『鳥かご』

294 『鳥かご』1 sage 2007/11/11(日) 06:35:02 ID:EszPczjl
ほっそりとした腕はクラスで囁かれるほど長かった。年を十数えた
頃には上履きのサイズはクラスメイトのよりも一回り大きく、その
くせ痩せっぽっちで色白で、座っていれば溶け込んでしまい目立た
ない。立ち上がればその不釣合いなほどの大きな瞳と相まってすぐ
に高階小鳥(たかしな ことり)だと分かってしまう。小鳥はそれ
を嫌って教室の端っこで小さくなって生活したが、卒業時には学年
で一番背が高くなっていた。
大きいことは良いことだ。母はそう言っていたが、小鳥にとっては
苦痛でしかなかった。「はりがねみたい」と陰で嘲る級友たちが薄
っぺらな心を傷つけた。堪らずに小鳥は母に尋ねた。
「どうして皆は小鳥のことを悪くいうの?」
母は苦虫を噛み潰したような顔してとつとつと言い聞かせた。小鳥
は納得したようなしないような不思議な顔をしたが、黙って母の話
に耳を傾けた。
「わかった?」
穏やかな笑みを浮かべた母。小鳥は誰よりも早く巣立たなければな
らないのだと直観した。必死に瞼を閉じて目立たない瞳になるよう
勤め、悪意を耳朶に受け止めながら成長した。
そんな小鳥には二つ年の離れた弟がいた。小鳥とは違い小柄で活発。
すばしっこくてスポーツが得意だった。自然、誰からも好かれる人
気者の位置にいた。小鳥にとっては自慢の弟であったが、同時に嫉
妬の対象になった。けれど憎めなかった。羨むことはあっても、嫌
うことはない。浩太は誰よりも小鳥に優しかったのだ。


――その優しい弟はベッドの上にいる。真っ白いシーツの上に小柄
な肉体を横たえ、目は酷く虚ろだった。脇に置かれた丸椅子に座っ
て小鳥は力ない双眸を見つめた。
姉さん。俺の脚、どこいったんだろうな」
乾いた唇が上下に動くと消えてしまいそうな音量で囁いた。
「ちゃんとあるよ。ここにある」
小鳥は白い毛布の上から浩太の両膝を撫でた。その手には確かに温
もりが伝わった。だが――
「ぜんぜん感じないや」
浩太にそれは届かなかった。


295 『鳥かご』2 sage 2007/11/11(日) 06:35:57 ID:EszPczjl
交通事故。決して珍しいことではない。日本という小さな島国に星
の数ほどの自動車とバイクが走っているのだ。どれだけ交通法規を
遵守していても事故は、起きる。
「お医者さん言ってたじゃない。若いんだからまた動くようになる
って。ねぇ、だから……」
「簡単に言うんだね。どうせ姉さんには他人事だから」
夜に浮かぶのは丸い月。闇が襲うように周囲を取り囲み、赤黒く輝
く満月はカーテンの隙間から二人を覗き見ている。浩太はその月を
睨みつけ、小鳥を見ようとはしない。
「そんなことない。そんなことないから。ね、元気だそう。明日か
らリハビリできるってお医者さん言ってた。お姉ちゃん手伝うから
さ」
「……」
「ねぇ、浩太」
自分を見てくれようとしない浩太の掌を握りしめる。だが、無言で
振り払われてしまう。行き場を失った小鳥の指先は中空を彷徨う。
何も掴めない。
「ねぇ……こうたァ……」
「帰れ」
「…………」
「帰れって言ってんだよぉおお!!」
二人だけの室内に冷たく響く。紅月は雲に消され漆黒が個室を襲っ
た。小鳥は椅子の上で怯えたように縮こまる。
精神的に不安定だから――主治医はそう言って浩太に個室をあてが
い、家族の付き添いを許した。昨夜は母が、そして今日は小鳥が付
き添っている。叫び声を上げたのははじめてだった。
「どうせ情けない弟を哀れんでるだけだろ。『バイクの免許とった
のに浮かれて乱暴な運転でもしたんだろ。ざまーみろ』ってさ」
一片の光さえ届かない深海へに引きずり込まれたように浩太の声は
歪につぶれる。浩太には世界は真っ暗なのかもしれない。だが、小
鳥には――
静寂の帳を叩いた浩太の叫びからしばらく。室内は陰鬱な空気が漂
い夜明けまでの長い時間を空費していた。時計の秒針が進む音が聞
こえる。
「母さん言ってた。背が低くて悩んでる浩太にこうアドバイスした
んだって。『とにかく元気。何があっても笑ってなさい』って」
「元気、元気、元気。口を開けば元気。へへっ、バカみてぇ」
自らを罵るように、そして嘲るように生気のない唇がつむいだ。昨
日の元気を取り戻せない事実は浩太の心に重く圧し掛かる。事故当
日の焼けるような痛みが懐かしい。手術が終わり麻酔が切れてもそ
の幻想が覚めずにいる今が、憎らしかった。浩太の首筋が、肩がそ
う言っていた。




