342 名前:
『君の名を呼べば』3 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/10(月) 12:07:11.80 ID:oV3CVmDO [2/2]
満員御礼の恋愛映画。平日だと言うのに空席が無い。
だがそれは、下から上まで26列も有る座席の内、24列目までの話し。上の2列はカップルシートで、二人掛けのソファーが幾つも並んでいた。
俺達はそのカップルシートの唯一の客で、一番上で一番左側のソファー。
そこに座って手を繋ぎ、薄暗いシアター
ホールの中、巨大なスクリーンで映画を見る。
月明かりの雨に濡れて……
ヒロインの少女が事故で両親と片目の視力と足の自由を失い、その子を好きな幼馴染みの少年が励ましながらリハビリを手伝うと言うストーリー。
そして今は恐らく前半の山場、ヒロインが少年から嫌われようとして長い髪をバッサリ自分で切るシーン。
までは平穏だった。そこまでは普通の映画鑑賞だった。けれど……
「わかる頼光? あの子は好きだから、ずっとリハビリの手伝いをさせるのが悪いと思ったから、わざと嫌われようとしてるの」
繋がれた手に力が込められる。
昨日と同じだ。顔は前へ、言葉は俺へ。
「それぐらい分かるさ……」
それなら俺も昨日と同じ。視線は前に向けたまま、返事だけを隣に渡す。
だいたい、わかるもなにも、良く見る展開だと思うぞ?
俺にできるのは、そんな思考だけ。ガラスの言葉の真意は見抜けない。
「私は逆よ? 私は頼光が好き。どんな事があっても放したくない。離れたくない……だから、私の体に溺れて?」
見抜けないから、俺の前に立ちはだかり、スクリーンを遮る妹を見上げる事になる。
ガラスは手を強く握り締め、暗闇の中でも赤く栄える瞳を震わせて俺を見下ろす。
343 名前: ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/10(月) 12:08:34.39 ID:jLRWQSoD [1/2]
その視線はとどまらない。やがて平行になり、俺より下へと移る。
これも昨日と同じ。硝子が膝立ちで俺の足の間に腰を降ろす。
ここ、映画館、だよな? 階段を数歩も下れば観客が沢山いるよな? コイツは、気付いてるよな?
「ガラス? 俺は、お前の事を大切に……」
「足りないっ!! 気持ちだけじゃ、私は……頼光から、性欲の捌け口にされたいの」
妹を性欲の捌け口に。しかも昨日聞いたのとニュアンスが微妙に変化してた。
昨日は『してもいい』と上からだったが、今は『されたい』と下からになってる。
俺だって本当は止めなきゃいけないんだ。そんな事すんなって、ここは家じゃないんだぞって。
だけど、そんな考えが、ガラスを追い詰めてたんだな……
好きだ。愛してる。言葉だけならなんとでも言えるさ。普通の恋人ならそれで良いさ。
でも普通じゃ無い俺達は、普通じゃ無い方法で本当の気持ちを確かめる。
「ああ……っと、そのさ? じゃあ頼めるか?」
真剣な表情で見上げるガラスの頭を優しく撫でながら、恥ずかしさにソッポを向きながら、世間の常識から堕落する。
ガラスの思いを受け止めた時に、普通の生活は諦めた筈だろ?
