866 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:51:04.83 ID:UnJHK1iF (1/8)
「めんどくさ…」
ため息と共に吐き捨てられたやる気の無い言葉を背中で軽くウケ流し、後ろを振り向く
六畳部屋の真ん中にあるソファーにもたれ掛かり、此方を眺めている一人の女性
髪は綺麗な黒髪で、お雛様のようなパッツン
スタイルもまぁ、いいほうなんじゃないだろうか?
出てる所は出てるし、引っ込んでる所は綺麗に引っ込んでる
しかし、撫子のような見た目とは裏腹にこのやる気の無さ…
口を開けばため息…一言目にはめんどくさい…
飯は作らない、掃除はしない、着替えもしようとしない
だから一緒に住んでいる弟である自分が、当たり前のようにソファーに寝そべる姉である摩季(まき)の世話係をしているのだ
「摩季、手伝えよ」
「いや、疲れるめんどくさい足痛いお腹減った。それに摩季じゃなくて、摩季お姉ちゃんって呼べ」
一切此方へ目を向ける事なく携帯をいじりながら言い放つ
「携帯触るのもめんどくさい……里美(さとみ)メール返しといて」
壊れる心配もせず携帯を此方へ放り投げると、リモコンを掴みテレビに向けた
電源ボタンを何度か押してテレビ自体の電源が入っていない事に気がついたのだろう、立ち上がる素振りすら見せず、ソファーに顔を埋めた
867 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:52:23.01 ID:UnJHK1iF (2/8)
「はぁ…ったく」
床に転がる携帯を掴み、画面に目を向ける
名前欄には男性らしき名前が書かれている
「彼氏かぁ?どんなメール返せばいいんだよ」
片手で携帯を操作しながら摩季に声をかける
「彼氏じゃないし、男でもない」
ソファーから視線だけを上げて此方を睨み付ける
「睨むなよ…でもコレ男の名前じゃないの?」
「男っぽいだけでしょ?あんたの名前だって女っぽいじゃない」
確かに…里美って文字を見たら女と間違えられるかも知れない…
相手からの受信メールを確認して、メールの内容を把握した後、当たり障りの無いメールを返した
「休みだからってだらけてると、身体腐るよ?」
「あんたも家にいるでしょ。文句言わないでよ」
携帯を姉の手のひら返し、今度は自分の携帯を取り出す
「もしもし?今何してんの?」
未だにソファーから動かない摩季から目を反らし、電話しながら台所へと向かう
お握り、卵焼き、味噌汁を盆に乗せ、姉が寝そべるソファーの前にあるテーブルに持っていくと姉の肩を軽くポンポン叩き昼御飯の用意ができた事を伝える
横目でテーブルの上を確認すると、ノソっと起き上がりお握りを手に掴み小さく口に入れた
868 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:52:53.88 ID:UnJHK1iF (3/8)
「今暇だから遊ばない?」
『おぉ、俺も暇だから別にいいぞ~』
電話の相手は中学時代からの友達だ
『あぁ、そう言えばお前あの後どうしたの?』
「あの後?なんだあの後って」
『この前の合コンで知り合った子だよ!お前ら良い感じだったろ!』
「おまっ、このバカッ!」
慌てて電話を切り、折り畳む
だが、時既に遅し…
無音が耳に響く中、後ろで摩季が立ち上がる気配を感じた
あれだけ動く気配を見せなかったくせに…
携帯を握りしめ、恐る恐る後ろへと振り返る
「ねぇ、合コンってなによ?」
先ほどまで無言で食事をしていた摩季が、オニギリを掴んだまま後ろに立っていた
「さぁ…何か勘違いじゃないの?」
「携帯かして」
オニギリを掴んでいない方の手を俺の前に差し出す
「な、なんで…?」
「めんどくさいなぁ…早く携帯かしなさいよ」
あえて奪い取ることはせず、自分から渡すよう急かす摩季
いつもこうだ――普段は無気力なのに、俺の回りに女の影がちらつくと彼女の如く干渉してくる
姉のすることか?と他人が見たら突っ込みたくなるだろうが、これは摩季が悪い訳ではなく、五年前までの家庭環境に問題があったのだ…
869 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:53:29.67 ID:UnJHK1iF (4/8)
