無題35

81 :1 [sage] :2012/08/21(火) 14:08:49.19 ID:RrT5bs4G (2/15)
本当に自慢の姉だった。

成績優秀で、2年連続学年主席、その上、人当りもよく、当然のごとく生徒会長にまでなった。
そればかりか、俺と並んでもほぼ変わらない身長で、腰まで流れた黒髪は、風が吹くたび後輩の女の子を虜にさせた。
そのせいか、百合的なファンクラブまであった。
当然男にもモテた。
同じ高校に入ったころ、俺に紹介しろと何度も野郎どもどころか女の子たちまでも群がってきた。

さすがに閉口させられたが、これも姉のためと、姉の都合を聞き、
ひとりづつ先着順に、まるでオーディションのごとく時間を決めて紹介していった。
同席するのはさすがに勘弁してもらったが、1週間そんな状態が続いた。
姉は文句も言わずおとなしく紹介された人をすべてに会い、そしてすべて丁寧に断っていった。

断られた連中の大半は納得していたようだった。
しかし中にはなぜだと俺に詰め寄ってくる輩もいたが、当人である姉でない俺がわかるはずもなく、
戸惑っていると、お前のせいだと言い寄る輩もいる始末。
もう一度姉に聞くからと、渋々納得させた。
なんでここまでやらなくちゃいけないんだと思いながらも、いやいやながらも聞いてみた。

たのむから断るのもいいけど、ちゃんと説明してあげてくれ

「付き合う気がないのだからしょうがないじゃない。圭樹が一人前になるまでは付き合う気もないわ」
「だいたい私はそう説明したのよ」
と。なるほど俺のせいなのか。
たのむから姉さん、俺をダシに使わないでくれ

「とは言われてもね。付き合う気はないし…」

じゃあ、好きな人はいないの?
せめて、気になる人がいるとか?

と尋ねたら、なぜか赤い顔をして俯いていた。
ああ、こんな完璧な姉でもやはりお年頃、当然そんな人もいてもおかしくない。
ホッとしたような、少し寂しい気がした。

気にはなるが、姉とはいえプライベートなことではあるし、
姉から自発的に言ってもらわないと、さすがに誰だとは聞けなかった。

とにかく、オーディションを落選した人達にこれ以上誤解されないようにも全員に説明していった。

誰だかわからないが、姉には好きな人がいるから、あきらめてくれ、と。

俺は一人で、懇切丁寧に全員に一人づつ説明していった。
きっとわかってもらえる、きっと納得してもらえる、話せばわかる、なんて…。

当然そんな言葉で納得するわけもなく、まさに火に油、そいつは誰だ、わが校の姫の意中の君は
と返って大騒ぎになる始末。
ファンクラブは騒ぎだし、野郎どもはそいつを血祭りにあげろとまるでお祭り騒ぎ
噂が噂を呼んで収集が付かなくなってしまった。

我ながらバカなことをしたと思ったが、、時すでに遅し
投げ返した球が、返ってきたと思ったら分裂して四方八方に飛び散っていったようだった。

どうしようもなくなって姉にはこんなことになってゴメンと素直に謝った。
姉本人は、特段気にしたようなそぶりもなく

「ふーん、そうなんだ」

と興味なさげであった。



82 :2 [sage] :2012/08/21(火) 14:45:06.69 ID:RrT5bs4G (3/15)
そんな騒ぎも5月連休をはさみ、沈静化するかとも思われた連休が開けたころ、
朝から一緒に登校しようと姉に誘われた。

