236 名前:
パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/11/30(土) 14:37:31.18 ID:Yl0gvPdY [2/7]
年の瀬が近づく時期。
年内の登校最終日もマキは図書室で当番をしながら勉強に入り浸っていた。
当然隣には男子の図書委員の紅保ユウイチがいた。
何回かの聞き取りにより紅保ユリコについてわかったこと―――
- 兄のユウイチと二人暮らし、両親は共働きで全国を駆け回ってるらしい。
- 普段から凛としていて近寄りがたい雰囲気を持っている。
- 口数は多くもなく、少なくもなく。
- 級友達とは学校内での関係に留めていて、プライベートも静かに過ごす。
- 成績は優秀。
- 男子達に中々人気があり、よく告白されるが付き合うことはしない。
- 兄のユウイチに対しても素っ気ない態度らしい。
- ただしトシヤとは周囲よりも親しく会話しているようだ…。
やはりトシヤを狙っているのだろうか…?
「向田さん、もう昼だしそろそろ帰ろうか?」
「―――」
「向田さん?」
「―――えっ?!」
「…どうしたの?」
「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
「もう他の生徒も来ることはないだろうから、戸締りでもして…」
ガラララ―――
「…誰か来たわね」
「はぁ…帰れると思ったのに」
入って来たのは、紅保ユリコだった。
237 名前:パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/11/30(土) 14:38:17.04 ID:Yl0gvPdY [3/7]
「お、ユリか?どうした?」
「(妹のことをユリと読んでるのね…)」
「ちょっと探したい本があって―――」
「そうか、何の本だ?」
「いえ、自分で探したいんです。どれが一番役に立つか」
「そ、そうか…」
「そこでお願いなんですが、代わりに夕食の買い出しをしてきてもらってもいいですか?」
「ん、わかったよ」
「たしか、もうすぐ割引セールの時間ですよ?」
「お、不味いな…。ゴメン向田さん。先に帰るわ」
「…了解。年明けは私が先に帰らせてもらうわ」
「じゃ、また来年。良いお年を!!」
そう言って紅保ユウイチは走り去っていった。
「最終日にすいません。少しお邪魔させてもらいます」
「ええ」
紅保ユリコは奥の本棚へ潜り込んでいった。
午後一時を周り、校内から活気が無くなっていった。
グラウンドからも部活動の声は聞こえてこなかった。
年末だから行われていないのだろうか…?
「(トシヤはどうしてるだろうか?)」
問題集に向かいながらマキはそんな事を考えていた。
ふと、目の前に人の気配がして顔を上げる。
「紅保さん?」
紅保ユリコはマキを見下ろしていた。
その眼は―――
「お姉さん…」
「?」
「トシヤ君には申し訳ないですが―――死んでもらいます」
「―――」
238 名前:パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/11/30(土) 14:39:21.46 ID:Yl0gvPdY [4/7]
突然包丁が現れ、マキに目掛けて突っ込んできた。
椅子に座っていたマキは咄嗟に立ち上がろうとして―――
ガタン!!!
後ろに転んだ。
「ちっ!」
狙いを外した紅保ユリコは受付カウンターを乗り越え、こちらに向かってきた。
「(喉を狙ってた?!!)」
マキは恐怖心で混乱していたが、何とか立ち上がり後ろに下がる。
「誰かぁぁぁ―――!!!」
入り口に向かって大声で叫んでみた、が―――
「誰も、来ませんよ。ほとんどの生徒は下校、教師達は暖かい職員室で
くつろいでいるでしょうからね」
「くっ!!」
図書室の奥へ追い詰められていくマキ。
紅保ユリコは包丁を不気味に光らせながら近づいてきた。
「(包丁…。こっちにも何か武器は?!)」
「残念です。トシヤ君のお
姉さんにこんなことをしなければならないなんて…」
「あんた…」
一気に距離を詰めるべく突っ込んできた。
包丁は横腹辺りに構えている。
バン!!!
「ぐっ?!」
突如紅保ユリコは視界が反転し―――
状況が理解できぬまま、身体は本棚に叩き付けられた。
マキは読書用に並べられていた椅子を武器として使い、紅保ユリコをなぎ倒したのだ。
239 名前:パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/11/30(土) 14:40:15.50 ID:Yl0gvPdY [5/7]
大量の本が降り懸かり、紅保ユリコを埋めていく。
マキは包丁を探した。
さっきの衝撃で遠くへ投げ飛ばされていたようだ。
「ごほっ…」バサバサバサ。
思いの外、ダメージはなかったのか…、紅保ユリコは立ち上がってきた。
「あんた、一体どういうつもり?!何なのよ!!」
「あなたは…兄さんに手を出した…。―――許せない!」
「っ?!!」
その言葉の意味を理解しようとしたところ、またしても紅保ユリコは突撃してきた。
「ぎゃっ?!」
マキに乗りかかるようになり―――首に手を掛けて締め始めた。
「ふぅふぅふぅ―――」
「うぅ、ぐ、い、やぁめ…」
ユリコは淡々と、確実に締め付けた。
「兄さんを汚した、兄さんを誑かした、兄さんを汚した―――」
壊れたオーディオのように繰り返すユリコ。
マキの視界は暗くなっていった。
「(もう…意識が…トシヤ―――)」
240 名前:パンドーラー7 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/11/30(土) 14:41:06.07 ID:Yl0gvPdY [6/7]
~♪~♪~♪
その刹那、携帯が鳴りだし図書室内に響き渡った。
「兄さんっ?!」
どうやらユリコの物のようだ。
素早くマキから降りた彼女は自分のバッグに向かって走って行った。
「ガハッ―――ひゅー、ひゅー」
マキは急いで呼吸を整える。
「ええ―――その野菜は―――」
何とか立ち上がり、ユリコを見つめる。
彼女は兄との通話に嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「(やっぱり…あの子も…)」
マキは確信した。
ユリコも同類なのだ、と。
しかし、分からないことが、まだ…。
ピッ!
通話を終えたユリコがこっちに戻ってきた。
「―――今日は見逃します。ですが今度兄さんに手を出したら…」
「待ちなさい。私は…あなたのお兄さんとは何もないわ」
「…へ?」
間の抜けた声を出すユリコ。
「でも…トシヤ君がそう言って…」
「なら、あなただってトシヤのことを好きなんじゃ―――」
「…!―――違いますよ。彼は…私と兄さんのキューピッドなんです」
顔を愉悦に歪めて語り始めたユリコ。
マキは自分以上のおぞましさを目の前の女に感じていた―――。
最終更新:2015年03月22日 01:58