家族は四人家族
父と母、俺と摩季の四人だ
ごく一般的にありふれた、何処にでもある家族だろう
そして何処の家族にでも起こりえる、家族の亀裂…
摩季は父の事を誰よりも尊敬していたし、愛していた
勿論それは
家族愛だが、父の事になると顔色を変えるほど姉の中では父が絶対的な存在になっていた
だから父に気に入られたいが為に“品格”を常に守っていた…
そんな姉がある日、見てしまったのだ
――父の浮気を
腕を組んで町中を歩く父とケバい女
最悪な事にそれと鉢合わせてしまい、姉の中にある父が崩れてしまったのだろう……全てを投げ出し、父の理想になる事を辞めてしまった
それからは離婚も早かった…
父も母も別に騒ぐ事なくハンコを押してアッサリ家族離散
どちらへ引き取られるかと言う話になったのだが、変わり果てた摩季を父も母も受け入れようとせず、父がマンションを借りて、そこに俺と摩季が二人暮らしする事になったのだ
少なからず父にも罪悪感と言うものが芽生えたのだろう…1ヶ月に一回父から電話がかかってくるが、摩季が対応する事は決して無い
870 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:54:20.55 ID:UnJHK1iF (5/8)
「分かったよ…でも変なことするなよ」
仕方なく摩季に携帯を手渡す
何も言わず俺の手から携帯を掴むと、俺に見えないようにピコピコと操作しだした
何を見られているんだろうか…ドキドキしながら摩季の指先を眺める
「……」
「な、なんだよ?」
数分後、摩季の指先がピタリと止まると、携帯画面から目を放し此方へ視線をあげた
そして、おもむろに携帯を自分の耳に添える
俺の携帯電話からプルルルルルッと小さく呼び出し音が聞こえた
誰かに電話をしている…
「……もしもし?あんた誰?」
「おい摩季、おまえ誰に電話してるんだよ」
携帯を奪い取ろうと手を伸ばすが、ヒラリと交わしてソファーに歩いて行った
その後を追いかける
「はぁ?電話番号そっちのメモリーに登録されてるんでしょ?この番号で女から電話かかってきてるんだから用件ぐらい分かるでしょ、あんたバカなの?」
捲し立てるように、言い放つ摩季
間違いない…摩季は合コンで知り合った子にかけている
「悪いけど、番号消してもらえない?里美の携帯からも貴女の番号消去するから、お願いね。それじゃ」
言いたいことを言い終えると、携帯を閉じて俺に差し出した
「その女の番号自分で消しなよ」
871 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:54:51.33 ID:UnJHK1iF (6/8)
「…なんで?」
「私にへし折られたいか、自分で消すか決めなさいよ」
「はぁ…はいはい」
どうせ口喧嘩しても体力を消耗するだけだ…抵抗せずアドレス帳から番号を消去した。
「ふぁ~あ…ご飯美味しかった。ちょっと昼寝するから、夕方起こして…あと、勝手に外出しないでよ」
「あいよ…おやすみ」
満足したのか、ソファーに寝そべると、欠伸をして目を瞑った
それを見たあと、姉の食器をキッチンに持っていき、水に沈める
――基本的にこれが家の姉だ
普段は全てに無気力で、何もせず俺に頼る姉
昔は父が好きで父に向けていた愛情が、歪みに歪み、俺に向いただけだ
「お~い、里美~」
「ん~?」
「次は無いから覚えておきなさいよ~?お姉ちゃんもあんまり無茶したくないからさー……」
872+1 :埋めネタ ◆ou.3Y1vhqc [sage] :2012/05/08(火) 01:55:16.47 ID:UnJHK1iF (7/8)
「あぁ……分かったよ…」
後ろから聞こえてくるやる気の無い無機質な声に、聞こえるか聞こえないか微妙な声で返答する
「まっ、性欲発散したいだけなら、私に言いなさい。相手ぐらいならしてあげる…か………zZZ…」
「……はぁ」
摩季の寝息を確認すると床に腰を落として、大きなため息をついた
――情けない話し、摩季の寝息を聞いて、やっと心が休まるのだ
これも全てあのアホ親父のせいだ…
つまらない女遊びなんかで家庭壊しやがって
「親父……恨むからな…」
恨み辛みを込めて親父を呪うと、姉を見つめて呟いた
――めんどくさ…
最終更新:2012年06月10日 12:12