珍しいこともあるもんだ。まあ別に拒否する理由もなく,
たまには…
と軽く考え一緒に家を出た。

だいたい姉は早めに登校して生徒会に寄ってから教室に向かうの日課であり、
俺は、いつも家にぎりぎりまでいて登校していた。

まずはいつもと違うというところを疑わなければならなかったのに、
俺は甘かったと後で知ることになる。

先に玄関を出て、待っていた姉が「はいっ」と右手を差し出してきた。

何かくれるのだろうか?と近づき手を覗き込むが、何もない?
不審に思って姉を見上げると、満面の笑みでこういった。

「はいっ。ちゃんとエスコートしてね?」
どういうことかわからず、しばらく姉をぼーっとみつめていたが、

急激に顔色が…、
天使の微笑みが、固まっていき、目がつりあがって、口が引きつってきた。

こういう時は触らぬ神になんとやらで、そっと姉の横をすり抜け逃げようとしたが、
当然、そんな俺を逃がすわけもなく、片手でガシっと肩をつかまれた。

姉の顔がドアップになるほど近づていきたかと思うと、耳元で

「そんなに私のことが、イヤ?」
こそばゆいとあわてて、囁かれた耳を両手で押さえ、後ずさりながら、姉をみると、

上目使いで、目を潤ませて、じっと見つめられ実の姉なのにときめいてしまうような表情だった。
これで断れるやつがいたら、朴念仁か、石部金吉か、はたまた人ならぬものか

はぁ………
ため息をひとつ大きくつき、あきらめて手をつないだ。

まあバスに乗るまでの5分程度のことだし、そんなに嫌がることもないだろう。
幸い近所には同じ高校の知り合いもいない。

でも、やっぱり甘かった。




83 :3 [sage] :2012/08/21(火) 14:46:39.43 ID:RrT5bs4G (4/15)
バスに乗る時に手を離したが、なぜかそんなに混んでもいないのに、俺の前に立ち
俺の胸にそっと寄り添うように立つ姉。
何かの嫌がらせか?でもそんな嫌がらせを受けるような覚えもない。

文句の一つでも言おうと姉を見下ろすと、目があった。
そこには『わかってるわよね』とばかりの無言の圧力が…。
目は口ほどにものを言うとはことのことだろう。

ほのかに匂い立つ甘い匂いと柔らかい感触が制服越しに感じられて
バスで駅まで15分ほどなのに、時間が経つのがこれほど遅いとは今まで感じたことはなかった。

途中で同じ高校のやつらが乗ってきた。
あわてて離れようと、身体をひねり、顔をみせないように反転させようとするが、なぜか動けない。

と、胸元を見下ろせば、姉が俺の胸に顔を伏せ、制服をつかんで離さない。

なにしてるの?

顔を伏せようにも、姉の頭が邪魔でそれもできない。これで知り合いでも乗ってきた日にゃ
冷やかされるどころか、血祭りにあげられる。
そう相手が血がつながった姉といえども…だ!

うんっと力を入れて身体を動かそうとするが、制服をつかんだ手により一層の力がいれられているのが分かった。

なんで?

どうしようもなく、せめて顔だけは、と無理やり反らしたところで目があった。

そう、葉子さんと…。

葉子さんはきょとんとしていたが、そのうちニヤリと黒い笑みを浮かべて

イヤ違うんだ、何が違うといわれても困るがと必死でボディランゲージ
さすがにこれはまずい。どうすれば…

あ、話せばいいんだ

とテンパった俺が気づいたときには、バスは駅に到着し乗客を吐き出していた。




84 :4 [sage] :2012/08/21(火) 14:47:53.47 ID:RrT5bs4G (5/15)
バスを降りたところで、待っていたのはニヤニヤと黒い笑いをした葉子さん。
姉の親友で、俺の姉ともいえるべき人。

「朝からオアツイことで」
「いいでしょう?今日は圭樹が送ってくれるっていうからねぇ」

!!

そんなこと一言もいってないぞ!

「まあまあ、いいからいいから、よかったねぇ~美月、思いがかなったんだね」
「そう、昨日の熱いベーゼを思い出すと…」

なんだそりゃ?
ベーゼってなに?

ひとりあっけにとられ考え込んでいると

「さあ、行こう、あ・な・た♪」
と右腕を掴まれ、腕をからませてきた。

「姉さん、いい加減にしてよ、人がみてるよ」
「いいじゃなーい、私と圭樹の仲じゃないの」
「そーそー、二人はラブラブだもんね」

聞こえるようにわざとらしく話す葉子さん。

遠巻きに同じ高校の奴らが見ていたが、ええーとか、なにー!とかいう声が聞こえる。

そんな声を無視して、そのままオレを引きずるようにして、歩き出した。
右から葉子さん、姉、俺の順に並んで歩く。
姉は恵さんと何やら楽しそうに話しているが、両手を俺の右腕から離そうとしない。

その右腕には、なにやら柔らかいものがさっきからあたっているのだが…

「あの、いい加減にしてよ。もう学校の傍だし、色々言われても困るでしょう?姉さん」
振り払おうとするが、以外にも力強く振り払うことができない。
それどころか、葉子さんと話に夢中で、こちらを向こうともしない。

「無視しないでよ!葉子さん、葉子さんからもいってやって」
「ん?なんだそんなに嬉しいの?それとも、私の方がいい?」
「ダメだよ葉子、圭樹は私のものだから、とっちゃだーめ」

「ええーそうなのか?しょうがないなあ、二人はラブラブだもんなぁ」

とわざとらしく周囲に聞かせるように返事をする。

もう好きにして…
となかばあきらめているところに
姉がつかむ腕に力を入れて、さらに押し付けてきた。
何を?
なにです。柔らかいものです。それこそ埋もれるぐらいに。




85 :5 [sage] :2012/08/21(火) 14:49:17.27 ID:RrT5bs4G (6/15)
「姉さん、当たってるどころか、埋もれてるけど」
「うも?」
うもっ?そう埋もれてるから。

「うも……うま………」
なぜにうま?連想ゲーム?

