253 名前:
パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 12:11:41.87 ID:r20G6iJU [2/7]
図書室での一騒動から一時間後。
マキとユリコは繁華街の喫茶店に来ていた。
昼食がまだだったこともあり、軽食を食べながらのお茶会となっていた。
「ふぅ…、あなたがお兄さんを、紅保君を好きだっていうのはわかったわ…」
「好きとか、愛してるとか、この思いは言葉では言い表せませんよ」
今まで延々とユリコの惚気話(と本人は思ってる)を聞かされてきたため、マキは疲労していた。
どうやらこの娘は自分以上に危ない感性の持ち主らしい…。
例を挙げると、
- 夕飯に食べたい料理が同じだった…、つまり思ってることが同じで一心同体だということ。
- 兄から「ユリコはいい嫁になる」と言われたこと、つまり結婚して添い遂げたいという兄からのプロポーズだということ。
- 近所の公園にいる赤ん坊を見て可愛いと言ったこと、つまり子宝に恵まれたいということ。
- 兄が二年生の時にノートを借りた相手が女子だったということ、つまり雌猫が兄を狙っているということ(その女子がどうなったかは怖くて聞けなかった)。
- つい最近、兄と同じ委員会になり、色目を使っている泥棒猫がいると聞きつけ排除に
来たこと。つまりマキを始末しに来たということだ。
聞いていて、頭がおかしくなる感覚に襲われたマキ。
逆に、おかしいと疑っている自分がおかしいのか…?
そう錯覚させる迫力がユリコにはあった。
「それで、トシヤがキューピッドとかいう話は…?」
疲れ果てていたが、肝心なことを聞きださなければならない。
トシヤとユリコの関係がいまいち見えてこないからだ。
254 名前:パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 12:12:54.19 ID:r20G6iJU [3/7]
「はい、つい一年前のことです。兄さんはその頃は部活に打ち込んでいました。
家に帰るのも遅く、私は一人ぼっちになることが多かったのです…」
「それで?」
「もしかしたら兄さんは私のことを見限ってしまったのではないか、と疑心暗鬼になりました。
兄さんのことを信用しなければならなかったのですが、一度疑い出すと後は止まらなくなります」
「…!」
マキはその辺りは共感できた。
実際に一時間前まで目の前のユリコとトシヤの関係を疑っていたのは他でもない自分だ。
「それからは不安と恐怖の日々でした…。兄さんが私を置いていなくなる、
何処か知らない場所で別の雌猫に誑かされてる、その脅迫観念が次第に大きくなり…
ついには兄さんと心中しようと決意するまでに追い詰められていました」
「(いや…それはどうなのよ…)」
「そんなときにトシヤ君が掛けてくれた言葉に救われたんです」
「トシヤは何を言ったの?」
「「紅保先輩はいつもユリコちゃんのことを心配しているよ」って…。
そのときに、ああやっぱり私は兄さんに愛されてるんだなぁって感じました」
「ああ、そう…(この娘…馬鹿なんじゃないかしら…)」
「ところで、お姉さんはトシヤ君のことを愛してるんですか?」
「―――?!」
しまった!
そう思った時には遅かった―――
255 名前:パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 12:13:33.48 ID:r20G6iJU [4/7]
「隠そうとしてたんですね。でも態度を見てればわかりますよ、
私の兄さんを想う気持ちと似たようなものを感じましたからね」
「…どうする気よ、トシヤにでもバラす?」
すでにお互いに肉体関係を持っていながら、謝罪をし、普通の姉弟として
暮らすという誓いをしたマキ。
未だに未練や痴情を持っていることがわかれば―――
「ふふ、ふふふふふ…」
「―――そんなにおかしい?弟に発情する姉なんて滑稽に映るでしょうね…」
「いえ、失礼しました。別に馬鹿にしたわけじゃありません。謝ります」
「………」
「トシヤ君にバラす気はありませんよ、安心してください。でも何だかお姉さんが可愛らしく見えて…」
「どういうこと?」
「自分の想いに気付きながら、それを悩む姿が何だか…。
私はどんな手を使っても兄さんを手に入れるつもりですから。
その違いがなんだかおかしくて…」
「あなたはいいわね、決断できて…」
「事情は聞きませんが…、私達は協力できると思いませんか?」
「…情報交換をするということ?」
「それだけではありません。私達が兄さんやトシヤ君についていれば、
他の雌猫も寄ってこないと思います」
「考えはいいわね…」
しかし―――さっきまで自分に殺意を抱いていた娘だ。
信用できるかといえば…。
「とりあえず今日はここまでに。いい返事をお待ちしてますよ」
それでお茶会はお開きになった。
256 名前:パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 12:16:23.98 ID:r20G6iJU [5/7]
一方のトシヤも繁華街にいた。
部活仲間と忘年会と称した遊びに付き合い、カラオケを締めに解散して帰路に就いていた。
時刻は夕方の5時過ぎ。
辺りは暗くなり、ネオンのけばけばしい明かりが目に付いた。
「(まずいなぁ…、早く帰らないとマキ
姉さんが心配すr)」
ドカっ!!
「キャッ!」
「うわっ!」
トシヤは突然現れた人影にぶつかり体勢を崩した。
「ととっ…」
何とか倒れずに踏ん張りきる。
「ご、ご、ごめんなさい…大丈夫ですか…?」
「あ、あぁ平気だから…」
ぶつかったのは同じ中学に通う女子のようだ。
女子の着ている制服でトシヤはそう判断した。
「えっと…同じ学校だよね…?」
「え、あ…はい、そうですね」
「こっちこそごめん。考え事してたからさ」
「いえ、悪いのは私です…。よく見ていなかったですし…」
「俺が言うのもなんだけど、早めに帰ったほうがいいよ。
この辺りは暗くなるとあまり安全ではないからさ」
「ちょうど帰るところです…。駅まで歩いて行こうと…」
「俺も駅まで向かうところだからさ、お詫びにエスコートするよ」
「…ありがとうございます」
「俺は向田トシヤ、2年2組」
「私は柚谷ミコトと言います…。3年1組です…」
「あ、先輩だったんだ…。じゃあこっちが敬語を使わなきゃ―――いけませんね」
「クス、言いやすいほうでいいよ…」
「じゃあお言葉に甘えて…」
駅までの道中、二人はお互いの自己紹介をし、また会う約束をして別れた。
257 名前:パンドーラー8 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2013/12/23(月) 12:17:30.29 ID:r20G6iJU [6/7]
「ただいまー」
「お帰り、遅かったわね」
「部活の皆と遊んでた」
「ご飯出来てるから早く着替えてきなさい」
「へーい」
帰宅したトシヤは浮かれていた。
お年頃な時期だけに女子との会話は弾むものがあるのだ。
ユリコとの会話はどこかドライな感じがあった。
しかし、今日知り合った先輩、柚谷ミコトは母性的な一面があり、
母親をほとんど知らないトシヤには魅力的に思えたのだ。
「そういえば今日の帰り、ユリコちゃんと会ってね」
「うん」
「あんたの言葉に励まされたって言ってたけど…、どんな状況だったの?」
「励まされた…?うーん、よく覚えてないなぁ」
「ユリコちゃんが落ち込んでた時期ってなかった?」
「―――あ!紅保先輩が妹の元気がないって言っててさ、多分その時だよ。
でも何話したっけなぁ…」
「ふーん、とりあえずわかったわ。さ、ご飯にしましょ」
「トシヤ君…。クス♪」
トシヤと柚谷ミコトとの出会いは偶然では無かった―――
最終更新:2015年03月22日 02:00