鬼子母神11

86 名前:鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/05/26(日) 23:36:10.66 ID:4cbiI+PL [2/7]
「小泉アサネの意識が回復しました。しかし、事件の精神的ショックにより、幼児退行…一時的な精神疾患に陥っており、聴取は未だ難しい状況です」
「…大久那キオナの方は?」
「そちらも昏睡状態が続いています。回復の見込みは不明―――とのこと」
「―――んー…」

隣町の警察署の刑事課。
初老の刑事が現状を淡々と報告していた。
それを聞いている相手は少々疲れ気味のようだ…。

「二人の携帯電話は校内の焼却炉で発見されました。
内部にまで損傷が達していることから、データの復元は困難です。
ですが、電話会社の記録によれば、大久那キオナが小泉アサネにメールを送信しているのは確認済みです」
「そして弟である小泉コン太にも送信している…。そのことは聴取で分かっているが…、一体何の目的があったか…だな」
「―――課長、実は一人、気になる人物が浮かび上りました」

課長と呼ばれた人物は睨めていた書類から顔を上げた。

「誰だ?」
「早狩ユキという女子生徒です。彼女は小泉コン太と親交があります。そして、事件当日に焼却炉付近で何人かの生徒に目撃されています」
「そいつは…臭うな…。よし、任意同行で引っ張ってこい!」
「了解!!」
「必ず尻尾を掴んでみせろ!!」

事件発生から一週間。
警察も動きつつあった。



「コン君!見て!!私達の町があんなに小さいよ!!!」
「ほんと!ほら、アサ姉!!」
「………たかいとこ、いや…。コン、おうちかえろ?」
「来たばっかだよ…、アサ姉」
「ゴメン、やっぱり迷惑だったかな…」
「ううん、嬉しいよ!―――アサ姉の気分転換にもなれば良かったんだけど…」

コン太とアサネは町から外れた小山に来ていた。
ユキが二人を誘ったのだ。

「この辺は小さい頃、よく遊んだから懐かしいよ」
「ピクニックにはちょうどいい場所だね」
「春や夏もいいけど…冬の山も乙なものよ」
「コン、はやくかえろ」
「アサ姉…」
「あんまり無理させちゃいけないよね…。早めに病院に帰りましょ」
「そうだね、しかし外出許可を出してくれるとは思わなかったよ」

山の天気は変わりやすい…。
さっきまで晴天だったのに、もう雲が広がり始めていた―――。

87 名前:鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/05/26(日) 23:37:18.29 ID:4cbiI+PL [3/7]
「早狩ユキは見つかったか?」
『いえ、まだです。自宅にも行きましたがもぬけの殻でした。今は一人張り込みにつかせてます』
「早狩ユキの親は?」
『そっちも捜索中です』
「新しい変化があればまた連絡をくれ」
『了解』

初老の刑事は無線で部下とやりとりしていた。
その彼は、今、町の役場に来ていた。
早狩ユキの戸籍について調べにきたのだ。

「―――父親は離婚…、母親と二人暮らし………」

ユキの情報について調べる刑事。

「父親の名前は小泉―――小泉?!…たしかあの二人も小泉だったな…」

さらに読み進めると―――

「早狩…キオナ…?」

早狩ユキの双子の妹、とあった―――。



ゴオオオォォォォ――――

「…外は凄い雪だよ。これじゃ下山は難しいね」
「でも山小屋に辿り着けて助かったね。最悪、ここで一晩泊まることになるかな…」
「すー、すー」

どうやらアサネは疲れて眠ってしまったようだ。
その横で、暖炉に薪をくべるユキ。
手慣れた様子にコン太は驚いていた。

「暖炉とか使った経験あるの?」
「言ったでしょ、昔はよく遊んだって」
「あぁ、なるほど…」

考えてみればユキのことを何も知らないコン太だった。
親はどういう人なのか…、彼女がどういう風に育ったか…。

「―――気になる?」
「え?」
「私のこと」

どうも表情に出ていたようだ。

「私はね、母子家庭で育ったの。コン君とは反対だね。…母様は私を育てる為に色々苦労したみたい。でもお金はそれなりにあったからなんとかやっていけたの」

暖炉の明かりに包まれながら、ユキは自身のことについて話し始めた。
それはコン太には、とても…幻想的に映った。

88 名前:鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/05/26(日) 23:38:17.46 ID:4cbiI+PL [4/7]
「小泉アサネが病院から消えただと?!」
『はい、医師が回診に来た時にいないのを発見したそうで』
「連れ出した人物はわかってるのか?」
『看護師達は誰も見ていないというんですが、防犯カメラに早狩ユキと小泉コン太の姿が映ってます。はっきり正面玄関から出ていくところも確認済みです』
「なんでそれで誰も気づかないんだ?!!」
『まだ事実確認中なので、はっきりしません』
「三人を探せ、大至急だ!!」
『了解』