「生まれる!!」
いっ……!
意味わからん!!

「生んでいいの?」
はぁ???

「ええーそんなに夕べは激しかったの?美月?本当にラブラブだねえ」
とひときわ大きな声で話す葉子さん。
いやもう、なんというか…
すべてを悟ったようにおとなしく学校までつきあった。

生徒玄関でやっと離れてくれた姉は、
「名残惜しいけど、お昼休み一緒に食べようね?迎えに行くから」
と手を振りながら葉子さんと一緒にかけて行った。

その後、遠巻きにしていた生徒たちに取り囲まれ、下駄箱を背にし、男女入り入り乱れて質問攻めにあうも、
人が多過ぎ、何を言っているのかもわからず…。
ワーワーという漫画の擬音が、あながち間違いではないということを知った。

なんとか逃げ出し、這う這うの体で教室に入ったのは予鈴が鳴っているところだった。

やはり当然のごとくクラス全員からも詰め寄られ、クラス担任が入ってきても、担任まで一緒になって質問攻めにあった。
おかげで帰りのHRは俺の質問コーナーにすると満場一致で可決され、拍手喝采で、朝のHRは締めくくられた。
俺は発言どころか、言い訳もさせてもらえず、その場の雰囲気にのまれ流されるしかなかった。

でもそんなことで終わることはなかった。

その後、遠巻きにしていた生徒たちに取り囲まれ、下駄箱を背にし、男女入り入り乱れて質問攻めにあうも、
人が多過ぎ、何を言っているのかもわからず…。
ワーワーという漫画の擬音が、あながち間違いではないということを知った。

なんとか逃げ出し、這う這うの体で教室に入ったのは予鈴が鳴っているところだった。

やはり当然のごとくクラス全員からも詰め寄られ、クラス担任が入ってきても、担任まで一緒になって質問攻めにあった。
おかげで帰りのHRは俺の質問コーナーにすると満場一致で可決され、拍手喝采で、朝のHRは締めくくられた。
俺は発言どころか、言い訳もさせてもらえず、その場の雰囲気にのまれ流されるしかなかった。

でもそんなことで終わることはなかった。



86 :6 [sage] :2012/08/21(火) 14:51:13.19 ID:RrT5bs4G (7/15)
休み時間ごとに俺の机の周りに人垣ができ、それは1時間目、2時間目と時間が進む毎に増え、
とうとう教室の中が人でいっぱいになり、身動きとれない状態となっていった。
さすがに、こんな自体に発展すると、仕切り屋のクラス委員長が
どこから聞いてきたのか、昼休みに姉が迎えに来るから、とその時に発表記者会見を開くことを提案。
これまたその場にいあわせた全員から満場一致の拍手喝采で締めくくられた。
ただし、この教室では人数制限しなくてはならないので、体育館で行うと発表。
さらに大きな拍手とやんややんやの賞賛を浴びたクラス委員は、来期は生徒会選挙に打って出ると豪語していた。

そのおかげか?3時間目終了後の休み時間はクラスの奴以外は、ほぼいなくなった。
ただし、教室内外の雰囲気は不穏なものを醸し出してはいたが。

さて4時間目の授業は現国、この教師は授業延長することで有名で、4時間目終了は確実に10分は遅れることが分かっていた。
さて、昼休みどうやってこの場から逃げるか
その前に、姉は本当にやってくるのか
来たとしても発表記者会見とやらを行わなければならないのか?
様々な考えが頭の中に浮かんでは消え、その残滓のおかげか、教師に当てられたことも気づかず頭を抱えていた。

「お前大丈夫か?頭痛いのなら保健室行くか?」

なんという天の助け、バーコードから後光が差しているように見えた。というのは大げさだったが、
二つ返事で、教師に断りを入れ速攻教室から飛び出した。

後ろからはものすごいブーイングの嵐が聞こえていたが、誰も追ってくるものはいなかった。
とりあえず、このまま逃げてもよかったが、介護教諭からバーコードへ報告が行くともかぎらないので
保健室に向かった。

