三者面談 その5

617 三者面談 5 ◆oEsZ2QR/bg sage 2007/11/25(日) 11:47:34 ID:SxXhqHHx
 僕は公園のベンチに座り、折り潰されていた携帯電話を見つめる。
 ちょうど、折りたたみ式の稼動部分を反対方向に力を入れて潰されていた。
 液晶も死んでボタンを押しても何も反応が返ってこない。いや、先ほどまではいくつかパピポと反応が返ってきたんだけど、一か八かで壁に叩きつけてショックで回復させようとしたら、それがトドメだった。
 しかし、誰がこんなことをやったのだろう。
 携帯電話を拾って、折り潰す。……落としたのがあの空き教室なら、犯人は千鶴姉さん
 でも、千鶴姉さんが僕の携帯が折り潰す理由は? ただの八つ当たり? いや、冷静な姉さんは八つ当たりをするような人じゃないよな。
 じゃあ、他の誰か?
「その誰かがまったく検討つかないよ……」
 それよりも、この携帯電話に保存してあったメールや先生・友達のアドレスがすべておじゃんになってしまったのは痛い。
 あ、そういやアプリのシューティングゲームのハイスコアもサーバーに送信してない。あーあ、せっかく17兆4923億2236点出したのに。
 いやいや、そんなことより。先生とのラブラブメールも消えちゃったんだよなぁ……。
『せーじくん 今から先生帰りますよー! 玄関前でちゅーのまま待っててねー♪』
『せーじくん めっ! 今日、3組の田中さんと手をつないでたでしょ! 先生見てたよ! 罰としてあとであたしのところではぐはぐすること! 以上!』
「先生、結構恥ずかしい内容書いてくるんだよなぁ……」
 しかもメールだとなぜか口調が子供みたいになってて、可笑しい。僕はそのメールを度々眺めては頬を緩ませていたのだった。
 でも、そんな文面もすべて消滅だ。ゲームより、アドレスより、こっちがなくなったのが残念だ。
「とりあえず、新しいの買いにいかないと……」
 教師と生徒のアバンチュール、禁断の果実をうまく食すには携帯電話は必需品。秘密の連絡に無くてはならないシロモノだよ。
 早めに用意が必要だね。
 ベンチから立ち上がる。先生は今日はどのぐらいに帰ってくるかな。
 いつもはメールで帰ってくるけど、今はメールを見ることも出来ないし返すことも出来ない。返信しなかったら怒るんだろうなぁ。
 ぼうっとそんなことを考えながら、雄飛で赤く染まる閑散とした住宅街を歩く。先生のアパートの前までやってくると、周りを確認してから敷地内へ。
 先生の部屋は2階。まだ若くてピチピチ(先生いわく。でも死語)の教職員な先生なので、エレベーターなるものは無い。半年前にペンキを塗りなおしたという細い階段を昇って、廊下を進み先生の部屋へ。
 先生の部屋は208号室。突き当たりの角部屋だ。
 カバンの裏ポケットから合鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。くるりと回せばガチャリという音と共に鍵は開いた。ドアノブに手をかける。
 ノブを引くと、無音で玄関扉が開く。部屋の中は電気がついていなかった。先生はまだ帰ってきてないみたい。
 やっぱり、今日も部活で遅くなるのかな。そんなこと考えながら僕は後ろ手でドアを閉める。
「ただいまー」
「おかえり。誠二」
 ガツ。
 ……その言葉が後ろからかけられた瞬間。
 後ろ手で閉じようとしていたドアが閉じるまで数センチのところで動かなくなった。何かに引っかかったように。まるで、訪問販売セールスマンにドアと壁の間に足を挟まれたように。
 ううん。それよりも。もっと僕を戦慄させる声…………。
「……おかえりなさい、誠二」
 そんな。そんな。そんな。
 僕の背後から聞こえる声。聞き覚えのある、いや、いつも聞いていた声。
 脳みそ、胴体、手、足、僕の全てが硬直した。目の前には僕と先生の楽園、愛の巣があるのに。僕のすぐ背後には死神が鎌を持って立っている!?
 そんな。そんな……! なんで、こんなところに……。
「ここが今の誠二のおうちかしら?」
 振り向きたくなかった。この状況を認めたくなかった。後ろを振り向きたくなかった。
 ドアノブから手のひらがこぼれ、開く。
 声の主は僕の横を通りすぎて、先生の部屋へ土足のまま上がる。
「こんな狭いところに住んでるのね。ふーん……」
 僕が振り向けなかったからなのか、声の主は僕の前に仁王立ちで立ちはだかる。
 そして、口を開けたまま呆然としている僕の前に、

