鬼子母神12

103 名前:鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/06/10(月) 23:34:32.83 ID:iSh2595c [2/7]
辺りを吹きすさぶ雪。
白い嵐が行く手を阻み、道と呼べるものも見えなくなっていた。

「駄目です!何も見えません!!」
「こんなときに吹雪とはな…」
「危険です!下山しましょう!!」

初老の刑事達は早狩ユキを重要参考人として行方を追っていた。
いくつかの目撃証言により、彼女達が山に登ったことを突き止めていたが…。

「―――間に合わないか」
「は?」
「いや…、早く下りるぞ。こっちが遭難しそうだ」




アサネは眠りから覚めつつあった。
まるで海中から海面に上がるようなふわふわした感覚の中を漂っていた…。

「ん―――ふぁっ、お兄―――ちゃ―――」
「う―――やめ―――」
「いや―――そのお願い―――聞けな―――」

何か、聞こえた…。
―――何だろう?
知ってる声、…誰だっけ?
そうだ―――これは―――

アサネは目を開けた。
彼女の瞳に映ったものは―――

暖炉に照らされた男女。
女が男に跨り、腰を激しく動かしていた。
その影が何倍にも大きく見え、まるで怪獣か魔物か…とにかく恐ろしいものに見えた。
下にいる男は…。


「うぅぅっ!!」

ドプドプドプ!!

「ふぁぁぁ…、一杯射精したね…。温かい…」

?!!

「コン!!」

104 名前:鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/06/10(月) 23:35:20.77 ID:iSh2595c [3/7]
アサネは咄嗟に叫んだ。
と、同時に身体を起こし、二人に突進する形で近づいた。
跨っていた女、ユキはそれに気付くと片手を挙げ、掌をアサネに向けた。

シュオオオォォォォォ!!

突如、掌から風が巻き起こり、アサネに向けられた。
アサネは吹き飛び、壁に身体を打ち付けた。

「邪魔しないで、アサ姉ちゃん」
「ゴホッ?!!」
「アサ姉?!」

アサネは背中が酷く痛んだ。
肺にも負担が掛かり、むせこんだ。

「ゲホゲホッ、ゴホッ!…はぁはぁ、あんた…」
「なんだ、正気に戻っちゃったのね」
「?!―――どういうことだよ、おい!アサ姉に何をしたんだ!!」
「落ち着いてよ、お兄ちゃん。軽く吹き飛ばしただけよ。これも怪異の力」
「そうじゃなくて…、アサ姉が幼児退行したのは―――」
「それは関係ないわ。本人が望んだことよ」

二人が何か話していたが、今のアサネにはただ一つ、コン太を救い出すことしか頭になかった。

「離れなさい!!」
「うるさいな…」

キイイィィィ―――

「ぐっ?!!」

ドサッ!!

アサネはその場に倒れこんだ。
ユキが再び眼力を使ったのだ。

105 名前:鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/06/10(月) 23:37:58.67 ID:iSh2595c [4/7]
「アサ姉!!―――これ以上は止めてくれ…。僕はどうなってもいいから…」
「別にお兄ちゃんとお姉ちゃんをどうこうしようとは思ってないわ。ただ私達四人で暮らしていきたいだけ…」
「四人…?キオナもか…?」
「当然でしょ、私の妹分よ。例え血は繋がってなくても…」
「しかし…子供だけで生活なんてしていけるわけが…」
「一族の中では、私達の年齢は立派な大人よ」

コン太は何故ユキが自分の一族こだわるか気になっていた。

「―――何で俺達の先祖は人間に追われたんだ?」
「一族の人々が…人間の子供をさらうのよ。さらって食料にするの…」
「そんな?!…」
「昔…まだ電気やガスがなかった時代には私達の一族は恐れられてたわ。妖怪、化け物、神々…呼び名は様々みたいだけど…」
「それが雪女伝説…」
「ええ、でも大きな戦が終わり国が変わった頃には、もう五人も残っていなかったらしいわ。そんなとき…お父さんに出会ったのよ」
「それが、始まりなのか…」
「お父さんは子供を食料にする習慣を認められなかったらしくてね、お兄ちゃんお姉ちゃんを連れて姿を消したのよ。それで母様は深い悲しみに暮れてね…」

