パンドーラー4

189 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:49:10.89 ID:Sq4UNO/u [2/9]
母親が倒れたと聞いて、マキはすぐさま島に帰った。

帰り着いた時、母親は既に危篤状態だった。
しかし最期に会話出来る機会があり、マキは母親に今まで自分を育ててくれた
お礼を言った。
母親は多くは喋らなかったが…、遺書の存在をマキに教えた。
それから半日もしない内に息を引き取ることになった。



「南無妙法蓮華経―――」

数日後、マキの母親の葬儀が行われていた。
参列者は島民達だった。
元々身寄りが無く、残った血縁者はマキとトシヤだけになっていた。
財産はほとんどなく、住居も村長からの借家であった。
そして、葬儀代も村長が全額出していた。
これに対してマキは働きながら返すと主張したが、村長は受け取れないと拒否した。
マキが一人前に成長することが、母親が一番喜ぶことだと説得した。

結局、マキは一円も払うことなく、葬儀の喪主を務めていた。
そんな中、参列者に島民じゃない者が現れた。

「マキ…姉さん………」
「―――!トシヤ…」

それはお互いにとって思わぬ再会になった―――。

「―――父さんも来てるよ」
「…そう」
「流石に合わせる顔がないって言って、外で待ってるけど」
「―――んで」
「え?」
「呼んで。最期なんだよ…、顔ぐらい見てあげて…」

マキはぽろぽろと涙を零しながら言った。

190 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:50:41.16 ID:Sq4UNO/u [3/9]
10年以上会っておらず、記憶もおぼろげだが、父親の顔は酷くやつれているように見えた。
そして―――母親の棺の前で静かに涙していた…。

マキは怒りと悲しみが入り混じった感情で父親を見ていた。

何故悲しいの?
何故離婚したの?
何故傍にいてあげなかったの?

すると、マキの前に来て―――

「すまなかった、マキ。母さんにも―――」

土下座してマキに謝罪した。

マキは何も言えなかった。
ただ涙が止まらなかった―――



火葬も終え、参列者達も帰って行った。
ただ、父親とトシヤはマキの家に残っていた。

「マキ姉さん、ちょっと…」

そう言って、外に連れ出したのはトシヤだった―――

夏の夕暮れが迫る中、いつかの海辺に二人はやってきた。

191 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:51:38.85 ID:Sq4UNO/u [4/9]
「………」
「―――久しぶり、だよね」
「………」
「ゴメン、ずっと来れなくて!!」

「………」
「別にあの日のことを避けてたわけじゃないんだ…」
「………」
「言い訳にしかならないけど…色々あったんだよ…。父さんの会社が潰れて…
一時期は家を手放す寸前までいったんだ」
「そう…」
「でも何とか新しい就職先を見つけて、細々と暮らしていけるまでには―――」
「母さんは―――ずっと一人で頑張って来たのよ…」
「―――そうだね…。ゴメン…」
「………」

二人の間にしばらく沈黙が流れた。

「マキ姉さんは…これからどうするの?」
「わからない…」

トシヤは何かを言おうとし、言いよどみ―――

「あの…さ、もしよかったら…また一緒に暮らさない?」
「っ?!」
「父さんは―――そうしたいと思ってる。僕だって…」
「今更…、そんなの…」
「マキ姉さん…。お願いだ、独りで生きていくなんて無理だよ…」
「…考えさせて」

マキはそう言い、その場を後にした。
海辺に残されたトシヤは寂しげだった―――

192 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:52:52.66 ID:Sq4UNO/u [5/9]
夜が更けた。
父親は最後の船便で本土に帰って行ったが、トシヤは泊まることになった。

夕食はトシヤが作った。
マキは消衰しており、とても家事が出来る状態ではなかったのだ。
食卓を二人で囲みながらいつかの記憶が蘇ってくる―――
あの頃は、苦しいこともなかった…。
毎日が、楽しみだった。

二人共、同じ思い出に浸っていたが、一言も会話しなかった。



「おやすみ、マキ姉さん…」

そう言ってトシヤは部屋を出て行った。

寝床は別々にした。
トシヤとしても年齢的にも気まずいところがあったからだ。

マキはぼぉーと虚空を見つめていた…。
何かを考え、消えてはまた繰り返し―――

どれぐらいそうしていたのか…。
ふと豆電球の明かりの中、立ち上がり部屋を出て行った。
トイレ…ではない。

193 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:54:27.85 ID:Sq4UNO/u [6/9]
行先はトシヤの泊まっている部屋だった。
引き戸を開けると、布団に入って寝ているトシヤがいた。

「ん…マキ姉さん…?どうしたの?」
「………」
「眠れないの?」
「…トシヤ、あなたが来なくなって5年も経ったわね…」
「…そう、だね」
「寂しかったのは…母さんだけじゃないのよ、私だって―――」
「………ゴメン」
「母さんが死んで…今更一緒に暮らそうだなんて、都合良すぎると思わないの?」
「だって…、母さんはいつも…はぐらかしてばかりだったから…」
「…えっ?」
「遊びに来てた頃には、何度もお願いしたんだよ…。でも…」
「それで…今度は私…?」
「姉さんだって…それを望んでたんじゃないのか?…」
「?!」

確かに、昔はそうだった…。
いや、つい最近までは、母親が死ぬまでは…。

「お願いだ、僕に出来ることは何でもするから…」

何でも―――

マキは頭の中で言葉を何度も繰り返した。

「じゃあ、償って…」
「えっ?!つぐない…?」
「私を…慰めて」

―――?!!

194 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:55:43.98 ID:Sq4UNO/u [7/9]
刹那の後、マキはトシヤにキスしていた。
触れるだけの、優しいキス…。

「ね、姉さん?!!」

トシヤは布団から飛び出そうとした、が―――

「待って」

簡単にマキに組み敷かれてしまった。

「(うっ動かない?!!何て力…)」

年齢からみて平均的な身体つきのマキの何処にそんな力があるのか…。
男のトシヤが完全に捕えられていた。

「何を―――」
「何でもするって言ったじゃない」
「いや、でも僕達は姉弟―――んんっ?!!」
「―――ん」

今度は激しいキスに…。
まるで相思相愛の恋人達が、夫婦がやるように…。

「はぁ―――。あなただって…寂しかったんでしょ?」

唾液がお互いの口に伸びる―――

195 名前:パンドーラー4 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/09/24(火) 21:56:46.59 ID:Sq4UNO/u [8/9]
「―――そうだけど…こんな…」
「昔、好きだっていってくれたじゃない…。嬉しかったんだよ…、
でもそれが男女の愛だってあのときは気付けなかった…。
今なら…」
「マキ姉さん…。こんなのは間違ってるよ…」
「あなたが反対しても私はやめない。それに、これは償いよ…」
「そんな…待ってk―――」
「さぁ、私を慰めて…」

あとは一方的だった…。
その夜、一組の男女が契りを交わした。
お互いに初めてだった―――



マキは夏休み中に転校届を出し、島から出ていった。
2学期が始まるころにはトシヤと同じ学区に通うことになっていた―――

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最終更新:2025年04月08日 03:24
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