ほらっ、今はただ……
「う、うんっ♪ 頼光のがんばってペロペロするね」
嬉しそうに微笑む妹の、ガラスの、なすがままに。
344 名前:『君の名を呼べば』3[sage] 投稿日:2012/09/10(月) 12:10:06.37 ID:cuCOOZSt
「はぁぁっ……好きよ、頼光」
ズボンのファスナーは下げられ、そこからペニスを外へと取り出されて、熱い吐息を吹き掛けられる。
みんなはスクリーンへ釘付けになってるのに、ガラスだけがそこへと釘付けになって、愛おしそうに頬擦りを繰り返す。
ちゅっ、ちゅ……
時おり先端に短いキスを加えながら、ゆっくり、ゆっくりと、硬く、大きく、興奮させられる。
「んっ……あの、さガラス? 刺激は強くなくて良いから、あんまり音を立てないでくれな?」
そして沸き起こる不安が一つ。いくら皆が映画に集中してるからって、聞き慣れない音がすれば条件反射で振り向く。
振り向かれたらアウト。男の股ぐらに女が顔をうずめる行為なんてこれしかない。絶対に気付かれる。
だから、せめて、そうお願いしたら……
「ふふっ。わかってる、わかってるわよ頼光……んっ、ふんん」
細めて笑う赤い瞳。大きく開かれた赤い唇。頭を過るのは最上級のサイレン。コイツは、わかってない。
「ガラス? お前、本当に……ぐっ!?」
わかってるのか? そう続く筈だった言葉は打ち切られた。
柔らかく暖かい口内に咥えられ、舌をイヤらしく這わされ、あまりの気持ち良さに俺が声を出さないようにするしかない力技で。
「ん、んっ、んっ! んっ!! んっ……」
ちゅぷ、ぢゅぷ、ぢゅぷ、ぢゅぷっ!!
ガラスは顔を前後させて挿入感を煽り、口の奥まで使って全体を擦り上げる。
ずっと上目遣いで俺の顔を見つめたまま、わざと粘着質な水音を鳴らして俺を追い込んで行く。
345 名前: ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/10(月) 12:11:29.41 ID:jLRWQSoD [2/2]
久し振りだとか、最近全然してなかったとか、そんなの言い訳にならない。
頬を染めて幸せそうにしゃぶりつくガラスの表情に、搾り取ろうとする圧倒的な快楽に、俺の限界は簡単に捩じ伏せられる。
「んぢゅっ、よりみちゅ……このまま、出して、だひてっ!!」
もう終わりは近いってわかってるのに、顔を離そうとはしない。素振りも見せない。
苦しい筈なのに、尚更に奥へと咥え込み、きゅきゅぅっとキツく、気持ち良く、締め上げて追い討ちを掛ける。
「はぁっ、はぁっ……がら、すっ。ぐぅぅっ!!」
その瞬間、繋いでいた手を強く握り、すぐさま強く握り返された。
口を閉じて声を噛み殺しながら、ビュクビュクと長い放出は続く。
「んんっ!? ふぅぅっ、ふぅぅっ、んっ……んくっ、んくっ」
ガラスは僅かに目を見開いた後、それをノドを鳴らし、呼吸を整え、少しずつ、少しずつ、飲み下す。
「すげぇ、気持ちよかったよ」
そんな光景を眺めながら、俺は再びガラスの頭を優しく撫でた。
こっちを振り向いた観客は居ない。誰にも気付かれなかったのだろう。それだけみんな映画に集中してた……つまりは面白い映画だったって事か?
でも、俺は内容なんてすっ飛んだし、コイツも見れてない。
デートなのに、映画を見に来たのに、これで良かったのか? 良かったのか、ガラス?