初老の刑事にはある予感があった。とても悪い予感。
幾多の事件で研ぎ澄まされたそれは、外れて欲しいときによく当たったのだ。
そして今回も…。

「やめてくれよ、本当に…」



「そして今年の梅雨ぐらいに、母様は何処かに行ってしまった」
「一体何処に?」
「さぁ?…でもきっと幸せなところじゃないかしら。
最期に私に、思い人のところに行くって出掛けて行ったわ」
「その人って…」
「コン君もよく知ってるはず」
「え?!」
「梅雨頃に何があったか…、覚えていないの?」

梅雨…。
忘れるはずがない…。
コン太、そしてアサネにとって生涯を変えてしまう事件、彼らの父親が遭難死してしまった時だった…。

「母様は…、恐らく山でその人と永遠に一緒になったんじゃないかしら…」
「?!!」
「あなたのお父さんと…。わかるでしょ?お兄ちゃん」
「お、にいちゃん…?」
「キオナから何も聞いてないの?…あぁそうか、私がおしおきしたから喋る機会はなかったのね」
「…どういう意味だ?」
「あの子がお兄ちゃんに手を出したからよ。もっとも私の話は聞かなかったでしょうけど…」
「もしかして、キオナに…」
「そうよ、私がやったの。お兄ちゃんの…いや、私達のお姉ちゃんがいたのは計算外だったけどね。急所は外してあげたから、死ぬことはないわ、安心して」

オレンジ色の炎の光を受け、笑みを浮かべるユキは美しかった…。

89 名前:鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/05/26(日) 23:41:01.09 ID:4cbiI+PL [5/7]
「な、何を…言って」
「だから、私もキオナもお兄ちゃんも、そしてそこで寝てるアサ姉ちゃんも兄弟なのよ」
「?!!!」
「そんなに意外だった?」
「だって!…キオナは苗字が…」
「あの子はね、可哀想な子なの。幼い頃に山で両親が死んで…、それを母様が引き取ったの」
「じゃあ、なんで…」
「戸籍上は早狩キオナ、でも彼女は自分の苗字を…彼女の先祖達の生きた証を捨てたくはなかったのよ」

そういうユキの顔には深い悲しみが浮かんでいた…。
大きなものを背負ってるかのような―――

「もう一つ、お兄ちゃんに伝えたいことがあるの。信じられないかもしれないけど…私の母様やキオナは―――」

雪女、なのよ。

ユキはそう語った。

90 名前:鬼子母神11 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/05/26(日) 23:41:58.09 ID:4cbiI+PL [6/7]
「―――雪女?そんな…」
「おかしいと思うでしょ?でも本当なの。私達の一族はこの地方でひっそりと暮らしていたわ。でも人間の山狩りに遭って人数もどんどん減っていったわ…」
「………」
「母様とキオナがその最後の生き残り。そして、私とあなた達は雪女と人間のハーフなのよ」
「僕と、アサ姉も…」
「風邪を引かなかったり、雪が恋しくなったりするでしょ?それが私達にも雪女の血が流れてるの証拠なの。母様はこうも言っていた、一族の血を絶やさないために…、私達が何とかするしかないって」
「どうするの?」
「―――子供を作るのよ。私と、お兄ちゃんで」
「?!―――そんなこと出来るわけないじゃないか!!」
「でもお兄ちゃんはキオナと何回もセックスしたでしょ?」
「っ!―――」
「キオナもそうなのよ。だからあの子を殺すことは出来なかった…。その気持ちは痛いほどわかるもの。それに―――お兄ちゃん達はこの地に戻ってきた」
「それが何の関係が―――」
「運命よ。巡り巡って―――私達は結ばれるべくしてここにいるのよ。でなければ出会うことはなかったわ」

運命…。
コン太にはあまりにも信じられない話の連続だった。
二人の妹、母親は雪女、子供を作る―――。

「だから…私も…」

キイィィィィ―――

「?!!」
「身体が動かないでしょ。私は特に血が濃いから怪異の力…眼力も使えるの、当然キオナもね」
「(学園祭の日―――キオナが使ったのはこれだったのか…)」

コン太は的外れな考えを巡らせていた。

「病院から抜け出すにも使ったわ。お姉ちゃんも必要だったから。でも母様は決して悪事にこの力を使うなって言ってたわ。一族の誇りを穢すことになるから…」

ユキは笑っていた…。
やっと捕まえた…、彼女の目がそう物語っていた―――。

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最終更新:2013年10月16日 09:01
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