「すいません、頭痛くて、頭痛薬いただければ」
と保健室のドアを開けながら前を見ると、介護教諭の姿はなかった。
部屋を見渡すとベットに横たわっている人と椅子に座っている人が目に見えた。
やけに見覚えのある、そう朝通学時にオレをからかってくれた2人だった。

「どうしたの姉さん?熱でもあるの?」
「大丈夫だよ、ちょっと寝不足なだけで」
「さすが、ラブラブだね。以心伝心、噂をすれば、だね」
と葉子さん。こんな時まで、まだいうか。

「で、心配ついでに聞くけれど」
「あ、私のスリーサイズはね…」
いや、陽子さんには聞いてないんだけど…

「失礼な、こうみえてもCなんだからね」
と胸をそらしながらいう葉子さん。
だからそういうことじゃなくて…。

「あ、美月か、彼女はDだよ。着やせするのかそんなにあると思えなんだけどね」
ああ、そうですね…。なんかもういいです。

「ああ、今更か、見慣れてるもんね」
「そうじゃなくって、なんで二人がいるんですか?」

「それはこっちのセリフだよ、圭樹、怪我したの?それとも殴られた?お腹痛いの?熱ある?寒くない?姉さんが一緒に温めてあげようか?」
矢継ぎ早にいわれても、最後の方なんかおかしいけど、からかってんの?朝の続きですか?




87 :7 [sage] :2012/08/21(火) 14:52:45.81 ID:RrT5bs4G (8/15)
「違うよ。本当に心配してるんだから」と身体を起こそうとする姉を葉子さんが支えた
「無理しちゃだめだよ。また倒れちゃうよ」
「えっ姉さん倒れたの?」
「そうよ、3時間目終わって、様子が変だから、どうしたのって声をかけたら突然…」
「ちょっと立ちくらみがしただけだけだから…」
なにしてんだよ。でも朝はそんな風に見えなかったけど、あ、もしかしてバスで寄り掛かってたのって
気分悪かったからか?てっきりからかっているだけかと思ってたけど、気づけないなんて…
なんか俺情けないな…。

「私のことはいいから、圭樹は大丈夫なの?」
「ああ、色々頭の痛いことがあったんで、頭痛薬もらいに来ただけだよ」

「そうならよかった。いやよくないか、姉さんが今温めてあげるから、こっちおいで」

………本当に大丈夫なんですか?葉子さん

「へ?あたし?いやあたしに言われても、まあ寝不足というのは本当みたいよ。
もう二人とも今日は帰ったら?先生には私から言っとくからさ」
「いやでも荷物も全部教室だし」
「後で私が届けてあげるから、そうしなよ。美月を連れて帰ってあげて」
本当に具合悪そうだし、気づけなかった俺の責任でもあるしな…

「わかりました。じゃあ後はお願いします」
と姉を連れて帰ることにした。


「とりあえず、タクシー呼んでくるから、ちょっと待ってて」
と葉子さんは保険室から出て行った。

「姉さん本当に大丈夫?顔色悪いよ」
「圭樹こそ、大丈夫なの?姉さんはどうでもいいから圭樹が、圭樹に何かあったら私…」
どこまで本気なんだろうか、もうわからないよ…。

「まあとにかく、タクシーがくるまで横になってなよ。俺は薬飲むほどのものでもないからさ」

「そうなの?ならいいけど…」
心配そうにこちらの顔色を文字通り伺いながら横になった。

しばらくしてか細い声が聞こえた。
「ゴメンね、よっちゃん」
「どうしたの?よっちゃんだなんて、家でも最近呼ばないのに。本当に大丈夫?」
「ん、ちょっと呼んでみたかっただけ…」
「そう、ならいいけど。疲れてるみたいだから、ゆっくり寝てて。タクシー来たら起こしてあげるから
少しでも寝た方がいいよ。」

「ん、そうする」

素直に返事した後、薄い掛布団をつかみ顔の半分まで埋もれる姉。
いつもと違って弱った姉は俺の保護欲を鷲掴みにし、素直にかわいいと思ってしまった。

「て」

て?