「んはぁぁっ……ちゅっ、ふふっ♪ いいのよ頼光……私はこれで幸せなの」
こんな考えは当たり前に見抜かれる。最後にキスをするとハンカチを取り出して丁寧に拭い、きちんと下着の中に戻してファスナーを上げた。
残りの時間は、途中がゴッソリこそげ落ちた映画鑑賞。
最初と同じように二人並んで、何事も無かったように。俺も、硝子も、お互いに沈黙したままだった。
346 名前:『君の名を呼べば』3 ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/10(月) 12:13:59.97 ID:ZFM9y3nB
お涙ちょうだいのストーリーだったから、主人公かヒロインが死ぬんじゃないかと思いながら見てたけど、そんな事はなかったな。
きちんとハッピーエンドで結ばれてフィナーレ。最初と最後しか見てなかったけど、充分に面白かったし軽く泣いた。
「んーっ……と、昼飯はファミレスで大丈夫か」
今は映画館の前。一人でグッと伸びをして妹を待つ。トイレ以外は手を離さない……つまり、ガラスはトイレ。
映画が終わって即座に手を離し、「うがいしに行く」とトイレに向かって行った。
でも、俺だからって訳じゃなく、誰だってわかる。
ガラスは、クシャクシャに泣いた顔を見られたく無かったんだ。
アーケード街はお昼間近で人通りも増え、そんな中を泣き腫れた顔で歩きたくなかったんだろう。
「おっ、来たな……」
そして現れたのは、いつもの妹。泣いた形跡さえ見当たらない妹が、優雅に、優雅に、俺の前まで近付き、何事も無かったようにスッと左手を差し出す。
俺もそれについては問い詰めない。ずいぶん泣いたんだな? とかチャカさない。黙って右手を重ねて握り締める。
「じゃあ、昼飯はレストランでも……」
「お弁当は学校に行って食べましょうか?」
なのに、突然気持ちは擦れ違う。
俺は左へガラスは右へ、進行方向が全く真逆。
347 名前: ◆uC4PiS7dQ6 [sage] 投稿日:2012/09/10(月) 12:16:55.17 ID:iilm8puR [2/3]
どう、なって、るんだよオイ!!
今日はデートだろ!? それが何で、学校って選択肢が出てくる!?
「やっぱり気になるのよ……頼光の隠してる事が。気になって、気になってね……仕方ないの」
せっかく。せっかく忘れ掛けてたのに、また今朝の光景を呼び覚まさせられる。
みんなが俺の噂をしてた。クラスのみんなが俺を不思議そうな、軽蔑の目で見てた。
そんな場所に妹を連れて行けるか? 兄に毎晩レイプされてる妹として晒せるか? できるわけないだろっ!!
だから、周りの視線なんて気にしてる場合じゃなかった。
学校へ向けて一歩、進んだガラスを……
「いくなっ!!!」
これ以上ないぐらいの大声で呼び止める。
繋ぐ手に力を込め、驚いて振り向くガラスを睨み付け、そのまま腕を引いて肩を抱き寄せ、ファミレスに進行方向を変えて歩き始める。
「頼光? どうしたのよ」
「取り敢えずファミレス……いや、弁当で構わないから公園に行こう。そこで話すよ」
この時の俺はガラスを守る事しか考えれなかった。ガラスしか見えなかった。
そんなだから当然、気付く筈もない。ガラスを呼び止めた瞬間、僅かに輝いたフラッシュの光を。
348 名前:『君の名を呼べば』3[] 投稿日:2012/09/10(月) 12:19:06.94 ID:yixxA41o [2/2]
翌日。今日も俺は一人で登校する。ガラスは……置いて来た。
事情を話し、クラスの雰囲気が昨日よりまともだったら、携帯で呼んだ後に来るよう説得して。
そして、その行動は、間違ってない。間違ってないよ。だって……
「だれだ……」
教室に入って目に映るのは、黒板に貼られたポスター。正確には、ポスターのように拡大コピーされた写真。
手前には制服を着た黒い髪の女性が顔だけを後ろに振り向かせ、奥にはその女性の手首を掴んで睨む男の姿。
どう見たって、俺と、ガラス。写真の右上にはプリントされた文字で、『妹は兄に捕まり犯された』と煽り文が書いて有る。
もちろんこれはそんな写真じゃないが、そう見えなくもないってだけで効果は絶大。
昨日までは噂だけだったのに、今日は『証拠に見えるモノ』までくっついてる。
ちくしょう、ちくしょう、畜生っ!!
写真をむしり取るように剥がして、それをグチャリと握り潰す。
「誰が貼ったんだっ!!」
教壇の上からクラス中を見渡せば、誰もが俺に嫌悪の視線を送る。
ふざけんな、ふざけんなっ、ふざけんなっ!!
「誰が貼ったんだよぉぉぉおお!!!」
悔しくて、悔しくて、ホームルームも始まらない朝の教室で、本当に悔しくて。
それでも俺は、クラスメイト全員を嫌悪し返し、泣きながら吠えるだけだった。
最終更新:2012年09月10日 13:54