296 『鳥かご』3 sage 2007/11/11(日) 06:37:20 ID:EszPczjl

「――元気、あげるね――っん――」
小鳥がさえずるように薄い唇が動く。浩太の視界は小鳥でいっぱい
になった。乾いた唇はしっとりと濡れ、甘い髪の匂いが浩太を惑わ
す。思わず息を呑んだ小さな身体は頬に這う小鳥の細い指先を払い
除け、力任せに突き飛ばした。
「な、なにやってんだよ!」
浩太は慌てて手の甲で湿った唇を拭う。甘く切ない感触が舌に残る
のが分かった。
冷え切った床にお尻を打ちつけた小鳥はそのままの体勢から動こう
としない。怪我をした、というわけではない。動こうという意思が
ないのだ。闇に溶ける黒い髪はその病的に白い肌を覆い表情をみせ
ようとはしない。
「わたしね。嫉妬してた。いっつも楽しそうに笑ってる浩太のこと、
ホントは嫌い……だって、ね……、わたしに優しくしてくれる浩太
じゃないんだもん」
消えてしまいそうな小鳥の姿を浩太は上体を起こして見据えていた。
この病室に入ってからはじめて直視した小鳥の身体は儚げに震えて
いた。
「ツーリングに行くんだってニコニコして整備してたでしょ。後ろ
で見てて腹が立ったわ。浩太は友達に囲まれて楽しく遊んでる。そ
れに比べてわたしは……って」
淀んだ口調は浩太の胸を激しく揺さぶった。浩太よりも未だに背の
高いはずの小鳥の身体は子猫のように小さい。
「……最低ね。お姉ちゃん失格よね」
小鳥は嗚咽した。拳をきつく握りしめ、肩を震わせて泣きだした。
必死になって漏れ出てしまう想いを隠すように唇を噛み溢れ出る涙
を、拭う。
雲間から差し込んだ月光が窓硝子を透過して小鳥のほっそりとした
肢体を映し出す。ティアード・スカートから伸びる脚は張りがあり
艶かしい。かつて悩みの種だったアンバランスな肉体ではなく、成
熟しつつある女の身体だった。
ようやく立ち上がりよろめきながらベッドに近づく小鳥。痩躯であ
るが肉付きはよく、均整の取れた輪郭は美しい。幼き時分には忌々
しいだけの大きな瞳は、成長によってその眼窩に違和なく納まり、
妖艶な輝きさえみせていた。とくに月明かりに照らされた小鳥の目
は涙のせいで潤み、いっそう淫靡に光る。
「ね、姉さん……」
清潔感のある白地のブラウスのボタンを一つ、一つと外していく。
小鳥の華奢な指先は迷うことなく最後のボタンも外した。
「だから決めたの……お姉ちゃんのぜんぶで、浩太を元気にするっ
て」
そう言って唇を重ねた。浩太は抵抗しなかった。注がれる甘美な感
触がそれを妨げたのだ。小鳥の舌先が口腔に侵入して激しくもてあ
そぶ。歯茎を刺激し、舌先を絡め、卑猥な音色を奏でる。
「んっ、ぬちゅ……ちゅ、んはっ――」
離れていく小鳥の口唇からは惜しむように糸が引いていた。光沢の
宿ったその糸は浩太とつながっている。
呆然と開け放たれた浩太の口は小鳥を求めるようだった。小鳥はも
う一度キスをした。優しく。そして口元を淫乱にゆがめた。