コン太はようやく納得がいった。
何故兄弟が離ればなれになったのか。

しかし、兄弟で子作りは容認できなかった。
あまりにも…狂っている…。

「―――僕達が生きている限り、血は無くならない。何も兄弟で関係を作ることは無いんじゃないのか?」
「さっきも言ったけど、私達は惹かれあってるのよ。
私を妹と知らない時でも、気に掛けてくれてたよね?すごい嬉しかったよ。
それで運命とか関係なくお兄ちゃんに夢中になっていったわ。今日はどんな話が出来るんだろうとか…、どれだけ笑ってくれるんだろうとか…。
お兄ちゃんに会うために学校に行っていたものよ」
「………」

コン太は言葉を紡げなかった。
目の前の女の子に魅力を感じていたのも事実だが…、話し合って諦めてくれるようではないのが分かった。ある種の執念じみたものさえ感じた。
彼女は何がなんでも自分を離そうとはしないだろう…と。

106 名前:鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/06/10(月) 23:39:39.37 ID:iSh2595c [5/7]
「―――随分お楽しみね…」
「アサ姉!!」

アサネが目を覚ましたようでこちらに近づいてきた。
いまだに、コン太とユキは繋がったままだ…。

「…どうする?私を殺す?アサ姉ちゃん?」
「いえ、思い出したのよ。私達の両親のこと、私が自分自身で記憶を消したこと」
「えっ?!!」
「私も眼力くらいなら使えるのよ。父さんが死んだときに自分で掛けてね。何とか二人だけで過ごせないか考えて…、私が普通の女の子になればって思ったの。…結局無駄に終わったみたいだけどね」
「お兄ちゃんの童貞はキオナが奪っていったわ。それについては何とも思わないの?私は悔しかった…」
「残念ね、コンの初めては私よ」
「「?!!!」」
「父さんが死んだときにね、襲っちゃったのよ。とっても興奮したわぁ…。その後にコンの記憶も少しいじってね」

もうコン太には何が何やら分からなかった。
ただ一つ、もう自分は逃げられないのだろうと感じた。
しかし、さっきまでの倫理観やらはどうでもよくなってきたようだった…。
また眼力に掛けられてるのか…あるいは自分自身納得し始めてるのか…。

「さぁ、今度は私と楽しみましょ。雪女は子供を沢山作れるというから、今から楽しみね」
「お姉ちゃんが分かってくれてるなら話は早いわ。お兄ちゃん、私達だけの家庭を育みましょ?」

107 名前:鬼子母神12 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/06/10(月) 23:40:48.67 ID:iSh2595c [6/7]
―――数日後、警官隊や消防団が山をくまなく探したが、三人の行方は掴めなかった。
三か月にわたり、捜索が行われその後に中止となった。

事件に繋がる唯一の証人であった大久那キオナは三人が山に入った翌日、病室から消えた。

捜索が中止になった日、初老の刑事は小泉姉弟の保護者だった叔父夫婦を訪ねた。
二人は深く悲しんだが、同時に諦めもついていた。

「この手紙は私の兄…、つまり姉弟の父親から死ぬ直前に受け取ったものです」

そう言いながら、刑事に手紙を見せる叔父。

「拝見させていただきます」

内容は遺書に近いもので、自身の死期が近づいていることを悟り、二人の子供を頼むというものだった。

「お兄さんは病気か何かを患っていらっしゃったんですか?」
「いえ、特にそのようなことは…。ただ、実際に兄が死んでしまって、何かはわからないんですが…、あの二人にもとんでもないことが起こるんじゃないかっていう…。すいません、上手く説明できないです。第六感的なものとしか…」
「いえ…わかりますよ…」




それから年月が経ち、ある噂が流れた。

町の近くの山々に登ると、雪女に遭遇するとか―――。
遭遇したものは生きて帰れないか、帰れても不幸な事故に遭って日を置かずに死んでしまうとか―――。
遭遇した際生きて帰るためには、ナイフを口に咥えておくと怪異から逃れられるとか、それどころか帰ったものは、立身出世、玉の輿の幸運に巡りあえるとか―――。

その噂を聞いて、興味本位の者や幸運にあやかりたい者がこぞって山に押し寄せた。

大半は雪女には出会えなかったが、ある者は吹雪の中を多くの子供を連れて遊ぶ三人の雪女を見たと語ったらしい…。

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最終更新:2013年10月16日 09:03
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