567 :
水面下の戦い4 [sage] :2012/11/24(土) 07:57:07.23 ID:ilRsFmbN (2/8)
仕事の合間に一息いれ、思い出す。
流石に土曜日はやりすぎたか……自分の迂闊さに反省する。
弟を魅了させようと思いついた手だった。
あわよくば襲い掛かってこれば―――詰みだったのに…。
逆に不信感を抱かせてしまった。
しかし、私は気付いていた。弟自身も興奮していたことを。
荒い息遣いと股間の膨らみでバレバレだ。
誤魔化せると思ったのだろうが…甘い。そこがまた可愛いんだけどね―――。
弟が寄生虫…もとい妹を追いかけていって一人ぼっちになった私は、弟のベッドでオナニーにふけってしまった。
つい我慢できなかったから…。
何回絶頂に達したか、覚えていないくらいだ。
今、思い出しても身体から熱が湧き出てくる……。
そんな調子だったから、二人が帰ってくるまでに片付けが終わるかが心配だった。
だから日曜日は嫉妬で狂い死にそうだった。
あの寄生虫はデートなどと妄言を吐いていたが、弟に詳しく聞くと女性に慣れるための訓練、だそうだ。
いずれ私を紳士的にエスコートしながらデートしてくれるということなのだろうか…。
別にそんな必要ないのに…、私に任せれば全部―――いや、弟に全てを委ねるというのも魅力的だ。
じゅる…
―――いかん、よだれが。
今日は早く帰れる、今度こそ弟とご飯を食べよう。
邪魔な虫がいるから外食にしたいが、弟は優しいから家で食べたがるだろう…。
でも、今度の日曜は私とデートしてもらわなきゃね?
我に返ると、周りの人間が私との距離を置いていた。
……そんなにマズイ顔してたのだろうか。
568 :水面下の戦い4 [sage] :2012/11/24(土) 07:58:51.76 ID:ilRsFmbN (3/8)
―――夕食の席でアプローチしてみることにする。
「ねぇ、来週の日曜日に映画観に行かない?チケットが“二枚”手に入ったからさ」
枚数は強調して言う。虫の居場所はないのだと分からせる為に…。
「待って下さい。日曜は私と動物園に行く約束があります。そうですよね、兄さん?」
この虫が!!身体に言わなきゃわからないみたいね…。
高校時代に身に着けた合気道で―――
「あー、ゴメン。日曜はゼミの連中と遊びにいくから。それと、動物園の約束はしてないぞ」
「訓練もありますし、その場の勢いでOKしてくれるかと…」
「そんなわけあるか!」
虫の愚策は置いといて…。
「夜も遅いの?早く帰ってこなきゃ駄目よ?」
「いや、夕方には解散になると思う」
「そう、ならそのあとで映画行きましょう。レイトショーなら安いし」
「
姉さん、さっきと言ってることが逆じゃない?」
「細かいことは気にしないの。決定ね」
「…ちなみにどんな映画?」
「薄暗い下水の底からっていう―――」
「却下!!ホラーが苦手なの知ってるでしょ!?」
「えー」
ちっ…、また駄目だったか。
ホラーなら気兼ねなく抱きつけるし、抱きついてきてくれたら一石二鳥だ。
まぁまたの機会にするか、がっつくと土曜日の二の舞だし。
ゼミの仲間なら男ばかりだろうから心配は…。
――――――いや、一人だけ危険人物がいた。
あの雌豚…、たしか弟と同期で仲が良かったはず。
いつか尾行したときに感じた印象…。
まさか奥手な弟に喰らいつこうというのか!?
やっぱり心配だ、見に行くべきだろう。
とりあえず、変装道具を揃えなければ…、手始めにコスプレ好きの友人に電話を掛けることにした。
569 :水面下の戦い4 [sage] :2012/11/24(土) 07:59:38.87 ID:ilRsFmbN (4/8)
日曜日、待ち合わせ場所で待つ弟を遠くから見守る。
見失っても位置はGPSでばっちりだ。
ちなみに今の私の恰好で、私と気づく人はいないだろう…。
ふと見ると、離れた場所から弟を除く怪しい人影があった。
パッと見わからないが間違いない…虫もまた気になったんだろう。
弟の方を見ると、誰かと話していた。
あの雌豚だ!
やっぱり来ていたようだ。
どうやら移動するらしい…、そこで違和感を感じた。
――――たしか弟はゼミの連中と言っていなかったか?
どういうことだろう、あとで合流するのだろうか。
いや違う、嘘をついて弟を呼び出しデートするつもりだったんだろう。
汚い手を使う…どう始末してやろうか…。
距離をとって後を尾けることにする。
二人が向かった先はなんとカラオケボックスだった。
まずい、密室で弟が犯される!!
