608 :
人格転生 [sage] :2012/01/15(日) 00:56:27.85 ID:qPV2u+J3 (2/8)
「おい、由衣、起きろ、由衣」
いつものようにベッドの上にいる由衣を起こす俺。
「むにゃむにゃ、もう食べられないよ、お兄ちゃん…」
このアホ面で気持ちよさそうに寝ているのが我が妹、美里由衣(みさと ゆい)。
正真正銘のアホである。こんな奴と血がつながってるんだから恐ろしい。
何しろほうっておいたら、平気でこのまま夕方まで寝て、夕焼け空が暗くなるのを見ながら「おはよう、今日は曇りだね(笑)」だ。
その無駄につやのあるセミロングの黒髪を引っ張る。
「いたい…」
顔は整ってるのに髪型はまったく整ってない。変わらずほやけたツラで寝続ける。
神様も酷いと思う。俺が言うのもなんだがこいつは黙っていれば絶対にモテるはずだ。
整いかけのプロポーションも悪くない。
うちの家系の女はスタイルが抜群なので、まだ成長途中のこいつが成長しきったらどうなるかもある程度は予測できる。
でもなぁ…今度はほっぺたを引っ張る。
「い…ぃはいよ、ほにいひゃん…」
他が壊滅的すぎるもんなぁ…
「ぃたい、ひたい…」
勉強するときはこいつの周りのクラスメイトを気にしないといけない。
こいつがいるだけで周りの偏差値が5以上は下がる。
中学時代にこいつのせいで受験時のご学友たちが犠牲になるところだった。
俺がなんとかしないとヤバかったのでご学友を一人一人助けた。
正確には教師と一緒に教えた。危うく9割は受かる高校受験の確率を5割以下に下げるところだった。
運動するときは周りの視線を気にしなければならない。
こいつが動くだけで体育の授業が、血気盛んな祭りになる。
なにしろ無駄に身体能力が高い上にパフォーマンスだけ一流なのだ。
運動部のエース相手に挑発したり、相手チームを一人で相手にしたり、味方や男子を巻き込んで応援させたりしている。
おかげで体育教師に注意されるのはいつも俺だ。
料理するときは周りの火器をまっさきに気にしないといけない。
家が焼けて火災保険のお世話になるから。
この前もラーメンを作ろうとして警報装置を鳴らさせた。
たかがラーメンだぞ? 茹でて火を通すだけだぞ?
あのときほどカップ麺の素晴らしさを感じたことはない。
火を使わずに熱湯だけで作れるという偉大な発明に敬意を評した。
日本の技術万歳、と。まあこいつならカップ麺つくるのでも何かしらやらかしそうだが。
なにより、異性関係には特に気を付けなければならない。
なにしろこいつのことだ。男に声をかけられてホイホイついていって帰ってきたときには「初めてって意外と痛いんだね、てへ☆」とか言いかねない。
兄妹の俺にすら擦り寄ってきまくるのに、これが他の男だったら一発でこいつの貞操はなくなっているだろう。
友人にも異性関係のもの、交友関係、告白やラブレターなどの恋愛相談はすべて俺に報告して通すように言ってある。
今のこいつの処女を守っているのは俺の状態だ。はっきり言って全然嬉しくない。
さらに、いかなることが起きても駆けつけるため、こいつの携帯は子供用のGPS付きのものを持たせている。
とにかく歩くテロリスト女…こと由衣を起こすためにいつもの最終手段をつかうことにする。
騒音問題になりそうなくらいの目覚まし時計を多数、こいつの頭の周りに配置する。
俺が部屋を出て一階に降りると同時に大量の騒音と同時に『ぎゃ~~っ!!』という悲鳴が聞こえてきた。今日も平和だ。
609 :人格転生2 [sage] :2012/01/15(日) 00:59:42.19 ID:qPV2u+J3 (3/8)
「おはよう! お兄ちゃん!」
「おはよう。ほら、ちゃんと服着ろ」
「うんうん」
いつものように二階から降りてきた平和ボケしたツラの由衣の着てるセーラー服を整える。
ついでにちゃんと寝癖でボサボサの髪も綺麗にツインテールにセットしてやる。
