鬼子母神2

731 名前:鬼子母神2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/13(水) 06:33:52.14 ID:rTsBRxZ8 [2/6]
「この辺りが一番賑やかな通りかな、八百屋、魚屋、肉屋、服屋…」
「これが商店街?」
「もしかして、小泉君は初めて?」
「ドラマの中だけでしか知らなかったよ…」

翌日、高校の夏休み明けテストを終えたコン太は、クラス委員の早狩ユキとともに町の観光案内に訪れていた。
昨日、アサネとのことで懸念したコン太だったが、早狩ユキは特に気にした様子は見せなかった。

が―――

今この場にアサネはいない。
何故かと言えば、早狩ユキがアサネのクラスのホームルームが終わるより早く、コン太を連れ出したからだ。
鮮やかな手並みと言ってよいだろう。

なので、さっきからコン太の携帯は振えっぱなしである。
コン太は当然、アサネに自分の行動予定をメールしたが、当の本人は納得していないようだ。
そろそろ何回目かわからない振動をする携帯に出るべきか悩んでた時だった…。

「小泉君、大丈夫?」
「え?!あ、あぁ、何でもないよ…」
「うそ、だってさっきから上の空だよ」

さっきまで商店街にいたはずだが、コン太が気付いた時には町外れの神社の入り口にいた。

「あれ?!ここって…?…え!!?」
「……やっぱり変よ、小泉君。疲れちゃったかな?ゴメンね、引きずり回して…」
「いや、全然そんなことないよ!ちょっと別のこと考えてて―――」
「…昨日のお姉さんのこと?」
「?!!」

核心を突かれて、コン太は狼狽した。

「やっぱり、迷惑だったかな…」
「いやいや、気にしないで!アサ姉も昨日帰ってから謝ってたし…」
「……分かった、じゃあせめてコーヒーの一杯でも奢らせて」
「いや、逆に申し訳ないよ…。色々この町のこと教えてもらったのにさ」
「小泉君って意外に頑固ね。…いいわ、折半で。美味しい喫茶店を知ってるから。行きましょ」

いつのまにか、携帯は振動しなくなっていた…。
コン太はそれを好意的に捉えた。
アサ姉は心配しすぎなのだ、新たな人間関係を作ることも大事だと帰ったら説明しよう、と考えていた―――。

732 名前:鬼子母神2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/13(水) 06:35:07.03 ID:rTsBRxZ8 [3/6]
そのアサネは二人の居場所を突き止めていた。
コン太の携帯に仕込んでおいたGPS発信機によって丸分かりだったのだ。

ようやく追いついたときには、二人がひなびた喫茶店に入るところを目撃したところだった。
バレないように隣の空きビルから覗き込むように監視する。
どうやらテーブルに向かいあって座り何かを話しているようだ。

…それはアサネが最も恐れていた光景だった。

コンが自分以外の人間といる―――
コンが自分以外の人間と話してる―――
コンが自分以外の人間と―――笑っている!!

見ていられなくなり、アサネはその場から走り去る…。

叔父の家に帰り着き、出迎えた叔母の言葉も聞こえないのか、そのまま自室に駆け込んだ。
そして制服のままベッドに転がり込み……泣く。
ただひたすら涙を流した…。

「うぅ…グスッ…」

やがて嗚咽が漏れ出し、そして―――


日も傾き、辺りがオレンジ色に染まる頃…。
山々から日暮の鳴き声がオーケストラを奏でていた。

「今日はありがとう、楽しかったよ」
「こちらこそ、小泉君のこと色々知れて良かったよ。お姉さんにもまたよろしく伝えてね」
「勿論、今度はアサ姉も交えて遊びに行こうよ」
「…う、うん。そうだね」

