471 :榊さん家の三姉妹 ◆rhFJh.Bm02 [sage] :2012/03/19(月) 04:49:30.02 ID:DjAUEnrP (3/7)
現在、15:13分。6限目、数Ⅲ。
先生の説明を聞き流しながら黒板に書かれた数式を何も考えずに写す。
午後の授業とはどうしてここまで眠くなるのだろうか。
榊 錬太郎は睡眠欲と戦っていた。
時計の進みが遅い。ちらりと横を見ると悪友の柴田がいびきを掻いて豪快に睡眠中。
先生もここまで気持ち良さそうに寝られると文句を言う気にもならないらしい。
大口を開けたいかにもアホそうな寝顔を見ていたら何時の間にか授業は終わっていた。
「あぁ~ようやく放課後になったな」
「お前は殆ど寝てたからあっという間だろうに」
「俺は放課後に輝く男だからな。放課後を有意義に過ごす為に充電してんだよ」
「で、放課後の予定は?」
「ゲーセンに新作をやりに行くかな」
「お前の高校生活はそれでいいのか。もうすぐテストだというのに」
確かこいつは4~5教科危険信号が灯っている状態だった筈だ。
「ふふん、何事も諦めが肝心なのさ。しかし今回、錬太郎は人の心配が出来る立場ではないだろ?」
そこを言われると何も言い返せない。前回のテストは偶然、
姉さんの来襲期間と被ってしまったのだ。
思い出したくも無い。
あれは悲劇だった。
「確かにそうだ。だから今回はテスト対策に全力で臨む」
「ほう、その策を聞かせてもらおうか。流石に今回ばかりは無理だと思うけどな」
「・・・会長に・・・教えてもらおうと思う。」
「それはとてもいい考えだな!」
嬉しそうな柴田がとんでもなく憎たらしい。
我が校の生徒会長である春日井 桜は天才と呼べる人物だろう。
様々な分野に手を伸ばし才能を発揮している。
毎回全国模試では有名進学校の上位陣と争う程だが何故か平凡なこの高校に通っている。
本人曰く堅苦しい所に居たくないそうだ。
現在、多くの大学や企業からの誘いが来ている状態で自分の一番楽しい事を探してる所という神が何物も与えたスーパー超人である。
だが、彼女は悲しい事にとんでもない変態なのだ。
彼女に教えてもらえば前回の絶望的なテスト結果さえどうにか出来るかもしれない。
但し、その見返りを受け入れるには相当な覚悟がいるのだ。
今後の人生にトラウマとして刻まれる事は確実である。
しかし、単位を落とそうものなら姉によって途轍もないトラウマが刻まれる事になる。
どの道に進んでも不幸しか待っていないのだ。
他人の不幸でとても楽しそうな柴田の顔が本当に憎たらしい。殴りたい。
472 :榊さん家の三姉妹 ◆rhFJh.Bm02 [sage] :2012/03/19(月) 04:52:27.59 ID:DjAUEnrP (4/7)
柴田と別れ、生徒会室に入る。
「失礼します。会長いらっしゃいますか?」
「あれ?錬太郎じゃん。こんな所来てどしたん?」
広い生徒会室の奥に目をやると机に足を乗せた会長がいた。
小柄なので机に乗せた足しか見えない。
「会長にどうしても頼みたい事があって来ました」
「ふむ、言ってみんしゃい」
「・・・せめて単位を落とさない所まで勉強を教えて欲しいです」
「あぁ、そういえば錬太郎この前ギャグみたいな点数取ってたね。あれは桜ちゃん的にはとても面白い出来事でした」
「俺は今、笑えない状態になってるんですよっ!本当にお願いします!」
頭をこれ以上無いぐらい下げる。
会長は机から足を下ろし、座りなおす。顎に手を当てて何かを考えている様だ。
「・・・錬太郎の頼みなら仕方が無い。桜ちゃんのお願いを一つ叶えるのならば教えてあげよう」
「あ、ありがとうございます!」
後でどんなお願いがくるのかは分からないが、今は強力な助っ人を得た事を喜ぼう。
認めたくないが彼女は天才なのだ。
会長の教え方は分かりやすく、スラスラと問題が解ける。
いつも通りならここまでやれば十分なのだが、今回は学年でもトップクラスの点数が必要だ。
普段はやらない様なキツイ応用問題も解いていく。
なんとか化学の範囲を終わらせた時、生徒会室にノックの音が響いた。
入口に目を向けると妹の香織がいた。
「兄さん。そろそろ帰りませんか?」
香織に言われ、時計を見ると下校時間ギリギリだった。随分長い間教えてもらってたな。
「会長、こんな遅くまで教えてもらってすいません」
「別にいいよ~。後で奴隷としての働きに期待してっからね」
「じゃあ、放課後は毎日ここで桜先生の補習を受けるように」
「はい、それでは」
「桜先輩失礼します」
まだ仕事があるという会長を残して生徒会室を出る。
会長のお陰でなんとか単位を落とさないで済みそうだ。
来客が去り、静けさを取り戻した生徒会室。
残された桜は再び机に足を乗せる。
「いやぁ、流石にガードが堅過ぎだなー」
先程まで居た来客について考え、一人呟く。
もう少しで錬太郎と良い感じだったのになー。
