18 :
理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:06:43 ID:REMO1yqG
「ねぇ、修くん」
頭を撫でられていた理緒姉が急に真面目な顔で話した。
「まだ、お腹の傷…痛い?」
「まぁ、そうだね。ただ、もう謝るなよ」
「うん…あのね、傷を見せてほしいの」
…包帯外せって事か?「俺は包帯の巻き直しできないんだが…」
「理緒が巻き直してあげるから…お願い」
なんだか真剣な顔をしてるなぁ…
仕方ないな…
「よっ…と、つっ!あ、やべ、まだ血が…って理緒姉っ!?」
「んっ、ぺろ…」
理緒姉は俺の傷と俺の血をとても愛しそうに舐めている。
俺は痛みと、理緒姉の舌の感触と、唾液の温かさとを感じていた。
「理緒、姉…俺の血なんか、汚いだろ…?」「汚くなんかないよ。とても温かくて、修くんの命を感じる」
…正直かなり傷が痛いんだが。
その時コンコンとドアがノックされた。
こちらの返事も待たずにドアが開けられる。
「織部君、具合はど…」
………
長い沈黙。
「どうもお邪魔しました」
「ちょっ、ちょっと待てって!」
「理緒
姉さんがいるから平気でしょう?」
「そういう問題じゃねぇ。羽居、何しに来たんだ?」
「お見舞いと、話を」
「見舞いはありがたいけど、話ってなんだ?」
19 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:08:34 ID:REMO1yqG
「織部君の…いえ、織部という家に関しての事」
「家に関して…?」
織部の家ってそんなに特別な事有ったのか?
「理緒姉、なんか知ってる?」
「ううん…何も」
理緒姉も知らない事なのか。
「でもなんで羽居が理緒姉も知らない事を知ってるんだ?」
「随分前に私の家に手紙が届いたの。それに詳しく説明がされていた。差出人は、織部利織」
「としお?」
「織部君のお父さん。字は便利の利に、織部の織だった」
へぇ…俺の父さんの名前は利織って言うのか…
つーか字だけ見たら女みたいな名前…
待てよ?これって、音読みしたらりおだよな?
「お父さんの名前が理緒の名前の由来…」
理緒姉も驚いてる様子だった。
「由来はそれだけじゃない。織部君のお父さんの結婚する前の名前は、忍取利織。回文である事もその一つだった」
そうか…言われてみれば「おりべりお」は回文だ。
「おしとりとしお」も回文…
うちの家の人はシャレ好きなんだろうか?
「…」
ふと理緒姉を見ると、なんだか焦っているように見える。
「理緒姉、大丈夫?」
「えっ?な、何が?」
「なんか焦ってるっていうか動揺してるっていうか…」
「ん、大丈夫、なんでもないよ」
20 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:11:07 ID:REMO1yqG
あまり大丈夫そうには見えないが、理緒姉がそう言うのなら平気なのだろう。
気になるのは、俺の名前は回文でもないし、季節の名前でもない事だ。
なぜ俺だけ修なんて普通の名前なんだ?
夢の中で父さんは名前の本当の意味がどうとか言ってたけど…
「それと」
突然の羽居の声が思考を遮る。
「とても言いにくい事が織部の家には存在する」
「言いにくい…事?」
理緒姉が母さんを…殺した事でさえあっさりと言い放った羽居ですら言いにくい事?
俺の家に何が有るっていうんだ?
「羽居、教えてくれないか?」
もしかしたら、何か有るかもしれない。
それに自分の家の事を知らないのは嫌だ。
「…聞いても、後悔しないで。織部の家は、他の家の人と交わらずにここまで受け継がれてきた血筋なの」
…他の家と交わらない?
じゃあどうやって血を絶やさずにいるんだ?「織部の家は、これまで近親相姦によって産まれた子供に家を継がせてきた」
近親相姦…?
つまり家族と性行為をして、そのうえ子供まで作ったのか?
「ちょっと待てよ。織部の家って何年有るんだ?」
「少なくとも百年は有ると書いてあったわ」
悪い冗談だろ…?
