30 :名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 17:41:05 ID:bjJ72t3J
僕の一つ年上の
姉さんは感情の起伏が乏しい。
だけど、完全に無表情なのかと問われたら答えはノー。
判別は難しいが感情の起伏はあり、また必要ならば会話する。
初対面の人ならば良い印象を受けないかも知れないが、姉さん自身あまり気にしてないらしい。
何事にも興味を持たず、何事にも囚われない姉さんだが。
たった一つだけ普段の姉さんからは想像が出来ない程執着するものがある。
それは僕に関するあらゆる事。
僕と接する時間を邪魔する者は赦せないみたいで。例えそれが教師でも実の両親であっても何ら変わりはない。
僕はそんな姉さんが嫌いではない、どちらかと言えば好きな方だ。
今リビングのソファーに腰掛けながら、姉さんが煎れてきてくれた緑茶と特製甘菓子を堪能している。
「……おいしい?」
「かなり、おいしいよ」
黒くて長い髪の毛を左手で抑えながら、尋ねてくる姉さんに出来るだけ優しく微笑むと。それに答えるように僅かだが姉さんも微笑み返す。
元々姉さんは菓子作りはしなかったのだが、甘い物が好きな僕の為に覚えたらしく。
今日みたいな休日には姉さんが、振る舞ってくれるようになった。
ふと窓に目を向ける。
少し前まで緑に萌えていた木々は、少しずつ模様替えをし始め。
街並みが紅葉色に変わろうとしていた。
「そろそろ秋だね。」
窓から視線を外さずに聞くと、少し間を空けてから返事が返ってくる。
「そうね……。秋、好きなの?」
窓から目を逸らし、姉さんを見る。
窓から差し込む夕陽が姉さんの黒髪を照らし、素直に美しいと感じた。
憂愁の美という言葉が正にぴったりで、長年見ている筈なのに見とれてしまう。
「うん、好きかな。姉さんは?」
「……貴方と同じよ。」
相変わらずの無表情だが、どこか優しい雰囲気がした。
切れ目がちな目をゆっくり伏せると、まるで囁くように続ける。
「……貴方が私の傍に居てくれたら。それだけで私は全てを好きになれる」
僕に密着して座っていた姉さんは、瞳をゆっくり開けると。
細い指を伸ばして、僕の頬を優しく撫でる。
少し冷たい指が頬の熱気を冷ます感触。
31 :名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 17:42:50 ID:bjJ72t3J
そして、少しの恥ずかしさ。
姉さんと過ごす時間は多種多様で前日のように読書をすることもあれば、姉さんに勉強を請う時もある。
姉さんは美貌、家事、勉強とあらゆる事が出来る人だが。その反対に僕は凡人。
唯一の長所は欠点がない事。
自己紹介の時に言ったら、それは長所じゃないだろ……と言われたのは記憶に新しい。
そっと横に居る姉さんを盗み見る。
腰辺りまである流れるような黒髪に、少し切れ目がちの黒い瞳。
お茶を呑む姿は一枚絵の如く美しい。
本当に姉弟なのか疑いたくなる。
以前姉さんに子供心から尋ねてみた事があったのだが。その時の姉さんは少し目を見開いた後、僕をそっと抱き締め言ってくれた。
「……貴方は正真正銘、私の弟。…でも例え弟じゃなくても貴方を心から愛しているわ」
それは僕自身を愛してくれているという事に他ならない。
その言葉はどんなに飾り立てた言葉よりも、僕の心を打った。
時計の秒を刻む音が部屋に響く。
時折お茶を呑む僕らの音がアクセントになるが。静かで優しい時間。
ピンポーンと来客を知らせるベルが鳴り響く。
休日に誰かが来るなんて珍しい。
「姉さん、開けてくるね」
「…………」
一緒に居る時間を邪魔されたからだろうか?
急に無言になった姉さんを一瞥すると玄関へ向かった。
「お兄ちゃ~~ん!!」
ドアを開けた僕に抱きついて来たのは、従姉妹の胡桃ちゃんだった。
短い髪をツインテールで纏めている彼女は、母の妹の一番下の娘で一目見たときから僕を気に入ったらしく。
良く懐いてくれている。
「遊びにきちゃった」
くりくりと大きな瞳を輝かせて、イタズラが成功したみたいに舌を出す。
「久しぶりだね、胡桃ちゃん」
僕の腰に手を回しながら抱きついて来た胡桃ちゃんの頭を撫でながら話すと、僕を見上げた胡桃ちゃんの頬が膨らんでいく。
「お兄ちゃん、最近遊んでくれないから。我慢できなくてきちゃった」
「そっか、ごめんな」
「だから、今日はたくさん遊んでね!!」
にっこりと太陽みたいに笑う胡桃ちゃん。
「……離れなさい。」
澄んだ声が玄関に響く。
後ろを振り返るとリビングで寛いでいた筈の姉さんが立っていた。
32 :名無しさん@ピンキー:2007/11/30(金) 17:44:15 ID:bjJ72t3J
瞬間、胡桃ちゃんの肩がびくりと震える。
「…聞こえなかったのかしら?もう一度言うわね」
先ほどより大きな声で響かせるように紡ぐ。
「離れなさい」
ゆっくりと僕から名残惜しそうに離れた胡桃ちゃんが姉さんと相対した。
「お久しぶり、お姉さん。」
僕からはその表情を伺い知ることは出来ないが。
空気が重たい。
どこか張り詰めた空気。
「…何か御用かしら?」
二人の会話から互いを制すかの様な棘が感じられる。
「お姉さんは休日なのにどこにも行かないのですか?」
「あら……子供は外で遊んできなさい。」
正に一触即発。
暗に胡桃ちゃんは姉さんに、貴女早くどこか行きなさい…と言い。
姉さんは姉さんで胡桃ちゃんに、子供は外で遊んでいなさいと言う。
冬だと言うのに背中が湿っている。
まずい…これは僕がなんとかしないと。
そう決意し、二人の間に割って入った。
最終更新:2007年12月12日 12:30