吸精之鬼 第1話

596 :吸精之鬼 [sage] :2012/01/14(土) 13:26:33.20 ID:3ruNtYcY (2/6)
大野家は一般家庭だ。
サラリーマンの父に兼業主婦の母、高校生の兄、大輝に中学生の妹、桜、
特に裕福でもないが、貧しくもない普通の家族、
ただ一つの事を除けば。

その日、夕食の支度を終えた大輝が時計を見ると、6時過ぎになっていた。
家にはまだ、大輝の他に誰も帰宅していない。

両親ともに帰りが遅いのはここ最近の事で、父は会社のプロジェクトメンバーに選ばれた為で、母はパートのリーダーになったのが理由らしい。
大輝にとってみれば、両親の帰宅の遅さを嘆くほど親離れ出来てない訳もなく、逆に生き生きとした両親の顔は嬉しいものだ。
更にその事が夫婦仲を良くしているのか、二人だけで食事に出かけたりしだした事も、大輝には喜ばしい事だ。

妹の桜は部活だ。
中学に上がってから始めたバスケ、小柄ながらも次の大会でレギュラーに選ばれるかどうかという所まで上達したらしい。
その事を嬉しそうに話していた桜の顔を思い浮かべると、大輝も顔が綻ぶ。
幼い頃の桜は体が弱く、外で元気に走れる日すら希だったのだ.
その時のことを思えば、今こうして部活に励んでいる姿は嬉しい。

体の弱かった桜が元気になった理由、それは何らかの病気が治った、と言う事ではないし、歳とともに体質が変わったから、と言う事でもない。
大輝のある行動が理由だ。
その事を考えた時、大輝は思わず大きく首を振る。
”もうアレは俺の仕事じゃないハズだ”
既に1ヶ月以上もそれがないのだから、その役割に相応しい相手が桜に出来たのだ。
懸命にそう思い込む事でその事を忘れようとした。

その時、玄関の戸が開き、
「ただいま」
と言う、桜の元気のない声が聞こえてきた。


597 :吸精之鬼 [sage] :2012/01/14(土) 13:27:21.85 ID:3ruNtYcY (3/6)
大輝のいる居間まで歩く桜、
その足取りは不安定で覚束ない。
「お帰り、桜。相当疲れてるみたいだな」
そんな大輝の言葉に桜は「うん」とだけ頷くと、大輝の顔を見上げ、その眼を見つめた。

全体的に小柄なせいもあってか、桜は歳よりも幼く見える。
普段はその幼い顔立ちに活発な表情があるのだが、今は顔色悪く、生気のない表情があるだけだ。

「兄ちゃん・・」
弱々しい声でそう呼びかけながら、桜がその顔を大輝に近付けていく。
桜が何をしようとしているのか、それが分かっている大輝は慌てて、
「待ってろ、すぐ飯にしてやるから」
と立ち上がったが、それ以上は桜に抱きつかれ、動くことが出来なかった。

「もうご飯だけじゃだめだよ・・」
縋るように大輝に抱き付いた桜が、呼吸を乱した声で訴える。
「でもな、桜・・」
「お父さんかお母さんがいたから、我慢してきたんだよ。でも、もう無理だよ」
諭そうとする大輝の声に、桜が涙声で反論する。

そう話している途中でも、桜の状態が悪くなっているのは大輝にも分かった。
だから大輝も桜の方に向き直ると、
「いいんだな?」
と確認のように桜の眼を見ながら聞く。
それに桜は「うん」と返事をすると、眼を閉じて顔を上げる。

そして大輝はそんな桜に口づけをした。


598 :吸精之鬼 [sage] :2012/01/14(土) 13:28:04.78 ID:3ruNtYcY (4/6)
その口づけをしてすぐに桜の顔に血色が戻り、それまで弱々しかった大輝を抱き締める両腕にも力が入り始めてきた。

吸精之鬼
大輝も桜も詳しく分かってはいない。
ただ、桜がそうなったのだ、二人ともそう考えている。


始めて大輝がその事を知ったのは、大輝が12歳、桜が8歳の時だ。
何時もより体調を悪化させた桜は、入院した病院で殆ど意識が戻らない状態が続いており、大輝も付きっきりで看病する日が続いていた。
そんな中、一人の看護師が大輝に声をかけてきた。
「君はこの子の何?」
それまであまり見かけた記憶はなかったが、とても綺麗な女性だったというのは子供心に覚えている。

「兄ですけど」
大輝がそう答えると、その相手は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに”そういう事もあるかも’と呟いてから真顔に戻り、大輝に向き合うと、一言、
「妹ちゃんを助けたい?」
と問いかける。
「助けたいです!」
そう答えた大輝の言葉は純粋で真っ直ぐなものだった。

その答えに満足したのか、看護師は何度となく頷くと、
「なら、妹ちゃんにキスしてあげなさい」
と真剣な顔で大輝に言う。
その言葉に当然、大輝は戸惑った。
それを兄弟でするものでない事も、女性にとってのファーストキスが大事な物になる事も分かっているからだ。

「妹を助けたくないの!」
行動しない大輝に、看護師から厳しい叱声が飛ぶ。
その言葉に大輝は決意を固める。
’駄目で元々、どっちにしろ、恨んでもいいから”
小声でそう桜に囁きかけながら、大輝は桜にキスをした。

少ししてから唇を離すと、そこには血色の良くなった桜の顔が、そして
「おにいちゃん」
と呼びかける桜の声が聞こえてきた。



599 :吸精之鬼 [sage] :2012/01/14(土) 13:28:57.05 ID:3ruNtYcY (5/6)
その後、大輝と桜は、桜がこうして精を注入されなければならない体になってしまった事を聞かされた。そしてそれが吸精之鬼だと思った。
その日から大輝が桜に定期的にキスをするようになった。


桜が元気になったのを見計らい、大輝は唇を話した。
「まだ足りないよ?」
大輝を抱き締める腕の力を弱める事なく、桜が不満を漏らす。

「ば、ばか!こういうのは普通は兄妹でするもんじゃねえだろ!」
大輝がそう言いながら桜から逃れようとするが、出来ない。
桜がより強く大輝を抱き締め、その身体を密着させる。

「私ね、兄ちゃん以外から吸えるように思えないし、そうしたいとも思えないんだよね」
あっけらかんと白い歯を見せながら桜が言う。
その口調に先程までの弱々しさはなく、明るくて生意気な何時もの口調に戻っていた。

「それにね、1ヶ月以上も我慢してたからたまってるんだ!」
「お前、さっきは足りないって言ってたろ!どっちなんだよ?」
大輝の言葉に桜は、「両方!」とだけ答えると、それ以上は何も言わず、強引に大輝にキスをした。

そのキスは先程までの口づけではなく、愛撫と呼ぶような激しいものだ。
それに大輝は懸命に堪える。
体中で感じる女になり始めた妹と、最悪の一線を越えないために。


「吸精之鬼は何人かは知ってるんだけど」
そう独り言を呟くのは、あの時の看護師、須藤理沙だ。
「でも身内に影響があった人はいなかったからなぁ」
吸精之鬼、それは自身の精を吸わせる事で女性を自分の奴隷にしてしまえう男を指す。
それが身内に影響を及ぼしたケースはない。
「ひょっとしてあの娘が望んだのかも」
しばらくはあの兄妹を観察するだけで暇潰しになる、
須藤理沙の顔に自然と笑顔がこぼれる。
ここ何十年か、退屈すぎたのだ。


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最終更新:2012年01月21日 17:13
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