから五分、十分、十五分と経ち、ようやく綾は血にまみれた鼻から手を離した。
「終わり、か……」
ふう、と息をついて、慌てて袖で鼻を覆う。
「なんて臭さなの、この娘は……。最悪だわ」
涙ぐみながら、アキラの口の中の下着を、さらに喉の奥へと詰め込んだ。
アキラはぼんやりと空を見たまま、もはやぴくりとも動かなかった。
「四時半、か。ぎりぎりの時間ね」
公園には早朝から訪れる者もいる。
絶対に姿を見られるわけにはいかなかった。
「ホント……汚らしい」
見るも無残な姿となったアキラに一言残し、綾はその場を去った。




97 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:39:58 ID:ae2Wnmcx
二日後、アキラの死体は発見され、支倉家のある地区ではちょっとした騒ぎになった。
姿を消す直前まで居候していた家ということで、陽一と綾は警察から事情を聞かれることとなった。
陽一はさすがにショックを受けながらも、アキラとの出会いや、家での様子、細かい事情は聞いていなかったことを話した。
そして綾は、ショックを受けたように装いながら、アキラが援助交際をしていたこと、夜に家を出て行くことがあったことをきちんと話した。
アキラは補導歴もあったらしく、二人の話はすんなりと聞き入れられた。
綾は内心、公園で姿を見られたのではないかと恐れていたのだが、どうやら大丈夫だったようで、何事も無く二人は家に帰された。
警察の話では、アキラの死因は窒息死で、暴行を受ける際に喉に詰められた下着が気道を塞ぎ、死に至ったのだろうということだった。
現在、アキラに暴行を加えた者たちを全力で捜査中だという。
警察署からの帰り道、綾はしょぼくれる兄の背を優しく撫でながら、やり遂げたという満足感と開放感で満たされていた。




98 名前:恋の綾  ◆5SPf/rHbiE [sage] 投稿日:2007/05/26(土) 05:41:03 ID:ae2Wnmcx
昼に警察署に話をしに出向き、家に帰りついたのはもう夕暮れ時だった。
「ご飯のしたくするからね。お兄ちゃん何食べたい?」
ご機嫌なのを押し隠して綾は陽一に尋ねる。
どんな御馳走でも作ってあげようという気分であった。
「いや……いい。食欲がない」
「えー……? 何でよ?」
「だってお前、あんな話の後で……」
綾は頬を膨らませた。
「気持ちはわかるけど、食べないとますます元気がなくなっちゃうわよ」
「いや、でも……」
「お兄ちゃん……そんなに悲しいの? アキラちゃんが居なくなって」
「だってお前、ついこの前まで一緒に暮らしていた人間が死んだんだぞ? 悲しくないわけないだろ」
責めるような目で綾を見る。
お前は何とも思わないのかと。
「そりゃ私だってショックだけど……だけど私たちがどう思ったところで、あの子が生き返るわけじゃないじゃない」
「……」
「……お兄ちゃん、やっぱりアキラちゃんのこと好きだったの?」
「そういうんじゃないよ。ただ……何かしてやれたんじゃないかって……そう思うと……」
陽一も綾も、警察から少しだけアキラの家庭の事情を聞かせてもらっていた。
両親は離婚、母親についていき、この一年母が愛人を連れ込むようになってから、家に帰らなくなったらしい。
彼女の死体が唯一持っていた持ち物は、スカートのポケットの中にあった、かつて両親と撮った写真から作ったテレフォンカードだった。
「お兄ちゃんが自分を責めることないわよ」
「……」
「あの子以外にも、似たような境遇で苦しんでいる子供はきっとたくさん居るでしょ? それぞれが頑張って毎日生きているのに、家を出て、体を売って生きるって決めたのはあの子なんだから。こうなる道を選んだのはあの子だったんだから」
「お前……冷たいな」
「ずいぶんな言い草ね。お兄ちゃんに元気を出してもらいたいだけなのに」
陽一は椅子に座り、俯いたまま返事をしない。
綾はため息をついて、陽一の前に進み出た。
「お兄ちゃん、ちょっと見て」
「……?」
陽一が顔を上げると、目の前には綾が立っていた。
部屋着のチェックのスカートをまくり上げて。
真っ白な下着に包まれた下半身と、すらりと伸びる脚が、何とも美しい。
陽一は慌てて顔を逸らした。
「な、何やってるんだ!」
「お兄ちゃんが元気なかったから……アキラちゃんの真似」
「しまいなさい!」
綾は素直にスカートを下ろした。
こっそりと兄の股間に視線を向けるが、変化の様子は無い。
(でも、顔を背けるってことは、何も感じていないわけではないはず……)
そう思うと、綾はまた嬉しくなってしまった。
陽一はしばらくアキラのことで悩みそうだが、気長に待とうと思えた。
「ご飯はつくるから、ちゃんと食べなさいよね」
台所に立った綾は、陽一に聞こえないよう水道の水を一杯に流して、喉の奥から笑いを漏らしながら呟いた。
「ま、お兄ちゃんが男だって教えてくれたことには、お礼を言わなきゃね」
今は亡きアキラへの、感謝の言葉であった。


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最終更新:2011年10月27日 23:36
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