297 『鳥かご』4 sage 2007/11/11(日) 06:38:27 ID:EszPczjl
はいていたサンダルを脱ぎ捨てるとベッドの上に乗った。マットレ
スが沈み込み、二人分の体重が圧し掛かる。横たわった浩太を跨ぐ
と小鳥はゆっくりと腰を下ろした。浩太に負担をかけないよう膝に
力を入れている。
すっかり顔を出した月が二人の影を作る。床に落ちた影は重なり合
い二人の境界線は見えない。触れ合った肌は温かく、ざわついたな
にかが張り付くのが浩太には分かった。
慈しむように指先は絡み合う。何度も握りなおしながらその冷たい
指先を暖めあった。氷が解けるように熱を注ぎ、薄っすらと二人の
手のひらは汗ばむ。
浩太の眼前には剥き出しの素肌があった。ブラウスの先にはあるべ
き下着はなく、二つの乳房が顕になっていた。小鳥がわずかに動く
だけで柔肉はぷるっと躍動する。突起は淡く愛らしい。
「ねぇ……さん……んあっ」
小鳥は言葉を遮り浩太の首筋に舌を這わせた。ゆっくりと舐め上げ
て頬を通り過ぎると耳たぶを口に含んだ。浩太は短く呻く。
「かわいっ」
悪戯っぽく小鳥は笑うと上衣を脱がしにかかった。裾を引っ張り乱
暴に脱がすとベッドの外へと放り投げた。浩太の身体にはいくつも
の擦過傷がある。事故の時にできたものだ。まだ赤みがあり痛々し
い。小鳥は目を細めるとそれに顔を近づけた。
ささやかな痛みに顔をゆがめる浩太。だがその表情の奥には恍惚と
した快楽が垣間見られた。小鳥はその傷口に優しく舌を這わせなが
ら下へ下へと落ちていく。六つに割れた腹筋と自身によく似たへそ
を見ながら、その手を浩太の陰部へと滑り込ませた。
「あッ……ぅ、ね……姉さん……」
そして覆っていた着衣をずり下げると浩太のものが現れる。まだ力
なく萎えているが硬くなる兆しがあった。小鳥は何も言わず華奢な
指先を使って扱き出す。垂れ下がった袋を弄りながら、ゆっくりと
愛撫を始めた。
びくつきながら浩太の肉竿は微細に反応して血流がまたたくまに流
れ込む。青筋が浮かびゆっくりと立ち上がる姿は雄雄しい。小鳥は
妖しく笑い、
「もっと元気にしてあげるね」
と言って肉棒の先に口付けをした。そしてそのまま浩太のものをす
っかり咥え込んでしまう。浩太の表情筋はだらしなく弛緩し、駆け
上がる快感に身を任せていた。


