鬼子母神10

367 名前: 鬼子母神10 ◆ZNCm/4s0Dc :2013/04/24(水) 09:16:30 ID:43972a67b [sage]

「―――では、これで取り調べは終わりだ」
「…はい、どうも…。」
「くれぐれも話した内容を他の方に喋らないようにお願いするよ」
「……あの!…キオ…じゃなくて大久那さんと、…アサ姉は…どうなんですか?」

コン太は今、隣町の警察署の一室に居た。
今朝に血まみれのキオナを見つけ、すぐに119番に通報。
その直後にアサネに声を掛けたが…、放心状態らしく反応が無かった…。
携帯越しに救急隊員から応急処置の方法を聞き、キオナに施すコン太。
10分もしない内に、救急車が到着しキオナは隣町の総合病院に運ばれていった。

それから間もなく警察が訪れ、部室内に鑑識とおぼしき警官達が集まり始めた。

そしてコン太とアサネは事情聴取の元、警察署へ行く羽目になったわけだ…。

「………被害者の女性は手術中だそうだ。君のお姉さんはまだ取り調べを受けているよ。終わったら声を掛けるから待っていなさい」

初老の刑事はそう言い、退室を促した。
コン太は素直にそれに応じた。



入り口から広がるロビーでベンチに腰を掛けて待つことにしたコン太。
受付カウンターを見るとそれなりに人が並んでいた。

「小泉君、少しいいかな?」

さっきの刑事が声を掛けてきた。

「はい」
「君のお姉さんのことなんだが…」
「アサ姉が…何か…?」

もしキオナに手を掛けたのがアサネだとしたら…どうなるんだろうか?
未成年とはいえ、悪ければ何年間も少年院で過ごすことになるのでは…?
悪い予想が頭を駆け巡り、コン太は勝手に顔面蒼白になっていた。

「取り調べを始めて間も無く、気絶してしまったらしい…」
「え?!」
「いや、乱暴なことはしていないよ、それは確約する。医者によると精神的ストレスによるものだそうだ。ついさっき警察病院のほうに搬送されたから」
「そうですか…」
「あと、これは朗報だが、被害者の女性の手術が先ほど終わった。命に別状はないそうだ」

それを聞いてコン太は身体の力が抜けてしまった。

あぁ、良かった…と。

「彼女達の意識が回復次第、取り調べを再開する予定だ。それまでは身柄を一時預からせてもらうことになるが…」
「そうですね…、叔父叔母にもそう伝えます」
「いや、こちらからもう連絡しておいたから。今は早く帰ってあげなさい」
「はい…。最後に一ついいですか?」
「何だね?」
「アサ姉は……本当に大久那さんに…」
「…それについては調査中だ。まだ話せない」
「わかりました。失礼します」

その後帰宅すると、叔父叔母から根掘り葉掘り色々聞かれた。
しかし、怒鳴られたり怒られたりは無く、叔母は半分泣き崩れており、叔父もいつも以上に気に掛けていた。
コン太は彼らが、純粋に自分たちを心配しているのだと実感し心の底から謝った。

368 名前: 鬼子母神10 ◆ZNCm/4s0Dc :2013/04/24(水) 09:17:49 ID:43972a67b [sage]

翌日は流石に休校になった。
校内での流血沙汰のために…。

二日後、学校が再開され、コン太も登校することになった。
教室に入って、まず最初に嫌な視線をクラスメイト達から浴びせられた。
好奇心、疑惑、嫌悪感…。
姉と友人の三角関係の痴情のもつれ…、一部では昼ドラと騒ぎ立て笑っている者さえいた。

休み時間になって、教室から出てもそれは続いた。
小さな学校故に噂は広がりやすい…。
まさしく針の筵であった。

唯一―――

「コン君、大丈夫?」
「…ユキちゃん」
「何があったかはわかんないけど、元気出して」
「…僕といると、ユキちゃんまで噂になるよ」
「他の連中のことなんて気にしちゃ駄目よ。あいつらも何も知らないで、勝手に盛り上がってるだけなんだから!!」
「ありがとう…ユキちゃん」

ユキだけはコン太の傍を離れなかった。

「大丈夫、私はコン君を信じてるから…」

ふと、頭を抱え込まれ彼女の胸に引き寄せられる。
それはかつて、アサネにされたことのある体勢だった…。

「………」
「大丈夫、大丈夫だよ…」
「…う、うぅぅ…」

頭を優しく撫でられる。
涙が溢れ、泣きだしたコン太。
ここ数日の異常ともいえる環境で限界に達していたようだ。
コン太にとってユキはただ一人、校内で信頼できる人物となった。
ただ、今の彼女の表情をコン太が知ることはなかったが…。

本当に嬉しそうに、コン太の頭を撫でる女がそこにいた―――。

369 名前: 鬼子母神10 ◆ZNCm/4s0Dc :2013/04/24(水) 09:19:16 ID:43972a67b [sage]

次の日曜日。
コン太はまた、隣町に来ていた。
例の初老の刑事に呼び出されたからだ。

有名な喫茶チェーン店に入る。
何故か警察署ではなく、ここで待ち合わせることになった。
ウェイターに案内され、刑事の待つ席へ…。

「やぁ、よく来たね。何か飲み物は?」
「…じゃあアイスコーヒーを」

「かしこまりました、失礼します」

ウェイターが離れていくと同時に、刑事は本題を切り出した。

「被害者の…、大久那さんのことなんだが、傷の具合から診てどうもおかしな点が浮かび上がってね」
「…はい」
「医者の話によると、今までに診たこともない傷跡だったそうだ。どんな凶器を使えばそんな傷がつけられるのか…。校内をくまなく探したが、該当する凶器も発見できなかった」
「じゃあ、アサ姉は…」
「とりあえずは証拠不十分で釈放になるよ。ただ未だに意識が戻らないのが気掛かりなんだが…」
「そうですか…」