前はポニーテールだったんだが「ハゲるよ~」との訴えにより今の髪に落ち着いた。
三つ編みもしたことがあったのだが時間がかかり過ぎて遅刻して以来してない。
「はい、寝癖」
「うひひ」
「キモイ声を出すな」
脇腹にチョップを入れる。かなりキツめに。
「ぐえ」
それくらい自分でやれと言っててやらせてた時期もあったが、さすがに年頃の女子の中でも浮きまくった存在になって風紀問題になりかけたので、仕方なく俺がやってる。
外見だけ無駄に可愛いだけに、余計に教師からの苦情が俺に来るのだ。
つかそもそもなんで本人じゃなくて俺に来るんだと言いたい。
きっと教師も本人に任せている方が危険だと判断したのだろう。
こういうのは教師がちゃんと自主性を重んじて教育しないとダメだと思うんだが。
日本の教育問題は深刻だ。
「はい、顔」
「んぐ」
濡れタオルで顔を拭いてやる。
いや、わかってる。世話焼きすぎっだってことは。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「いつもありがとね」
「そう思ってるんならちょっとは自分でもやってくれ」
満面の笑みで感謝する由衣。悪意がないのもタチが悪い。俺以外の男ならきっと騙されちゃんだろう。
「さ、飯食って学校行くぞ」
「うん、遅刻しないようにね」
「お前が言うな」
「えへへ」
頭の上に軽くツッコミを入れておいた。
なんだかんだで今日も遅刻スレスレに二人で登校することになった。
…
「おい、急ぐな!」
「お兄ちゃん、遅いよー」
「はぁ…はぁ…お、お前が速すぎるんだよ」
前述の通り由衣の足は速い。横の俺の息は上がっていた。
「それと、ちゃんと前向いて走れ!」
いつものように由衣の腕を掴んでスピードを落とさせようとする。
「きゃ!」「あ!」
腕をつかむ前に2つの悲鳴が交差した。
610 :人格転生3 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/15(日) 01:17:06.76 ID:qPV2u+J3 (4/8)
見ると由衣と見慣れぬ女性が道路に腰を落としていた。
「すみません! 大丈夫ですか?」
「いたた…」
その女性は腰をさすりながら起きようとしていた。
謝りながら助けようと手をとった。
「うえーん。いたいよぅ…」
こっちは無視だな。
「あの、お怪我はありませんか?」
紳士的にその女性の手を取り体を起こす。
「ええ…はい…ありがとうございます」
「いえ、悪いのはこちらです」
「あちらの女の子は」
「あいつが悪いからあれでいいんです」
ひどいよぉという声が聞こえてくると同意に、その女性と目が合う。
「え!?」
思わず声をあげてしまった。
後ろにくくった髪。ポニーテールに少し前髪が額にかかっている。
ルックスは間違いなく美人に属するだろう。それもかなりのレベルだ。
でも、問題はそこじゃなくて…
「どうかしましたか?」
この人、見覚えがあるようなないような…いや、気のせいだろう。
でもなんか引っかかる。でも思い出せない変な感覚。まあいい。
「すいません。ちょっと知り合いに似てるかな~って」
「そうでしたか。まさか今、私口説かれちゃってたりします?」
「そんな滅相もありません。本当にこちらからぶつかってしまい申し訳ないです」
大げさに頭を下げる。
「こら。お前も来い!」
由衣を引っ張って来て無理に頭を下げさす。
「いたいよ~」
「あはは。お互い様ですし、いいんですよ。それよりこちらの地区で美里様というお宅はご存知ですか?」
「あの…も何も俺たちも苗字は美里ですが」
「え? もしかして美里良也さんと美里由衣さんでいらっしゃいますか?」
「そうですけど」
「失礼致します!」
あらら、物凄い勢いで商店街の方に駆けて行っちゃったよ。
いったいなんだったんだろう。
最終更新:2012年01月21日 17:19