 心の底から可笑しいといった愉悦の笑みを浮かべた、

 千鶴姉さんが、
 ちづ……。



618 三者面談 5 ◆oEsZ2QR/bg sage 2007/11/25(日) 11:48:38 ID:SxXhqHHx
 ほぉら。来た。
 ボロアパートの階段の踊り場の隙間から誠二の姿を確認する。
 きょろきょろとアパートの周りを確認してるみたいだけど、アパートの中は確認しなくていいのかしら? 誠二。
 あ、誠二が来た。廊下をすばやく抜ける。空稲くん聞いた高倉良子の部屋はこの角部屋。突き当たりにはちょうどいい具合に身を隠せそうな清掃用のロッカーがある。
 ロッカーの陰に隠れた私は手元だけのぞかせて、デジカメで証拠写真を撮る。どうせ、暗くてなにも写ってないでしょうけど。
 あ、愚弟め。私が気がついていたら折り潰していた携帯電話片手に、やってきたわ。……やっぱり。合鍵を持っていた。
 なれた動作で鍵を差込み、カチャリと音が鳴る。
 誠二は私に気付いていないようだ。ちょうどいい。
 彼が、開いたドアに入ろうとした瞬間。
 私はロッカーの陰から飛び出し、ドアに足を挟んだ。

 誠二の首根っこを掴み、部屋の中へ。
 誠二はショックのためか、わけがわからないといった顔でわなわなと震えている。
「誠二」
「はい……」
「そこに座って」
 私が指差したのはフローリングの床。特に絨毯も無い、木目のひんやりとした床。部屋の中には二人がけのソファがあったが、彼をそこには座らせない。
 誠二は私の顔色を伺いつつ、戸惑いながら足をつける。そのまま正座になった。私が説教するときはいつも正座だからね。
 おとなしくしておきなさいと目で誠二に言い聞かせる。
 ははん。三者面談の時の勇気はどこへやらね。
 さて、ここが高倉良子の部屋か。キッチンとリビングが分かれた洋室ね。8畳ほどのリビングには二人がけのソファとベッド。小さな本棚がひとつ。部屋の隅には、誠二の着替えがいくつか積まれてあった。
 ふぅん。誠二。三者面談の後で高倉良子と同棲するっていうのは前から決めてたってことかしら。一体どっちが先に言い出したのかしらねぇ。
 まぁ、私に睨みつけられてぶるぶる震えている誠二を見れば大体予想つくけど。
「姉さん、えーっと……これは……」
「誠二。あなたは教師である高倉良子の部屋になぜいるのかしら?」
「それは、えーっと……その……」
 なにか良い言い訳でも考えているの?  高倉良子の立場を守ろうとこんな状況でもいいわけが思いつくの?
「勉強を教えてもらおうと思ってて……」
 そんな理由ですべて片付けられると本気で思ってるのかしらね。まったく、馬鹿な上にいいわけも下手で。本当に頭の悪い愚弟だわ。
 …………そして、やっぱりあの女が……大事なんだ。
「嘘ね。誠二」
 そんな言葉でさっさと切り捨てる。
「どんな言い訳しても無駄だから。もうあなたの秘密の全てを私は知っているの」
 追い詰めるように誠二の後ろへ歩く。私の足音に反応して誠二はびくんと肩をこわばらす。
 私が近づけば近づくほど彼の四肢は硬直し、自由を奪うのだ。何年もかけて私が調教した結果ね。誠二の脳内に私に逆らうという言葉は無いのだから。
「あなたが昨日……私の待つ家に帰らず、この部屋に泊まったこと」
「………」
「これからここに住みつづけるつもりなこと」
「………」
「……そして、この部屋に住む、担任教師の高倉良子とあなたが……………あ、愛し合っていることも」
「……!!」
 できるだけ、やさしく。誠二の首へ腕を回す。誠二の肌は灼熱のように熱い。
 私が触れた途端、体をさらに緊張させたのは、私の冷たい指に驚いたからかしら?
「…………姉さん。僕は……」
 黙れ。