一先ずは、安心したコン太であった。

「ご注文のアイスコーヒーです」

持ってきたウェイターは足早に去っていった。
意外に忙しいようだ。

「大久那さんも同様に昏睡状態が続いてる。事件の真相は闇のまま、というわけだ。そこで改めて聞きたいんだが…」

コン太はこの時点で気付いた。

「何か、思い当たった点は無いかね?」

これは取り調べの延長なのだと…。
コン太は自分の心に嫌な感情が募るのを感じていた。

「―――いえ、特には…」
「…ふー、そうか…」

初老の刑事は疲れたような顔を見せ、さらに老け込んだ雰囲気を醸し出していた。

「お姉さんやご友人が大変な目にあってショックなのはわかる。だが、私達のことも信頼してほしい。だからこそ、こうして情報を提供しているのだから」

コン太の不信感を見透かすように刑事は指摘した。

「すいません…、でも本当に何も知らないんです」
「うん、わかった、わかったよ。また何か思い出したら連絡を貰えるかな?」
「はい、わかりました」

そういって刑事はレシートを持って支払を終え、店を出ていった。

コン太は注文したコーヒーを最後まで飲みきらずに店を出た。

370 名前: 鬼子母神10 ◆ZNCm/4s0Dc :2013/04/24(水) 09:20:36 ID:43972a67b [sage]

隣町に来たのは刑事と話すためだけではない…。
市内の総合病院に行き、キオナの様子を窺いたかったからだ。
勿論、アサネの様子も…。

総合病院では面会謝絶のため、門前払いとなった。
その際、キオナの両親に会ったら、土下座する覚悟もあった。
だが、誰も面会に来ていないようでコン太は驚いていた。
キオナが妹だとすると、母親は自分達の母親でもあるわけだ。
どんな人物か気になっていた。
出来れば会って色々聞きたかった…。

コン太はキオナが早く回復することを祈り、総合病院を後にした。



次に警察病院に向かった。
アサネがここに入院して一週間…。
まだ目を覚まさないのだろうか…?

受付で家族であることを伝え、何とか病室に案内されることができた。

手前まで来たとき、室内から罵声が聞こえた。
―――いや、まるで子供が駄々をこね、泣いているような…。

「アサ姉!!」

室内では、三人の看護師がベッド上で暴れるアサネを取り押さえていた。

「コンは?!コンは何処?!!お前らコンをどうした?!!!」

泣きながら、そう叫び暴れるアサネ。

ふと、入り口に立つコン太と目が合ったアサネ。
すると―――

「あ、あはぁ…コン…コン…」

急に泣き止み、大人しくなるアサネ。
その様子に驚きながらも、アサネに駆け寄るコン太。

看護師の一人がコン太を制止させようとすると、アサネが再び暴れ始めた。

「お前!!コンに触るな!!私のコンに!!!」
「アサ姉!落ち着いてくれ、お願いだから!!」

また大人しくなるアサネ。それはまるで―――

「コン…おいで、コン―――」

言われるがまま、近寄ると…

「はあぁぁぁ、コン…」

お互い抱き合う形になった。
アサネはコン太の背中に手を這わせ、顔を胸に押し付けた。
コン太の存在を確かめるように…、まるで迷子の子供が親と再会したように…。

「コン…、何して遊ぼうか?」
「…ア、アサ姉…?」
「トランプ?鬼ごっこ?あ!おままごとでもいいよ」

その隙にやって来た医者がアサネの点滴に鎮静剤を打った。
だんだんと眠気がアサネを襲い、次第に意識がなくなっていったようだ。

「ご家族の方ですね?」
「はい、弟です」
「こちらへ、少しお話がありますので…」

医者らしいその男に案内されるコン太。

371 名前: 鬼子母神10 ◆ZNCm/4s0Dc :2013/04/24(水) 09:21:41 ID:43972a67b [sage]

「改めまして、今日は御足労いただきありがとうございます」
「いえ、そんな…」
「あなたのご両親…失礼、保護者のお二人も何回か足を運んでいただいておりまして…」
「そうなんですか?」
「ええ、ですが、お姉さんの意識が一向に回復しないので、その時はこちらから連絡する話になっておりました」

叔母達の愛情に感謝するとともに、そのことを自分に伝えてくれなかったことに対する複雑な思いもあった。

「本当につい先ほど、意識が戻られましてね、連絡しようと場を離れていたときに急に暴れ出したと聞いて…。申し訳ないことをしました。医者でありながら、患者から目を離すなんて…」
「いえ、こちらこそアサ姉を診てもらってるので…。それで、アサ姉は今どういう状態なんですか?」
「彼女は強い精神的ストレスを抱えているようでして…、どうもそれが元で幼児退行を起こしておられるようですな…」
「幼児退行?!」

そんな漫画みたいな話…、しかし実際に現実に起きていることだった…。

雲に覆われた冬の空は寒々しく感じられた。
嵐は…間もなくやって来る―――。

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最終更新:2013年10月16日 08:41
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