どうするべきか?……弟を後ろから上手く倒して、気絶させてから介抱の名目であの女から遠ざける…よし、これでいこう!
弟に気付かれないよう後ろに近づき―――
ドオォォォーン!!!
…何が起こった!?
辺りが騒然とした―――
見ると、カラオケボックスの入り口が吹き飛んでいた。
ふと虫のほうに顔をやると、携帯を手にしていた。
冷めた目で見ていることからどうやらこいつの仕業のようだ。
爆弾か何か仕掛けていたらしい。
とりあえずは一息だが…。
しかし、何故二人の行動パターンが読めたのだろうか…?
まさか全てのカラオケボックスに爆弾を仕掛けていると?
何はともあれ、一つ借りにしておこう。悔しいが……。
570 :水面下の戦い4 [sage] :2012/11/24(土) 08:00:42.59 ID:ilRsFmbN (5/8)
二人は気まずい様子で前を通り過ぎていた。
私も間隔を空けて追う。
店先を見るとグチャグチャになっていたが、幸い怪我人はいないようだ。
次に向かった先は路地裏にあるイタリアンレストランだった。
中に入り、二人が見える位置に席を取る。
はたから見ればカップルの様に見えなくもない…。
「ひっ!!……あ、あのメニューをお持ちしました…」
いかんいかん。つい殺気だってしまってウェイトレスを脅かしてしまっていた。
オススメのランチメニューを頼み再び観察する。
―――――――――ただ見るだけがこんなにも疲れるとは思わなかった。
今すぐ、引っぺがしてあの雌豚を屠殺してやりたい…。
「…サラダを…お、お持ちしました…」
ここは一つ、食べて落ち着こう…。
そう考えて握ったフォークが簡単に曲がってしまった。いや、マジックとかじゃなくて…。
なんとか戻そうと反対に曲げたら簡単に折れてしまった。
結局、五本以上のフォークとスプーンを折ってしまった…。
レストランのオーナーには悪いことをしてしまった。
しかし、こっちも一大事なのだ。
あの豚から弟を守らなければ!
レストラン内で大事にはならなかったので良かったが、まだ予断を許さない。
571 :水面下の戦い4 [sage] :2012/11/24(土) 08:02:12.76 ID:ilRsFmbN (6/8)
店を出る二人を追うと、虫が話しかけてきた。
そういえば、こいつの姿を店内で見かけなかったが…高校生には料金が高すぎたかな?
「…提案があります。私と手を組みませんか?一時休戦ということで…」
「そっちの条件は?」
「店内での二人の状況を教えて下さい。こっちも情報を差し上げます」
「…わかったわ。休戦の期限は二人のデート終了まででいいわね?」
さっきのカラオケの一件もあるし、これで貸し借りなしにしておこう。
「そういえば…」
「何ですか?」
「どうして弟があそこのカラオケに入ると分かったの?」
「割引券を渡しておいたんです。兄さんなら必ず行くだろうと」
なるほど、いい手だ。私も今度使おうかしら…。
それから二人を尾行しながらも、情報交換をする。
時刻は夕暮れが迫る頃になっていた…。
今、二人は海辺の観覧車に乗っている。
私たちはというと、観覧車が見えるオフィスビルの屋上に来ている。
双眼鏡でヒットマンよろしく監視というわけだ。
「どうですか?」
「西部戦線異状なしよ」
572 :水面下の戦い4 [sage] :2012/11/24(土) 08:03:11.26 ID:ilRsFmbN (7/8)
ゴンドラの密室の中、二人がキスするという最悪の事態は避けなければならない。
私は常時監視、虫は携帯片手に待機という状況だ。
「随分古い映画を知っているんですね」
「知識が多いことに越したことはないわ」
「―――昔、お父さんが観てたやつですね…」
「…えぇ」
ふと、父という言葉で家族についてもう一度考えてみた。
今の私たちは何をやっているんだろうかと…。
「皮肉なものよね…同じ肉親を好きになるなんて」
「…それは今更では?」
「何時からあの子に恋してたのかしらね…普通なら、大学時代の仲間や同僚、合コンで知り合った相手と親しくなっていくはずなのに」
「なら今からでも間に合うのでは?兄さんのことは私が―――」
「まさか。でも私たちが自分を取り合っていると知ったら悲しむでしょうね」
「……」
「いずれ答えがでるわ。その時―――」
瞬間、豚が弟のほうに顔を近づけた…マズイ!!
「早く携帯を!」
「は、はい!!」
突然携帯が鳴り、二人の距離は離れた。
危機は脱したか…。
虫…もとい妹は適当なことで弟と会話し、相手に隙を与えないようにしている。
少なくとも観覧車内では要注意だ。
その後、二人が駅で解散するのを見届けてから、私たちも時間差で帰ることにした。
「家族…か」
最終更新:2012年12月02日 10:48