「!!!!」


619 三者面談 5 ◆oEsZ2QR/bg sage 2007/11/25(日) 11:49:43 ID:SxXhqHHx
 誠二の首に指をかけ、そのまま頚動脈を締め付ける。
「!……!!……!」
 後ろからだから、うまく入るかわからなかったけど、一発で大丈夫だったわ。
 誠二が悶絶した表情で暴れだそうとするが、私は冷静に誠二の体に自分の足を巻きつかせた。ふふふ。なんてはしたない格好なんでしょうね?
 私は正面にあるスタンドミラーで悶絶する誠二を見つめ、嗜虐の悦びに震えながら指の力を強くしていく。
 ちなみに誠二をここに座らせたのは、このスタンドミラーで誠二の悶える顔をきちんと見るため。後ろに回ってちゃ見えないものね。
「……!!……」
 鏡の中で誠二とぎろりと目が合う。
 誠二は苦しそうに口をぱくぱくとし、涙目で私を見つめていた。
 どんどんと顔が白くなっていき、彼の抵抗する力も無くなっていく。このまま誠二の意識を落としてもいいのだけど、一歩間違えれば二度と目が覚めない可能性もあるわ。
 ギリギリまで締め付けて、抵抗が出来なくなったとき……ね。
「…………っ……」
「はい。開放」
 首から手を離す。瞬間誠二の体は床に崩れ落ちた。
「!! ぜぇー!? はぁー!?」
 誠二は床にキスをしたまま脳みそに血を巡らそうと、狂ったように酸素を吸って吐いて吸って吐いて。なんだかその動作が面白おかしくてしょうがない。
 でも、笑っている暇はないわ。カバンに手を突っ込む。
 動けなくなっている誠二の投げ出した手を後ろ手に固定してすばやくガムテープでぐるぐるまきにする。足首も同じようにぐるぐる巻きに。これで、誠二は立ち上がることが出来なくなった。
 その後は大声出されると邪魔だから、口元にもガムテープを貼り付けた。水分で外れないようにとりあえず何重にも貼り付け。呼吸が出来ないと死んじゃうから鼻だけは開けとかないとね。
「……も、もごご! もごっもごっ!」
 うふふ。ようやく意識が戻っても、その格好じゃどうしようもできないわねぇ。
 ぽろぽろと涙をあふれ出させ、何かを訴えるように私に呼びかける。が、ふさがれた口ではどこにも届かない。
「誠二。あんたはそこで黙ってなさい」
 転がる誠二を見下ろして、顔をニーソックスを履いた足で踏みつけた。ちょっとだけぐりぐりさせ鼻っ柱を親指で撫で上げると、少し心が満たされた。
 もういっちょ、とどめと称して誠二の股間にも蹴りを一発。
「!!!」
 ぶにゅっとした感触が足に残った。潰れたかしら?
 ふふふ。悶えてる悶えてる。
 大丈夫。あなたのそれが使えなくなっちゃっても私は見捨てないからね。
 さてと、まずはここにある誠二とあの女の雌汚い匂いがぷんぷん匂うこのソファからなんとかしましょうか。
「ねぇ、誠二。いつもこのソファに二人で座っているのかしら? 正直に言いなさい」
 そう聞きながら、私は誠二の横顔を踏みつける。
 誠二は答えない。というか口を押さえられているので答えられない。目に恐怖を浮かべながら、首をかすかに縦に振った。
「ふぅーん。そうなの」
 二人がけ用のソファは幅長で、ちょうど人が横になれそう。
「この上でセックスしたの?」
 もちろん、ゴミ箱に詰まっていた変な匂いのするティッシュを確認済みな上での質問。
 ふるふると誠二は首を振ったので、おなかに蹴りを一発いれた。そうしたら白目をむいて黙ってしまったので、私は仕方なく肯定と捉えた。うふふ。
 私は台所にあった包丁を手に取るとソファにクッションに刃を突き刺した。ぶつっと縦長の線がソファにできる。ここに誠二とあの女の二人が尻をつけていたのね。
 もう一度振りかぶって刺す。もう一度、もう一度、私はソファをめった刺しにした。
(続く)

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最終更新:2007年11月28日 23:16
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