159 名前:
関西から来たキモウト20 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/06/14(木) 13:12:50.49 ID:qQl/qzLP
アタシの風邪と熱が引くのに3日間かかった。
これからの事を考えるのには充分な時間だった。
この家のことを知るのにも。現実のメールじゃないお兄を知るのにも。
…そしてあの女の事を知るのにも。
悪かったのは、あの女の服のおかげで、匂いが体に付いてしまったことだけだった。
あれからその匂いがエイトフォーだとわかって服と下着は全部元の袋に戻した。
本当は燃やしたかったけど住宅問題でできなかった。
今はこっちに来た時の服を着ている。
他の服と下着はお兄と買い物と称したデートで一緒に色々買った。
やっぱりお兄といるときが一番話せるし落ち着けるし楽しい。
服も選んでもらったりした。
店員にカップルと間違えられた時に、お兄がアタシのことを妹だと紹介したのは複雑な気分だったけど。
今は仕方ない。今は。
それにしても聞けば聴くほどあの女の怖さがわかった。
鳴瀬翔子。高校3年17才。隣の住人でお兄の幼馴染。
成績優秀、運動神経抜群、積極的で負けず嫌い。
口ケンカでも素のケンカでも男子に負けたことがないらしい。
当然クラスの女子のリーダー格。人望もあるらしい。
お兄がこちらに来たときは、すでにマンションの隣に住んでいたらしい。
話を聞くたびに幼馴染と言う事に、自分が強烈に嫉妬しているのがわかった。
それを抑えるのには一苦労だった。
アタシはお兄の妹で肉親という不利な状況にいる。
普通にしていたら間違いなく、お兄はあの女のものになってしまう。
メールと現実の差は大きい。あの女との過去の話を聞くたびに落ち込んだ。
「最初からあいつは怖かったよ。いきなりそいつに向かってグーで殴ってたし」
「…ふぅん」
「そのあと俺に手を出す奴はいなかったよ。それが上級生でも」
「…そうなん」
最初、お兄が転校後に関西弁でからかわれていたのを助けられたのがきっかけだったらしい。
聞けばお兄は大阪にいるときでも、いじめられっ子みたいだ。
アタシは物心はついていたけど、そんなことは知らなかった。
お兄は小さい頃から大人しい性格だったのは知ってたけど。
家族に気を使って話せなかったらしい。
今でも大阪には良い思い出はないと言ってた。
『アタシといるとき以外は』とフォローしてくれたけど。
アタシもお兄といるときは楽しかったし、そう信じたい。
でもお兄が幼馴染としてあの女と過ごして来たことを思うと冷静ではいられなかった。
160 名前:関西から来たキモウト21 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/06/14(木) 13:14:38.44 ID:qQl/qzLP
「なあ、お兄」
「なんだ?」
「看病してくれて、ありがとうな」
「気にすんな。当たり前だろ」
「…お兄…なんでそんなに優しいん?」
「何言ってんだ」
「アタシのこと気持ち悪ないん?」
「なんで?」
「その…アタシ…お兄のこと本気で好きやねんで」
「…う、うん」
「お兄はアタシのこと…どう思ってるん?」
「あ…俺は……」
途端に怖くなった。もし拒絶されたら気まずくなってしまう。
「あはは、ええねん。ええねん。ウチも今はお兄とおれるだけでええから。変なこと言ってゴメンな」
「あ、ああ…」
お兄の表情は困惑気味だ。やっぱり告白は早すぎたと痛感する。
当初の予定が狂ってしまった。あの女のせいで強引に告白させられたのは最悪だった。
お兄を振り向かせるには、『妹は性の対象外』というハンデと常識がネックになる。
でも、この三日間でだいぶん落ち着いて、これからの方針を考えることができた。
今も実行に移している。メールで聞いたお兄の好きな料理を一緒に作って食べる。
これらはお兄を育てると宣言したことに添っている。
実際、お兄は外食ばかりだったから料理も教えている。
キッチンで一緒に料理をしている時に、お兄の手や体に触れて指導するときに、たまらない幸福感を感じる。
最近はマシになってけど、初めは下着が濡れっぱなしで食後には履き替えないといけないほどだった。
代えがないのであの女の匂いのする下着は履きたくなかったので近くのコンビニで買ってきた。
「面倒くさいからラーメンにしようぜ」
「ええけど。でもせめて野菜は入れよや。ほらネギ切ってみ。こっちもおんなじように」
「麺だけでいいじゃん」
「あかん。野菜も入れんと。白菜ともやしも入れんで」
でも問題はこれから。嫌でもあの女と顔を会わせないといけない。
近くのコンビニに買い物に行くだけで、隣のマンションのドアが開くんじゃないかと怖くなる。
「あ、野菜なくなってるやん。買ってくるわ」
「麺伸びるぞ」
「すぐやから。んじゃ行ってくる」
161 名前:関西から来たキモウト22 ◆qtuO1c2bJU [sage] 投稿日:2012/06/14(木) 13:15:20.46 ID:qQl/qzLP
素早くコンビニに行って買い物をして帰ってくる。この間10分かかってないと思う。
ここは二階なのでエレベーターを使わずに階段なので早く行ける。
「ただいま」
ドアを開けた瞬間。背筋が冷たくなった。
「おかえり、神菜ちゃん。元気になってよかったね」
「…あ…あ…」
「そんな怖がらなくていいのよ。仲直りしようと思って来たんだから」
「え…そんな…」
「ふふ、さあ、3人で食べましょ?」
突然のことで思考が追いつかなかった。
同性から見てもスタイル抜群の綺麗な黒髪の美人。
でも、それが怖くてたまらなかった。
立ってるだけでやっとだった。
最終更新:2012年07月15日 22:39