一瞬、早狩ユキの表情が曇ったがコン太はそれに気付けなかった…。

「もう帰らなきゃいけないね…、早狩さんは家はどっち?」
「高校からそんなに離れてないよ、田んぼ道から続く向こう側の住宅街」
「同じ方向じゃん!偶然だなぁ!」
「小泉君、それってお誘い?」
「あ?!いや…その、そんなつもりじゃあ…」
「ふふ、冗談よ。一緒に帰りましょ♪」
「性格悪いなぁ…」

夕暮れの中、影を引き摺りながら、二人はまるで幼馴染のように帰途についた。

733 名前:鬼子母神2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/13(水) 06:36:14.66 ID:rTsBRxZ8 [4/6]
「ただいま」
「お帰りなさい」

コン太を出迎えたのは、当然彼の叔母であった。

「アサネちゃんが泣きながら帰ってきたわよ…。呼びかけても出てこないし、何かあったの?」
「えぇ?!!」

叔母の言葉にハッとした。
アサ姉が泣いていた?
あの着信は助けを求めるものだったのではなかったか?

急いでアサネの部屋へ向かう。
さっきまで早狩ユキとのお喋りに充足感を抱いていた自分が間抜けで…憎らしい!!

コンコン!

「アサ姉!大丈夫?何かあったの?」

部屋からは物音がしない…。

「アサ姉、お願いだから開けてくれ、頼む」

…やっぱり物音がしない。
次第に嫌な予感がしてきた…、まさか…自―――

ガチャ!!

ドアには鍵が掛かっておらず、簡単に開いた。

「アサ姉!!」

飛び込んだコン太が見たものは、ベッドで横たわるアサネだった…。

「アサ姉!!しっかりしてくれ!!」

急いで駆け寄り、アサネの状態を確かめる。
見たところ、身体に傷は無いようだ…、呼吸は…ある。

…どうやら眠っているだけのようだ、コン太は力が抜けてへたり込んだ。

「はぁぁぁ…、良かった…」
「―――んっ…」

734 名前:鬼子母神2 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/02/13(水) 06:37:33.27 ID:rTsBRxZ8 [5/6]
丁度、アサネが目を覚ます。
しかし、その眼には泣き腫らした跡が残っていた…。

「アサ姉!!」
「コン…、あなた何で私の部屋に…?」
「あ、いや…アサ姉が心配だったから…」
「―――私が?!」

アサネは自身の胸に暖かいものが流れ込んでくるのを感じた。
愛すべき弟が、私のことを考えてくれる…。

「う、うぅぅ、うわぁぁぁん…」
「アサ姉?!」

コン太の胸に飛び込み、ひたすらアサネは涙を流した。
しかしさっきとは違い、今度は嬉しさのあまりではあったが…。

「ゴメンね、アサ姉…。着信が何回もあったのに…」
「ううん、コンはちゃんと心配してくれたじゃない。でも不安だったわ…、コンが私の知らないところに行ってしまったみたいで…」
「ゴメン…、マナーモードにしてたから…」

勿論、嘘である。
コン太はひたすら罪悪感を感じた。
鬱陶しがって無視していただけだったわけだから…。
しかし、真実は隠したままにした。
今言うべきことではないと思ったからだ。

「ところでコン…、今日はどうしてたの?」

今更だが、一応コン太に尋ねてみるアサネ。

「…早狩さんに町の観光ガイドをやってもらってたんだよ」
「…昨日のあの子?」
「うん、こっちに来て、最初の友達だよ」
「…ふーん」
「アサ姉にも、よろしくって」
「そうね…、一度挨拶しなきゃね…」

アサネは泣き腫らした眼を細めて言う…。
私の弟がどんな状況なのか確かめる必要がある。

アサネはコン太を愛してはいたが、それは家族愛が最も強いものであった。
しかし、年頃の男女。当然コン太に劣情も抱きはするがその度に、自分を恥じ、正してきた。
そうして守ってきた子が、獣のような連中の毒牙に係ろうとしているのだ。
なんとしても阻止せねばならない!!


徐々にだが、アサネの中の歪みが大きくなっていった―――。

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最終更新:2013年10月16日 08:01
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