「手握って?」
「ん」
とそっと差し出された左手をそっとつかんで握り返した。
掴んだ手は子供の様に熱く、思った以上柔らかで…。




88 :8 [sage] :2012/08/21(火) 14:58:41.76 ID:RrT5bs4G (9/15)
「ありがと、安心して眠れるよ」
そういいながら、目を閉じた姉さんは、そのまま軽い寝息を立てて寝てしまった。
色々あって疲れてるんだろうな、と安らかな寝息を立てる姉を見てそう思った。

「あと10分ぐらいしたらタクシーくるから」
と鞄を持って葉子さんが入ってきた。

「あ、ゴメン、美月寝ちゃったんだ。うん、よっぽど疲れてたみたいだね」

家では見せない一面を見せた姉さん。
そっと手を離し、布団の中に入れてあげた。

「別に離すことないじゃん。せっかくつないでたのに」
「いいんですよ。その方がゆっくり眠れるし」

「そんなことないよ?私なら、って、そっか余計ドキドキして寝られないかな?」
「じゃあ、ゆっくりねられるように今度俺が手を握ってあげますよ。」

「うっわなにその上から目線。でも圭樹君に握ってもらえたら寝られるかもね」
とふわっとした笑みを浮かべそんなことをいう。

「でしょう?温かいし、何より気にしなくていいから」
「………違うよ。安心できるからだよ」

そういいながら、ふっと俯く。一瞬表情は見えなくなったが、すぐに顔をあげて微笑んだ。

「そう安全パイですもんね。いつでも言ってください」
「そんなこと言っていいの?本気にしちゃうぞ?」
どーぞどーぞとおどけて右手を差し出す。

そっと右手を掴まれたが、それは姉だった。

「…ダメだよ。よっちゃんは私のなんだから」

「起きたの美月?そろそろタクシー来るから、大丈夫?」
「よっちゃんは私のなんだよね?ん、よっちゃん」
と右手を引っ張る姉。
「姉さん、寝ぼけてるでしょ、帰るから起きられる?おんぶしようか?」

「お姫様抱っこの方がいい」
ごめんなさい、そんな力ありません。

「美月、あんたまだ……。あっ、もしかして……」

何のことだよ葉子さん。葉子さん?

「そっか…、美月も……か」
姉さんがどうしたのだろう。葉子さんは寂しげな笑みを浮かべていた。

「よっちゃん、はやく抱っこ」
「ほら、寝ぼけてないで、帰るよ。起きて」
と抱き起す。

「そうそう、美月鞄もってきたから、あと圭樹君の分も」
「ありがとうございます。何か言われませんでしたか?」
「その辺は大丈夫よ、適当にごまかしといたから、あとうまくやっとくから、適当にね」

なにか黒い笑みが見えたような気がしたが、とにかく姉を起こしベットに座らせた。




89 :9 [sage] :2012/08/21(火) 15:01:00.74 ID:RrT5bs4G (10/15)
「さあ、タクシーも来たみたいだから行こう」
むずかる姉をおぶって、鞄は恵さんに持ってもらって来客用玄関に横付けされたタクシーに乗る
靴は葉子さんが持ってきてくれていた。上履きを葉子さんに渡し靴を履きかえる。

「じゃあ、気を付けてね、特に圭樹君。今日は一人でしちゃだめだよ?
美月?終わったらすぐに家に行くから、それまで我慢してね。じゃあ」
一方的に言われた後タクシーは走り出した。

なにか変なことを言われたような。そんなことを思いながらぐったりした姉を肩によせ
家路についた。

こうやって二人肩を寄せ合ってって久しぶりのような気がした。
いつも頼りがいのある姉は、なんだか一回り小さくなって…。
なんだかはかなげで、このまま消えちゃうんじゃないかって少し不安になった。

両親が亡くなってから1年がたって、改めてみる我が家は2人で住むには大きすぎる気がした。
姉はタクシーの中でもずっと眠っており、家についても起きる気配はなく仕方なくおぶってつれて入った。
運転手さんが気をきかせてくれて鞄を家まで運んでくれた。

姉の部屋に入り、そのままベッドに寝かせつけた。

夕方、葉子さんが見舞いに来てくれたが、やはり姉は起きなかった。
「これなら大丈夫ね…」
と小さくつぶやき
「うん、ずっと寝てるから、よっぽど疲れてたんだと思う。俺そんなに無理させてたのかな…」
「ん?そんなことないよ。美月のことだからちょっと頑張りすぎただけだよ。そうだよ…」
なんだか自分に言い聞かせるように言う葉子さん。

