水面下の戦い6

597 :水面下の戦い6 ◆ZNCm/4s0Dc :2012/12/10(月) 08:21:47.96 ID:sCeWBARr
「この問いに関してはこの公式を当てはめると解けます…では次の問題―――」

結局、兄さんは昨日帰ってこなかった…。
メールや電話を掛けてみても返事が来なかった―――。
折角夕食の準備をしていたのに、また一人で食べることに…。

何度目だろうか?
もう慣れてきてしまった…でもやっぱり寂しい…兄さん―――。

今朝も話をしたかったのにすぐさま出掛けて行ってしまった。
何か悩んでる様子だったが…。
どうもあの雌犬と会った一昨日に何かあったようだ。
可能性があるとすれば、観覧車の中で…。

バキッ!!

兄さんはゼミの付き合いで仕方なく構っているだけなのに…畜生の分際で調子に乗るか…。
そろそろ我慢の限界だ―――どうしてくれよう。
磔にして火だるまに…、いやクズどもに蹂躙させるのもいい手かも…。

「―――さん、この問いの答えは…」

KYな教師が何か言ってきた。
うるさい…今重要な考え事の最中なのだ。
私と兄さんとの将来を左右する―――。

「…」ジロッ!
「―――?!…いえ、いいです。先生が書きます…」

いずれにせよ計画が必要だ。
構想を練らねば…

「―――?」

気付くとシャーペンが折れていた。
脆過ぎる。
なんという不良品だろう…、こんな物を販売しているとは。
このメーカーは駄目だな…。


598 :水面下の戦い6 ◆ZNCm/4s0Dc :2012/12/10(月) 08:22:32.35 ID:sCeWBARr
「―――あの、こんばんは」
「あ、あらあなたは…」
「はい、兄がいつもお世話になってます」

まず、敵を知ることが第一歩だ。
放課後に雌犬との接触を図る。
あらかじめ秘密裏に尾行しておいたので生活習慣は掴んでおいた。
前回の会話で兄に好意を持っているのはわかったが…それが友情なのか、あるいは―――。
正直、雌犬との接触は苦痛だがやむを得ない。
どんな手を使っても絶対に兄さんは渡さない…!

「偶然ね、帰り?」
「はい、でも探してる参考書があってこの辺りまで出向いてきました」
「勉強熱心ね~、エライエライ」
「―――そちらも帰りですか?」
「うん、今日は一度帰ってそれからバイトだね」
「大変ですね…、どこで働いてるんですか?」
「ちょっと離れた雑貨屋さんだよ。―――ところでね、私あなたのお兄さんと付き合うことになったの」
「……え?」

何を言っているんだろうこの雌犬は…。

「あのね、先週の日曜日告白して…それで今日受けてもらったってところ…かな」

ナニヲイッテイルンダロウコノメスイヌハ…。

「あ、ごめん、もうこんな時間?!帰らなきゃ!また今度ね!」

ハシリサッテイクメスイヌ。
アア、イマノハモウソウのタグイか…ナンダ人を驚かせて…。
可愛そうな雌犬さんね…。
兄さんに確認すればそれも実証されるだろう。


599 :水面下の戦い6 ◆ZNCm/4s0Dc :2012/12/10(月) 08:23:29.84 ID:sCeWBARr
夜になり晩御飯の支度をする。
今日は三人一緒だ。
姉さんは仕事疲れか、ソファでごろ寝している。
兄さんは一緒に準備してくれている。
やっぱり優しいな、兄さんは。

「今日の朝は悪かったな」
「何です?」
「何も言わずに出かけて行って…」
「いえ、いいんですよ。気にしないでください」

私がそう言うと、私の頭を撫でてくれた…。
あぁ…兄さん…。

あまりの快感にちょっとイッてしまった…。
兄さんはいつでも私のことを考えてくれる人だ。
だから、あの犬の妄言なんて―――

「ああ、そうだ。ちょっと報告があるんだ」
「……はい?」

ふいに嫌な予感がした。
兄さんは何を言おうとしてるのか…。
まさか…いやそんなはずはない。あるわけがない!

「じ、実はな…、俺に…彼女が出来たんだ」

彼女、かのじょ、カノジョ……ナニソレ?

「先週の日曜日に告白されて…今日返事をした。よろしくお願いしますって…」

顔を掻きながら恥ずかしそうに話す兄さん…。
でも…私は…そんな―――


ドサ!!


600 :水面下の戦い6 ◆ZNCm/4s0Dc :2012/12/10(月) 08:24:26.74 ID:sCeWBARr
気が付くと自分の部屋だった。
どうやらベッドに寝かされているらしい…。
…気絶していたのだろうか?

起き上がり時間を見るともう深夜だった。
家の中が静かだ。
皆寝てしまったんだろうか?

ふと嫌な記憶が蘇る――!

「ぐっ!!…かは!!」

ゴミ箱に嘔吐してしまった。

「はあはあはあ…、うぅ…グスっ」

何で?
何で?兄さん…。
私を置いていくの?もう私なんかいらないって…。
涙が止まらない…、止められない…。



どれだけそうしていたんだろうか…。
ようやく涙が止まり、少しは冷静に考えられるようになってきた。
そうだ…本来の目的を忘れるな…。
要はあの犬をなんとかすれば―――。
そこで疑問が出てきた。

姉さんは、どうしたのだろう…?


601 :水面下の戦い6 ◆ZNCm/4s0Dc :2012/12/10(月) 08:25:21.78 ID:sCeWBARr
数日が過ぎ、日曜日になった。
あの後、雌犬を屠殺するために色々準備をしてきた。
無論、証拠が残らないようにしなければならない。
ネットで調べ可能な限りの用意をした。

私から大事なものを奪うやつは誰であろうと…。


犬の通り道に待ち伏せする。
計画は単純だ。
後ろから攻撃、気絶させあとはゆっくりと痛ぶって―――。

やって来た!!

身を構えて隠れる。
もう少し…。
もう少し…。
モウスコシ…。
今だ!!

飛び出そうとした瞬間―――


ガシッ!!


誰かに肩を掴まれた?!

振り向くと姉さんがいた。
なんで?!!!

「焦っちゃだめよ。…ちょっと話があるの。あなたにとっても決して悪くないわ」

そういう姉さんの顔はとんでもなく恐ろしく見えた。

同時に私も酷い顔をしているのだろうか…。
いや、―――しているのだろう。

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最終更新:2013年02月02日 04:37
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