吸精之鬼 第6話

119 :吸精之鬼 [sage] :2012/02/04(土) 14:10:23.31 ID:voNYPzKr (2/5)
大野家と福原家、
共に異質な血を受け継ぐ両家だが、そこに大きな違いがある。

大野家はその血を伝えず、一般の家庭となった。
福原家はその血を伝え、その能力によって財をなした。

代を重ねる毎に薄まっていく血、それは福原の人間にとって耐え難い事実だ。
その状況下で、福原の家では初とも言って良い女児が産まれた。
次に男児が産まれた時、既に当時に存命だった当主達は決断していた。

福原に流れるその血をより濃くする為に、禁忌を犯させる事を。

その結果に産まれてくる子の将来は考えず、ただその血を守る為だけに。


全てが済んだ後、姉は逃げるようにして福原から出た。
産んだ子を捨ててでも、その家に残っていたくはなかった。
弟は福原の家から逃れる事は出来なかった。
ただ産ませた子に自由を与える為、その血を語らず、その母を語らなかった。



120 :吸精之鬼 [sage] :2012/02/04(土) 14:11:01.64 ID:voNYPzKr (3/5)
その日、大輝は珍しく暇を持て余していた。
その日は最近では珍しく早く帰宅出来た母が、久し振りに家事全般をやっているからだ。
その為、普段ならまだ家事に使っている時間が、自分の時間となったのだ。

机に向かってはいるが、勉強している訳ではない。
その日に済ませておく課題は既に終わらせていた。
今は引き出しから取り出した指輪を眺め、思案に耽っていた。

その指輪は先週の日曜に桜に買ってやった物だ。
結局、その日に渡し損なってしまい、今も大輝の手元にある。
「どうするかな、これ?」
一度、渡し損なった物を再度渡すのは意外と難しい。
特に深い意図があって買ったわけではない代物を、何の理由もなく渡すのには抵抗感があった。
「状況ねえ…、要はそんな雰囲気を作ってから渡せって事なんだろけど…」
「って!妹相手にそんなの考えてどうする!」
最初に渡そうとした時に桜に言われた言葉を思い出し、思わず首を振った。
「適当なタイミングで適当に渡せばいいだけだろ!」
そうは言ってはみるが、その適当なタイミングで適当に渡せてないから、この指輪が大輝の手元に残されているのだ。

基本的には何でも器用にこなせる大輝だが、こういった事は苦手だ。
彼女いない歴=年齢なのだからしょうがないと言えばしょうがない。

結局、堂々巡りの思案から抜け出せないまま、指輪とにらめっこする時間だけが過ぎていた。
そんな中、控え目に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
大輝が慌てて指輪を引き出しにしまい、その対応に出ると、そこに立っていたのは、母だった。


121 :吸精之鬼 [sage] :2012/02/04(土) 14:11:41.62 ID:voNYPzKr (4/5)
その電話を切った後、明日香は大きな溜め息をついた。
その電話の内容、それが二十歳を過ぎた自分がするようなモノでないことぐらいは、明日香にだって分かっていた。
それでも明日香は知りたかった。
母の愛情を。

屋敷、そう呼ぶに相応しい福原の家、
今、ここには明日香一人しかいない。
父は仕事の都合で何日かは帰ることがない。
使用人達には明日香が休みを与えた。

一人でいる事、それが明日香にはとても辛い事だ。
清水理沙は明日香の事を快楽主義者だと評した。
それはハズレではないが、明日香を表現しきれてはいない。
確かに明日香が次から次へと相手を変え、相手の年齢は勿論、性別すらも気にせずに性行為を繰り返してきた理由に快楽があるのは否めない。
が、人との繋がりを求め続けていたのも事実だ。
明日香が求めた繋がり、それは他人では決して得る事のないモノだ。

それまで明日香はそれが何なのかは分からなかった。
大輝と桜、この”実の兄妹”を見て、初めてそれに気づいた。
だから二人に嫉妬し、それを壊したいとも考えた。
その前に明日香は知っておきたかった。
実の母の愛情を。

大輝は明日香にとって弟、例え流れている血の半分が違っていたとしても、大事な弟と言う存在には変わりない。
もし、母が自身の存在を認め、娘としてくれるなら、大輝を壊す事はしたくない。


電話をしてから二時間ぐらいしてからだろうか、
呼び鈴が来客を告げた。
その来客は望んでいた母ではなく、大輝だった。

あの人にとって自分は娘ではない。
そう悟った明日香にもう悩みはない。
”壊してあげるよ、アナタの息子を”
そう呟くと、何食わぬ顔で大輝を招き入れに向かった。



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最終更新:2012年02月16日 15:53
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