298 『鳥かご』5 sage 2007/11/11(日) 06:39:01 ID:EszPczjl
「んはっ…ぢゅっ……っぷ……んぁ……はぁ……ッ」
小鳥の頭が上下に動く。ゆっくりと。ときに激しく。しどけなく揺
れる黒髪を浩太は上体を起こして眺めていたが耐え切れずにベッド
に沈み込んだ。古ぼけた天上を見上げて襲ってくる背徳感から目を
背けていた。
――実の姉なのに。
たった今、唇を交わしたのも性器を咥えているのも実の姉である小
鳥なのだ。危険な関係に興味はなかった、はずなのに抑えきれない
愛欲が体中から滲み出てしまう。
「ぶちゅぅ、んじゅ、ぅぢゅ……ぬちぁ……んぢゅううっ」
口を窄めて吸いつくように浩太のペニスを刺激する。
「あぁっ……ね、ねぇえ――」
浩太が切なく呻いたその瞬間、小鳥は顔を上げて陰茎を離した。す
るとたぎった肉塊は下腹部の方までいっきに反った。さっきまでの
可愛げのあったものとは違い先端は赤道色に染まりグロテスクなほ
どに太く猛々しい。
「おっきく……なったね」
上気して薄っすら頬が染まった小鳥はシーツの上を膝で歩くと、は
いていたティアード・スカートを腰の上までたくし上げた。その下
には何もはいていなくぐっしょりと濡れた恥毛が僅かにあるだけだ
った。最初、浩太に触れた『ざわついたなにか』の正体らしい。
「お姉ちゃん……濡れてきちゃった」
見せ付けるように自身の淫裂を広げてみせた。汗ばんだ太ももの間
に桜色の花弁が妖しく蠢いている。ねらねらと愛液で輝き妖艶さを
醸し出している。これが小鳥への入り口だと思うと、たまらなくな
り浩太は喉を鳴らした。
「い……いれるね」
一瞬だけ恥じらいを見せた小鳥だったが、二本の指で下の唇を押し
広げると、ゆっくりと浩太の肉竿を迎え入れた。
「――ぅ――ん、……んん、痛っ――」
刹那の拍子、小鳥は顔を歪ませたがすぐさま浩太の胸に抱きついた。
身体が密着し互いの呼吸が同期し二人は一つになったのを実感して
いた。
「こ、こうたぁ……。お姉ちゃんの中、きもちいい?」
「すご、く……あったかい…き、気持ち、いいよぉ」
浩太の言葉を受け止めると小鳥は顔をほころばせた。今すぐにでも
踊り出したいほど気持ちが昂ぶった。


299 『鳥かご』6 sage 2007/11/11(日) 06:39:58 ID:EszPczjl
「ありがと」
浩太の耳傍で囁くと両手を突いて上半身を起こし、腰をゆっくりと
動かした。ぬちゃ、ぬちゃ、と音色を奏でながらその動きは少しず
つ早くなっていく。小鳥の形の良い白いでん部が上下するごとに浩
太にピチピチとあたる。
「ぁあっ、姉さん、き、気持ちいいよぉ」
「こうたぁ……はぁっ、っんぁ、はあっ、んはぁ、んっんっん」
腰をくねらせるたびに浮かぶ肋骨。皮膚の下で苛む官能の欲望が曝
け出されるようだ。肉棒が膣を出入りするたびに淫靡な音色が響き、
突き上げる二人の情欲は止め処なく溢れる。
「はっ、はぁんっ、お、お姉ちゃんの、も、さ、さわっ、って……」
小鳥は浩太の手を取ると自分の乳丘に導いた。ぷっくりと膨らんだ
乳首は小鳥が動くたびに揺れている。それを捕まえるとぎこちない
手つきでもみしだく。乳肉が指の間から溢れ、その神秘的な柔らか
さに浩太の無骨な指は惑っている。
「もっぉとぉ……っ、つよ……くてぇ、はぁ……ぃいよぉ」
浩太は頷くとがむしゃらに揉んだ。爪のあとが付くほどきつく握り、
形が歪むほど小鳥の乳房をもてあそぶ。
汗ばんだ肉体同士が激しくぶつかり、病室内には喘ぐ二人の男女の
嬌声だけが響く。ベッドが軋み、もう時計の音は聞こえない。姉弟
は時間を忘れるほど肌を重ね合わせる――
「ねぇさん……おれ、…はぁっ……もう、イきそうだぁ…」
「はぁ、っんう……だ、出し、テ……はぁあ、んはっ。出していい
よぉ。おね、ぇちゃんの中に……だ、だしてぇ」
肉棒が小鳥の膣を出入りし肉壁は絶頂を知らせるようにキツク閉ま
る。小鳥の額には玉のような汗粒が浮かび、浩太の腰は砕けたよう
に天に引かれる。
「ネ、ねぇえさん……イ、イくぅ」
「出してぇ、お姉ちゃんの中に、たくさん、だしてェ」
浩太の竿がはち切れそうなほど小鳥の中で大きくなると、その先端
から白い液体をいっきに、吐き出した。ドクドクと脈打つように液
を膣に注ぎ込む。
「んはぁ……で、出てるよ……こうたぁ。浩太の精子でてるぅ」
小鳥はその白磁のような肉体を大きく反らし、浩太の全てを感じて
いた。長く伸びた四肢はびくっびくっと痙攣し、全身で快楽を享受
していた。