「本当は、泊まりたいところだけど、まあこれなら…ね」

「大丈夫だよ。俺が見てるから」
「それが…ううん、なんでもない。じゃあ美月をよろしくね圭樹君」
と葉子さんは帰って行った。

何度か様子を見てみたが、そのまま夜まで起きてこなかった。、
途中一度起きてきたが、夕食も食べずに結局朝まで寝たようだった。




90 :10 [sage] :2012/08/21(火) 15:02:22.09 ID:RrT5bs4G (11/15)
次の日、俺は目覚ましの前に、姉に起こされた。

なぜか、目を開けたらドアップの姉の顔が…

「姉さん…おはよう……」
「おはよう、よっちゃん♪」
「…何してるのでしょうか?」
「よっちゃん見てる」
「いやそれはわかってるけど、この状況は?」
「一緒に寝てる」
「いやそれもわかってるけど………なんで?」

どうも夜中に目が覚めて、寂しくなって俺のベッドにもぐりこんできたらしい。
いい歳して何してるんだか…

「だって夜中に目が覚めたんだけど、寝られなくって、色々考えてたら、寂しくなってきて」
ああそうですか…

「よっちゃんと添い寝したら、なんだか安心できて寝ちゃってた」
俺はどういうリアクションをすればいいのだろう…

「よっちゃん」
ああ、なんだかなぁとぼーっとしてたら

「よっちゃん、当たってる…//」

ん?何が?

「お、お腹に、固いのが…//」

ん?ああ、朝だからね、
健全な男子高校生だからね
仕方ないよね、生理現象だもんね

「………うわっごめん」
とあわてて腰を引いた途端、ベットから転がり落ちた。

「よっちゃん立派になったね…//」

赤い顔して股間のテントを見つめる姉。
あわてて股間を抑え、
「ご、ごめん………」
と俺はあわてて部屋から出て行った。


91 :11 [sage] :2012/08/21(火) 15:06:34.45 ID:RrT5bs4G (12/15)
それから姉はいつも通りの姉に戻っており、朝食後、学校へはいつも通り先に出て行った。
俺はというと、昨日のことを思い返し、憂鬱になりながら一人登校した。

しかし、登校中も、学校に入ってからも取り囲まれるようなことはなく、
不思議に思いながらも教室に入った。
クラス委員長からは、体調を心配され昨日のことを謝られた。

よくよく聞くと、
俺は姉と二人きりの家族であり、誰にも頼らず頼れず生活している
そんな俺が姉を労り、姉が俺を慈しむ
当然のことだ。
シスコンになるのは仕方がない。強く生きてくれ

………誰にもそんな家庭の事情なんて言ったことがなかったのに

確かにうちは姉との二人暮らし
両親は、俺が中2、姉が高1の時、交通事故で亡くしていた。
幸い両親が残してくれた高額な保険金と家、
それに交通事故遺児年金と奨学金で姉弟二人十分な生活を送ることができてはいたが。

両親共々できるだけ家族一緒にいたいと口に出していた人たちだった。
うっとしいと感じた時期もあったが、それでも家族一緒にいると安心できた。
そのおかげで俺達は暖かい家庭の中、何不自由なく育った。

両親は二人とも施設出身の孤児だったそうだ。
だからこそ、厳しくも暖かい、あふれるほどの愛情を、俺達姉弟にかけてくれたんだと思う。

また、なにかあった場合に誰も頼れないからと自分達に高額の保険をかけていたそうだ。

保険のことも、孤児だったことも、両親が生きている間俺は知らなかった。
すべて姉から聞かされた。
そういう人たちだった。


なぜか仕切り屋委員長からは、生暖かい視線をかけられ、なんとも言えない気持ちになった。
中二の頃ならともかく、高1にもなった俺は苦笑するしかなかった。

でも誰が?
実は、と詳細を教えてくれた。

結局昨日は収集がつかず、葉子さんが八面六臂の大活躍

昼休みに俺のクラスで演説をぶちかましてくれたそうだ。
家庭の事情を説明し、こんな境遇なのだから、姉の心配もわかるだろうと
最後にしめくくりとして…

『シスコンを認めてやってくれ』と

教室内はシーンとしていたが、やがて拍手喝采。感動の渦に巻き込まれたそうな。
それを受けたクラスの奴らが伝書鳩となり、校内にそれぞれ触れ回ったそうだ。
『圭樹はシスコン』と

どれだけノリのいいクラスなんだよ…しかもオレ抜きで団結ってなんか…

おかげで俺は学校公認のシスコンとなり、生ける伝説となった。

ちなみに姉のブラコンについては一言も言われなかった。
ただ責任感の強い良い姉だと益々株を上げたようだが…。

葉子さん、適当ってこういうことですか?

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最終更新:2012年09月01日 11:41
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