21 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:12:41 ID:REMO1yqG
今の話が本当だとしたら、この家は狂ってる。
百年間もの間、家族と交わるなんて禁忌を犯し続けたなんて…
いや、俺に批判する事なんてできないか。
なにしろ俺だって理緒姉を犯してしまったのだから。
「私のお母さんは、それが嫌だった。だから、家に逆らって利織さんと結婚した」
そうか、そういえば母さんは自分の家の人以外と…
「でも、血から逃れる事はできなかった。母さんは織部君を求めた」
「それは…つまり、俺を性の対象として見てたって事か…?」
結局織部四季も織部の血には逆らえなかったって事か…
だが、まさか自分の息子を…
「もし織部君がお母さんと一緒だったなら、織部君は当たり前の様に母親と…」
「そんな言い方やめてくれ。例え話だとしても考えたくない」
自分が顔も覚えてない母親と交わる姿を想像して、吐き気がした。
「失言だったわ。ごめんなさい」
「いや、こっちも悪かった。聞いたのは俺だったんだから」
「話は変わるのだけど」
不意に羽居の雰囲気が変わった。
「織部君、ごめんね?」
「何を…」
そこまで喋って、脇腹に激痛。
呻き声をあげる間も無く頭をベッドに押し付けられる。
22 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:13:59 ID:REMO1yqG
「動かないで」
その一言だけで動きが固まってしまう。
今、どういう状況なんだ?
視界が閉ざされ、全く何も分からない。
「やっ…来ないで…っ」
理緒姉?羽居は何をしてるんだ?
とにかく、止めさせなければ。
「羽居、止めろ!」
「理緒姉さん、あなたは…お母さんを殺した」
「ひっ…」
「あなたはどう考えているの?」
「許して…ごめんなさい…許して…」
「…もう、いいわ」
頭を抑えていた手が離れる。
ズキズキと脇腹が悲鳴をあげる。…また傷が開いたかなぁ…
「羽居…」
「ごめんね織部君。…あの、織部君」
「…なんだ?」
「二人だけで、話がしたいの」
これ以上何を話すっていうんだ?
「その…すごく私的な事だから…他の人に聞かれたくない…」
羽居がそんなこと言うのは珍しい。
普段はテストの点だろうが進路だろうが堂々と話しているのに。
まぁ、聞かれても全く問題の無い点を取っているからだろうけど。
「分かった。理緒姉、悪いけどちょっと席を外してくれないか?」
「え…でも…」
「頼む」
どう見ても不満そうな顔をしながらゆっくりと出ていく理緒姉。
「ありがとう…」
「感謝される事じゃない。理緒姉の為だ」
23 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:16:54 ID:REMO1yqG
正直な所羽居と理緒姉をあまり一緒にしておきたくなかった。
これまでの事を考えると、仕方ない事であると思う。
「それでも、ありがとう」
「…で、話はなんなんだ?」
早めに、話を聞いておこう。
正直、脇腹の痛みが酷い。
少しずつ、血が流れている様だ。貧血気味の様で頭もあまり回らなくなりそうである。
「織部君…私は、私はどうすれば良いの?」
「…?」
「私は今までお母さんの復讐だけ考えてきた。でも、さっきの理緒姉さんを見たら…復讐する気なんて、無くなってしまった。あまりにも無様、あまりにも弱い…」
「それなら…」
「でも、私は復讐以外の目的が無い。復讐を忘れたらお母さんが消えちゃう…!」
こんな羽居は見た事が無かった。
こんなにも苦しそうで、消えてしまいそうな羽居は。
「復讐なんて、止めればいい」
「そんな…」
「復讐を忘れたとしても、母親は消えないんじゃないか?」
「どうして…どうしてそんなことが言えるの!」
「だって、羽居はそんなにも母親の事を思ってるじゃないか」
「…!」
「それなのに、なんで母親が消えるなんて言うんだよ。羽居が覚えている限り消えない。そうじゃないのか?」
24 :理緒の檻 ◆/waMjRzWCc :2007/11/29(木) 23:19:42 ID:REMO1yqG
「うっ…ああぁ…」
「だから、復讐なんて止めろ。織部四季もそんなこと望んじゃいない。俺はそう思う」
「…織部君、別人みたいだね」
今のセリフはかなりショックだぞ?
「普段の俺はどんなんなんだよ?」
「う~ん…なんかもやもやした霧みたいな…」
「俺は生物ですら無いのかよ…」
しかももやなのか霧なのかもはっきりしないのか…
ん?もやと霧の違いってなんだ?
そういえばあんまり良く知らないな。
っと、思考が脱線してた。
「話は、それだけか?」
「うん。織部君ありがとう、こんな私の話を聞いてくれて」
「今度はもっと違う羽居の話を聞いてみたいかな」
「…っ!本当に別人みたい…」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、なにも。じゃあ、またお見舞いにくるわ」
「あぁ、またな」
羽居を見送った後、俺はどさりとベッドに倒れる様に横になる。
段々と視界が暗くなっていく。
それと同時に、強烈な眠気が襲う。
「……ん!修……!」
誰かが、俺の名前を呼んでるのか?
うるさいな…俺は、眠いんだ…
今は、ゆっくりと寝させてくれ…
最終更新:2007年11月30日 13:38