一体、どこから見張ってるんだろうなー
あれは絶対にタイミングを計って出てきたなー。
良い雰囲気になりそうになるといつも中断させられるなー。
今日の彼とのやり取りを思い出して恋敵の存在を再確認する。
彼女は高校生活の中で生きがいを見つけるという目標を持っていた。
「むぅ、まったく。妹ちゃんはどこまで警戒心が強いんだにゃー」
榊 錬太郎。
彼女が見つけた生きがいは一人の少年だった。
473 :榊さん家の三姉妹 ◆rhFJh.Bm02 [sage] :2012/03/19(月) 04:56:26.67 ID:DjAUEnrP (5/7)
「兄さんは本当に馬鹿ですよね」
何故かご機嫌斜めな香織は開口早々悪態を吐いてきた。
「何だよ。いきなり」
「姉さんのおもちゃになったと思えば今度は生徒会長のおもちゃですか」
「ぐっ」
何も言い返せない。
「会長のおもちゃとしてどんな事をされるのでしょうね?姉さんが家に居る時の様に、毎晩兄さんの喘ぎ声を聞く羽目になるのでしょうか」
「会長は変態だが流石に姉さんの命令を超える事は無いと思うよ。天才だろうと会長は人の子だし」
「少しは抵抗すればいいじゃないですか。何故いつもされるがままなんです?」
「・・・あれはもう絶対に、逆らえないんだ。」
この前帰って来た姉さんを思い出す。
冷や汗が止まらない。
多分今体温が体感で2℃程下がった。
「・・・・・・兄さんの馬鹿」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。それより兄さんは今日何が食べたいですか?」
「ハンバーグ!・・・と言いたいが最近野菜を摂って無いな」
これでは我が家で待っている愛しの加奈ちゃんの栄養が偏ってしまう。
「・・・野菜たっぷりの鍋で!」
「分かりました。ふふっ、兄さんの好きな食べ物って小さい子そのものですね」
「うるさい。小さい頃から香織の旨い料理食べてるんだ。旨い物は幾つになっても旨いんだよ。」
「・・・そ、そうですか。ではスーパーに寄って行きましょうか」
香織の顔は真っ赤になっていた。
相変わらず褒められるのは苦手みたいだな。
「あぁ、行こうか」
鼻歌交じりにスーパーへ向かう香織の後を追う。
何時の間にか香織の機嫌も直ったみたいだ。
いつもと変わらない日常。
やっぱり平和が一番だ。
474 :榊さん家の三姉妹 ◆rhFJh.Bm02 [sage] :2012/03/19(月) 04:59:17.58 ID:DjAUEnrP (6/7)
「おかえりー!お兄ちゃんっ」
帰ってきて玄関のドアを開けると妹の加奈がダイブしてくる。
落とさない様に全力で受け止める。
「ただいま加奈!」
頭を撫でる。
「えへへー今日ね、先生に褒められたの!加奈ちゃんはとっても良い子だねって」
「そうだぞー加奈はとっても良い子だ!」
抱き着いてくる加奈を抱きしめ返しながら頭を撫で続ける。
幸せそうな加奈の後ろから香織がとても冷たい視線を送ってくる。
犯罪者でも見ている様な目だ。
失礼な。誰だって加奈の可愛さの前ではこうなる。
加奈は俺達と一回り離れた妹だ。
それはもう可愛い。天使。
忙しい両親の代わりに小さい頃から成長を見守り続けている。
父親になって娘が出来たらこんな感情になるんだと思う。
「お兄ちゃん。あーん」
夕食の野菜たっぷりの鍋を美味しそうに食べていた加奈が満面の笑みでキャベツを差し出してくる。
「あーん」
「どお?美味しい?」
「ああ、旨いよ。ほら加奈にも」
「うんっ!」
差し出した肉団子を美味しそうにほうばる加奈。
あぁ、幸せってこういう事か。
「・・・・・・・・・ロリコン兄さんは楽しそうですね」
「ちっ、違うぞ!これは父親的感情であって!」
「どちらでも一緒です。今の兄さんの顔は明らかに性犯罪者の顔つきでした」
香織の表情は分かり易く侮蔑の意味を表していた。
香織が機嫌を損ねた後、機嫌を直してもらうのは非常に難しい。
母さんが居ない今、料理の出来る人間は香織のみ。
香織は怒ると料理を全く作らない。
我が家で香織の機嫌を損ねるという事はかなりの非常事態なのである。
「・・・ふんだ」
「あのな、その・・・」
香織を怒らせない様に言葉を選んでいる時、突然電話の着信音が鳴り響いた。
「はい、榊です」
香織が機嫌悪そうに応答する。
「えっ、姉さん!?」
香織のその言葉により電話の相手が姉さんだと分かる。
冷や汗が止まらない。
身体が小刻みに痙攣を起こす。
「・・・そう・・・うん・・・分かった」
香織が受話器を置く。
姉さんとの通話は終わった様だ。
自分を落ちつけようと自身の身体を抱きしめる。
「姉さん、仕事が早めに片付いたから直ぐに帰るって」
香織の言葉を聞き終える前に、俺の目の前は真っ暗になった。
そこから後はよく覚えていない。
最終更新:2012年03月23日 11:27