300 『鳥かご』7 sage 2007/11/11(日) 06:41:10 ID:EszPczjl
浩太のものが粘液を吐き出し終えたのを知ると、別れを惜しむよう
に肉棒を抜いた。未だその硬さは完全には失われていない塊は愛液
と精液でぐちゃぐちゃだった。二人が愛し合ったところのシーツは
ひどく濡れていてその中には赤いものも僅かにだが、あった。
「げんき、出たかなぁ?」
甘えるように小鳥は浩太の倒れこんだ。胸部は上下しその吐く息は
荒い。
「姉さんが全部もっていっちゃったよ」
目を瞑ったまま浩太は言った。その口調は穏やかだ。
「うっふふ。いじわる」
そう言って浩太の横で寝転がる。病院のベッドは二人には狭すぎる
が、ひどく温かかった。
「ねぇ、明日からリハビリできるよね? ……浩太?」
小鳥の呼びかけに反応しない浩太。瞼は閉じられ呼吸は規則的だ。
「こ、こう――」
ほんの少しだけ心配した小鳥だったが、寝息を聞いて安堵した。事
故、手術、そして――緊張の糸が切れたのだろう。浩太の寝顔は安
らかだった。
小鳥は起こさないようにベッドから起き上がろうとしたが、できな
かった。浩太の力強い腕が肩を抱いていたのだ。離さないと宣言す
るように、きつく。

「高階さ~ん」
低く抑えた声が扉を開けた。手には懐中電灯を持っている。夜間の
見回りに来た看護士だ。
「あれ、高階さん?」
左右に懐中電灯を振り病室を照らす。ベッドには――
「帰っちゃったのかしら」
寝息を立てる浩太を確認すると看護師は病室を後にした。
「びっくりしたぁ」
浩太の寝ている横には毛布下で小さく丸まっている小鳥がいた。外
から分からないように浩太に密着して顔を出さないでいたのだ。
看護師がいなくなったのを確認すると小鳥は這い出て浩太の寝顔を
まじまじと見た。無垢な子ども時代を思い出していた。
二人で同じベッドで寝たことなんてあっただろうか。子どもの頃は
よくじゃれ合ったなぁ……。懐かしい記憶は小鳥を眠りへと誘う。
もうほんの数センチしか違わない二人の肉体は寄り添って寝息を立
てた。



――翌朝。
朝日が昇るその手前、寝静まった院内を歩く影があった。小鳥だっ
た。大きめのポーチを抱えて女子トイレへと消えていく。
鏡に映った小鳥は昨夜と同じ服装だ。ブラウスをちょっとはだけさ
せると乳房には痕がある。情事を思い出させ鏡の中の小鳥は笑った。
浩太の寝顔を背にするのはたとえ一時のこととはいえ苦々しいが、
このまま看護士や家族と会うわけにはいかない。はやる気持ちを抑
えてポーチからタオルを取り出すと蛇口を捻った。水は勢いよく流
れ出る。
手と顔を洗い水滴をタオルで拭っていると小鳥はあることに気づい
た。爪先がくすんでいるのだ。少量だったが確かにそれは黒くおぞ
ましい色合いだった。
飛沫が洗面台を汚し水流がうねる中、欲したものを手に入れた小鳥
は達成感に満ちた顔でつぶやいた
「なかなか落ちないのね……オイルって」

おわり

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最終更新:2007年11月13日 17:10
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